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はじめに
 本報告書は、社団法人海洋産業研究会が実施した「わが国200海里水域の海洋管理ネットワーク構築に関する研究」事業の成果をとりまとめたものである。
 本事業の契機となったのは、平成12年6月に公表された経団連意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」である。これは、わが国の200海里水域を7つの海域に区分して洋上基地ネットワークを国家プロジェクトとして順次整備すべきであると提案する内容であった。この提言は、折からの省庁再編期と重なったこと、そもそも200海里水域の開発・利用・保全にわたる海洋政策の不備を指摘する声があがっていたことなどから、産業界を中心に関係方面の注目を集めたが、行政の関心を喚起するところまでは至らなかった。
 そこで、海洋管理の対象範囲や理念から議論を掘り起こし、包括的な海洋管理のあり方を検討することを目的として、平成13年度に日本財団のご支援により本事業を立ち上げたものである。
 今年度は、200海里水域における行政的海洋管理の実情を把握することを第一の重点に据え、行政当局から直接海洋政策の現状を提示していただき、関係省庁の取り組みを網羅的にとりまとめた。
 重点の第二は、海洋管理とは何かという基本的課題を洗い直し、200海里水域およびそれを越える大陸棚については基本的に国の管理責任の範囲であることを明示し上で、海洋管理のあり方について検討を行なった。
 第三には、海洋管理ネットワークの構築について、本土・離島間の空間的ネットワークあるいはハードのネットワークにとどまらず、組織と情報等ソフトのネットワークについて、そのあり方の検討に取り組んだ。
 本事業は、本年度で区切りとなるが、海洋管理のあり方については、行政機構のあり方に始まって、管理政策の策定、その履行と責任体制の整備等の多重かつ多様な側面を統括したものでなくてはならない。その点、平成14年5月に出された日本財団の政策提言をフォローする動きも準備されているとのことであり、そうした検討の場において本事業の成果が参考として有効活用されれば望外の喜びである。
 最後に、本事業を主導いただいた酒匂敏次委員長をはじめ、熱心かつ充実した討議に参画いただいた各委員や関係者の方々、作業にご協力をいただいた財団法人シップ・アンド・オーシャン財団をはじめとする関係者の皆様方に、改めて深く感謝の意を表するものである。
平成15年5月
社団法人 海洋産業研究会
 
 
1. 研究の背景
○国連海洋法条約の批准・発効
○中国・韓国における海洋政策の進展
○経団連意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」の公表
○日本財団「海洋と日本 21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」の公表
○科学技術・学術審議会答申の公表
 
(1)国連海洋法条約の批准・発効
 平成8年(1996年)6月7日に国連海洋法条約を批准したわが国は、約447万平方キロメートルという世界第6位の広大な排他的経済水域を有することとなった。政府は、新たな海洋秩序に対応すべく「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」等4法の施行、ならびに「領海及び接続水域に関する法律」「海上保安庁法」等の一部改正を行ったが、一部を除いて排他的経済水域内の具体的な開発や管理の内容が定められていない。
 
(2)中国・韓国における海洋政策の進展
 一方で、わが国と排他的経済水域を接する中国や韓国は、それぞれ"China Ocean Agenda"(1997)、"Ocean Korea 21"(1999)を発表し、排他的経済水域および大陸棚に係る海洋政策の立案・実行に向けた準備を着々と整えていることが明らかになっている。このような動きを受け、関係者の間からはわが国の総合的な海洋政策の立案を望む声が以前にも増して聞こえるようになり、産業界においても海洋政策にかかわる様々な動きがみられるようになった。
 
(3)経団連意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」の公表
 まず、平成12年(2000年)6月に、経済団体連合会が『21世紀の海洋のグランドデザイン −わが国200海里水域における海洋開発ネットワークの構築−』と題する意見書を公表した。この意見書は、当初経団連内に設置されている海洋開発推進委員会の場で検討され、同委員会の意見書として公表される予定であったが、その重要性から経団連の意見書としてプレスリリースされた。その内容は、世界第6位の面積を誇る排他的経済水域を第二の国土と位置づけ、「200海里の海を豊かにすること」を基本方針とした上で、わが国の排他的経済水域を7つの海域に区分し、それぞれの海域の特性に応じて洋上基地を整備すること、そのうちのひとつについてパイロットプロジェクトを実施することなどを提言したものであった。
 
(4)日本財団「海洋と日本 21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」の公表
 その後、平成14年5月には、日本財団が「海洋と日本 21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」と題する提言書を公表した。この提言書は、同財団内に設置された「海洋管理研究会」(委員長:栗林忠男慶応義塾大学法学部教授〔当時〕)において議論された内容、および平成13年末に実施された「海洋政策に関するアンケート調査」の結果をもとにとりまとめられたものであった。
 その内容は、「総合的な海洋政策の策定」や「海洋政策策定、実行のための行政機構の整備」、「排他的経済水域および大陸棚の総合的管理の具体化」など、本事業における議論の参考となるものであった。
 
(5)科学技術・学術審議会答申の公表
 このような状況のもと、平成14年8月に科学技術・学術審議会答申「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について −21世紀初頭における日本の海洋政策−」が発表された。同答申では、国連海洋法条約ははじめとした国際的な枠組みに基づくわが国の主権と義務を認識し、海洋政策に反映させることが国益の確保および国際貢献のために重要であるとうたわれているが、その具体策については十分踏み込んで記述されていないのが実情である。
 
2. 研究目的
 本事業は、わが国の排他的経済水域および大陸棚における海洋管理のあり方を検討するとともに、200海里水域における管理のための基盤となる海洋管理ネットワークシステムを検討することを目標として、以下の調査研究を行った。
―関係省庁における排他的経済水域および大陸棚の管理に係る海洋政策を把握し、その課題を明らかにする。
―わが国排他的経済水域および大陸棚の管理に係る海洋政策のあり方について検討する。
―排他的経済水域および大陸棚の管理基盤となる海洋管理ネットワークシステムの概略検討を行う。
―わが国海洋管理の必要性等について啓発普及を図るための提言を小冊子にとりまとめる。
 
3. 検討内容
(1)わが国海洋管理施策と現状
 関係官庁に対して現状調査(ヒアリングおよび文書による調査)を行い、排他的経済水域および大陸棚の管理に係る所掌事務、関連施策等の現状および今後の展開等についてとりまとめた。
(2)わが国海洋管理のあり方に関する検討
 上記結果および委員会等における学識経験者の議論をもとに、わが国の海洋管理のあり方を検討するとともに、排他的経済水域および大陸棚に係る海洋管理の理念・基本方針・体制等を討議・検討した。
(3)海洋管理ネットワークシステムの検討
 上記結果を踏まえ、海洋管理の基盤となる海洋管理ネットワークシステムの必要性とコンセプトを明らかにし、わが国の排他的経済水域および大陸棚の管理に必要となる海洋モニタリングシステムの機能、海洋管理ネットワークシステムの概略検討を行なった。
 
4. 検討体制
 海洋政策および海洋の利用・開発・保全等に係る学識経験者で構成する研究委員会を組織し、上記検討内容に関する議論、報告書案の審議等を行なった。また、海洋管理のあり方については、委員会のもとに小委員会を設置し、関連分野の専門家に話題提供を受けて検討を行なった。
 なお、具体的な検討作業は、財団法人シップ・アンド・オーシャン財団の協力を得て事務局内に設置したワーキンググループにおいて行なった。
 
〔研究委員会〕(敬称略)
委員長 酒匂 敏次 東海大学海洋学部教授
委員 小野征一郎 近畿大学農学部教授
木下 肇 海洋科学技術センター理事
栗林 忠男 東洋英和女学院大学国際社会学部教授
竹内 倶佳 電気通信大学名誉教授
寺島 紘士 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所所長
徳山 英一 東京大学海洋研究所教授
永田 豊 財団法人日本水路協会海洋情報研究センター技術顧問
前田 久明 日本大学理工学部教授
松田  鹿児島大学水産学部教授
 
〔小委員会話題提供者〕(敬称略)
工藤 栄介 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団常務理事
谷 伸 海上保安庁海洋情報部大陸棚調査室長
友永 幸讓 海上災害防止センター理事
馬場 治 東京水産大学資源管理学科助教授
真山 全 防衛大学校教授
 
※用語について
 本報告書では、特に断りのない限り以下のような表記法とする。
 
○排他的経済水域
 排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)は原則として「EEZ」と表記する。ただし、引用部分において原文で「排他的経済水域」や「200海里EEZ」等の表現が用いられている場合は、原文の表記法を用いる。また、法律の正式名称はそのまま表記する。
 
○関係省庁・関係府省
 原則として「関係省庁」と表記するが、引用部分において原文で「関係府省」という表現が用いられている場合は、原文の表記法を用いる。







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