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 まず、Heim氏から同社の概要についての説明を受けた後、小職が準備したSulzer RTA機関に関する集計・分析結果を紹介した上で、この結果に対する見解を伺った。ここでも、初めて見るユーザーの立場から取り纏めた摩耗要因分析に当初は戸惑いさえ感じているようであったが、次第に質問や意見が相次ぎ、前述のMAN B&W Diesel社と同様に、熱い議論を展開しました。
 昼食後、Tribo Pack for Sulzer RTA enginesの開発者であるDr. Amorから、直接、その開発に至った背景、使用実績、並びに今後の展開についての説明を受けると共に、スカッフィングの発生原因についての意見交換を行いました。ご存知の方も多いと思いますが、Tribo Packとは、リング・ライナのトライボロジー的挙動に関する解析結果を基に開発したスカッフィング(および突発的な過大摩耗)防止対策であり、リング・ライナの材料および加工の仕様から、シリンダライナヘの断熱インシュレーションの装着や、ピストンクラウン外周部に付着したカーボンデポジットを掻き落とすアンチポリッシュリングの装着等を含めた総合的な設計パッケージとなっています。
その後、Huber氏から、同社の最新機関であるRT−flexの概要についての説明を受けた後、Dr. Amorの運転する車に乗り、New Diesel Technology Centerに案内されました。同所には、開放・整備実習用の教材として過給機、排気弁、燃料弁等の主要構成部品からエンジン本体まで備えた充実したトレーニング施設や、RTA58機関のテストベッドを備えた研究・開発機関となっています。ここでは、まず同社作製のディーゼル機関に関する教材ビデオを観賞しましたが、単なるビデオではなく、時折、スクリーンが移動して裏に隠されていたエンジン・モデルが動き出すなど、ディズニーランド顔負けのアトラクションとなっており、ディーゼル機関の変遷とWartsila社の歴史、更には空気の流れに沿って運転中のディーゼル機関内部の状況を疑似体験することも出来ました。
 
写真4 充実したトレーニング施設
 
 
3.3 Wartsila Italia Spa
 1)トリエステ イタリア半島のつけ根(東端)、スロヴェニアとの国境近くにある貿易港であり、遠方にはクロアチアも望むことが出来ます。ローマ、アクイレイア、ヴェネツィア等の支配を経て、14世紀後半からは、長期間に亘りオーストリアの保護下にあったため、1954年にイタリアに復帰したものの、今も、バロックやネオ・クラシックの建物が立ち並び、オーストリアの影響を伺わせています。
 2)会社概要 トリエステ中央駅から南西へ約10kmに位置し、530,000m2の広大な敷地(covered area:150,000m2)に、約1,200名の従業員が働く、Wartsila社最大の機関製造工場であり、Marine engineおよびPower plants用として、Wartsila 64およびSulzer ZA40Sの中速機関、並びにRTA46〜84、RT−flex等の低速機関を製造しています。
 3)訪問概要 宿泊ホテルのあるヴェネツィア/サンタ・ルチア駅からブダベスト行きの長距離特急に揺られること約2時間、トリエステ駅に到着する。スイスと同じく改札の無い開放的な駅に降り立つと、Carl−Henrik Bjork氏(Vice President, Marine)の出迎えを受け、Wartsila Italia Spa社へと向かいました。
 同社では、Bjork氏の他にMario Grassi氏(Two−Stroke Engines Technology)にお会いし、それぞれWartsila Italia Spa社の概要とRT−flex機関の詳細と実績についての説明を受けた後、広い工場内を案内して頂きました。
 RT−flex機関は、燃料噴射系統と排気弁駆動油圧系統にコモンレールシステムと称する全Cylinder共通の油圧配管を装備しており、ここから電子制御で開閉する電磁弁を介して、燃料噴射並びに排気弁の開閉を行うシステムであり、燃料噴射ポンプを含めた力ム軸駆動装置が不要となり、電子制御することで低負荷域での燃焼改善などの利点があります。
工場見学においては、テスト段階や、組立て工程にあるRT−flex機関を間近で見学する機会に恵まれ、カム軸関連の損傷に頭を悩ましているユーザーのひとりとして、その将来性に大いに期待を抱きました。
 
写真5 RT−flex機関
 
 
4. まとめ
 当然ながら、造機メーカーには確立された設計思想があり、それに基づいた技術・開発がなされているものと理解していますが、日々、様々な機関損傷の原因追求している中で、“確立されているはず”の設計思想に少なからず疑問を感じることも有ります。また、その一方で、実際に機関を運用しているユーザー側も、膨大な生きたデータを計測・保管しているにも拘わらず、十分な解析や原因追求を行わず、同じような損傷を繰り返しているのが現状です。
 前述した通り、今回、小職がYME使節員として渡欧した主目的は、ユーザーの持つ膨大なデータを運用・管理する立場で集計・解析した上で、この結果を造機メーカーにfeed backしながら、意見交換を行うことでした。この意味においては、いちEngineerの訪問ではなく日本マリンエンジニアリング学会からの使節員という立場もあり、MAN B&W Diesel A/S社、並びにWartsila Switzerland Ltd.社ともに真摯な対応を受け、各社が誇るトップ技術者に直接会い、時には熱い議論を交えながら有意義な技術交流を行うことで予想以上の成果を上げることができました。また、何れの会社においても、『初めて見る解析結果であり、後日、改めてメーカーとしての見解を提出したい。このテクニカル・ミーティングをきっかけとして、今後も交流を深めて行きたい。』旨の提案があり、海外技術者との人脈を構築できたことも大きな収穫でした。(既に、この提案に基づく、意見交換も進めています。)
 更には、技術・開発担当者から、直接、各社における最新の技術・開発状況についての説明を受けたり、未だ日本の船社では使用されていない最新機関をその組立て状況を含めて間近で見学するなど、充実した訪問であったと自負しています。
 
5. おわりに
 今回、不躾な訪問依頼であったにも拘わらず、好意的に受け入れて頂いたMAN B&W Diesel A/S, Wartsila Switzerland Ltd., 及びWartsila Italia Spaの各社、並びに訪問スケジュールを決定する上でご尽力頂いたMAN B&W Japan Ltd.およびWartsila Japan Co., Ltd.の関係各位に厚く御礼申し上げます。
 また、このような大変貴重な機会を与えて下さった日本財団並びに日本マリンエンジニアリング学会の関係各位に深く感謝の意を表します。今後も、船舶機関士を含めた若いマリンエンジニアがYME使節員としての貴重な経験を積まれることを祈りつつ、船上/陸上のあらゆる立場から、学会およびマリンエンジニアリングの発展に寄与できるよう努力して行く所存です。
 
 なお、弊社で取り纏めを進めているCylinder liner/Piston ringの摩耗要因分析結果については、今回、造機メーカー各社を訪問し協議した内容を盛り込んだ上で、2003年5月、ヘルシンキ(フィンランド)で開催されるNinth International Conference on Marine Engineering Systemにて発表する予定です。
 
*原稿受付 平成15年2月21日
**正会員 株式会社商船三井(港区虎ノ門2−1−1)







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