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4.5.4 ガス発生量の算出
 
4.5.4.1 算出方法
 ガス発生量は、CHETAH(Chemical Thermodynamic and Energy Release Evaluation Program) で算出した。CHETHは、ASTM(American Society for Testing and Materials)の化学品の危険性に関するE-27.07委員会が開発した化学熱力学(生成熱、エントロピー、比熱、燃焼熱)とエネルギー放出の評価プログラムである。「CHETAH」は、1974年に初版(Version 4.2)が発行され、第2版が1990年、第3版が1994年(Version 7.0)に発行された。2002年7月に発行された最新版のVersion7.3では、「Chem Draw」などのソフトで化合物の構造式を入力すると、Bensonグループの結合に分けられ、それぞれの結合から分解エネルギーを算出する。
 
「計算事例」
 化合物の構築に関して、Bensonの加成性則を基にDow Chemical社が開発した方式を採用している。1)最大分解熱、燃焼熱と分解熱の差、酸素バランスなどが算出でき、分解時、燃焼時のガス量も同時にアウトプットされ、そのときのガス発生量も出力される。しかし、「CHETAH」は気相系を基準としているために、反応系と生成系で相変化を行う場合には、CHETAHでの計算値とは大きく異なる可能性がある。この総発生ガス量を判定に用いた。分解熱算出の例として4-ヒドロキシ-2-ヘプタノンのBensonグループ記述例を以下に示す。
 
 
 
 各結合のエネルギーを総合して、分解発熱量を推算する。ただし、環状化合物には環補正が必要となる。
 
4.5.4.2 ガス発生量の計算手順
(1)「Chem Draw」で化合物の構造式を記入する。
(2)構造式を選択し、コピーをしてCHETAHに貼り付ける。
(3)Bensonグループにない結合の場合、近いものを探して代用する。
(4)「Energy release Evaluation」で分解熱を算出する。
(5)計算結果をアウトプットする。
(6)アウトプットされた分解ガス発生量はmolで表されるので、これを試料1g当たりの発生ガス量(L/g)に計算する。(ただし、標準状態(0℃、1atm)での気体の体積を22.4Lとする)
 *総発生ガス量(L/g)=22.4(L)×総発生ガス量(mol)/(試料の分子量)
 
4.5.4.3 算出結果
 ガス発生量とその成分を表3に示す。
 
表3 CHETAHからのガス発生量と生成ガス種の一覧
試料No. 試料名 発生ガス 総ガス発生量
H2O CH4 N2 HCl CO2 Mol. L/g
1 ベンゾイルパーオキシド 4.0 0.5       4.5 0.42
2 t-ブチル パーオキシ ベンゾエイト 3.0 2.0       5.0 0.58
3 2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)   6.0 2.0     8.0 0.72
4 2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)   3.0 2.0     5.0 0.68
5 アゾジカルボンアミド 2.0   2.0     4.0 0.77
6 2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)   4.0 2.0     6.0 0.70
7 ベンゼンスルホニルヒドラジド 2.0 1.0 1.0     4.0 0.52
8 アゾベンゼン   2.5 1.0     3.5 0.43
9 4-ニトロソフェノール 2.0 0.25 0.5     2.75 0.50
10 1-ジアゾ-2-ナフトール-4-スルホン酸 3.5   1.0   0.25 4.75 0.43
11 2-ジアゾ-1-ナフトール-5-スルホン酸ナトリウム塩 4.0   1.0     5.0 0.39
12 NAC-4 3.0   1.0 1.0   5.0 0.41
13 NAC-5 3.0   1.0 1.0   5.0 0.41
14 4NT-350 7.5   1.0   0.25 8.75 0.41
15 4NT-38P 7.5   1.0   0.25 8.75 0.41
注:試料14、15はモノエステルの場合のガス発生量
4.5.5 考 察
 
4.5.5.1 危険度判定パラメータについて
 算出した判定パラメータの一覧を表4に示す。尚、試料No.16以降のデータは社団法人 日本化学工業協会の調査報告書1)から抜粋ものである。ガス発生量とQ×PH/(Tp-To)の関係をプロットした。図5に発熱パラメータの最大値を15000として、今回評価した全てのデータを表示した。図6は、判定基準となる発熱パラメータ300が中心となるように表記したものである。SRS・OP、全27試料のデータをプロットした。図中の記号は、OPを○印で、SRSを□印で表し、そして危険等級は「B」を赤、「C」を黄、「D以下」は青で表した。
 両図に有るように、過酸化物と自己反応性物質との間に特に異なった傾向はなく、危険度評価において、あえて、この二種類の危険物を異なる基準値で判定する意味がないことを示唆している。
 また、図6のDSC発熱パラメータにおいて、「危険等級B」と「危険等級C」を分ける300JW/kの境界線でみると、試料No.17(1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド:国連危険等級B)は、DSCデータの測定誤差によっては、「危険等級C」以下にランクされる可能性も有る。もう一つの判定パラメータであるガス発生量との組み合わせは、評価ミスをする確率を小さくする事が期待できる。
 
表4 ガス発生量とQ×PH/(Tp-To)の一覧
試料
No.
Sample 分子量 Q*PH/(Tp-To) gas
L/g
危険等級 
日化協 MCC
1 ベンゾイルパーオキシド(75%) 242.23 443   0.31 C
ベンゾイルパーオキシド(99%) 242.23   676 0.42 B
2 t-ブチルパーオキシベンゾエイト 194.23 330 339 0.58 C
3 2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) 248.37   123 0.72 D
4 2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル) 164.21   495 0.68 C
5 アゾジカルボンアミド 116.08   14213 0.77 B
6 2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル) 192.26   799 0.70 D
7 ベンゼンスルホニルヒドラジド 172.21   343 0.52 D
8 アゾベンゼン 182.23   160 0.43  
9 4-ニトロソフェノール(60%) 123.11   69 0.50 D
10 1-ジアゾ-2-ナフトール-4-スルホン酸 250.23   1077 0.43 D
11 2-ジアゾ-1-ナフトール-5-スルホン酸ナトリウム 290.23   498 0.39 D
12 NAC-4 270.7 572 466 0.41 C
13 NAC-5 270.7 393 359 0.41 C
14 4NT-350 479.45 263 194 0.41 C
15 4NT-38P 479.45 263 180 0.41 C
16 ジ-t-ブチルパーオキシド 146.23 151   0.84 E
17 1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド 146.23 305   0.84 B
18 1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン 302.46 342   0.78 B
19 ラウロイルパーオキシド 398.63 172   0.76 D
20 キュメンハイドロパーオキシド(80wt%) 152.19   716 0.47 E
21 ジイソプロピルパーオキシジカーボネート 206.2 3243   0.71 B
22 ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート 398.54 440   0.71 C
23 t-ブチルパーオキシアセテート(73%) 132.16 544   0.55 C
24 t-ブチルパーオキシ 2-エチルヘキサノエイト 214.31 280   0.73 C
25 メチルエチルケトンパーオキシド 108.09 951   1.24 B
26 α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン 314.47 204   0.75 D
27 2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン 290.44 343   0.81 D







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