III 家族の根底にある問題の特定化
家族にはさまざまな問題がありますが、その根底にある問題を特定していくことが大事です。たとえば表に現れた家族の問題を必死で解決しようとしても、容易には解決できないということはみなさんもご存知でしょう。家族カウンセリングの観点からは、“その根底にある問題は何か”を特定して対処しないと、家族問題は改善の方向にはいきません。そのプロセスをお話ししましょう。
まず、家族全体を見ていきます。
1. 家族構成はどうなっているか
家族の根底にある問題を特定していくためには、その家族の構成を知ることが重要です。
家族カウンセリングに初めて来た人の話を聞いていきますと、数分後には、相談の背後に家族の問題があるということがわかってきます。個人の問題でも、ほとんどが育った家族と関係があるということです。ですから、個人の問題を扱っていくときにも、家族の視点から問題を見ていかないと、その問題には適切な援助ができません。みなさんが考えなければならないことは、たえず家族という視点をもつということです。
家族という視点から見るについては、どのようなデータを集めなければならないのでしょうか。順を追って見ていきましょう。
(1)父親の育った家族
父親と両親との関係、その両親の夫婦関係、親のしつけはどうであったか、また、兄弟の仲はどうであったかなどはどうしても知っておかなければなりません。
私はいつも言うのですが、カウンセリングを学ぶのはまず自分自身のためだということです。まず自分自身が自分の問題を扱っていくというところからやっていかないと、他人の援助はできません。専門のカウンセラーになるためにはスーパーバイザーによる指導が必要ですが、個人対個人でやっていくこともあれば、グループでやることもあります。これはとても大事なことです。なぜかといえば、自分自身の問題が解決されないでいると、クライアントの問題を特定していくときに影響されるのです。投影、転移、逆転移ということを聞いたことがあるでしょうか。カウンセラー自身も、自分の問題を相手に見てしまう、あるいは相手を見るときに自分自身の問題が解決していないと、そこに色づけがなされてしまうということです。相手の問題に対してこちら側の色づけをしてしまったらどうなるでしょうか。相手の問題を歪めてしまうことになります。
ですから、まずみなさん方が自分のバックグラウンドを知るということが非常に重要です。そういう面からも、ぜひみなさんには自分の父親の育った家族についてどの程度知っているかを確認して下さい。その親子関係はどうか、父親の両親の仲はどうであったか、どのように親の影響を受けているか、兄弟関係はどうだったのか、祖父母がどのように関わっているのかを知ることも大事です。父親が成長していくときに祖父母が一緒にいたのであれば、その関係も非常に重要です。ある20代の大学生のケースでしたが、祖父母の影響を非常に受けているのにびっくりしたことがあります。子供の数が少ないことが祖父母の影響を受けやすくしているのです。
みなさんは、お父さんの家族をどの程度知っていますか。
(2)母親の育った家族
次は、母親の家族です。
その親子関係、両親夫婦の関係、親の影響、そして兄弟関係、祖父母が一緒に生活していたのであればそのことも含めてどうであったか。これはいずれも援助する側が知っていなければならないことです。
家族構成を知っておくことは非常に重要です。自分のもっている問題を自分の両親やその背後にある家族という視点で理解していることはあまりありません。しかし、自分でわかろうとする努力をすればそれはある程度可能でしょう。母親の性格、行動パターン、しつけの厳しさ、いつも機嫌が悪い・・・なども、背後にある家族を知ることによって問題にある背景が少しわかってくるでしょう。
なぜそれをみなさんに意識してほしいかというと、みなさんが人の話を聞くときには、まず自分自身の家族という中で理解していくと身近に感じられるからです。それをしないで他の人の話を聞くのは問題がとても抽象的になってしまいます。自分自身の家庭の問題を一度体験すると、なるほどと思えるのです。そうすると他人の家族に関しても、それが相手を理解する助けになります。そういう視点をみなさんにもってほしいと思います。
私は次のようなパターンで見ていくことが多いのです。
母親は口うるさく、父親は家ではほとんど話さず、仕事だけの家庭で、このことがクライアントの問題に非常に影響を与えているとします。両親に怒りを感じているのです。その怒りを解消していく上で、育ってきた母親の家族関係を家族カウンセリングという視点の中で、クライアントの前で母親から話してもらうと、クライアントには自分の母親にも家族がいるのだということがわかり、広い視点から見ることができるようになります。それは問題を解決する上で非常に大きな助けになるのです。いままでは父親、母親という狭い領域でしか考えることができなかったのが、もっと広い視点でものごとを見ることが可能になるということです。これは父親の場合も同様です。
みなさんも自分の両親をそういう視点から見直していただきたいと思います。そして、両親からどのようにしつけられたかを聞いてほしいのです。これは非常に大切なポイントです。厳しくしつけられるということは、コントロールがあったということですから、自分を出せなかったということです。一方、何も言われなかったということは、寂しい思いをすることがあったということです。そしてそれはもろに父親や母親に影響しており、それがまたクライアントにも影響してくるのだということです。
それから、兄弟関係を聞く場合には、ライバル関係があったのか、両親は兄弟に好き嫌いがあったのかということです。また、兄弟の間にいい子、悪い子という役割があったのかということも大きいことです。
みなさんの両親はどうであったかを考えていただきたいと思います。
(3)結婚生活
結婚に至るまでのプロセス、結婚関係の重要な出来事について知ることです。見合いでほとんど結婚前には付き合うこともなく結婚したのかもしれません。大恋愛の末に結婚したという人もいるでしょう。結婚に至るまでのプロセスは非常に大事だと思います。
結婚関係では何か重要な出来事がなかったか、たとえば夫がギャンブルにのめり込んで苦労したとか、不倫、失業など、どんな影響を結婚生活に与えたかということです。
家族構成という面からすると、あらゆる領域の中で自分のことをずっと考えてみることが、問題を聞いていく場合にも非常に助けになるのです。
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