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随想
第48回海洋環境保護委員会(MEPC48)とUniversity of Newcastle upon Tyneを訪問して*
岸 武行**
 
 
1. はじめに
 今回私は平成14年度YME使節員(海外研究集会派遣)に幸運にも選出され、国際海事機構(IMO)で平成14年10月7日から11日まで開催された第48回海洋環境保護委員会(MEPC48)に参加した。また、本使節員制度においては、研究集会開催地近郊の大学・研究機関等の訪問を許されていることから、勤務先の海上技術安全研究所の海外留学制度を利用して当方が1年間留学を予定している、英国ニューキャッスル・アポン・タイン大学のロスキリー先生と、先生の研究室を訪問した。以下、その概要を報告する。
 
2. 第48回海洋環境保護委員会(MEPC48)
 第48回海洋環境保護委員会(MEPC48)を主催する国際海事機構(IMO)は、国際連合にかかわる1機関で英国ロンドンにある。ここでは、海事における条約等の制定や審議等が行われる。その中で行われたMEPC48は、その名の通り、海洋環境を保護することを目的とした、条約等の審議が行われる国際会議である。
 このような条約等の、各国の権利にも影響するようないわば法律的な国際会議は、当方はまったく初めてであったので、その内容は正直言って全てが驚きであった。まず、学会なら、職場の許可が得られれば、後は個人的に登録できるが、この会議では、外務省を通して登録しなければならない。当方は、日本代表団率いる国土交通省の関係各位、また、当研究所の領域長・研究統括主幹・副主幹をはじめとして多くの方々のおかげで、本YME使節員に選出されたのが開催約2週間前であったにもかかわらず、登録を行うことが出来た。また、学会では、館内放送の呼びかけに際してはparticipant(参加者)と呼ばれるが、この会議ではdelegate(代表)と呼ばれ、会議の各人がまさに国益を背負っていることを痛感させられた。同時に、国の代表だけでなく、グリーンピースを初めとするNGO等や、海事に関係する各種団体も参加していた。
 会議の進め方は、まず最初に各議題を採択し、その後順に議題について審議が行われる。本委員会では、表1に示す議題について審議がおこなわれた。なお、各議題のうち、議題2、3、4については作業部会が設置され、その中でさらに詳しい審議が行われた。当方は、自分の専攻分野(燃焼学)から、議題4「船舶からの大気汚染の防止」を担当することになった。以下、この議題を中心に述べさせていただく。
 この議題4において特に重要なこととして、a)船舶からの大気汚染防止に関するMARPOL73/78条約附属書VIの発効について、そして、b)温室効果ガスの排出の削減に関することが上げられる。
a)に関しては、現時点に於いて批准準備が整いつつある国がさらに増加し、近々にも本附属書の発効要件が満たされることになった。
b)に関しては、京都議定書において規定された国以外は削減の義務はないという意見が出されたのに対し、規定された国以外の国の協力がないと国際海運における削減達成が困難であるという立場から反対意見が出された。また、取り組み方として、自発的な取り組みでは不十分であり強制的にすべきという意見が出されたが、これに強く反対する意見もあった。温室効果ガスの排出Index等については、2005年までにガイドラインを作成するようにし、2010年にそれについてレビューすることとなった。
 会議の大まかな内容は以上であり、環境問題と国益とが極めて密接なつながりを持つことを改めて認識した。ところで、審議の進め方は、当たり前であるが学会の討論とは全く異なる。発言者に対する呼びかけは、たとえば“Japan, please。”と国名、あるいは団体名で行われる。また、学会なら的をはずした発言をしたとしても、それは発言した個人のみが責任を負うわけであるが、この会議では国を「代表」した発言となるので、当然のことながら1つ1つの発言は本国の官庁と緊密に連絡を取るなど、極めて良く吟味した上で行われる。会議の審議内容如何では、国益に大きな影響が出てもおかしくない。大気汚染物質という、自分の専攻と緊密な関係のある会議であったが、自分個人の能力・経験をもとにある程度自由に発言出来る学会とは全く異なる、国益という大きなものが背後に存在するこの委員会に初めて参加し、ただただ驚きを隠せなかっただけでなく、国益を背負って立つ、日本の各省庁や各団体等から参加された方々にここで改めて敬意の念を表明したい。
 
表1 MEPC48にて審議された議題
1. 議題の採択
2. バラスト水中の有害水生生物
3. シップリサイクル
4. 船舶からの大気汚染の防止
5. 強制要件の改正の考察及び採択
6. OPRC条約、OPRC−HNS議定書及び関連会議決議の実行
7. 特別海域及び特に敏感な海域
8. 受入施設の不十分性
9. 小委員会からの報告
10. 他の機関の活動
11. 条約の状況
12. MARPOL73/78及び関連規則の実行及び効力の推進
13. 技術協力プログラム
14. MARPOL条約及び関連コードの実行及び執行の推進
15. 船舶の防汚塗料の使用による有害影響
16. 人的要因問題と総合安全評価(FSA)の役割
17. 委員会ガイドラインの適用
18. 委員会及び小委員会の作業計画
19. 2003年の議長及び副議長の選任
20. その他の議題
21. 委員会の報告の考察
 
写真1 MEPC48が開催されたIMOの玄関先にて
 
 
3. University of Newcastle upon Tyne訪問
 委員会は10月7日から11日まで開催されたが、担当であった議題4の作業部会が9日で終わるということで、お許しを得て、残り2日を当方が勤務先の海上技術安全研究所の海外留学制度を利用して留学予定の、英国ニューキャッスルのニューキャッスル・アポン・タイン大学のロスキリー先生と、先生の研究室の訪問にあてることになった。ロスキリー先生は同大学海洋工学科の教授であり、ご専門である制御のみならず、船舶・海洋工学に関する幅広い研究をされている。先生は、平成12年に東京にて開催されたISME2000において、特別講演もされている。
 
写真2 ニューキャッスル・アポン・タイン大学教授 ロスキリー先生と
 
 
 当方の英語はあまりにもつたないものであったが、ロスキリー先生はそれにも関わらず、熱心に、かつ、暖かく当方に対しご自分の研究室を紹介していただき、キャビテーション観察水槽や、実験用機関等を見学させていただいた。そして、当方が職場で水素を燃料として燃焼実験を行っており、水素の極めて高い燃焼性とそれによる実験結果の解析のしやすさを感じていると伝えると、先生も、それについては同感であり、将来的に水素を用いた研究も行いたいということであった。そして、当方が留学制度で大学に滞在するときの研究テーマについて議論した。
 
4. 終わりに
 以上が当方の平成14年度YME使節員(海外研究集会派遣)としての報告であるが、最後に、若輩者である私に、YME使節員(海外研究集会派遣)の制度を通じて、このようなすばらしい経験をさせていただいた日本マリンエンジニアリング学会ならびに日本財団の関係各位に謝意を表するとともに、これからも若い技術者の方が、このYME使節員により貴重な海外経験を積んでゆかれるよう願ってやまない。
 
*原稿受付 平成14年11月26日
**正会員 (独)海上技術安全研究所(三鷹市新川6−38−1)







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