5. 夫婦間の不和
夫婦の問題も家族問題の一つです。先ほども触れましたが、夫婦の関係は家族の基本です。
日本の家族では、夫婦の関係をもっと初期の段階から確立していくことが大きな課題ではないかと思います。結婚までは努力するけれども、結婚後は家庭を妻にまかせてしまうということでは夫婦間の親密さは育ちませんし、熟年になる頃にはすっかり関係が冷え切ってしまいます。夫婦関係が確立していないと親と子供との関係が強くなりすぎてしまって、子供も自立することが困難になってしまいますし、夫婦の関係がしっかりしてくると、子供との関係もバランスがとれてくるようになります。日本では母と子の関係が非常に強く、とくに母親と娘との関係においては父親の存在が無であることも少なくありません。夫婦というのは自動的になるものではないということです。夫婦は、努力して夫婦にならなければならないのです。
「離婚再婚」というコラムを東京新聞で読んだことがあります。アメリカでは離婚再婚が繰り返される例が多いのですが、それによって子供たちの結婚観が変わりつつある、あるいはすでに変わっているというのです。これから結婚しようとしている若者はどのような家庭生活を送ってきているのでしょうか。双方の両親は離婚しており、しかもそのあとほとんどが再婚します。2人の子供のいる夫婦が離婚して、子供を1人ずつ引き取ったとします。アメリカでは、夫も妻も強く親権を主張します。私が卒業した大学院のある教授はこの問題を専門にしていました。クラスルームに入ってきて、しばらくじっとしているのです。どうしてかというと、離婚訴訟で親権をめぐって夫と妻が激しく言い争って怒鳴り合っている声が頭の中からしばらく離れないのだそうです。アメリカでは多くの州では、夫婦のうちどちらかが望めば離婚は可能です。結婚後に得た財産は全部半分分けになります。たとえ妻が働いていなくとも、家や財産が結婚後に得たものであればすべて半分分けです。非常に合理的な社会です。
離婚後に再婚したA夫さんとB子さんには、それぞれ子供が1人ずついるとします。この人たちが家族になると、互いに義理の子供、義理の兄弟、そして義理の親がいることになります。週末や休暇にはそれぞれ実の父親や母親のところに行ったりしますが、そこへ行けば、実の父親ではあるけれども、義理の母親や義理の兄弟がいます。こういった状況では、家族とか結婚というのは何なのかということを考えるようになるのは当然でしょう。
そのコラムでは、いま、結婚しようとする人たちは生涯を共にする伴侶を捜すというのではなく、20代や30代はこういう人と、40代や50代はこういう人というようになってしまうと書いてありました。そして、最後には果たしてこれでいいのだろうかと結ばれていました。長年さまざまなことがあって、努力してはじめて本当の愛が芽生えてくるのではないか。簡単にそんなふうに考えるのはよくないのではないかと。
いかに両親が愛は大事だといっていても、離婚再婚を繰り返していくと、その中で子供は結婚について混乱させられるということです。自分たちの愛を貫くために子供たちがどれほど犠牲になっているかということです。まさにその通りです。
もちろん、夫婦の問題は我慢しているのがいいということではないのですが、夫婦の問題が生じたときにそれをどう乗り越えていくのかということを真剣に考え、そして早い段階で夫婦としての基本を2人で築き上げていかなければならないのです。そうしないと、戸籍上は夫婦になれるかもしれませんが、実質的には夫婦とは呼び得ない関係になってしまうということです。
6. 心理的原因とアルコールやギャンブルなどの問題
精神的・心理的問題を抱えている人がいれば、それは家族の問題にもなります。社会的な引きこもりは、心理的・情緒的な問題であると同時に、家族の問題として捉えて対応していかなければ改善するのは困難です。アルコール依存やギャンブル依存も、個人の問題と家族の問題との両面からアプローチしていかないと改善するのが困難です。専門家のところへ相談に来るまでに家族は相当のダメージを受けていますので、この問題を解決するには時間がかかります。
とくに精神的な疾患については、家族の問題が関係していることに気づかされます。家族の誰かが精神病だったりすると、どうしてもそれを家族の中にだけ閉じ込めてしまう、隠してしまうことがあります。しかし、精神的な病いは、家庭内の問題に止めておくものではありません。専門的な援助を受けながら、そして自分たちのできるところと専門的な援助を受けるところとを上手に分担し合っていくことによって、自分たちの生活も十分にやっていくことが可能なのです。ところが否定的な面だけが強調されてしまい、家庭そのものが暗くなって、十分な対応ができなくなっていることがあります。とくに夫がそのような病いである場合には、妻には自分の生活がないような状況になってしまっているのを見ることがあります。それではもちろん病人のためにもよくありませんし、家族全体のためにもよくありません。そこからまた育っていく子供たちにもマイナスの影響が出てきます。自分たちのできる領域とそうでない領域を区分して、外部の援助を求めるべきです。それが適切になされることによって、家族はずいぶん楽になり、病気の改善にも大きな助けになります。
|