●原著
北京における在宅高齢者の移動能力及びバランス能力と生活特性との関連
The Association between Socioeconomic Characteristics
and Mobility of the Elderly
侯 a |
上岡 洋晴b |
武藤 芳照a |
Wen HOUa |
Hiroharu KAMIOKAb |
Yoshiteru MUTOHa |
a 東京大学大学院身体教育学講座 b 身体教育医学研究所
a Department of Physical and Health Education, Graduate School of Education, The University of Tokyo
b Laboratory of Physical Education and Medicine
Abstract
This study aimed to identify the association between socioeconomic characteristics and mobility among the community-dwelling elderly in Beijing.
The samples were 468 community-dwelling independent persons 60 years of age or older living in Xicheng, Beijing.(117 males and 351 females. Age:70 ± 7, range 60-88) We measured physical parameters mobility and asked about their socioeconomic characteristics using questionnaire. The physical parameters included height, weight, body mass index, and leg length. Moving abilities were determined by Good Walker's Index (Kenkyakudo) that comprised 10 meter walking time, maximum length of a step, and 40 cm-staircase steps. Balance ability was measured by tandem gait. Socioeconomic characteristics we measured included monthly income, past occupation, and family structure. We also asked co-morbid diseases.
We found a significant negative correlation between the age and the mobility. Males in the highest income group with a monthly income of more than 1,700 Chinese dollars had in average larger body mass index and longer 10m walking time than the males in the other groups (p<0.05) . Females with a monthly income of 300 Chinese dollars or less did worse in 40 cm-staircase stepping (p<0.05) and tandem gait (p<0.05) . In addition, we found that the past occupation in female has a significant association with maximum length of a stepping, 40cm-staircase step, and tandem gait. Both the group of high-level white-collar workers with high income and the group of the low-income unemployed had lower ability in these measures when compared to other group.
We consider that an appropriate physical education will be necessary that takes into account the difference of socioeconomic characteristics in China.
●代表者連絡先: |
〒113−0033 東京都文京区本郷7−3−1 |
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東京大学大学院教育研究科身体教育学講座 侯  |
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TEL 03−5841−2798 E−mail kou@educhan.p.u-tokyo.ac.jp |
Key Words: |
Elderly, Good Walker's Index, Balance Ability, Monthly Income, Occupation |
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高齢者、健脚度、バランス能力、月収、職業 |
1. はじめに
中国でも高齢化が進んでいる。とくに北京や上海のような大都市では、「一人子政策」の徹底化により、若年層の比率が低くなる一方で、高齢者層がますます増大しつつある。これからの高齢社会では、いかにして「健康で自立した生活を営むことのできる高齢者(healthy aging)」1)を増やすことができるかが大きな課題である。
北京在住の55歳以上の中高年を対象とし、身体機能の低下と死亡率との関連についての縦断的に調べた研究2)によると、「下肢筋力の低下は、高齢者の健康から自立生活不能へ移行する中間段階であり、より衰弱になることを示す重要な予測因子になる」と報告している。
日常生活動作(ADL)の中で、移動能力は最も大切な能力のひとつである。移動能力とその遂行に必要なバランス能力が衰えると、転倒事故も起こりやすく、転倒に伴う骨折などの傷害が、高齢者の健康やQOLに悪影響を及ぼしうることが知られている。
社会生活における自立と転倒予防に繋がる高齢者の移動能力とバランス能力の評価は重要であり、「加齢に伴い、ヒトのからだは形態的にも機能的にも変化し、構造的・生理学的に減衰していく。その変化の50%は、不活動によるものである。」3)という指摘もある。
近年、北京においても貧富の差が大きくなってきており、そうした収入や生活環境により日常生活の過ごし方、つまり身体活動量にも大きな差が生じていると考えられる。
そこで、本研究は北京に在住し、自立生活を営む高齢者(60歳以上)の移動能力及びバランス能力と生活特性との関連を明らかにすることを目的とした。
2. 研究の方法
1)調査対象
北京市老年スポーツ協会の協力を得て、中国北京市西城区Y街道在住、B住民委員会とM住民委員会(住民数3028、高齢者人口比率24.33%)に属する60歳以上かつ自立生活を送っている在宅高齢者に対して、本測定・調査の主旨、内容、測定の結果の取り扱いなどについて説明を行った。その中から測定・調査を受けることに同意を得た507名を対象に、測定・調査を実施した。さらにその中から杖なしで歩行ができる468名(男性117名、女性351名)を分析の対象とした。分析対象の年齢は平均70.0±7.0(60〜88)歳であった。
2)測定内容
(1)形態計測:身長、体重、BMI、下肢長(上前腸骨棘から内踝まで)
(2)移動能力の測定―健脚度4):高価な機器や設備の必要がなく、簡便で、高齢者にも理解しやすい測定・評価法である。「歩く、またぐ、昇って降りる」という誰もが行う日常生活の移動動作を想定している。それぞれ「10m全力歩行」、「最大1歩幅」、「40cm踏台昇降」の3項目から構成されている。
a. 10m全力歩行:直線14mの距離(加速のためスタート前に2m、スピードを維持させるためゴール後2mの予備区間を設けておく)を最大努力で速く歩いてもらい、中間の10mを歩く時間を測定した。
b. 最大1歩幅:両脚をそろえた状態から最も大きく片方の脚を踏み出し、反対側の脚をその横にそろえる。その最大距離を測定する。右脚の踏み出し、左脚の踏み出しともに測定する。左右の測定値の平均を下肢長で割って百分率で表示した。
c. 40cm踏台昇降:高さ40cmのステップ台を手すりなしで昇り、一旦台上で両脚をそろえて直立、のちに反対側に安全、着実に降りることができるかどうかを判定する。評価としては、1. 楽に昇降できる、2. 着地でふらつく、あるいは膝に手をあてればなんとか昇降できる、3. 全く昇降できないの3段階とした。
(3)バランス能力(動的)―つぎ足歩行5):直立姿勢から一方の足のつま先にもう一方の足のかかと(どちらの足からでもよい)をつける。こうした動作を左右交互に行い前進する。評価としては、1. 4歩まで確実に歩行できる、2. 途中でよろけてしまう、3. つぎ足姿勢自体がとれないの3段階とした。
健脚度、つぎ足歩行ともに、1回以上の練習を行い、被検者が測定方法を完全に理解してから測定した。
測定は北京老年体育協会から紹介を受けた看護婦2名、体育教員8名が担当し、2000年5月に住民活動センターで実施した。
3)調査内容
すべての測定対象に対し、個人の基本属性を質問票を用いて調査した。調査項目は、退職前の職業(高級管理職、一般管理職、エンジニア、医師・弁護士・教員、企業労働者、サービス業、無職)、家族構成(一人、夫妻のみ、子と同居、子孫と同居)、月収(300元以下、301−1000元、1001−1700元、1701元以上)、持病であった。
4)分析方法
移動能力及びバランス能力の測定結果に対して、性、年代別に基本的統計量算出やクロス集計を行った。各項目と年齢及びBMIとは、ピアソン及びスピアマンの相関係数を算出した。
移動能力及びバランス能力と基本属性との関連の分析には、10m全力歩行、下肢長補正後最大1歩幅を従属変数にし、基本属性の変数である職業、家族構成、月収、持病を因子として、男女別4元配置の分散分析を行った。移動能力の順序尺度である40cm踏台昇降とつぎ足歩行のそれぞれに対して、基本属性4因子をそれぞれ説明変数として、Kruskal−Wallis検定を行った。
統計解析にはSPSS 10.0J for Windowsを用いた。
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