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2. 家族はシステムである
 家族の根底にある問題を知るためには、家族とは一体何か、家族とはどのように機能しているのか、単なる個の集まりではないということを知る必要があります。家族の一人ひとりは意識していませんが、家族は一つのシステムとして機能しているのです。家族カウンセリングをしていきますと、まさにその通りだと実感できることです。
 犯罪が低年齢化しているのが問題になっていますが、報道された事件や、犯人の家族の手記などを読んでみますと、家族をシステムという視点から見ることによって事件の背後にある問題が透けて見えてくることが少なくありません。
 先に、家族構成のところで父親の育った家族、母親の育った家族についての情報が必要だと言いましたが、家族の誰かに問題が生じたときには、その人だけの問題として扱っていくと解決できることは非常に限られてしまうのです。それを家族という広い視点から見ていくと、問題解決においても、あるいは援助という面でも幅が広がっていきます。家族はシステムとして働いているという視点をしっかりと見ていただきたいと思います。
 
(1)システムとは
 家族とは人々の集まりで、互いに関わり合っているシステムであるということはおわかりいただけたでしょうか。家族とは結婚して初めて夫婦という一つの家族の単位になり、システムを構成します。それに子供が加わっていきます。ひとりでは家族とはいえません。家族とは人々の集まりで、互いに関わり合っているのだということです。これが家族としてのシステム、あるいはシステムとしての家族です。
 システムというのは、そのシステムの一部に何か変化が生じますと、バランスをとるために他のシステムに影響を与えることになります。それがシステムとしての家族の特徴です。
 自動車はシステムで走っています。私は車のシステムはよくわからないのですが、運転はします。初めて買った車は10年使った中古車でしたが、オレゴン州からカリフォルニア州まで、家族4人でその車で引っ越しました。3カ月くらいたつと、エンジンオイルが漏れ始めましたので、ガソリンスタンドで修理してもらいました。またしばらくしたら別のところからオイルが漏れてきました。車のどこか1カ所がダメになると、その影響がいろいろなところに及んでしまうのです。それと同じように、家族も一つにつながっているので、ひとりの問題が他の家族にも影響が及んでしまうのです。家族も一つのシステムとして働いている人々の集まりですから、互いに関わり合っています。したがって、一部に何かの変化が生じると、互いに影響し合っているために、あちこち変更しなければならなくなるのです。それがシステムということです。
 
(2)システムの機能
 システムにはそれぞれ機能があります。家族としてのシステムの機能は何でしょうか。家族一人ひとりは互いに影響し合い、関わり合って、決して他と関係なく行動しないということです。家族のシステムとしての機能は、家族が2人いる、あるいは3人、4人の場合もありますが、一人ひとりは互いに影響し合い、関わり合うのです。そして、他の家族と関係をもって影響し合いながら行動していく。これが家族のシステムとしての機能なのです。
 のちほどまた触れますが、独身男性が自分の好きな時間に食事し、あるいは家で作るのが面倒だったら外で食べる、あるいは飲んで帰る、あるいはそのまま友達の家に泊まってしまうというような生活をしてきたとします。この男性が結婚して夫になったら、夫婦としての一つのシステムはでどうなるでしょうか。いままでと同じ生活をしていたらどうなるでしょうか。今度はシステムの中に入りましたから、いままでのような生活をするならば、当然妻に影響を与えてしまいます。独身のときだったら問題はありません。しかし、いったん結婚するとシステムとして機能するようになるのですから、外で食事したいからといって、家に何の連絡もせずに外で食べて夜遅く帰ったとしたらどうなるでしょうか。妻は食事もせずに待っていたならば、妻は落胆するでしょう。喧嘩になるかもしれません。むしろ喧嘩をしたほうがいいのですが、多くの妻たちはそれをしないで我慢することが多いのです。そうすると夫にそれでいいのだと思わせてしまうことになります。
 システムとはこのように機能するのです。妻が夫に対してそのような態度をとってしまうと、そのようなシステムになってしまうのです。毅然とした態度をとらなければ、それに慣れてしまい習慣化します。鉄は熱いうちに打たなければならないのです。10年も20年間も同じようなシステムで家族の関わりをもっていて、それをいまから変えようとしてみて下さい。それには何倍ものエネルギーが必要です。ある場合にはほとんど不可能かもしれません。
 このことをしっかりと覚えていただきたいのです。確実に影響し合うということです。自分ではひとりで行動しているように思っているかもしれませんが、ひとりの行動ではなくなるのです。システムとしていったん機能し始めると、夫のあるいは妻の行動は、互いに相手に影響を与えるのだということです。このような意識をせずに行動している人が多いのではないでしょうか。
 
