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随想
YME使節員としての訪欧報告*
木田隆之**
 
1. はじめに
 平成13年度から行われている日本財団助成事業であるYME(Young Marine Engineer)使節員の一員に本年度応募し、幸運にも選出された。それにより、ヨーロッパ数カ国を訪問し、貴重な経験を得ることが出来た。ここに概要を報告すると共に、本派遣を通じての感想、今後の学会の活性化に対しての私見を述べさせて頂く。
 
2. 目的と訪問先の選定
 今年度は、昨年度同様に原則各個人で目的に応じた訪問先及び日程を設定するものであった。まず目的であるが、造船マーケットの動向から今後の造船機関部計画の上で核となると思われる技術を視野に入れ下記とした。
・大型コンテナ船、高速船、電気推進プラント船などの最新推進プラント技術動向調査
・大型中速ディーゼル機関の最新技術動向調査
・ディーゼル機関用油清浄に関する最新技術動向調査
・欧州マリンエンジニアとの国際交流並び意見交換による自己研鑽
 上記目的から訪問先のメーカーの選定作業を行った。この選定作業は、個人ベースで日程の調整及び訪問の目的を擦り合せる必要も有り、ホテルの手配、交通手段の検討および手配も兼ね合い大変な労力と時間を要した。しかし、訪問先各社のご好意も有り、予想したよりもスムーズにスケジューリングが行え、幸運であった。社内外の様々な方々からご助言頂き、最終的に下記を訪問先として選定した。訪問日程は、平成15年1月22日〜2月1日の11日間で、基本的に各社1日の訪問スケジュールとし、前日の夜に現地入りし、朝から訪問し昼食を挟んで午後数時間打ち合わせ後、次の訪問先に移動するという繰り返しである。
 
スケジュールと訪問先
1月22日 移動日
1月23日 ABB Oy
(Helsinki, Finland)
1月24日 Wartsila Finland Oy
(Vaasa, Finland)
1月25日 移動日
1月26日 移動日
1月27日 Alfa Laval Tumba AB
(Tumba, Sweden)
1月28日 MAN B&W Diesel A/S
(Holeby, Denmark)
1月29日 Caterpillar Motoren GmbH
(Kiel, Germany)
1月30日 移動日
1月31日 Westfalia Separator Systems GmbH
(Oelde, Germany)
2月01日 移動日
 
 これら訪問先において、最新推進プラント技術動向についてはABBと、大型中速ディーゼルについてはWartsila, Caterpillar, MAN B&W Holebyと、油清浄システムについてはAlfa Laval, Westfaliaと意見交換を行った。
 それぞれの訪問先における意見交換の詳細及び、訪問対象者を以降に述べる。
 
3. 訪問先における意見交換
 3.1 ABB Oy 配電、給電関連の先進メーカーであると同時にそれら技術的ノウハウを活かした電気推進プラント製品のサプライヤーである。
 ABBにおいては、Mr. Matti Holmsten、及びMr. Arto Unskalioに応対頂いた。主な内容は、筆者が機関システムの設計に従事している関係で、ABBが大型コンテナ船などで検討しているポッド推進器(AZIPOD)十固定ピッチプロペラの組み合わせによるCRP(Contra−Rotating−Propelling)システムについてである。筆者からも、過去VLCCにおいて機械式のCRPシステムを装備した実績などを紹介し、詳細について意見交換を行った。意見交換から得た情報を下記に示す。
・今後の需要を睨み、AZIPODの最大定格出力を現在の20MWから30MWまで可能な物を開発中。
・1機1軸+AZIPODのCRPシステムで試算上は8〜15%程度の推進性能改善可能
・10,000TEUクラスの大型コンテナ船向けとして、直結固定ピッチプロペラに70%、AZIPODに30%馬力を割り振った場合、発電ロスなども考慮した上で必要馬力は、5〜10%改善試算
・小型船向けに、2.7MWモーターを2基装備した一体型のCRP−Compact AZIPODを開発。推進性能改善は5%程度と試算。
 昼食を挟んで、ABBの大型発電機及びモーター工場、及び車で30分程度の距離にあるAZIPODのAssembly工場を見学させて頂いた。
 
