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4.4.4 結果と考察
 
4.4.4.1 簡易試験
(1)小薬量殉爆試験
 小薬量殉爆試験結果を表4に示す。試料は、煙火玉2個または3個であり、受爆玉が殉爆した場合は煙火玉の開発に伴う音(以下、「開発音」とする)は、ほぼ同時に聞こえる。しかし、開発音に時間差が生じた場合には受爆玉の親ミチ等から火が入り開発したと考えられるため、破片回収時の状況と開発音を合わせて殉爆の有無を判定した。
 
表4 小薬量殉爆試験結果(煙火玉の大きさは3号)
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※1:起爆は銀波先紫。 ※2:起爆は銀波先紫。
 
 試料煙火玉を砂中に設置した場合、殉爆したものがあった。特に中国製の煙火玉は、砂中では4/5の確率で殉爆を起こした。同じく日本B製の「菊先紅」は、砂中で1/3の確率で殉爆を起こした。中国製と日本製の試料では、割薬の芯が「綿実」と「籾殻」と異なるが、割薬量に大きな差はない。総火薬量は中国製が多いが、星の薬量が多いためである(表1、2参照)。日本製の煙火玉も殉爆しており、今回殉爆しなかった煙火玉も発火に至る直前の状態であった可能性も考えられる。試料設置の砂深さをより深くする等の試験条件の変更により、殉爆を起こす可能性がある。
 また、試験に用いた試料煙火玉は種類の多い煙火玉の一部でしかないため、試験結果から一概に中国製煙火玉が殉爆を起こすと言えない。しかし、今回用いた試料の中では殉爆を起こす可能性が高いといえる。
 試験後の煙火玉の破片は回収し、殉爆したものは起爆玉と受爆玉で比較を行った。起爆玉の破片は小さいが、受爆玉の破片は比較的大きく、受爆玉の開発時の挙動は起爆玉と異なることが推測される。
 
 砂中で殉爆を起こす可能性が高い「中国製の3号煙火玉」3個を試料とした小薬量殉爆試験を行い、煙火玉間の距離と殉爆性の関係を検討した。試験は計3回行った。受爆側の煙火玉2個は玉皮に着色した。3回の試験では、すべて開発音は1回であり、回収した破片等から殉爆の有無を判定したところ、2/3の確率で殉爆を起こした。また起爆玉と受爆玉の間に火薬の入っていない模擬玉を置いた場合にも、受爆玉は殉爆した。しかし、殉爆した受爆玉の破片は、起爆玉から離れた位置のものの方が大きく、起爆玉から離れるにつれ受爆玉の開発威力が弱くなると推測される。また、殉爆しなかった受爆玉の変形は、起爆玉から離れた方が小さかった。
 砂上での試験は、砂中にて殉爆した煙火玉を試料として行ったが、殉爆は起こらなかった。砂上と砂中という試料周囲の密閉状況は、煙火玉の殉爆性に影響しているといえるが、砂深さ0.5mと1.0mと殉爆性の関係は認められなかった。受爆玉は、飛散防止用の発破シート付近で回収されたが、起爆玉の開発により受爆玉がどの程度の距離を飛ばされるのかは本試験では不明である。
 
 殉爆しなかった煙火玉は、外観の観察と分解して内部の観察および薬量の計測を行った。受爆玉(外観)には、起爆玉に接していた部分に変形が見られた。また、受爆玉の外観には次のように設置状況の違いにより差が見られた。砂上の場合、起爆玉に接していた面以外に大きな変形は見られなかった。砂中の場合には、起爆玉に接していた部分の反対側の面に大きな変形が見られた。この変形が周囲の砂または試験場所の穴側面(土)に当たり生じたのかは不明である。
 試験後の煙火玉を分解し内部の観察を行ったところ、外部からの力により玉皮が変形している部分では、玉皮の変形にあわせて星が玉の中心(割薬)方向又は横方向に移動し、移動した星の周辺の星は割れたり、変形していた。玉皮の貼り合わせ部分付近の星にも破損しているものが多く見られた。割薬は、芯に用いられている籾殻や綿実から火薬が剥がれ落ちているものが見られた。
 
4.4.4.2 殉爆メカニズムの解明
 煙火玉の圧力計測を行った結果、煙火玉内部の圧力変化が時間−圧力曲線として得られた。「5号銀波先青紅(起爆玉)」の時間−圧力曲線を例として図5に示す。種々の煙火玉についての時間−圧力曲線から得られた値と小薬量殉爆試験の結果を表5に示す。
 時間−圧力曲線の最大圧力をピーク圧とした。また、圧力上昇中の傾きが緩やかになる部分(以下、「肩の部分」とする)を有するものも確認された。国連試験(6(b) 積み重ね試験)にて8号煙火玉の内部と外部の圧力計測を行った結果、この肩の部分は煙火玉の開発時刻に相当することが平成14年度秋季火薬学会にて産総研中山氏から報告されている。時間−圧力曲線では、肩の部分の後に最大圧力に達していることから、煙火玉が開発した後、圧力センサ周辺では圧力上昇が続いているといえる。
 
表5 圧力計測(起爆側煙火玉)及び小薬量殉爆試験結果
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 3〜5号玉での小薬量殉爆試験の結果、5号玉は種類にかかわらず全て殉爆を起こした。4号玉は、「蝶々」が砂中(0.5m)で殉爆したが、砂中(1.0m)では殉爆せず、「銀波先緑」は殉爆しなかった。3号玉は全て殉爆しなかった。これらの結果から、煙火玉の大きさと殉爆性の関係が明らかとなった。
 
