図3 スポンジテニスの運動風景(ボレー)ラケットにボールが当たる際に足を1歩踏み出している点に注目
図4 スポンジテニスの運動風景(ラリー)
4. 運動の実際
(1)ラケットの握り方
ラケットの握り方は、図2に示したように包丁の握り方に似ている。このため、「包丁握り」という名称で呼ぶことにより、高齢者が自然にラケットの握り方を習得できる。
(2)ボレー
テニス動作の中には、飛んできたボールをノーバウンドで打ち返すボレーというものがある(図3)。ボールがラケットに当たるのと同時に足を一歩前に踏み出すという動作である。左右に飛んできたボールに対し、しっかりと足を一歩踏み出し、バランスをとることを目標としている。
(3)ラリー
ラリーは、対人で、あるいは壁などを使ってボールの打ち合いをする動作である(図4)。ボールを前後左右に移動しながら打ち合うことにより、上半身および下半身の動きの協調性やバランス能力の向上を目標としている。
(4)指導内容と流れ
転倒予防のための効果的なバランス訓練について、Whipple6)は(1)自己の体重が十分にかかるトレーニングであること、(2)水平方向への素早い移動があり、合わせて身体の各セグメントの相互作用があるトレーニング、(3)垂直方向への振幅を伴うトレーニングであるとしている。スポンジテニスには上記のバランス能力を向上させるトレーニングが含まれており、転倒予防に効果を発揮する運動であると考えられる。
指導内容は、まずラケットの握り方を説明し、ボールに慣れさせるということもふまえて、ボレーから開始する。ボレーを行うことにより、高齢者の上半身・下半身のバランス能力を知ることができる。続いて、様々の方向に移動してバランス能力の向上を図るラリーへと移行していく。指導者は、高齢者の顔色・息遣い等に十分注意して指導を行う。なお、ボレーを行った結果、転倒をする危険性があると判断された高齢者に対しては、事故防止のためにもラリーは行わず、スポンジボールを使ったキャッチボール程度にとどめておくことが望ましいと考えられる。
5. 高齢者の転倒予防への効果・期待
スポンジテニスは、軽いラケット・スポンジ製のボールを使用するため、非力な高齢者でも容易にラケットを振ることが可能である。また、打球時に腕にかかる衝撃がほとんど生じないため、障害発生の危険性も極めて少ない。
高齢者がバランスを崩しそうになった際、様々な方向に足を一歩踏み出すことができること、つまり、ステッピング動作を維持・向上させることができれば、転倒の予防に大きな貢献をすると考えられる。スポンジテニスの動作の中には、「足を一歩踏み出す動作」、「ボールを打ち返しながら身体のバランスをとる」といった動作が含まれており、楽しみながら自然にバランス能力の維持・向上を図ることができると考えられる。
また、ボールを打つ動作を繰り返すことにより、上半身・下半身の動きの協調性や筋力・骨密度の維持への期待も挙げられる。
6. スポンジテニスを行う際の注意点
スポンジテニスは全身運動であるため、あらゆる方向に移動し、ボールを打つことになる。そのため、(1)転倒をしないよう身体のバランスをしっかりとる。(2)ボールを追いかけることに夢中になりすぎない。(3)決して無理をしない。といった注意・配慮が高齢者自身および指導者に必要である。
高齢者の体調は日々の変動が大きいことから7)、また、運動強度が増加すると若年者とは違い、血圧を上昇させてその運動に対応することから、高齢者自身および指導者が十分な注意を払う必要があると考えられる。
7. おわりに
高齢者の転倒を予防する運動プログラムとして、スポンジテニスを紹介した。スポンジテニスを無理なく・楽しく・継続して行うことにより、高齢者の転倒予防は勿論のこと、仲間作りや身体を動かすことの楽しさを知り、生きがいへと結びつくことを期待したい。
●付記
本研究は、次の事業助成の一部を受けて行われた。
(財)日本財団 2001年度社会福祉事業助成「ケアポートを核とした元気むらづくり事業」、組織:社会福祉法人みまき福祉会 身体教育医学研究所
●参考および引用文献
1)上岡洋晴, 武藤芳照, 太田美穂ほか:健脚度を用いた在宅高齢者の転倒スクリーニング, 身体教育医学研究, 2(1):2−7, 2001.
2)上岡洋晴ほか:高齢者の転倒・転落事故に関する事例研究, 東京大学大学院身体教育医学研究科紀要, 38:441−449, 1999.
3) Grennspan SL et al. :Fall direction, bone mineral density, and function; Risk factors for hip fracture in frail nursing home elderly. Am J Med, 104:539-545, 1998.
4)上岡洋晴, 武藤芳照:転倒の病態整理, 理学療法, 17(11):1042−1047, 2000.
5)英国テニス協会:ショートテニス特集, 月間テニスジャーナル, pp.95−107, 1987.
6) Wipple RH: Improving balance in older adults: Identifying the significant training stimuli. Evaluating the older person who falls. Lippincott Raven, NewYork, 355-379, 1997.
7)岡田真平, 太田美穂, 武藤芳照ほか:転倒予防のための運動指導. 体育の科学, 51(12):935−940, 2001.
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