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二人のアメリカ旅行
「Kさん、大丈夫?」
「おう」
 日本からポートランド、九時間のフライト。狭い飛行機の座席で、足を傷めた夫を気づかう女性の声。それに応えて、心配させまいと気丈にふるまう夫。
 実はこの夫婦、二人とも藍工房(東京)のメンバーなのである。
 ご主人のKさんは、藍工房の第二作業所である藍カフェ&ギャラリーのメンバー。奥さんは、第一作業所・藍工房のメンバーである。今回のこの旅行は、二人で行く初めての海外旅行なのであった。
 
「ショッピングがしたい!」それがKさんたち(特に奥さん)の強い希望であった。滞在期間は十日間。その間いろいろとスケジュールが入っていたが、予定を縫うようにして、つごう三回、ポートランドでショッピングをすることが出来た。
 まず一度目は、ポートランドのダウンタウン。この日は街中をぶらぶらと歩き廻った。アメリカは初めてのお二人。何もかもが新鮮に映る。ウィンドウショッピングを楽しんだり、ふらりとお店に入って小物や貴金属を見たり、レストランで食事をしたり。奥さんは目をキラキラさせながら初体験のアメリカを堪能した。一方ご主人は−ちょっと足が疲れたかもしれない。
 さて、二度目はショッピングモール。ポートランドのダウンタウンから少し外れたところにある、ロイドセンターというモールに出掛けた。「斎藤ドクター、来房」の項でも紹介したモールである。
 ロイドセンターはおしゃれなお店が建ち並ぶ大きな百貨店。三階建てと高さは低いが床面積はかなり広く、相当多くのお店が入っていて、一日いても飽きることがない。
 Kさん夫婦はフードコートでピザを食べた後、時間をかけてお店を見て歩いた。待ち合わせの時間に集まると、奥さんが何やら袋を抱えている。どうやら、こ主人の靴を買ったようである。気に入ったものがあったらしく、二人とも、こ満悦であった。
 そして、三度目。日曜日に時間が空いたので、サンデーマーケットに出掛けた。
 ポートランド名物サンデーマーケットは、毎週土日、ウィラメット川沿いの広場で行なわれる。普段は何もない広場にずらりとテントが建ち並び、一風変わった品物が売られている。陶器や金属の小物など基本的に手作りの品が中心だが、絵画や写真など自分の作品を展示している人や、変わったところでは、その場でお客さんの顔を粘土で立体的に作ってくれるという変なおじさんなどがいる。
 この日はあいにくの雨だったが、傘を差しながらたくさんのお店を見て廻ることが出来た。奥さんは、お土産にするのか自分のものなのか、小物をいろいろと買っていたようだった。
 さてこのように、お買い物中心のアメリカ滞在であったが、それだけでは終わらない。二人の帰国を前に、思い出作りに一役買おうという人物が現れた。アイコウボウの理事、フランクさんである。
 フランクさんは地元の人なので、この近辺のことは誰よりもよく知っている。そこで、ここバトルグラウンド周辺の名所案内をしてくれるというのである。希望者を募ると、Kさん夫婦をはじめ、メンバーの真歩ちゃん、スタッフの原田さんが手を上げた。
 さて、当日。朝起きると残念ながら外は小雨。しかし雨天決行。朝食を食べて待っていると、フランクさんが迎えに来てくれた。
 Kさん夫婦と真歩ちゃん、それに辞書を三冊抱えた原田さんが玄関にそろう。原田さんはフランクさんの話を訳さなければならない。
 さぁ、今日はどんなところに連れて行ってくれるのだろう。期待に胸を膨らませ、勢い込んで車に乗り込んだみんなの目に最初に飛び込んできたのは、足元に転がるゴミの山。アメリカ人の車の中は汚いことが多いが、フランクさんのはずば抜けている。車内の灰皿も、もうこれ以上入らないというくらいにぎゅうぎゅうに吸殻が詰め込まれて、こぼれ落ちそうになっている。二人ともタバコ好きのKさん夫婦だが、これ以上入れようがないので吸うに吸えず、ただ顔を見合わせるだけである。その上、車が走り出すと、シートの下からもゴミがぞろぞろと飛び出して来た。みんなは出来るだけ風景を見ることに集中した。
 小雨の降る中まず最初に行ったのは、ラマとラクダを飼っているという牧場。だが残念なことに、雨が降っているせいかこの日は放牧が行なわれていなかった。気を取り直して、次にヤコルトにある自然公園に向かった。
 自然公園はかなりの広さがあり、森の中を縫うように走る小道を抜けていくと、先には川が流れていた。川は雨が降って水かさが増し、濁流となって流れている。そして、川の上流には小さな滝がいくつも連なり、轟々と荒れ狂う水音が耳に鳴り響く。その音は、私たちに自然の偉大さと力強さを感じさせるに充分であった。
 自然公園を出たみんなは、ポムロイハウスというお店に立ち寄った。ポムロイハウスは、英国出身のリリーさんというおばあちゃんが経営するお店で、店内にはイギリスのお土産物がずらりと並んでいる。そして、二階は喫茶室になっていて、イングリッシュティーをはじめ様々な種類の紅茶と、おいしいスコーンを食べさせてくれる。ちなみに、ここのリリーさんはアイコウボウの理事の一人でもある。
 さて、ここらでそろそろお昼。Kさんたちはサンドウィッチとトマトスープのセットを食べ、食後においしい紅茶とスコーンを楽しんだ。
 お昼を食べた一行はポムロイハウスを後にし、バトルグラウンドの北にあるセントヘレンという山に向かった。
 小雨の降る中、車はセントヘレンの中腹まで登っていき、それから大きく西に迂回すると、巨大な湖にたどり着いた。フランクさんは湖のほとりに車を止めると、そこでみんなを降ろした。湖には桟橋がかかり、十数羽のカモが優雅に泳いでいる。
 と突然、フランクさんはどこから出したのかポテトフライを桟橋から投げ始めた。投げられたポテトフライにカモたちが群がる。
 カモってポテトフライを食べるんだ。あっけに取られるKさんたちに、にこやかな笑顔でフランクさんがポテトフライを配る。みんなも一緒に投げろという意味らしい。みんな手に手にポテトフライをつかみ、一斉にカモに向かって投げ始める。真歩ちゃんが楽しげにキャアキャアとはしゃいだ。
 それから一行はまた車に乗り込み、山の中をぐるぐると走り廻った。そのうち、どこだかよくは分からないが、車は屋根のある橋のたもとで止まった。橋の近くには水車があって、雨の降る中ぐるぐる回っている。フランクさんが言うには、その水車で小麦を挽いているらしい。
 この辺りになると、みんなちょっと疲れ気味。特に辞書と首っ引きだった原田さんはもうくたくた。三冊の辞書を抱きしめて、車の中で眠ってしまった。しかし、サービス精神旺盛なフランクさんは構わずずっとしゃべりっぱなし。みんな何を言っているのか分からず、右往左往。そうこうするうちに、車は無事アイコウボウにたどり着いた。やれやれ。
 二人にとってこのアメリカ滞在十日間は、忘れられない思い出となったことだろう。それは、一緒に過ごした私たちにとっても忘れられない思い出である。







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