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 私は持参した3編の研究論文の別刷りとその説明用の資料をJohn Rose教授に渡して、私がやっている沸騰伝熱研究と熱輸送システムの研究成果を簡単にPRした。先生も熱心に聞いてくれた。特に私がやっているメタノールの熱輸送システムに関心を持っていた。Rose教授は日本の九州大学に短期間滞在したことがあり、日本の文化にも興味を持っていたそうである。
 John Rose教授の研究室を見学してから、次いでに同じ工学系のバイオメカニクス研究室や、運動スポーツ研究室、航空宇宙実験室も見学することができた。写真8はそのバイオメカニクス研究室で行われている研究の一例で、生体組織中の応力を精密に測定する装置を示す。生体力学においてはそのような基礎的なデータの測定が重要だそうである。さらに、ナノテクノロジの先端研究として、宇宙船の電気推進に関する研究も行われている(写真9)。この研究室には日本から在外研究で来られている方にも会って少し交流ができた。
 運動スポーツ研究室では、主にカメラ、センサーなどを用い、人の運動を捉え、分析し、訓練用のスポーツ器具の開発やスポーツ科学の研究に力点を置いているようである。
 航空宇宙実験室では、主に風洞を用いて種々の翼の空気の抵抗や流型などの模擬試験や、可視化などの実験研究が行われている。写真10は風洞実験装置の一例を示す。風洞が大きくて長いので、実験するとき騒音が問題になるかと聞いたところ、いろんな工夫をしているからそれほどでもないとのことであった。Mike Gaster教授は種々の風洞実験装置を案内してくれた。70才に近い年だが、Fellow of Royal Society(FRS)のメンバーでありながら、まだ精力的に自ら実験をしてデータを計測し、研究されていた。(学生がやっているものにはあまり信用しないようである。)
 
写真9 ナノテクノロジに関する実験装置
 
 
写真8 生体組織の応力計測装置
 
 
写真10 風洞実験装置
 
 
 12月6日にはSouth Bank Universityのシステム工学科を訪問した。South Bank Universityは地下鉄Elephant and Castle駅より歩いて数分ぐらいのところにある。名前のとおりテームズ川の南に位置している。システム工学科には環境工学、産業機械、材料科学、設計、メカトロニクスと制御、そして熱流体工学等といった分野からなっている。熱流体工学の分野では、伝熱に関する研究、風洞を用いた流体力学の研究、そして数値流体力学の研究領域に分かれている。
 South Bank Universityのシステム工学科の訪問では、主に熱エネルギー工学領域のKarayiannis教授の研究室を見学した。その研究室では、次のような研究が行われていた。振動管内の二相流の特性、小管径における自然対流沸騰熱伝達、矩形流路における自然対流熱伝達、冷媒とオイルの混合物における流動沸騰熱伝達、EHD(電気流体力学)による伝熱促進技術、電子機器の冷却、CFDソフトウエアの電子機器の設計への応用、などがある。私はEHD(電気流体力学)による伝熱促進技術(写真11)や将来電子機器に大きく期待されているマイクロチャンネル流路内の伝熱技術といった先端的な技術に興味を持った。それらの研究に接し、種々情報を収集することができた。
 
写真11 EHD伝熱促進技術を用いた10kW級の水冷冷却器の性能試験装置
 
 
4. 訪問の感想
 今回のYME使節団に参加して、大変視野を広める訪問・交流ができたと思っている。
 IMarESTの訪問については、まず、その会員数の多さ(16000人以上)、支部の多さ、そして出版物の多さに驚いた。その出版物の内容も幅広く豊富であることが解った。IMarESTのご好意でアレンジしてくれたJ.P.Kenny社、Lloyd's Register of Shipping社、Noble Denton社、STASCO社、などのマリンエンジニアリングまたはマリンコンサルタントに関連した企業を訪問して、交流を通して、海洋工学、海洋輸送、海洋の安全管理について多くの知見を得た。原子力出身の私にとっては大変視野を広める訪問であったと思う。
 ロンドン大学の訪問については、私の専門である熱流体領域の研究者たちと交流して感じたのは、イギリスの学者がいつも新しい研究領域を開拓していることである。燃料電池における凝縮伝熱問題にしても、生体力学に関する基礎的な研究にしても、そして、ナノテクノロジの宇宙船への応用に関する研究にしても、いずれも私にとって興味深い新しい研究領域である。伝統的な工学科はいつも新しい学問分野を取り入れながら新陳代謝していかないといけないであろう。いま日本の大学も改革の時期にきており、大学の人間としてはいつも新しい領域を開拓できるよう努力しないといけないと思うところである。
 今回のロンドン訪問の成果を将来の研究、教育に生かしたいと思っている。そして日本マリンエンジニアリング学会のますますの発展に研究や学会活動などを通して微力ながら努力していきたいと考えている。
 
5. おわりに
 今回のYME使節員としての貴重なチャンスを与えて下さった日本マリンエンジニアリング学会並びに日本財団殿に心より厚く謝意を表します。また、日程の調整等でアレンジして下さった日本マリンエンジニアリング学会の小山初見事務局長、IMarESTのMarie Barford女史にも大変お世話になりました。ここに厚く感謝の意を表したいと思います。







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