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4.4 煙火の分類及び試験方法の研究
社団法人 日本煙火協会
 
4.4.1 緒言
 
 日本の煙火(花火)は、各国の花火コンクールにおいて優勝するなど世界的に見ても技術が優れているため輸出されることが多い。一方、国内消費も活発で国内生産のみではまかなえず、外国製品の輸入量が増加しており、これらの輸出入は主に海上輸送で行われている。「危険物の輸送に関する国連勧告」(以下、「国連勧告」とする)では、火薬類を用いる煙火はクラス1に指定され、その危険性に応じて危険区分1.1〜1.4に分類される。日本国内では、煙火はすべて危険区分1.3と1.4として取り扱われてきた。しかし、2000年にオランダで発生した煙火貯蔵中の事故を契機に、煙火の危険区分の見直しが国連危険物輸送専門家委員会に提案された。この提案では、日本で流通する煙火の多くが危険区分1.1に分類される。危険区分が1.1になると輸送上の制限から煙火の海上輸送においても取扱上多大な影響を受ける可能性が高い。
 煙火の危険区分は、「国連勧告に定める試験方法」(以下、「国連試験」とする)である「6(a)単一包装試験」、「6(b)積み重ね試験」そして「6(c)外部火災試験」を行い、判定基準に従って分類される。しかし、国連試験は大規模試験となるため、広大な試験場、高額な試験費用が必要となってくる。また、煙火はその種類が非常に多く、すべての煙火に対して国連試験を実施することは困難である。
 そのため、国連試験の判定基準に整合し同等の判定結果の得られる簡易試験方法の開発およびスクリーニング評価手法を策定する。また、煙火玉の大量爆発時の挙動から、現在危険区分1.1に分類される煙火であっても、新しい包装方法等により危険区分1.3となることも可能であると考えられる。包装方法等の開発においても前述の簡易試験方法及びスクリーニング評価手法が必要となると考えられる。
4.4.2 調査研究課題の概要
(1)国連試験方法に準拠した簡易試験方法の開発
(2)容易な煙火危険区分の判定基準の策定
(3)煙火の殉爆メカニズムの解明
(4)包装材料、包装方法など殉爆防止の対策についての研究
(5)煙火の種類、成分組成、薬量、サイズ、構造から経験的知見に基づいて危険性を評価するデフォルト分類法についての検討
 本年度は初めて煙火の分類及び試験方法を調査研究することから(1)(3)について実施検討を行った。
4.4.3 煙火の分類及び試験方法の研究
 
4.4.3.1 試料
 試料の煙火は、危険区分の見直しにより深刻な影響を受けると予測される「煙火玉」とし、その代表的なものとして「割り物」と呼ばれる煙火玉(3号〜5号玉)を用いた。これらの仕様を表1及び表2に示す。割薬は、籾殻、綿実、コルク等を芯として表面に火薬を付着させたものである。表2の割薬量は、割薬を水で洗浄し芯を乾燥して計量し、割薬の割合を求め算出した値である。また、試料煙火玉の構造を図1(a)、(b)に示す。
 
表1 煙火玉の仕様(その1)
玉の大きさ 玉名 製造 玉の外径
(mm)
玉の内径
(mm)
玉皮の厚さ
(mm)
玉の総重量
(g)
玉の総薬量
(g)
火薬の割合
(%)
3号 菊紅 日本A 86 76 5 258 168.3 65.4
菊先紅 日本B 83 75 4 228 151.0 66.2
銀波先紅 中国C 85 77 4 × × ×
銀波先青 85 77 4 284 195.1 68.7
銀波先緑 85 77 4 282 201.6 71.5
銀波先紫 85 77 4 287 198.8 69.3
銀波先紅 日本B 83 75 4 240 157.5 65.6
蝶々 83 75 4 213 131.8 61.9
4号 銀波先紅緑 113 103 5 610 419.9 68.8
蝶々 113 103 5 535 342.8 64.1
5号 銀波先青紅 142 131 5.5 1020 729.0 71.5
蝶々 142 131 5.5 970 647.8 66.8
(×試料なく計測不能)
 
表2 煙火玉の仕様(その2)
玉の大きさ 玉名 割薬量
(g)
割薬の芯 星の総薬量
(g)
星の数
(個)
星の薬量
(g/1個)
星の直径
(mm)
3号 菊紅 53.1 籾殻 115.2 143 0.81 10.3
菊先紅 49.2 籾殻 102.8 127 0.81 10.4
銀波先紅 × × × × × ×
銀波先青 47.6 綿実 147.5 118 1.25 11.1
銀波先緑 49.4 綿実 152.2 111 1.37 11.4
銀波先紫 45.7 綿実 153.1 122 1.25 10.9
銀波先紅 58.2 籾殻 99.3 191 0.52 8.6
蝶々 81.2 籾殻 50.6 78 0.65 9.5
4号 銀波先紅緑 162.9 籾殻 257.0 200 1.29 12.1
蝶々 203.7 籾殻 139.2 94 1.48 12.4
5号 銀波先青紅 239.0 コルク 490.0 250 1.96 13.6
蝶々 342.8 コルク 305.0 151 2.02 13.6
(×試料なく計測不能)
 
