I 家族が直面している問題とは何か
家族問題とは具体的にいえばどのようなものなのでしょうか。家族が直面する問題は多岐にわたります。いくつかまとめて述べていくことにしましょう。
1. 家庭内にコミュニケションが欠如している
夫婦間あるいは親子間ではコミュニケーションの欠如がいちばん大きな家族問題だといってよいでしょう。家族のつながりは、すべてコミュニケーションによってなされていきます。つながりはコミュニケーションそのものであるといっても過言ではないでしょう。したがって、コミュニケーションが誤解を招くようなものであるならば、小さな問題でも大きくなってしまいます。
コミュニケーションは、また他の領域にも影響を与えます。
否定的なコミュニケーションをする人と、肯定的なコミュニケーションをする人がいます。否定的なコミュニケーションというのは、今後どうするかというコミュニケーションではなく、過去の問題をほじくり出してしまうようなコミュニケーションです。ある場合には誰が悪いかというような犯人探しになることもあります。これは解決の糸口を見いだせない閉ざされたコミュニケーションといってもよいでしょう。これに対して、肯定的なコミュニケーションとは、過去の問題も話し合いますが、それは現在直面している問題を今後どうするかという目的をもってコミュニケーションをすることです。
自分の家族の中ではどのようなコミュニケーションがなされているでしょうか。子供が学校でイヤなことがあった場合、家に帰ってそのことを話せるような雰囲気が家庭にはあるでしょうか。もし話せるような家庭であれば、それは肯定的なコミュニケーションのパターンがあるということです。しかし、それを話すと家庭の中が混乱するようであるならば、それは否定的な閉ざされたコミュニケーションです。「何か話すと、お母さんがヒステリックになるので話せない」とか、「学校で何か問題があったことをちょっと話しただけで、お母さん(お父さん)が学校に押しかけていって先生に文句を言ったりするので、ますます自分の立場が悪くなってしまうので話せない」などということであれば、家庭にはコミュニケーションの問題があることになります。
みなさんはどうでしょうか。友達との間にイヤなことがあって心が傷つけられたとします。家に帰ってそれを話せるでしょうか。それを聞いてもらえる家庭環境であれば、それは肯定的なコミュニケーションが家族間にあるということです。そういう家庭であれば、家族が直面している問題は解決するほうへ向かいます。
問題のない家族はありません。人間関係で誤解されたり、傷ついたりすることがあります。でも、それをどのように家庭の中で消化できるのかということです。それを家族間でコミュニケーションができずに溜め込んでしまうと、抑うつ的になったり、あるいは心身症的な症状が出たりすることがありますので注意する必要があります。
ある家庭ではどうしても言ってはならないタブーのようなものがあることがあります。これはまさに、閉ざされたコミュニケーションの典型的な例です。家族全員が知っているのだけれども、絶対口にしてはならないという雰囲気があるのです。家庭はコミュニケーションによって機能しますので、これではコミュニケーションそのものが断絶してしまいます。このように閉ざされた状態になってしまうと、本来、家庭のなかで解決するはずの問題が蓄積してしまい、一層複雑になります。このような家庭で育つと自分の本当の気持ちを伝えることが困難になり、適切な人間関係を築けなくなります。
社会で問題になっている事件には、当事者の家族の姿が明らかになるにつれ、困難に耐えていた家族の実情が報道されることがあります。自分たちでは解決できない状況に押し潰されているのです。かつて父親が金属バットで高校生の息子を殺してしまった事件がありましたが、母親と娘は家を出て、父親だけが息子と生活していたのです。そういうときに積極的に第三者に働きかけて援助を求めていくということ、自分たちだけでできなければ専門家に助けを求めるということも、コミュニケーションスキルがあれば可能になってきます。開かれたコミュニケーションの家庭とは必要があるならば社会に向かっても、もっと上手に問題を肯定的に解決できるような形でコミュニケーションをとっていくことをするのです。日本の社会では非常に大切なことも言葉で伝えることが困難で何か黙ってしまうのです。
コミュニケーションは家庭の中で学んでいくのが第一歩です。
父親のコミュニケーションの問題は、父親は黙っていて何も話さないことが多いということです。逆に、口数の多い父親の場合には、独断的・独善的であることが多いという問題があります。家族にとっては話し合う余地がないということになってしまいます。
