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随想
YME使節員としてのロンドン訪問*
劉 秋生**
 
1. はじめに
 昨年の7月に省エネルギーシステムや新エネルギーシステムといったテーマでYME使節員(研究等調査・交流)に応募し、有り難く学会に承認していただいた。12月1日より8日までロンドンを訪問する機会を得たので、その訪問概要を報告する。
 既に学会誌の会告にも掲載されたとおり、YME使節員としての訪問の目的は、国際的視野における技術力の研鑚、海外の最新技術情報の収集と学会への提供、IMarESTとの意見交換、日本の技術力の紹介とPR、そして、国際的人脈の構築と使節員間の異業種交流等であった。
 今年度(平成14年)の調査・交流を目的としたYME海外派遣の特徴はそれぞれが明確な目的を持って、独自に調査する点にある。私はなるべくほかの使節員の方と一緒にロンドンのIMarEST本部を訪問できるようにスケジュールを組んだ。
 
2. 英国舶用機関学会(IMarEST)
 IMarEST(The Institute of Marine Engineering, Science and Technology)本部のオフィスは地下鉄Moorgate駅より歩いて5分程度のところにある。1889年に創立し、113年の歴史を持つそうである。12月2日、私と清水先生とのYMEメンバーの2名、そしてロンドン駐在の日本シープセンターの田口氏、及びテスター氏と一緒にIMarEST本部を訪問した。まずは、IMarESTの会員部のHolly Sheridan女史のご案内で、IMarESTのDirector GeneralであるMr. Keith Read氏を表敬訪問した。コーヒを飲みながら所属と専門分野などの簡単な自己紹介を行った。「私は原子力の出身である」と告げると、Read氏も「私も原子力の出身で、PWRの仕事をしていた。」といってくれた。みんなが最初から海洋を専門としているものではなかったことをはじめて知った。次に、技術及び協力事業部門のDirectorであるGraham Hockley氏のオフィスで話しを聞くことができた。IMarESTの事業内容、会員分布、出版物の種類等の紹介を受け、活発な交流ができた。以下のIMarESTの出版物をいただいた。Marine Scientist, MER(Marine Engineers Review), IMarEST Membership Information, Marine Time Electronics, Journal of Offshore Technology. Marine Scientistの秋季号では、表紙に大きな風車の写真が掲載されており、風力発電、潮力発電の記事が満載しており、ちょうど私の調査テーマである新エネルギーと一致している。今でも興味深く読ませていただいているところである。写真1はHockley氏との記念写真である(IMarESTにて)。
 
写真1 左より、著者、Hockley氏、清水先生
 
 
 引き続き、Group Managing EditorであるJohn Butcherのオフィスに伺い、そのフローにある編集局を見学させていただいた。そして、Professional Affairs and Deputy to the Director GeneralのDavid M. Long氏を表敬訪問し、簡単な自己紹介と説明を行った。Long氏は日本の事情に詳しいようで、日本の大学の評価制度・機構も知っているそうである。
 最後に、IMarESTにある会議室や海事関連の図書情報センターを見学させていただいた。百年前からの世界各地の海事関連の本や雑誌が整然と並んでいて非常に感心した。百年前の本が本当に大丈夫なのかと触らせていただいた。
 翌日の12月3日、ロンドン駐在のシープセンターの松村所長もご同行して下さり、YMEメンバーの2名とシープセンターの3名が再びIMarESTの本部に集まった。今回の訪問で、スケジュールと訪問先のアレンジをして下さったIMarESTのMarie Barford女史がその本部のロビーで出迎えてくれた。
 午前、IMarEST本部において、J.P.Kenny社のPaul Jukes博士より会社の事業内容の説明を受けた。Jukes博士はパワーポイントを使用し、カラフルな図を取り入れながら解りやすく説明してくれた。J.P.Kenny社は創業23年目で、それほど歴史の長い会社ではないが、事業内容が実に幅広く、陸上、海上、海底などのオイルとガスの配管事業を中心にマリンエンジニアリングの多面において事業展開されていることに感心した。職員は9千人の規模となっている。配管の構造強度の計算や、流体の圧力損失、抵抗、伝熱などの計算には、独自にソフトウエアを開発されたそうである。私から具体的にどのような商用ソフトを開発されたかを聞くと、「ANSYS」と親切に回答してくれた。
 J.P.Kenny社の講演を聞いてから、IMarEST本部でお世話になった方々と別れの挨拶をして、次の訪問地であるLloyd's Register of Shippingに向かった。途中ロンドンの金融中心地(Bank)を通った。
 Lloyd's Register of ShippingはFenchurch通りにあり、オフィスはブルー色とガラス張りのユニークなビルにあった。すでに周知のように同協会は240年以上の歴史をもち、舶用、エネルギーと輸送、そして管理システムの三つの業務に大きく分かれ、主にコンサルタントと保険業務を展開している。オイル、ガスタンカー部門のNeville Harrison氏が面会してくれた。簡単な紹介と交流を行った。
 昼食を済ませてから、ロンドン市内にあるNobel Denton社を訪れた。当社のRichard J. Palmer氏がその会社の概要と事業内容を説明してくれた。1904年に創業したその会社は、250名のスタッフを有し、海外に12個所の事務所を持っている。海上建築物や海洋工学等の事業を中心としている。Palmer氏の講演には、中国から発注したTai An KouとKan Tan 2Vの例が説明に使用されたことを覚えている。写真2はPalmer氏との記念写真である。
 12月3日の最後の訪問地はSTASCO社である。Strand streetにあるSTASCO社は、入口でのセキュリティーチェックが厳しかった。当社のAlexander Brigden氏よりその会社の事業説明を受けた。そのSTASCO(Shell International Trading and Shipping Company Limited)社はオランダのShellグループの一員であることがはじめて解った。Brigden氏の所属しているShipping Divisionは、LNG及びオイル(原油)タンカーの輸送と管理業務に当たっている。1500名の乗組員が働いているそうである。説明の途中からSTASCO社のOsborne造船技師も加わり、船の安全運航について話をしてくれた。彼は日本の日立造船や三菱重工に長期出張した経験があり、造船業界の多くの日本人を知っており、さらに日本語の名刺まで用意していた。質問と討論の時間に移り、私は、将来のエネルギーについて日本では世界エネルギーネットワーク(WE−NET)という研究開発が行われていることを紹介し、水素もエネルギー輸送媒体の有力な候補であると強調し、STASCO社では、水素のタンカー輸送についてどのようなお考えがあるかと訪ねたところ、まだ考えていないとの回答をいただいた。
 
写真2 左より、清水先生、著者、Palmer氏
 
 
 以上、IMarEST本部及びその紹介で見学したマリンエンジニアリング関連の数社の訪問内容を紹介した。異業種との話で、時々解らないところもあったが、討論を通してこれらの会社の事業内容、規模等を把握することができて、いろんな事柄に接することができて大変収穫があったと思う。
 
*原稿受付 平成15年2月18日
**正会員 神戸商船大学(神戸市東灘区深江南5−1−1)







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