(3)家族には複数のシステムがある
 結婚して夫婦が一つのシステムになりました。子供ができました。これでシステムは増えてきました。いままでは夫婦としての関わりだけでよかったのに、父と子、母と子というシステムができました。父と母というシステムもできてきます。夫婦のことに関しては互いに何の問題も起きないとしても、子供のしつけや教育となると夫婦が喧嘩をしてしまうこともあります。それは夫婦のシステムだけではなく、子供ができることによって父と母というシステムも働くようになっていくからです。子供ができたことによってそのシステムは非常に変わってきます。
 そこにもうひとり子供ができたらどうなりますか。今度は子供同士のシステムが増えてきます。
 子供が大勢いたら、たくさんのシステムが生じます。兄弟のうちの誰かが結婚して子供ができると、さらにシステムは増えていきます。昔の大家族はそこに祖父母まで入りましたから、システムはたいへん複雑になっていきました。しかし逆にいえば、こういう時代のほうが、あるシステムが働かなくても別のシステムが補ってくれるということがあります。ところがいまは、一つのシステムが働かなくなると全体が機能不全に陥ることになりかねません。
 父親が非常に忙しくてほとんど家にいないとします。男の兄弟が何人かいる場合には父親代わりができるかもしれません。しかし、両親と子供ひとりという3人家族ならば、父親の存在感の希薄さは誰も補ってはくれませんし、母親に子育ての不安があったりすると家族としての機能は果たせなくなり、子供の成長には大きなダメージとなるでしょう。いろいろなシステムがあるということは、ある意味ではプラスです。「ほっておいても子は育つ」というのはこのようなことではなかったでしょうか。このようにシステムというのは、普通は複数です。夫婦だけというのもあるでしょう。そこに子供が生まれていくつかのシステムができていくのです。
 
(4)健康なシステムと病的なシステム
 システムとして正しく働けば、そのシステムも順調に機能します。
 例えば、結婚するまでは自分以外のことをあまり考えない男性が、結婚して家族ができ、妻のことも考えなければならなくなります。もしこのシステムが機能すれば、自分のことだけを考えていてはだめだということがわかってくるでしょう。そうすると、この男性の欠点は家族のシステムが働くことによって修正されていくことになります。
 妻は忍耐力のないわがままな性格だったとします。母親がすべてしてくれていたために、朝ご飯の支度などしたことがなかったのに、結婚によって夫婦のシステムが機能していくようになり、妻は夫のために朝もきちんと起きて、規則正しい生活をするようになるでしょう。これは欠点が修正されていくということです。このように夫婦としてのシステムが働くことによって、ひとりではできなかったことが可能になっていくのです。
 しかし、不健康なシステムでは、それまで表に出なかった欠点が、結婚することによって出てしまうということがあります。
 おとなしい真面目でやさしい男性と積極的な女性が結婚したとします。夫婦としてのシステムが働かないとどうなるでしょうか。おとなしい真面目な男性が積極的な妻を得たのですが、妻が夫のやさしさを軟弱だと感じてコントロールするようになり、夫はますます受身になっていき、自分の長所さえ失ってしまうということがあります。やさしくて思いやりのある男性であったのが、コントロールされることによって短所が表に現れるようになったのです。
 システムが機能しないと、2人の間にあったこれまで表に出なかった問題が吹き出してくることがあり得るということです。つまり、システムが健康か不健康かということによって、2人の家庭生活は非常に変わってきてしまうのです。これに子供や祖父母などが加われば、さらに複雑にシステムが働くようになるでしょう。健康なシステムなのか、不健康なシステムなのかということはたいへん大きな問題であるということがわかっていただけると思います。
 このようなこともあります。
 夫婦に子供ができました。夫婦だけの生活は非常に楽しかったのに、子供ができてからおかしくなってしまったという夫婦もいるのではないでしょうか。それは父親と母親になったのに、父と母というシステムが機能しないからです。妻が精神的に成熟していなかったような場合には、子供ができたことによって母と子の関係があまりにも強くなってしまい、夫のことは考えられなくなってしまうことがあります。夫のほうも未熟な場合には見捨てられたと思って、外に目を向けてしまうということもないのではないでしょう。
 母と子の関係が強いというのは、子供にとっても迷惑です。子供も自立して大人になっていくことができなくなってしまいます。子供が不登校になるとか、摂食障害になる、非行に走るなどいろいろの問題が生じたりしますが、これをシステムという面から考えていくと、いろいろなことが見えてきます。
 このシステムが健康であるかそうでないかは、家族全体に影響を与えます。母子一体が強すぎるというケースによく遭遇します。問題が生じるまでその意識はないのです。母親が子供を可愛がるのに、誰も文句は言わないのではないでしょうか。他人は問題でも起こらない限り何も言えないのではないでしょうか。これが先ほどのように互いの欠点を補い合うようなシステムであれば素晴らしいでしょう。本来、夫婦はそうあるべきでしょう。互いに助け合うために夫婦になるのです。それが互いに傷つけ合うような夫婦であるとすれば、それはつらいし苦しいことでしょう。子供にとっても同様です。
 初めから健康なシステムばかりではありません。少しずつそれを修正していくことによって、より健康なものにしていくということです。私たちの体でも、どこも悪いところはないという人はいないのです。少しの問題があっても、その問題を正しくケアしていけば、それ以上悪くはならないでしょうし、むしろよくなっていくのではないでしょうか。つまり、システムそのものを健康にしていかなければならないということです。
 それではシステムが健康的であることはどのようなことなのでしょうか。







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