日本財団 図書館


3. 健康なシステムの特徴
(1)問題だけを注視しない
 子供が不登校になったとします。その場合に家族が健康なシステムとして働いていれば、問題のある子供だけに注意を注がないということです。学校に行かなくなるというのは、段階的に始まり、最終的には不登校になるのです。母親がパニック状態になり、母親は教師に訴える、教師も不安になってしまい適切な対応ができなくなる。こうなるとますます問題解決は遠のくでしょう。
 健康なシステムでない場合には、問題が起こるとそれだけをあたかも蜂の巣をつつくような感じで取り扱い、家族全体が混乱してしまうということがあります。子供のことだけであとは何も頭に入らない。不登校であれば、無理に学校にやろうとするのはよくないのですが、しかし、そのままでいいというのでもないのです。学校に行くという目標の中で、その一段階として、いまは行かなくてもいいのだということです。ここを誤解している方が多いのです。行きたくなければ行かなくてもいいのだと思いこんでいるのです。子供が学校に行くというのは当然あるべき姿ですから、学校へ行くという目標を達成するために、いまは行かなくてもいいのだけれども、徐々に行くように導いていくことです。つまり回復させていく一つのプロセスとして、いまは行かなくてもいいのだということなのですから、そこを誤解してはいけません。
 学校に行かないで家にいるというのは、健全な家族として機能していないためです。母親はそれが気になって日常の家事も手につきません。これではますますシステムが機能しなくなり、子供のために何かを試みたとしても逆効果になるばかりです。
 では、どうすればいいのでしょうか。
 親にはなるべく普通に生活するように勧めます。そうしないと、家族のシステムが機能するようにはならず、子供は学校に行くという目標に向かうようにはなりません。母親がパートに出ているのであればパートに行きなさい、と。友達と出かけなければならないのであれば、それもしなさい、と。もちろん、子供のためにすべきことは、専門家に相談することも含めて最優先すべきですが、毎日家にいて、母親は子供が学校に行くまで気が気でない、何も手につかないというのでは、自分の機能も果たせなくなります。それではますます子供の状態を悪化させることになってしまいます。やるべきことをやらないと、システムがどんどん不健全になってしまうのです。ますます悪く影響していくようになります。
 このように健全なシステムをもつ家族は、問題のある人にだけ注意を向けるようなことはしないのです。
 
(2)感情の表現が自由にできる
 家庭の中で、怒りを感じたとします。その怒りの感情を表に出せるでしょうか。嬉しいときには喜びの感情を表に出せますか。表に出せるのであれば、健康なシステムが働いています。家の中で嬉しいときに大きな声で笑い、悲しいときに泣き、怒りを生じたときに怒ることができるのです。
 次のような例では、健康なシステムとはいえません。
 父親が不機嫌な顔をしています。みんなは黙って、今日は何も言わないほうがいいというような雰囲気になっている場合です。母親がムッとしていてみんなも黙ってオロオロしているのです。
 健康なシステムというのは、感情の表現が自由にできるということです。健康なシステムの家族であるならば、父親が会社から帰ってきてムッとしているのであれば、何と言うでしょうか。「何かあったの?」と聞くかもしれません。「何でもない!」と答えたら、どうしますか。それ以上何も言えず黙ってしまうのでは健全なシステムとはいえません。健全なシステムというのは、家族間で何回もコミュニケーションのやりとりをして、その中で問題が解消されていくということなのです。大きな声で「何でもない!」と言うかもしれない。しばらくそっとしてあげるでしょう。そして妻や子供は普通に生活している。遠慮をしたのではなく配慮してそっとしてあげるのです。遠慮するのではシステムが機能するのに障害になってしまいます。
 システムが機能するには、一回でパッと変わるというのではなく、忍耐強く家族が関わり、そしてそのことによって互いに理解し合い、問題を解消することが可能になるという経緯を辿ります。少しは放っておこう、ムッとすることだってあると思えばいいのです。それにかかわらずに普通に生活していると、相手は確実に気づきます。それがまさにシステムとして働くということです。しばらくすると夫のほうは、「さっきは悪かった」と言うかもしれません。あるいはその事情を話してくれるかもしれません。会社で何かあったのかもしれません。そのときに家の中でそれが解消されたら、次の日はリフレッシュして働くことができるのではないでしょうか。そうできるためにはどうしても自分の否定的な感情を表現することができなければ問題解決の糸口さえ見いだせなくなるのです。
 
(3)健全なセルフイメージをもつ
 セルフイメージとは自分自身に対してどのようなイメージをもっているかということです。意識するかどうかは別にして、すべての人々が何らかのセルフイメージをもっています。自分はだめな存在だと感じているのならその人のセルフイメージは不健全ですし、家族のシステムにとっては障害となってしまいます。
 自分自身に不健全なセルフイメージをもっていると、家庭内で誰かがムッとすると、自分に責任があるのではないかと考えるようになります。「私が何か悪いことを言ったかしら」と。これはセルフイメージが健全ではないということです。全部自分のせいにしてしまうのです。そうするとあとは何も言えなくなります。
 では、健全なセルフイメージをもっている人というのはどういうことなのでしょうか。もちろん私たちは、相手がムッとするような態度をとることがあるかもしれません。そういうときにはどうしたらいいのでしょうか。あなたのこういう態度が自分をムッとさせているのだと言われたら、何と言いますか。そういうときには、逃げたり避けたりしないでその場でちゃんと話し合いをすればいいのです。「私はそういう意味で言ったのではないのですが・・・」と説明します。健全なセルフイメージをもっていると、このようなコミュニケーションが可能になっていくのです。これもシステムです。そうすると家庭の中でみんなが成長していくことができます。家庭の中でそういう行動ができるようになると、会社や学校など家庭外でもできるようになります。
 
(4)家族は社会との接点がある
 これは家庭が社会に開かれているということでもありです。健全なシステムの場合には、社会に起こっているさまざまな問題に、うちは関係ないという態度はとらないということです。よそで起こることが自分の家庭では起こるはずはないとは考えられないのではないでしょうか。もちろん報道されるのは極端な事件です、一般社会の中で起こっていることが自分の家庭では起こらないとはいえないのです。
 問題はどんな家庭でも起こり得ます。アメリカのブッシュ大統領はアルコール依存症でした。母親のバーバラ夫人は素晴らしい家庭の主婦として国民的な人気のある人でした。しかし、そのような家庭にも問題は起こってくるのです。どこの家庭でも問題があるのです。社会の中で起こることは、どこの家庭でも関係がないということはないのです。問題があるかないかではなく、家庭の中で自由に何でも話せるかどうかということが大事なのです。社会の中で起こっていることが、家庭の中で自由に話し合えているでしょうか。いじめで自殺をしたことがニュースになったら、親は親の立場から発言し、子供は自分の学校でのことなどを互いに自由に話し合う。そうであれば、子供が学校でいじめに合っても家の中で話せるようになり、親もパニックにならないで冷静に対応ができるのではないでしょうか。社会との接点があると家庭にその準備ができていますので、早い段階で家庭の中で話していくことが可能になるのです。そうなると、子供は家庭の中でその問題を話すことによってストレスや不安が解消されますから、学校で特別な援助がなくても学校へ行けますし、学校でも対処でき、その事態に耐えられるのです。そして問題に対処するスキルが身についてくるのです。また、家でその傷が癒されるシステムがありますので、その繰り返しの中で問題を乗り越えていくことが可能になるのです。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION