3. 結果
研究1:転倒における症例とその医療費及び自己負担額
大腿骨頸部骨折において、人工骨頭置換術を要した症例では、診療集計(医療費総額)が253,718点(2,537,180円)、患者自身の自己負担額が225,600円だった(表1)。一方、骨接合術を施行した症例では、それぞれ174,349点(1,743,490円)、111,600円だった(表2)。ともに入院は70日程度だった。
脊椎圧迫骨折の症例は、3例でいずれも手術は要しなかった(表3〜5)。サンプルCでは、診療集計(医療費総額)が67,150点(671,500円)、自己負担額45,600円、入院38日間だった。サンプルDは、それぞれ74,163点(741,630円)、49,200円、41日間だった。サンプルEは、それぞれ76,531点(765,310円)、48,000円、40日間だった。
サンプルFは、上腕骨骨折の重傷例で、手術、そして65日間の入院を要した(表6)。診療集計(医療費総額)は、224,263点(2,242,630円)、自己負担額は94,910円だった。
サンプルGは、橈骨骨折で手術・入院は要せず、通院は計8日間だった(表7)。診療集計(医療費総額)が6,926点(69,260円)、自己負担額が6,926円だった。
表8は、手術の有無及び入院・通院日数で調整した医療費である。入院患者で手術を実施した群では、診療集計が最小174,349点から最大253,718点と高得点であり、一方、入院患者で手術を行わなかった群では、最小67,150点から最大76,531点と前者に比べて低い得点だった。
さらに、入院日数で診療集計を補正すると、手術群(有)は2,421−3,573点/日、非手術群(無)は1,767−1,913点/日と、それぞれの群間における差が大きいことが明確となり、手術の有無が医療費に大きく影響を及ぼしていることが明らかになった。
しかし、入院日数で自己負担額を補正した場合、比較的高額の手術を必要としたサンプルAを除いて、サンプルB−Fの差は最小1,200円/日、最大1,550円と縮まった。とくに、非手術群であるサンプルC、D、Eにおいては、一律1,200円/日だった。
表1 診療報酬明細:サンプルA 女性 75歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
250 |
4,550 |
4,606 |
364 |
115,919 |
4,889 |
4,725 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
2,000 |
18,380 |
98,035 |
253,718点 |
225,600円 |
[注]平成12年10月19日に転倒、左大腿骨頸部内側骨折 |
左人工骨頭置換術、入院71日間、同年12月28日退院 |
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表2 診療報酬明細:サンプルB 女性 84歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
500(休日) |
3,294 |
3,758 |
333 |
36,804 |
4,311 |
2,389 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
1,150 |
22,520 |
99,290 |
174,349点 |
111,600円 |
[注]平成13年6月17日に転倒、左大腿骨頸部骨折 |
左大腿骨骨接合術、入院72日間、同年8月27日退院 |
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表3 診療報酬明細:サンプルC 男性 79歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
250 |
297 |
875 |
− |
1,100 |
1,566 |
7,803 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
600 |
− |
54,659 |
67,150点 |
45,600円 |
[注]平成12年1月6日に転倒、胸椎圧迫骨折 |
入院38日間、同年2月12日退院 |
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表4 診療報酬明細:サンプルD 女性 84歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
250 |
2,380 |
1,156 |
− |
− |
2,724 |
8147 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
1,280 |
− |
58,226 |
74,163点 |
49,200円 |
[注]平成12年12月24日に転倒、腰椎圧迫骨折 |
入院41日間、平成13年2月2日退院 |
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表5 診療報酬明細:サンプルE 男性 70歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
290 |
2,380 |
1,375 |
− |
3,500 |
2,483 |
2,959 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
2,040 |
5,000 |
56,504 |
76,531点 |
48,000円 |
[注]平成11年11月9日に転倒、腰椎圧迫骨折 |
入院40日間、同年12月18日退院 |
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表6 診療報酬明細:サンプルF 男性 71歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
250 |
4,197 |
3,490 |
497 |
112,360 |
11,200 |
4,210 |
指導料 |
その他 |
入院料 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
1,650 |
5,310 |
81,099 |
224,263点 |
94,910円 |
[注]平成13年5月11日に転倒、右上腕骨外科頚粉砕骨折 |
入院65日間、同年7月14日退院 |
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表7 診療報酬明細:サンプルG 女性 74歳(受傷時)
初診料 |
投薬料 |
注射料 |
処置料 |
手術麻酔料 |
検査料 |
画像診断料 |
290 |
296* |
− |
− |
3,840 |
− |
1,767 |
指導料 |
老人外来診療料 |
その他 |
診療集計(請求点) |
自己負担額 |
− |
490 |
243 |
6,926点 |
6,926円* |
[注]平成13年5月17日に転倒、右橈骨遠位端骨折、通院8日 |
*外来のため院外薬局による薬剤料である。 |
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表8 手術の有無及び入院・通院日数で補正した医療費
サンプル |
入院日数 |
手術の有無 |
診療集計 |
診療集計/日 |
自己負担額 |
自己負担額/日 |
A |
71 |
有 |
253,718点 |
3,573点 |
225,600円 |
3,177円 |
B |
72 |
有 |
174,349点 |
2,421点 |
111,600円 |
1,550円 |
F |
65 |
有 |
224,263点 |
3,450点 |
94,910円 |
1,460円 |
C |
38 |
無 |
67,150点 |
1,767点 |
45,600円 |
1,200円 |
D |
41 |
無 |
74,163点 |
1,809点 |
49,200円 |
1,200円 |
E |
40 |
無 |
76,531点 |
1,913点 |
48,000円 |
1,200円 |
G |
0(通院8日) |
無 |
6,926点 |
866点 |
6,926円 |
866円 |
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表9 転倒と傷害の状況
N=21 |
性 |
転倒場所 |
転倒原因 |
主な傷害* |
男性2(9.5%) |
屋内10(47.6%) |
滑った |
9(42.9%) |
骨折 |
12(57.3%) |
女性19(90.5%) |
屋外11(52.4%) |
ふらついた |
6(28.6%) |
打撲 |
7(33.3%) |
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躓いた |
5(23.8%) |
脱臼 |
1(4.7%) |
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不明 |
1(4.7%) |
切創 |
1(4.7%) |
年齢 平均値73.1歳 標準偏差5.2歳 最小値−最大値64〜88歳 |
[注]*転倒時に複数の傷害がある場合は、最も重い傷害を記載した。 |
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