II 現代の家庭生活の変化
家族の問題を6つに分類して記しましたが、これらが家族問題の全体の9割以上を占めるものです。こうした問題が起こってくるのは、家庭を取り巻く環境が著しく変化していることにその原因があるようです。
次にその変化を見ていくことにしましょう。
1. 離婚率の上昇
まず第一は離婚率の上昇です。これが家庭に与えている影響は決して小さいものではありません。アメリカでは専門家の間にも夫婦間の問題を離婚で解決するという風潮がありました。しかし、親の離婚後の子供たちを追跡調査した結果では、その子供たちだけでなく、その子の子供(孫)の結婚や家庭にまでマイナスの影響が及んでいることがわかってきました。
両親が離婚しますと家族全体に影響を及ぼしてきます。先ほど引用した例のように、子供たちの結婚観そのものも変えてしまうのです。そのためにも夫婦の問題を解決するためには積極的態度と行動をとることが必要なのです。だから自分は我慢するというのでは根本的な解決にはなりません。離婚するのを我慢するというのではなく、夫婦間の問題を解決するという方向に向かわなければならないということです。我慢するというようなことでは家庭内別居になってしまいます。これでは精神的には夫婦であるとはいえませんし、またそれが家族全体に与える影響も非常に大きいものになります。
結婚してまだ1年もたっていないカップルが夫婦間の問題で相談にみえるときには、「我慢していないで問題に直面するのはよいことです」と励ましています。結婚して早い段階からしっかりとした土台を築くのはとてもよいことですし、問題の解決も早くなります。
これからも残念ながら離婚率は上昇していくでしょう。日本の場合、離婚件数は26万4,246件(人口千対2.10、アメリカは4.19。日本は2000年、アメリカは1998年の数値)ですが、日本人がアメリカ人的な結婚観をもっていたら、もっと離婚率は高くなると思います。
2. リストラなど経済状況の急変
これも家庭問題に与える影響は大きいものがあります。30代、40代でリストラに遭っても、新しい職業に就くのは非常に困難な時代です。
ある大企業を自分から辞めてしまった方がいます。仕事を探し始めたのですが、同規模の企業からはほとんど相手にされず、零細企業にもたくさん履歴書を送ったのに、返事がくるのはごくわずかだというのです。
うつ状態で仕事を辞めた人がいます。うつが回復したので就職活動を始めたのですが、なぜ辞めたのかということを根ほり葉ほり聞かれるというのです。
中途採用をする会社側も、以前にどんな仕事をしていたのか、なぜ辞めたのかということを細かくチェックするそうです。それだけ雇用状況が厳しいということでしょうが、それがまた家庭に与える影響も大きいということになります。住宅ローンなどがある場合、あるいは子供の教育にお金がかかる場合などは、家族の土台そのものを脆弱にしてしまうことにもなります。いまは終身雇用制度が揺らいでいるので、これからもリストラや早期の肩たたきからは逃れられないでしょう。さらに貯蓄に対する考え方にも変化があり、以前のようには貯蓄をして将来に備えることをしない世代が増えているようです。いまを楽しむために、稼いだものをすぐに使ってしまい、経済的な急変には対処することができないのです。子供が小さいために妻が働けないというような場合は、家族に与える影響は深刻です。
3. 少子高齢化
これはあまり気づかない中で起こっていることだと思うのですが、日本の少子化は本当に何とかしなければならない問題だと思います。私のところに相談に来る方の中にも、妊婦を見かけることが少なくなりました。確かにいまのような環境では、子供を多く生んだり育てたりするのはたいへんかもしれませんが、このままでは日本の国としてばかりでなく、子供の成長という面からも問題です。最低でも2人か3人、できれば3人はいてもいいのではないかと思います。ひとりっ子で成長してきますと、いろいろな意味で人間関係を築くのが困難な人たち同士の集まりになってしまいます。以前は3歳までは手元に置いて育てるのがいいといっていたのですが、いまはもし許すならば3、4時間でもなるべく早くから保育園などに預けたほうがいいといえるかもしれません。そのほうが親のためばかりでなく、子供も小さいときから人と人との関わりの中に入り、早いうちから集団生活に慣れたほうがいいのかもしれません。また、保母さんもあまり若い人ではなく、経験を積んだ主婦にも入ってもらったほうがいいかもしれません。
高齢化も日本は世界の先陣を切っています。50代、60代ではまだまだ若いといえる年代です。積極的に生きる目的を見いだすことが重要です。就職にも年齢制限を加えたりするのではなく、アメリカのようにポジションで求人し、そのポストにふさわしい人を採用するようにすればいいのではないでしょうか。自分でキャリアアップをしている人は、よいポジションがあればどんどん職場を変わっていく。ある程度の年齢制限はあるにしても、日本のように40歳未満などというように年齢制限をする必要はありません。それは差別にもつながるからです。日本も早晩アメリカのような方向を辿るのではないでしょうか。
少子化、高齢化というのは家族にも非常に影響を与えます。いまは男性77歳、女性は84歳が平均寿命ですから、退職が60歳とすると、退職後も男性は17年、女性の場合には24年もあるのですから、どう生きるかということがとても大事になってきます。そうとう真剣に考えなければならない問題です。そしてまた、家族のあり方自体、昔とは違ってこなければならないでしょう。退職後どうするのかについては、家族もよく考えていかなければならないことだと思います。
4. 自己責任の強調
最近は、自己責任ということがよくいわれるようになりました。これも家族という面からすると大きなプレッシャーになっています。とくに共依存的な家族では、自己責任が強調されるのは脅威でもあるということです。
私はかねてよりバウンドリーの重要性をお話ししていますが(丸屋真也著『新しいかたちの自立の実践――バウンドリーの確立を通して』、ライフ・プランニング・センター刊)、たいていの方がショックを受けたと言われます。まるで反対のことをしていたからだというのです。自立を勧めるのではなく、自立させない方向で家庭生活を送っていたのです。自己責任が強調されればされるほど脅威に感じます。なぜならば、共依存の中における自立は裏切りを意味するからです。
自立というのは何でも自分ひとりですることではなく、適切な関わりをもつことで、それは相互依存の関わりです。つまり、自分のできることをして、できないことを依存していくその兼ね合いです。しかし、その兼ね合いは人によって違います。相互依存の関わりを原則としてどう築いていくか、これが真の意味の自立している人の姿です。
あるテレビ番組で見たことです。親子の問題を扱っている高校の教師が、いまの子供たちは自立しているので自分の考え方を曲げない、だから非常に扱いづらいと言っていました。自立というのは考えを曲げないことだというようにしか捉えていないのです。自立するということは扱いづらい人間になってしまうことだと思っているのでしょうか。そうではありません。自立していればいるほど、たとえ自分と違っていても相手の考えを聞くことができるし、だからといって必要以上に自分の考えを曲げたりもしません。しっかりとディスカッションをして、互いに関わり合っていくことが可能なのです。自分のアイデンティティーを否定するような妥協はしないということです。
日本は島国で、単一の民族で成り立っています。外部からの影響もヨーロッパやアメリカなどと比べれば極端に少ないでしょう。そういう中では独立型の自立は向かないと思いますし、また不可能でもあると思います。周りにも配慮しながら相互依存の形、つまり緩やかな自立ということになるのでしょう。それが日本人の気質にも合うのではないかと思うのです。アメリカ人のようにはっきり「ノー」と言わなくても、何となく「ノー」という態度を表明できる関わりです。このような関わりを築けるならば、自己責任を強調しても脅威とは感じなくなるでしょう。
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