4.4.3.2 簡易試験
 煙火の国連試験は、包装容器単位の試料で行うため必然的に試料量が多くなり、広大な試験場、高額な試験費用を要し、煙火には適当ではない判定基準などから不都合が多い。これらの問題点に対処するため、国連試験に準拠し、かつ前記不都合点を改善した簡易試験方法を開発し、容易な煙火危険区分の判定基準を策定するため、2種類の試験「小薬量殉爆試験」と「飛散内容の検討試験」を計画した。
 
(1)小薬量殉爆試験
 本試験では数個の煙火玉を砂の中に埋めるなど密閉状態にして、その内の1個に点火した場合の挙動から、国連試験の6(a)試験、6(b)試験結果の予測が可能か検討する。本試験の結果において、1個の製品の開発により他の煙火玉が瞬時に開発した場合、大量爆発(同時発火)に至る可能性があり、6(a)試験、6(b)試験では危険区分1.1となる可能性が高い。本試験では、他の煙火玉が瞬時に開発する現象を便宜上「殉爆」と表現する。
 
 試験は、試料煙火玉2個又は3個をダンボール箱に並べ入れ、起爆側の煙火玉(以下、「起爆玉」とする)の親ミチに点火玉を取付けた(写真7,8)。受爆側の煙火玉(以下、「受爆玉」とする)の親ミチには、外部から火が入らないよう処置した。これは殉爆しない場合に、親ミチに着火して数秒の時間差をおいて受爆玉が開発した場合の危険性(主に飛散危険)を小さくするための予防措置である。受爆玉の玉皮には着色し、試験後の起爆玉と受爆玉の破片を判別し易くした。
 国連試験の6(a)単一包装試験および6(b)積み重ね試験では、試料容器の上端から厚さ0.5m又は1.0mの砂で試料を覆う。試験は、日本煙火協会検査所(以下、「検査所」とする)の燃焼試験場に縦穴(縦×横×深さ=1m×1m×1m)を掘って行った。また、煙火玉周囲の密閉度と煙火玉の殉爆性の関係を確認するため、砂中および砂上で試験を行った。
 砂中での試験における試料の設置状況を図2に示す。試料を砂中に設置する場合、煙火玉の入った箱の上面から厚さが0.5mの位置まで砂をかけた(砂深さ0.5m)。さらに、砂のうを高さ0.5m積み上げ、箱の上面から合計1.0mの厚さとしたものを砂深さ1.0mとした(写真9,10)。起爆玉を遠隔操作にて開発させ、その様子を常速度ビデオカメラにて撮影した。点火後、安全を確認してから砂を掘り起こし、煙火玉の破片等を回収した。
 砂上での試験(写真11)は、煙火玉の開発に伴い星が燃焼しながら広範囲に飛散することが予想される。また、受爆玉が殉爆しなかった場合、受爆玉も飛ばされる可能性が高いため、試験場所の周囲に長さ3mの鉄製のポールで、一辺約3m、高さ約3mの立方体となるように囲いを設けた(写真12)。この囲いの周囲と上部を発破シートで囲い、燃焼する星や受爆玉が周囲に飛び出さないよう施した。試料煙火玉は囲いの中央付近の砂上に設置し、電気点火にて起爆玉に点火した。
 
(1)飛散内容の検討試験
 6(c)外部火災試験が実施された場合、想定した試料では必ず煙火玉の親ミチに包装材が燃えた火が伝わり開発すると考えられる。この前提から煙火玉が開発した場合の飛散物や飛散危険と他の煙火玉を飛散させる力を評価する試験方法を検討し、以下の3通りの試験が考えられたが、スケジュールの都合上、十分な検討と実施が行えなかった。
(1)特定方向に開放口を設けた爆発ピットなどの安全な施設内で1個の煙火玉を開発させ、星や破片の飛散距離、証拠スクリーンへのダメージを評価する。
(2)特定方向に開放口を設けた爆発ピットなどの安全な施設内で1個の煙火玉を開発させ、星の移動速度を計測する。星をパイプなどから発射させ所定の速度にて、証拠スクリーンを模したアルミニウム板に衝突させ、アルミニウム板へのダメージを評価する。
(3)特定方向に開放口を設けた爆発ピットなどの安全な施設内で隣接させた2個の煙火玉の内1個の煙火玉を開発させ、はじかれた煙火玉の速度を測定する。その速度から煙火玉の飛散範囲を推測する。
 
