ジャイルズ・リーバ(在日英国大使館政治部一等書記官) イギリス大使館の政治部のリーバと申します。
議長、今のリクエストにこたえまして、アジア以外の人間としてコメントさせていただきたいと思います。
何度かこのディスカッションにおきまして、ヨーロッパの経験とか、あるいはまたヨーロッパの地域統合の観点ということについて話が出たんですが、現在のところ、別にこの2つの地域の状況を比較はできないと思います。全く比較できないと思います。欧州の統合はまだまだ初期段階ですが、同じような価値観、政治、経済的な特徴の同じ国、市場主義とか、あるいは民主主義とか、あるいは宗教的にも近いような国、あるいはキリスト教的な民主的な伝統の国々を持っています。しかし、東アジアの場合は、さまざまな政治体制がある。それからまた経済体制も異なる。また、宗教的な違いもある。仏教国もあればイスラム諸国もある。あるいはキリスト教国もある。それに対して日本の神道も存在しております。
ですから、モデルとか、東アジアの地域主義、あるいはまた地域統合の可能性ということになりますと、やはり現実的に現時点での限界は何かということを考える必要があると思います。ただ、今後の地域の繁栄とか安定性というのは、やはり経済によるところがかなり多い。また、少しは政治や、安全保障、また相互依存性にも関わるし、中国がどんどん地域構造に対し、ここ10年ぐらい関与を深めてきているということも考えますと、いろいろなシステムの限度もあることながら、やはり可能性も大きい。東南アジア諸国は、5、6年前は、まだまだ中国の挙動や動機についていろいろな懸念や疑問を持っておりました。これがここのところは大分減ってきております。中国が国際的な、また地域的な機構に対し関与をどんどん増やしてきているからです。
ですから、こういう可能性がある中で私が申し上げたいコメントは、日本もまた主導的、あるいは積極的な役割をこの統合のプロセスにおいて果たすべきだと思います。その理由は日本自身の利害もかなり統合化、相互依存にかかわっているからです。特に、経済的な繁栄の享受に関わっております。単に中国がやることに反応して何かやるというよりも、中国がWTOに入って、日本も中国もアセアンと包括的な経済連携にあるという形でライバル化すると、これは統合のプロセスではありません。大国外交の継続ということになります。他の方法を使っての大国外交の継続ということになります。
こういう中で日本における問題はまだ世論が十分盛り上がっていないことだと思うんですけれども、日本は本当に積極的な統合派としての政策を追求すべきということになっていないと思います。まだまだ経済的な統合がいいかどうか議論がなされている段階です。例えば日本の海外投資を見てみますと、産業空洞化の問題が結局すぐに表面化してしまうという状況があります。ですから、外国人からしますと、日本はもっと積極的な役割をこの問題に対してとるべきではないか、そして日本国民に対して、地域、経済統合のメリット、また政治統合のメリットについて説明すべきではないかと思います。
また、最後に申し上げたいのは、イギリスも日本と同じように島国で、安全保障上の関係をアメリカと持っている。欧州統合の経験から言いますと、よく我々はアメリカと同盟関係をもって大西洋に目を向けるか、あるいはまたEUの積極的なメンバーになるべきかという、そういうチョイスがあるわけですけれども、そういう白か黒かということではないのですが、歴史を見てみますと、アメリカというのは積極的に最初から、イギリスは積極的な役割をヨーロッパのプロジェクト、あるいはまた統合において果たすべきだと考えておりました。理由はどうあれ、イギリスはそうしてこなかったと。それを今、イギリスは反省しているわけです。ですから、イギリスの経験からして、これは地域統合か、あるいはアメリカとの同盟の二者択一かということではないわけです。両方とも進められると思います。
アメリカの同僚もいらっしゃるわけですけれども、アメリカもおそらくは日本が積極的な役割を果たすことをサポートすると思います。別にジェラシーとかは感じないと思います。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
白石さん、どうですか。
白石 隆 4点簡単に申し上げます。
第1に有馬大使がおっしゃった価値あるいは規範の問題、これは非常に大事な問題でして、私は東アジア共同体という形で、仮に共同体、コミュニティということを語るのであれば、共同体というのは規範の共有なしにはあり得ない。利益、インタレストだけでは共同体というのはできないと思います。
ただ、幸か不幸か、過去300年にわたりますアングロ・サクソンの支配の下で、あるいはヘゲモニーの下で、今となってみれば国際的、あるいはグローバルに共有される、括弧つきですが、「普遍的な規範」というものが生まれておりますし、それを少なくとも東アジアでも多くの人たちが共有するようになってきているのではないだろうか。それは例えば正義であり、自由であり、平和であり、人権であると思います。ですから、そういう共通の規範の上に東アジア共同体を作っていくというのは、長期的には必要なことだろうと。その意味で規範の問題というのは本当に大事だと思います。
先ほど私が、中産階級の東アジアが成立しており、この人達というのはかなり規範というものを共有しているのではないだろうかと申し上げたのは、まさにそれを考えた上での発言です。
それから2番目に、どうもミドル・パワーという言葉を聞かれますと、やはりこういう言葉を使うことで日本は安全保障だとか経済協力だとか知的協力において少しでも楽しようとしているのではないかというふうに、どうしても思われそうなところがございますが、もちろん、我々の意図はそうではございません。ですから、その意味で山澤先生のおっしゃった積極的なミドル・パワー論というふうに言ってもいいと思いますが、そこでのポイントは、もう一度繰り返しますが、決してミドル・パワーそのものの言葉じゃなくて、日本の自画像の見直しというのがポイントです。