では母親はどうかといえば、ヒステリックで、いったん話し出すと止まらないという傾向があります。他人の話に耳を貸さずに一方的に話すのです。このような家庭では適切なコミュニケーションスキルを身につけることは困難でしょう。
家族カウンセリングの場では私が同席していますから、各人にそれぞれ発言していただきます。しかし、たとえば高校生の長女に「この1カ月どうでしたか?」と尋ねると、彼女は話し始めるのですが、それを聞いて親は、「そのことは今日初めて聞きました」というようなことが多いのです。このようなことがあると、大事なこと、肝心なことはなかなか話せないと思ってしまうのが現実ではないでしょうか。これでは想像以上の断絶が家庭内に生じてくることになります。また、何かについて話し始めると、互いに理解し合っていませんので怒鳴り合いになったり傷つけ合うことになって、問題が解決するよりもっと複雑になってしまうことになります。
2. 金銭的な問題がある
夫婦間における金銭感覚のギャップが問題の背後にあることがあります。式を挙げる前に数回にわたって実施することのある結婚前カウンセリングでは、お金の問題については必ず尋ねるようにしています。2人がどのような金銭感覚をもっているかを知ることはとても重要なことです。結婚前は金銭感覚については表に出しません。しかし、結婚すればそれは現実問題となるのですから、率直にこれについて話し合うでしょう。結婚に際して、そのことを相手と話し合うといいと思うのです。貯蓄についても、ある人は貯蓄よりもいまの生活を楽しんだほうがいいと思うかもしれませんし、節約して貯蓄に回したほうがいいという人もいます。こういう2人が結婚したら、当然喧嘩になるでしょう。
「結婚前にそんな話はできません」とよく言われますが、「結婚前だからこそよく話し合っていたほうがいいですよ」と私は言います。結婚してからでは遅いのです。
片方が仕事をしていない場合でも、家計についてはオープンにするということが夫婦の間では非常に大事だと思います。家計は透明であるべきです。信頼しているからいいという問題ではなく、自分たちの経済状況はどんなものかということは、互いにどう使うかということと同時に、いまある自分たちのお金についても互いにしっかりと知っておくという透明性がなければなりません。その点に問題があるとするならば、それは金銭的な問題だけではないことも多いのです。結婚して何十年もたった夫婦でも財産について知らされていないというような不信感をもっている方が少なくありません。金銭的な価値観については互いに知っていて、どう使うかということを話し合っておかないと、家族の間で根深い不信感が生まれることがあります。リストラや健康上の理由などで仕事を失ってしまうこともあるのですから、夫婦はしっかりと理解し合っておくことが大切です。
ギャンブル依存症、アルコール依存症なども金銭的な問題と直結します。このような依存症の問題は他とも絡み合って複雑さを増し、扱いが容易ではありません。また、衝動買いなども家族を巻き込んでしまい、離婚の危機に直面することも少なくありません。
3. 親子関係に問題がある
親子関係では、とくに思春期になった子供との関係が問題となります。子供も思春期を迎える頃になると、親の思うようにはならなくなります。子供が小さいときは問題があってもなかなか表には現れません。また、親が強くコントロールすれば抑えられます。しかし、思春期になると自我の再構成の時期ですから、親に反発し自らの足で立とうとするのです。この時期に親子間に十分な信頼関係が確立されていないと、子供は問題行動に走ってしまうことになります。このような場合には家族全体が関わって対応していく必要があるため、家族カウンセリングが不可欠となります。
4. 子育て
最近は虐待が社会問題になっています。いじめ、不登校、非行など、子育てで悩んでいる親は非常に多いのです。子育ての問題の背後にあるのは、母親が一人で子育てを請け負っているということです。
私は「母親は問題請負人だ」と言っています。何から何まで母親が請け負っているのですからとても大変です。夫婦で子育てをしていけばその困難さも半減するのですから、もっと肯定的に子供と関わっていくことができるようになります。
子供が小さいときから子育てに両親が関わっていかないと、その成長に歪みが生じ、子育てはもっと複雑にかつ困難になっていきます。問題が生じてから父親が子育てに関わるより、はじめから参加するほうがずっと楽しく、ストレスも少なくてすみます。もちろん、子供のためにもそれがベストであることは間違いありません。
|