 圧力計測試験を行った3〜5号玉の範囲では、煙火玉の開発ピーク圧力は概して大きい煙火玉ほど高くなる傾向にあり、割薬量と玉皮の強度が主に関係していると思われる。圧力計測を行った煙火玉のすべての時間−圧力曲線に肩の部分が確認されたわけではないが、ピーク圧が高いものは肩の部分も高い圧力値を示している。ピーク圧と割薬量および殉爆試験結果の関係を図6に示す。高いピーク圧を発生する煙火玉は、殉爆を起こす可能性が高い傾向にある。しかし、どの程度の圧力発生にて煙火玉の殉爆が起こるかは、現時点ではデータ数が少ないため不明である。
 煙火玉の開発は、割薬への着火から約1〜2msの短い時間での急激な圧力上昇により起こっている。煙火玉の内部は、開発するまでほぼ密閉された状態にあり、割薬の燃焼によって発生したガスと熱によって、急激な圧力上昇を起こすものと考えられるが詳しい機構は今後の研究課題である。
 各煙火玉のピーク圧と砂の深さの関係を図7に示す。砂上でのピーク圧に比べ、砂中(0.5m、1.0m)で計測されたピーク圧は若干高くなる傾向にあるが、殉爆試験の結果に直接影響していると言えるほどの大きな差は生じていない。また、煙火玉の設置状況によりピーク圧に達するまでの圧力上昇曲線に大きな差は生じていない。
 
 殉爆せずに残った受爆玉は外観の観察を行った後、分解して内部の観察、薬量の計量を行った。煙火玉内部の星は割れていたり変形しているものが見られた。割薬は芯から剥がれ落ちている部分が見られた。星及び割薬は、実体顕微鏡により表面や断面の状態を観察したが、火薬成分の変質などは確認できなかった。割薬には主な酸化剤として過塩素酸カリウム(KClO4)が配合されているが、衝撃等により分解し塩化カリウム(KCl)が生成している可能性があるため分析を行ったが塩化カリウムの生成は検出されなかった。また、試験前と試験後の割薬の熱反応性について示唆熱分析(DTA)を行ったが、試験前後で熱反応性に大きな変化は認められなかった。
 殉爆した試料についても起爆玉と受爆玉の破片を回収し観察を行った。5号受爆玉の破片を観察したところ、起爆玉に接していた面には玉内部の星の形が浮き出ていた。このことより、起爆玉が開発した際の衝撃により受爆玉は変形し、その後開発したと考えられる。また、殉爆した4号、5号玉の破片は、3号玉と同様に受爆玉のものが大きかった。
 
 殉爆メカニズムの解明に必要と考えられる起爆玉と受爆玉の圧力計測は、圧力センサが破損したため、「4号蝶々」砂中(1.0m)の1回しか行えなかった。受爆玉は殉爆しなかったが圧力変化が記録された。4号蝶々(砂中1.0m)の起爆玉と受爆玉の時間−圧力曲線を図8に示す。受爆玉の時間−圧力曲線には3つの大きなピークが見られる。受爆玉の圧力上昇は起爆玉と比べ極めて早く、立ち上がりからピーク(1)までの所要時間は0.08ms、ピーク圧は5.30MPaであった。起爆玉の開発から受爆玉の圧力変化までの時間差は、約0.28〜0.36msであった。ピーク(2)は、立ち上がりから0.36ms後にピーク圧9.40Mpaに達し、起爆玉の開発から0.64ms後である。ピーク(1)からピーク(3)に至るまで圧力は上昇し続け、ピーク(3)は立ち上がりから0.49ms後に6.21Mpaを示し、起爆玉の開発からは0.77ms後である。
 ピーク(1)では5.30Mpaを記録したが、受爆玉内部に5.30MPaを示す程の断熱圧縮が起こっていた場合、煙火玉内部の温度は部分的には約600℃以上(計算値)に達していることになる。煙火玉を構成する火薬類の熱反応性から考えると、約600℃では発火に至る可能性が高いが、局所的なごく短時間の発熱であったため発火(殉爆)しなかった可能性はある。
 回収した受爆玉は大きく変形していたため、その変形量を測定した。減少した変形量は約123cm3であった。4号玉の内容積は、変形前が約572cm3(計算値)であり、星及び割薬の体積を除くと約200cm3(計算値)の空隙が存在する。また、割薬の芯には、籾殻が使用されており、その中心にも若干の空隙が存在する。この煙火玉内の空隙量に対して、煙火玉の変形による断熱圧縮が起こった場合の温度上昇を計算すると約100℃であり、星や割薬が発火を起こす可能性は低いと思われる。しかし、同じ「4号蝶々」による砂中0.5mの試験では、殉爆していることから、煙火玉内では発火する直前の状態になっていた可能性は高い。
 
 過去に5号煙火玉の受爆玉に3種類の模擬玉を用いた試験を行った※3
(1)割薬、星が火薬ではない模擬玉。
(2)割薬は本物、星がアクリル製の星の模擬玉。
(3)割薬は籾殻、星が本物の模擬玉。
 模擬玉(1)の試験から、5号玉以下の大きさの煙火玉では起爆玉の開発により受爆玉は破壊されないことがわかった。模擬玉(2)、(3)の試験では、模擬玉(2)、(3)は殉爆した。よって、煙火玉の殉爆には割薬と星の両者が関与しており、起爆玉の開発により受爆玉内では多数の発火ポイントが生じていると考えられる。しかし、殉爆が起こった際の圧力変化が計測出来ていないため、起爆玉の開発後、殉爆がどのくらいの時間遅れで起こったのかは現時点では不明である。
(※3:2001年 火薬学会 秋季研究発表講演 要旨集P.5)







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