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第二章 新天地、バトルグラウンド
一九九五年六月。引越しをして間もないバトルグラウンドのアイコウボウに、ボランティアの宮前さんがやって来た。
この宮前さん、ボランティアといってもただのボランティアではない。新しいアイコウボウを盛り立てるために、藍工房(東京)で一ヵ月の研修を受け、これから二年間アイコウボウを背負って立つべくやって来た人なのである。
しかも、やって来たのは宮前さん本人だけではない。奥さんの祐子さん、お嬢さんの杏ちゃん(三歳)、それに犬のスミレ、猫の一平とサスケの三人と三匹。一家揃っての大移動である。
自然をこよなく愛する宮前さんは、千葉県鴨川の海が見える高台に、自分でログハウスを建てて住んでいた。鴨川で塾の講師をしながら暮らしていた宮前さんの頭の中には、いずれアメリカに渡って一家で暮らせたら、という思いがあった。
そんな時、タイミングよくアイコウボウのことを知り、一家揃ってボランティアとして参加することになったのである。
新しくなったアイコウボウ。家も広くなり、ベッド数も増え、より多くの人が暮らせるようになった。そして庭も広くなり、グラウンドではサッカーも出来るほど。しかし、なにより前のアイコウボウと違う点は、藍染めなどの作業がおおっぴらに出来るようになったことである。
このバトルグラウンドのアイコウボウにワークショップ(作業場)を造ること。それが宮前さんに課せられた最初の仕事であった。
都合のいいことに、アイコウボウの敷地には大きな小屋があった。幅十メートル、高さ六メートル、奥行き十メートルの四角い箱のようなこの建物は、以前は家畜小屋として使われていたらしく、一階はだだっ広い土間、二階は飼料を置いておく倉庫のようになっていた。
この小屋をワークショップに作り変え、ここで藍染めや織りなどの作業が出来るようにしたい。これが私たちの願いであった。
しかし、ログハウスを造ったことがあるとはいえ、いくらなんでも宮前さん独りでは手に余る仕事である。そこで、いつもお世話になっている大工のジムさんとケビンさんに声を掛けたところ、二つ返事で快くお手伝いいただけることになった。
さて、アイコウボウに到着した宮前さん、到着早々さっそく聞いていた家畜小屋を見に行った。
外観はこざっぱりしていてしっかりした小屋である。これなら改築もそんなに大変でもないか、と思いながら中を見てビックリ。だだっ広いはずの土間が、大小さまざまなゴミやガラクタで一杯になっていたのである。
実はこのガラクタ、母屋であるアイコウボウ・ハウスを改修したときに出た廃材。置き場がなく、小屋の中に山積みにされていたのである。
ワークショップにするも何も、これでは何も作業が出来ない。まずはこの廃材を捨てに行くところから始めなければならない。
さっそく宮前さんは作業にとりかかった。廃材をアイコウボウのトラックに積み、町の廃棄所まで運んでいく。廃棄所には係の人がいて、廃材の重さを量って処分料を払う。それを何度も何度も繰り返す。
ようやく小屋の中がきれいに片付いたのは、作業を始めて一ヵ月後のこと。それからジムさんとケビンさんを交えての作業が始まった。
ガラクタを片付けてみて分かったのだが、外観の印象とは違って中は思ったよりも傷みが激しく、かなり手を入れなければならない状態だった。
床は無いし、壁もボロボロ。二階に行くための階段も無かった。トイレも無いし、第一水が引けていない。電気は通っているが、電灯はほとんどない。改築はかなり長期戦になることが予想された。
それに、実際に作業を始めてみると、思わぬところに伏兵がいた。ジムさんとケビンさんが約束の時間に来ないのである。それでも宮前さんは地道にこつこつと作業を進めていった。
まず最初にやらなければならなかったのは床作り。どんな床にするのかいろいろと検討した結果、手っ取り早くコンクリートを流し込むことになった。
流し込むといっても総面積百平米。そう簡単に出来る広さではない。そこで、ジムさんの知り合いの職人さんにお願いすることになった。
職人さんはさすがに手馴れたもので、五、六人掛かりで床一面に金網を張ると、その上からコンクリートミキサー車でコンクリートをどんどん流し込んでいく。
床一面のコンクリート。それからしばらく作業は中断。コンクリートが乾くまで一休みである。コンクリートが乾くと、いよいよ本格的な改築作業が始まった。
まずは水場とトイレの確保である。水場とトイレの位置を決め、水道管を通すための穴を母屋から小屋まで掘っていく。
これがまた大変である。母屋から小屋まではかなりの距離がある。その間をパワーショベルを使って掘り起こしていくのである。
パワーショベルはジムさんが仕事場から調達してくれた。それを使ってジムさんが地面を掘り起し、みんなで手分けして水道管と下水管を埋める。
こうして上下水道が整ったところで、トイレに便座と洗面台、水場にシンクを取り付けて水周りは完成となる。
それから、もともとあった出入り口や窓の位置の見直しをし、入口を広げたり、窓を新たに作ったり、不要な窓を塞いだりと、かなり大規模な改築が進められた。
ボロボロになった内壁は、ちょっと手を入れたぐらいではどうにもならないため、すべて引き剥がすことになった。引き剥がした中に断熱材を入れ、石膏ボードを隙間無く貼りつめていく。そして、その上から内壁を塗る。
それと平行して天気のいい日は外壁のペンキ塗り。それと、階段作りが進んでいく。
どうしたわけか、この小屋にはまともな階段が無かった。簡単な梯子があったにはあったが、それではちょっとばかり危険である。そこで、ジムさんが階段作りをかって出てくれた。
内壁の張替えが終わり外壁のペンキがあらかた塗り終わったころ、ジムさんの階段も仕上がり、建物全体がだいたい出来上がった。
あとは天井に蛍光灯を取り付け、階段と二階に絨毯を敷き、暖房装置を設置すれば出来上がり。
こうしてすべての作業が終了したのは、年を越した一月、実に作業を始めて七ヵ月後のことであった。
ついに念願のワークショップが完成した。
藍ガメ、織り機、組紐の台などが持ち込まれ、ワークショップでの作業が始まった。
型染め、ロウ描き、絞り染め、刺し子、織り、組紐など、この後このワークショップから様々な作品が誕生していく。その第一歩がここに築かれたのである。
現在このワークショップには、アイコウボウの利用者だけでなく現地のアメリカ人も多数訪れ、藍染め教室に参加したり陶芸をしたりと、活発な活動が行なわれている。全力で作業にあたってくださった宮前秀隆さん、それをバックアップしてくださったジムさん、ケビンさんに心から感謝を送りたい。
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