随想
第6回ASME/JSME合同熱工学会議に参加して*
波津久 達也**
はじめに
今回私はYME使節員海外派遣(海外研究集会派遣)に選出され、国際会議における研究成果発表と熱工学に関する技術交流および同分野の最新技術情報の収集を目的として、3月16日〜20日にハワイ島のHapuna Beach Prince Hotelにて開催された“The 6th ASME/JSME Thermal Engineering Joint Conference−AJTEC 2003−(第6回ASME/JSME合同熱工学会議)”に参加した。
私にとって今回のYME使節員としての国際会議への参加は、今後の研究教育活動に対して大変貴重な経験となるものであり、また自身の研究成果を世界に発信する絶好の機会となった。以下に会議参加の概要を、自身の感想や今後の課題などを織り交ぜて報告する。
AJTEC 2003の概要
この会議は、米国機械学会と日本機械学会の共催する主として熱工学を背景とした国際会議である。日米をはじめとした世界各国の研究者が一堂に会して集中的な討論を行い、各国の熱工学研究の現状と問題点の把握、最新の研究成果や新概念についての情報交換を行って、研究交流を促進し、この分野の研究を進展させることを主眼としている。本会議は20年前の第1回のホノルル(1983)から4年毎に継続的に開催されており、今回が6回目となる(私にとっては今回がはじめての参加)。開催場所となったハワイ島のHapuna Beachは、全米一美しいと称されるオーシャンビューが広がる高級リゾート地であり(写真1)、南国の雰囲気が漂う中での会議であった。参加者をより多く集める目的か、このようなリゾート地で開催する国際会議は近年少なくないようである。会議は16日夕刻のウエルカム・レセプションに続き、大きく20のセッション、73のサブセッションが設けられ、これらが7室に分かれて4日間にわたり行われた。
テーマ設定が熱工学ということで、伝熱・流動、物質移動、熱力学、燃焼、熱交換器、熱利用プロセス、エネルギー・環境関連等、相互に関連性はあるものの、様々な分野からの基礎的、実用的な研究成果発表があった。全体ではキーノートが8件、一般講演が368件と、この分野では最大規模の国際会議である。参加者数については結果が明示されていないが、3日目のバンケット(写真2)の時にチェアマンから聞いた話によると、20カ国以上より390名程度、内日本人が200名程度と推定される。パラレルセッション方式であったため、とてもすべてのセッションを見渡すことはできなかったが、私の仕事と関連の深いエネルギー分野では、ボイラや原子炉を対象とした熱交換機器類の伝熱向上技術や信頼性評価、ガスタービンをはじめとした燃焼機器の高効率化やNOx排出抑制等の環境負荷低減技術についての発表が目に付いた。またTopical areaとして、電子素子形成等に関わるマイクロ・ナノスケール技術、メタノールを直接利用する燃料電池や、太陽光エネルギー、バイオマスエネルギー等の再生可能エネルギー、宇宙開発機器に関連する基礎研究と応用技術など、日本でも花盛りの感がある研究分野のトピックも多数あり、エネルギー開発についての意識は、他国も日本も似ていると感じた。
写真1 会場となったHapuna Beach
写真2 バンケットでの歓談風景
写真3 プレゼンテーションの様子
会議に参加して
3日目に行われた“Critical Heat Flux(限界熱流束)”のセッションにおいて、“Radiation Induced Surface Activation(放射線誘起表面活性)”と題した研究発表を行った(写真3)。この研究は、ステンレス等の汎用鋼材を基盤材とした酸化皮膜金属に放射線を照射することで、材料表面に触媒活性効果を誘発し、腐食特性や伝熱特性の向上を図るというもので、日本からの完全なオリジナルアイディアとして紹介した。
私が発表したセッションは、参加者が番集まるバンケットの直前であったため、70人は入る会場が埋め尽くされるほどの盛況振りであった。短い時間設定でありながら質問が多数出たので、私の発表は一応は成功したと思う。原子力の分野では炉心熱特性の改善による安全性向上が永年の課題となっており、特にその分野を専門とする研究者から熱心な質問・コメントを受けた。表面活性効果の基本メカニズムの解明や材料構成の最適化など、ディスカッションを通して今後の研究課題がいくつか抽出でき、大変有意義な発表となった。
全体的な会議の感想としては、日本からの発表件数が半分以上と、会議への日本人研究者の貢献が圧倒的であるということが挙げられる。今後もこの分野のみならず、日本が技術的なイニシアチブを継続して取っていく必要があると感じた。また若手の研究者の発表が目立った。他の国際会議でも、学生用のセッションや若手の優秀講演表彰が設けられるなど、ボトムアップの気運が高まりつつあり、我々若手研究者にとって大変喜ばしい傾向である。今後もこのような国際舞台において技術的交流を深め、自身のネットワークを広げるとともに、意義のある研究成果を世界に発信していく必要があると感じた。
おわりに
今回のYME使節員としての国際会議への参加は、私自身の研究成果を世界に発信する絶好の機会となり、多くの研究者との討論を通して、自己の専門領域をより深化させるものとなった。また得られた最新の技術情報とネットワークは今後の研究教育活動に対して大変有益となるものであった。このような貴重な経験を与えてくださった、日本財団ならびに日本マリンエンジニアリング学会の関係各位に心より謝意を表するとともに、今後もYME使節員制度を通して、より多くの若手研究者・技術者に国際舞台で活躍できる機会が与えられることを切に願う。
*原稿受付 平成14年4月2日
**正会員 東京商船大学(江東区越中島2−1−6)
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