4.4.3.3 煙火の殉爆メカニズムの解明
 代表的な種類及び大きさの煙火玉の圧力変化を計測し、同時に小薬量殉爆試験を行い殉爆の有無、煙火玉の変形等と圧力計測結果との関連を調べた。
 
(1)試験方法
 煙火の圧力計測を行う圧力計測試験は出来るだけ小薬量殉爆試験を兼ねて行い、煙火玉の殉爆性と圧力計測結果との関連を調べた。試験に使用した煙火玉と試験条件等を表3に示す。小薬量殉爆試験は煙火玉2個を砂中に設置する条件でのみ行うことにした。同試験における起爆玉の圧力に及ぼす密閉度(砂深さ)の影響を評価するため、砂上においても圧力計測試験を行う必要があるが、仮に砂上にて殉爆した場合、今回の試験施設では保安上危険であると考えられるため、砂上では3〜5号玉1個での圧力計測のみ行った。
 
表3 圧力計測試験に使用した煙火玉および試験条件
(拡大画面:22KB)
(○:圧力計測を行う玉、●:圧力計測は行わない玉)
 
 6号、8号玉を試料とした同様の試験を計画していたが、圧力計測試験中に圧力センサが破損したため延期した。また、圧力センサを起爆玉と受爆玉の両方に取付けて圧力計測を行う予定であった「3号蝶々」および「5号蝶々」についても試験を延期した。
 今後、試験を潤滑に進めるためには、圧力センサの破損防止について検討しなければならない。
 
(2)試料煙火玉への圧力センサの取付け
 煙火玉内部の圧力変化の計測は、煙火玉に圧力センサを取付けて行った。図3に圧力センサの設置状態を示す。圧力計測を行う煙火玉には、親ミチの反対側に硬質塩化ビニル製の圧力センサ取付具(以下、「センサ取付具」とする)を煙火玉の製作時に内側から取付けた。このセンサ取付具の形状(写真1)は、完成品の煙火玉には組み込めない点が短所であるが、高速度カメラによる煙火玉開発時の挙動の撮影結果から、この形状のセンサ取付具を用いて煙火玉に設置された圧力センサは煙火玉の開発直後まで玉皮に保持されていることが確認されていたため採用した。今後、流通している煙火玉の試験等を考慮すると、今回使用したセンサ取付具と同程度の玉皮への取付強度を有し、完成品の煙火玉に後から取付可能であるセンサ取付具を開発する必要がある。
 試料煙火玉に圧力センサを取付けた様子を写真2に示す。圧力計測試験では、煙火玉開発時の衝撃等により圧力センサ等が破損する可能性が高い。圧力センサの破損をなるべく防ぐため、鉄製の圧力センサ保護具(以下、「センサ保護具」とする)を取付けた。圧力センサに取付けるケーブルは鋭角に曲ると断線しやすいため保護パイプの中を通した。
 
(3)圧力計測機器、消耗品
 煙火玉の圧力計測に用いた計測機器、消耗品等を以下に示す(写真3〜6参照)。
(1)圧力センサ PCB社製HM113A22(電圧出力型、0.007〜34.5MPaの計測範囲)
 :煙火玉内部の圧力変化を直流電圧信号に変換して出力。(消耗品)
(2)シグナルコンディショナ(アンプ) PCB社製480C02
 :圧力センサからの電圧信号を記録装置に伝達する装置。
(3)タルストレージスコープ 岩崎通信機(株)製DS−8812
 :データ取込装置。計測時のサンプリングレートは1MS/sec。
(4)データレコーダ TEAC製LX-10
 :データ記録装置。2ch計測時にサンプリングレート96kHz(最高)にて約160秒間の長時間データ記録が可能。
(5)ノートパソコン 富士通製FMV-612MG3
 :データレコーダの設定、制御、記録データの取込に使用。また、デジタルストレージスコープで記録したデータの取込にも使用。
 圧力センサは電圧出力型のタイプを使用した。同社製品の電荷出力型センサと比べて、センサ−アンプ間の距離を長くすることが可能なため、アンプを爆点から離すことができる。アンプからは長距離ケーブルを使用出来るため、本試験の試料である煙火玉のように保安上、爆点から離れた地点にて計測を行う用途に適している。
 データレコーダは、デジタルストレージスコープによるデータ取込のバックアップとして使用した。試料煙火玉の点火は親ミチへの電気点火であり、点火数秒後に煙火玉は開発する。そのため点火信号等の外部トリガを用いた計測は困難であり、データ取込装置では圧力センサからの電圧信号で内部トリガをかけて計測する。内部トリガが作動しなかった時にもデータを確実に記録するために、煙火玉の点火と同時に手動で計測を開始した。圧力計測装置の接続を図4に示す。







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