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3−3 ネットワークの構築に向けた課題
 今回の提案は、主にネットワークの必要性やコンセプトを中心にとりまとめたものであり、今後、実現に向けて技術的な面も含めた詳細検討を行う必要がある。特に、以下の点については、関係機関の意見を聴取しながら今後議論を深めるべきであると考えられる。
 
(1)システムの運用・管理
 海洋管理ネットワークシステムは、単独の組織によって運用されるものではなく、関係する省庁や関係組織が連携して運用するものであり、それゆえ、システムの運用においては関係機関の調整やデータの管理等を行う組織・施設が不可欠である。
 一方で、海洋データの収集から地震観測、船舶の監視まで含む海洋管理ネットワークシステムは、単なる200海里水域の海洋管理を目的としたものではなく、広い意味でわが国の安全・防災を担保する基幹システムと位置づけることもできる。
 したがって、鉄道の運行状況を管理する輸送指令室や、道路の交通量等の情報管理を行う交通情報センター、さらには政府の緊急対応の場となる首相官邸の危機管理センターなどを参考として、海洋管理ネットワークシステム全体の運用状況を把握するための管制室の設置等を検討することが必要である。
 
(2)データの収集・管理
 上記のシステムの運用・管理とも関連するが、海洋管理ネットワークシステムによって得られるデータは、「海洋を知る」ための基礎的なデータとして関係機関で活用されるほか、海上にある船舶の安全航行や、外国人漁船による不法操業の監視・取締、さらには不審船の監視・追跡等、様々な用途に利用される。
 このようなデータを収集・管理するためには、現在の気象庁、JODC等によるデータ管理体制で対応することは困難で、JODCの組織・機能を強化することやデータ管理業務を支援する海洋情報研究センター(MIRC)や漁業情報サービスセンター(JAFIC)等の民間組織を活用・育成することも必要であり、早急にわが国のデータポリシーを検討することが望まれる。
 
(3)技術開発体制の再構築
 「海洋を知る」技術は未だ発展途上といえるが、その開発は国立研究所や独立行政法人等の公的な試験研究機関が中心となり、海洋開発産業がその周辺に張り付いて行なわれている。つまり、従来の海洋開発産業はどちらかといえば公共事業依存型であり、技術シーズの発掘等には必ずしも積極的ではなかったといえる。今後は、民間事業者がその役割を正しく認識し、自ら海洋管理に資する技術開発を行い、国や関係機関に積極的にアプローチしながら、わが国の海洋管理に資する技術開発体制を構築することが必要である。
 他方、わが国では防衛関係とそれ以外の技術開発が明確に分割されており、技術・情報・人材等の交流がほとんど行なわれていない。これは、国費が効率的に運用されていないことを示すものでもある。欧米では、特に米ソの冷戦体制崩壊以降、軍事技術の民需転用が急速に進み、海洋部門でも軍関係の試験研究機関が技術開発の発展に大きく貢献している。
 今後は、海洋開発部門と防衛部門の交流、連携を促進し、国費を海洋関連の技術開発に効率的に投資することを目指す必要がある。
 
(4)維持管理システムの検討
 広大なEEZおよび大陸棚をカバーするネットワークシステムを長期にわたって運用するためには、システムの検査、補修、資材補給、保管、観測機器の較正、交換などの維持管理がきわめて重要になる。本報告書でとりあげた海底ケーブルシステムは、ROV等を利用した観測機器の設置・追加・回収等が可能であるため、従来の使い捨て型の観測機器に比べれば格段進歩しているが、それでも維持管理が重要であることに変わりはない。
 特に、海洋観測ではその観測目的ごとに機器の仕様が異なる場合が多く、システムの利用目的が多岐にわたる場合には、使用する機器・部品の管理データベース、故障・事故等のデータベース、修理記録等のデータベースを整備することが重要である。
 また、海洋・海中で利用する施設・機器に不可欠な生物付着対策や腐食対策などもあわせて、これらはいわゆるネットワークシステムのロジスティクスであり、概念設計段階から十分に配慮し、ネットワークシステムの運用に係る最重要課題であることを認識することが必要である。
 
(5)財源の確保とアウトリーチ
 海洋管理ネットワークシステムの構築には、多大な時間と莫大な予算が必要となることは明らかであるが(どの程度の費用が必要となるか概算で見積もることも必要であるが)、その役割を考えれば、長期的な展望のもと、これを確実に一歩一歩進めていくことが必要である。
 そのためには、財政当局の理解を得ることはもちろんのこと、納税者である国民の理解を得ることが何より重要である。
 本提言における海洋管理ネットワークシステムが、200海里水域におけるわが国の主権的権利だけではなく、国民の生命と財産を守る重要な社会基盤であることを啓発し、その重要性を広く国民に投げかける努力を払うことが不可欠である。
 したがって、海洋管理の重要性やその基盤となるネットワークシステムの必要性を、国民に対して発信するためのアウトリーチにも、人材と予算を投入することが必要である。







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