 3.2 Wartsila Finland Oy Finland北部のVaasaという町に所在するWartsilaの工場を訪問した。
 
 
写真1 ABB AZIPOD組立工場にて
 
 Wartsilaにおいては、Mr. Kent Almと中速ディーゼル機関(含むガス焚き機関)の最新技術及びそれによる推進プラント構成のあり方について意見交換を行った。
 Wartsila社は、ガス焚き機関を精力的に開発している。過去GD機関(ディーゼルサイクル高圧ガス機関)、SG(オットーサイクルSpark−Ignited機関)などの開発及び市場投入を経て、それらを技術ベースとしたDF(液体燃料と約5bar程度の低圧ガス燃料によるDual−Fuel機関)を舶用として市場投入している。訪問時のDF機関の出荷実績は、FPSO向けに3sets、OSV(Offshore−Supply Vessel)向けに8sets、LNG船向けに4setsとの事である。
 昼食を挟んで、Vaasa工場内を見学させて頂いた。Vaasa工場では、200mmボア〜340mmボア程度の中小型機を製造しておりそれぞれの工場を見学した。また、その後、ガスエンジンのテストFacilityにおいて、500mmボアのDual−Fuelエンジンのテストランを見学させて頂いた。
 
写真2 Wartsilaとの意見交換
 
 
 3.3 MAN B&W Diesel A/S 訪問した中速ディーゼル機関の工場は低速ディーゼル機関のMAN B&Wが所在するCopenhagenから列車で3時間程度のデンマーク南端のHolebyと言う町に位置する。エンジンのブランド名は「Holeby」である。
 Holebyにおいては、Mr. Uffe Christensen, Mr. Michael Zubと中速ディーゼル機関の最新技術及び市場の動向について意見交換を行った。
 Holebyエンジンは、韓国にライセンシーを複数抱えている事もあり、C重油焚き舶用中速ディーゼルのマーケットでは、50%を越えるシェアを誇る。また、今後の市場動向を睨んで、中国にもライセンサー持つ。
 Holebyエンジンは近年、メンテナンス性の改善や部品点数の削減などを施した新型機種を小型ボア機からリリースしている。
 意見交換の後、Holeby工場内を見学し、エンジンの特徴などを実機ベースで説明して頂いた。
 
写真3 Holebyの玄関にて
 
 
 3.4 Caterpillar Motoren GmbH 訪問したCaterpillar社の工場はHamburgから列車で1時間程度のKielという港町に位置する。Kielには、国際航路のターミナルや軍港、造船所などが林立し、その中の一角に工場が所在する。従来の社名である「MaK」をエンジンブランド名として残し、同じデザインのエンジンを舶用は「MaK」陸用は「CAT」で市場に出している。
 MaKエンジン工場では、Mr. Arno Zimmermann、Mr. Thorsten Simonsenと中速ディーゼル機関の最新技術及び市場の動向について意見交換を行った。MaKエンジンも先のHolebyエンジンと同様にメンテナンス性工場や部品点数削減と言った視点からの新型機種を市場に投入している。
 昼食を挟んで、工場内の鋳物工場、組み立て工場、テストベッドを見学させて頂いた。
 
 3.5 Alfa Laval Tumba AB 訪問したAlfa Laval社は、Stockholmから車で1時間程度のTumbaという町に所在する。Tumbaには、本社及び研究所が所在する。
 Alfa Laval Tumbaにおいては、Mr. Pauli Kujala、Mr. Michael Kleman, Mr. Bengt Gullberg, Mr. Gunnar Astrom, Mr. Mats Englund各氏と最新油清浄及び、スラッジ処理の最新製品技術及び規制の動向について意見交換を行った。
 
写真4 MaKとの意見交換
 
 
 現在油清浄機の型番選定の基準となる推奨処理容量は統一された規定が無く各社まちまちの個別の社内基準に基づいた物となっている。これら状況を改善する意味合いで、Alfa Laval社では、油清浄機の処理容量規定(試験要領規定)をGL、DNVと検討中との事である。
 また、Alfa Laval社は、油清浄機だけでなく、プレート式熱交換器あるいは、遠心分離技術を応用したスラッジ処理機器も製品としてラインアップしており、最新の製品技術について、Tumba工場内にある研究所(ラボ)において、細かく説明して頂いた。ラボには、開発中の試作製品が並び、さらにそれら用の様々なテスト機器、計測機器が所狭しと並んでいた。また、騒音計測用の巨大な完全防音騒音計測室も装備され、これらから見ても製品の技術力の高さを想像出来た。
 さらに近年の動きとして、それら多品種の舶用機器ラインアップを活かし、油供給ポンプや粘度調整器などをモジュール化した製品を加え、機器単品サプライヤーからシステムユニットのサプライヤー領域への進出に意欲的である。
 
写真5 Alfa Lavalの皆さんと
 
 
 3.6 Westfalia Separator Mineral Systems GmbH 訪問したWestfalia社は、Hamburgから特急列車で3〜4時間のDusseldorfとHannoverの中間辺りに位置するOeldeという町に所在する。
 Westfalia社においては、Mr. Martin Rowekamp, Mr. Berthold Bussiewekeと最新の油清浄及び、燃料供給システムの最新製品技術について意見交換を行った。
 Westfaria社の最新製品の技術説明を受けた印象では、Westfaria社も先のAlfa Laval社と同様、主力の清浄機に加えて、関連ポンプ、機器をユニット化し、燃料油システム、スラッジシステムなどのシステムサプライヤーとしての領域拡大を狙っている。また、清浄機自体の最新製品においても開発の志向性は、メンテナンス性改善およびベルト駆動などのシンプルな構造などである。
 その後、Westfarila社のOelde工場内で、最新の油清浄機及びモジュールユニットの部品加工、組み立て、テストそれぞれの各工程を順に紹介/説明して頂いた。
 
4. まとめ・所感
 上述の様に、様々な先進技術を有する欧州メーカーを訪問した結果からの所感を纏める。
 ABB社においては、高速船向けの電気POD推進CRPシステムについて有意義な意見交換を行えた。ABB社は、配電、給電サプライヤーとしての製品ラインアップと電気推進システムという新システムの提案によりトータルシステムとし付加価値を市場に提案している。
 
写真6 Westfaliaの皆さんと
 
 
 また、大型中速ディーゼル機関各社との意見交換の中で、燃費(あるいは熱効率)などの性能においては、ディーゼル機関単体での技術革新は限界で頭打ちの印象である。よって、各社の開発志向性は、新しい領域としてのガス焚きディーゼル機関、あるいは従来機種を環境面、ユーザーフレンドリーと言った観点からの改良及び研究開発が現在の主流であると感じた。
 さらに、油清浄機器関連各社との意見交換においては、各製品単品としての技術差別化が困難な為、製品領域を拡大し、単品ではなくトータルシステムサプライヤーとして時にはエンジニアリング込みで市場に提供する事により他社との差別化を計る方向性であると感じた。また、単品での技術革新はやはり頭打ちの状況で有り、その様な環境の中で、基本的な信頼性を維持しつつメンテナンス性を改善するなどの方向性が伺える。
 
5. おわりに
 今回のYME派遣にでは、技術的目的に応じた調査以上に、本事業のもうひとつの大きな目的である欧州マリンエンジニアとの交流といった面で大変貴重な経験を得ることが出来た。
 ただ一つ残念だったのは、学会の交流面で英国舶用機関学会のIMarESTを、日程の都合により訪問出来なかった事である。
 また、それとは別に個人ベースの日程調整や諸々の諸手配など事前準備がかなり大変であったが、良い経験をさせて頂いたと感じている。
 今後は、本派遣で得た技術的知見や自己研鑽を財産に、所属する学会の第1研究委員会などにフィードバックするなど学会の活性化に尽力する所存である。
 最後に、本年度の派遣において様々なご助言と事務処理を行って頂いた東京商船大学の清水先生及び学会関係部署の皆様、さらには、日本財団殿に深く感謝の意を表します。
 
*原稿受付 15年4月1日
**正会員 株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド(東京都港区海岸3−22−23)







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