目的
このマニュアルは、「1. 精神障害者像の変化」、「2. 精神障害についての理解」、「3. 社会的差別・偏見への認識」という、三つの評価視点で構成しています。それぞれには、「了解事項」、「一般的なかかわり」、「一般的なリスク」の課題を設け、現実的・具体的視点からそれぞれについて記述しています。
1. 精神障害者像の変化
なぜ、一般的市民は、精神障害者に対して「何をしでかすかわからないから怖い」というマイナスイメージを持ってしまったのでしょう。自分自身のもつイメージと照らし合わせながら、見てください。ぶつぶつ独り言を言って気持ちが悪い、精神障害者が自動車を運転するなんて危ない、何を考えているかわからないといったイメージが変わっていくような、具体的事実を選んでいます。
2. 精神障害についての理解
地域の中で暮らす多くの精神障害者は、身体障害者や視覚障害者等のように、見ただけでわかる障害ではないので、多くの誤解を受けています。本人が辛いときでも、怠けているとか本人の気持ちしだいだと言われ、その言葉に傷つくことの繰り返しです。皆さんが、薬の副作用や長い入院生活による影響など、利用者の生活全体にさまざまな支障があることを理解していただくように、大切な視点、大事なことを選びました。
3. 社会的差別・偏見への認識
多くの精神障害者は、差別・偏見を受けることが怖くて、精神障害者であることを世間に隠して生活しています。精神障害者がいることを家の恥とし、地域の中で孤立している家族はまだ多いのです。
さらには、マスコミが大きな傷害事件を報道するとき、精神病院への入院や通院歴を強調するたびに、多くの精神障害者は自分のことのように辛い思いをしています。それをどれだけの人が知っているでしょう。わたくしたちが知らないことで、知らないところで、多くの精神障害者が差別・偏見を受けている事実や現実について記載しています。
このマニュアルは、ホームヘルパーを対象に行った調査の結果を検討し、更に、精神障害者の生の声を聞き点検した上で作りました。
マニュアルは、誰がサービスを提供しても一定の水準を保つための指針です。ホームヘルパーの皆さんが、実際に精神障害者へのホームヘルプサービスを行う自らの体験を基にして、このマニュアルに独自のものを加えていただきたいと思います。
了解事項
●静かだった人が急に、よくしゃべるようになったり、活動的になることがあります。一般的には、病気が良くなったとか元気になったという印象をもつかも知れません。逆に、急に大声を出したり、暴力的になる人もいます。そうなるには必ず理由があります。
●薬を飲まなくなった時によく起こることです。
すぐそのようなことが起こるか、2・3ヶ月、あるいは1年中断して再発するかは、人によって違います。
●精神病薬を飲むことを忘れがちな人、薬を飲むことに抵抗を感じている人や、自分で勝手に薬を選んで飲む人等、いろいろな人がいます。
●薬を飲み続けることは、誰にとっても大変なことです。何かを契機に薬を飲むのを止めてしまうのは、誰にでも起こることです。
●薬を飲んでいるか、薬についての不信や不満などを持っているかを、さりげなく確認することです。
一般的な関わり
●薬を飲んでいるかを直接何回も聞かれると、誰でも嫌になります。
ホームヘルパーの仕事は、服薬の監視をするためのものではありません。ホームヘルプサービスの中で、さりげなくチェックするかかわりが大切です。
●訪問計画を立てる時に、本人に服薬はどうしているかを確認することが必要です。利用者自身が管理している場合と、家族が管理している場合との違いを押さえておきましょう。
●「薬を飲み続けることは身体に悪いからやめた方がいい」といった、わたくしたちの一般常識から本人へ助言することは必要のないことです。
一般的なリスク
●薬については、利用者担当の医者や看護師もよく確認をします。
同じことをホームヘルパーが問うことで、関係を崩すことも起こり得ます。利用者は医療関係者ではない人としてホームヘルパーを受け入れています。
●利用者が興奮していて、家の中に入ると危険だと感じた時や、サービスを提供できないと思った時は、無理をしないことです。
●興奮していて何もわからないように見えても、その時にホームヘルパーがどんな態度で接したのかを、利用者はよく覚えています。
了解事項
●自分の考えが外へ抜き取られる、隣の人が絶えず自分を見張っているといった、他の人には事実として確認できないような体験を妄想といいます。
●声や音を出しているものが周囲に何も無いのに、声や音が聞こえたりすることを幻聴といいます。
●妄想も幻聴も、その人にとっては今現実に体験していることなのです。
●電話が鳴っていないのに呼び出し音が聞こえた感じがしたり、自分を呼び止める声が聞こえて振り向いたりといったことは、わたくしたちも日常生活の中で時々体験することです。その頻度や内容に違いがあるのです。
●幻聴があることをそのまま受け入れられたことで、自分を痛めつけるような辛い声が励ましの声に変わったり、声や音を聞かなくなったり気にしなくなることもあります。
一般的な関わり
●妄想・幻聴の話を受けたときは、「聞こえるわけが無いでしょう」とか、「見えるわけが無いでしょう」といった否定はしないでください。まずは本人の話を聞きましょう。
●話を聞いて、辛そうだと感じたら、「大変ですね」というように感じたままを伝えることが大切です。きちんと聞いてもらえたことは本人に伝わります。
●関わりに困った時は、必ずコーディネーターに伝え、主治医も含めたケース検討会を持つように働きかけることが必要です。
一般的なリスク
●幻聴・妄想の中にホームヘルパーさんのことが入ってきて、「あなたが○○と言った」とか、「あなたが○○をする」と身に覚えのないことを言われることもあります。
●ものに触るなとか部屋に入るな等、ホームヘルプサービスに支障がでてくることもあります。
●ものやお金の紛失といった、人間関係に誤解を生むことも出てきます。
了解事項
●精神障害者の多くの方は、車の免許を持ち、普段の生活の中で車を利用しています。
●精神障害者が社会参加をしていくためには、いろいろな資格や免許を取得する機会のあることは、わたくしたちと同じように尊重されなければなりません。
●これまで、精神障害者が資格や免許をとることは、法律で禁じられていました。こうした精神障害を理由とする欠格条項は見直され、絶対に取得してはいけないものはなくなりました。
●資格や免許を取ることで、それを生かして就職の条件を広げることができます。それはまた、精神障害者である自分が社会的に承認をされたという自信にもつながります。
●精神障害者がホームヘルパーの資格をとることで、精神障害者に対するサービスの内容が変わります。それは、より精神障害者のニーズに近いサービスとなることが考えられるからです。
一般的な関わり
●資格や免許を取るといった何かに打ち込もうとする際、精神障害者はがんばりすぎて自分のペースを乱してしまいがちです。「がんばってね」という励ましのことばは、逆に利用者を追い込むことになるので気をつけましょう。
●自分が、ヘルパーの資格をとったときの体験を情報提供することは、利用者にとって参考になります。楽に資格や免許は取得できるものではないことを共有することが大切です。
●資格や免許は、人としての価値を高めるものではなく、その必要性のある人がとるものです。周囲の影響で資格や免許を取得しようと焦る人も出てきます。そのことをきちんと受け止めた関係作りが大切です。
一般的なリスク
●資格や免許取得に失敗したときは、そのことで調子を大きく崩すことがあります。
●資格や免許を取得したことで、性急に仕事につこうと焦る人もいます。
仕事に就くことは、別の問題です。
●資格や免許を周囲が持っているといったことの影響を受けて、利用者がそれに巻き込まれることがあります。その結果、ホームヘルパーが巻き込まれることが出てきます。
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