3番目に、それじゃあどういう日本の自画像なのかということをやはり考えなければいけないわけでして、例えばこれも実は山澤先生が非常に見事におっしゃったのですが、経済だけではなくて、あるいは文化的にも環境においても、あるいは老齢社会、少子化社会の社会の作り方などにおいても、日本というのはまだいろいろと世界に対して、あるいは東アジアの地域の人たちに対して提供できるものを持っているのではないだろうか。その中で、いわばここに一種の、かつて日本モデルというのがありましたけれども、それは経済発展のための政治経済モデルでしたが、今度は違う日本モデル、つまり、あそこは本当に住みやすそうだと、思わせるような、そういう日本モデルみたいなものをつくるその意味での日本の自画像の再検討が今、要請されているのではないかと思います。
それから、第4番目の点ですが、これは先ほど日本の地域主義的なイニシアチブというのが中国のイニシアチブに対して、それにリアクティブに反応しているのではないかといった議論がございましたけれども、これは誤解というか、誤りだと思います。私の理解している限りでは、例えば中国とアセアンのFTAというのは、これは日本にとっても利益になるあるいはもっと具体的に言いますと、東南アジアに展開しております日本の企業にとっては利益になることでありまして、別にそれに対して抵抗するなんていうことは全くないのではないか。中国が日本の利益になることをやっていただけるのだったら、これは大いに歓迎でありまして、そういうことで私は日本政府が地域主義的な動きをしているのでは当然ないと思います。むしろそうではなくて、やはりマーケットの失敗ということがどのぐらいすさまじい被害をもたらすのかということを日本は97年、98年に学びました。同時に、東アジアというのが日本の経済にとっていかにバイタルであるかということも学んだ。その結果として日本政府は日本の利益のためにやっていると私は考えております。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
それでは、金さん、先ほどの澤さんのご質問にお答えいただければと思います。
金 宇祥 澤さんから3つの質問を頂きました。まず1つ目が韓国の中国に対する見方についてです。韓国の国益にとってより中国を重視するのが大きいと。学期が終わった後に数値は少し下がったが、しかし、やはりパーセンテージは高いという指摘をしたわけなんです。その理由なんですが、いろいろあると思います。さまざまな理由がありまして、これ1つということは説明しにくいんです。なぜこのような神話が存在するかということを1つの理由では説明できないと思います。
ご指摘がありましたように、中国は朝鮮戦争の当時、韓国と戦争をしたわけですし、また、さらにその前においては韓国は日本による占領というものを経験したわけですが、韓国はどちらかというと植民地支配における日本の行動ばかりを問題視して、中国の問題には当時、何をしたかということはあまり重視していないようだということなんです。こういったことを申し上げるのは初めてのことなんですが、例えば朝鮮戦争一つ取ってみますと、朝鮮人が朝鮮人同士で戦い合ったということで、あと何十年かたった後に、過去の朝鮮戦争の意味合いというものを評価できると思うんです。今現在判断することは難しいと思います。
もう一つの理由なんですけど、中国ブームというものが韓国の社会で現在見られております。若い子供たちは、将来の経済的な可能性というものを中国に見出しているわけです。もっと中国に寄れば、仕事の意味で自分たちは成功するのではないかと考えております。したがって、非常に合理的な行動をとっております。すなわち、適切な情報を与えられれば、過去のそういった戦争の経緯というものには全く注意をせずに、中国の文化とか中国語であるとか、そういったことに関心を持っている。実際、中国語熱というものがあるわけです。中国に関して勉強すればするほど、当然、中国に対する注目が高まるわけでして、もっと中国に近い気持ちを抱くようになるわけです。これももう一つの理由だと思うのですが、大半の韓国人は中国に対してより近い気持ちを抱き、日本よりも中国を重視するわけです。そういった意味で日本はもっとPRの努力が必要じゃないかということを申し上げたわけです。
例えば高校の教師を日本に招聘して、韓国人の教師に対して適切な情報を提供する等です。そうしますと、より若い韓国人にこういった教師がよりよい教育を施すことができるという意味で重要だと思います。
あと、もう一つ理由を挙げますと、マスコミの果たす役割もあると思います。マスコミというのは、通常、世論を追随するわけです。政府と同じです。政府の物の考え方というものも世論についていくわけですから、世論と拮抗するような、反対するようなことはやりたくないというのが、政府もマスコミも共通して考えることなのです。中国ブームが現在巻き起こっておりますので、マスコミは当然、より中国に関しての報道を多くし、中国が行った過去のまずい部分というのはあまり報道しないわけですから、そういった意味でも世論が形成されてしまい、こうした幾つかの理由が相まってああいう結果になったのだと思います。韓国においては、部分的には韓国自身がこういったトレンドを変える必要があると思いますが、しかしながら、さらに部分的には日本自身も取り組みが必要だと思います。
次に、関連する質問として、韓国は日本の占領をもっと前向きに評価できないのかどうかという点です。学者の中には2つの学派に分かれておりまして、韓国の中にもいろいろ異なった見方を有しているものがあります。すなわち、韓国内にも日本の過去のそういった行動というものを好意的に見ている、例えば技術の導入とかインフラ整備を日本が植民地支配時代に行ってくれたと見る者もおります。これによって韓国はより迅速に60年代、70年代、発達を遂げたというような話もありますが、しかし他方で、もう一つの学派は、占領時代における日本の悪行などを指摘するわけです。したがって、すべての韓国人が日本のそういった植民地支配をマイナスで評価しているというわけではありません。
もう一つの関連質問として、なぜ日本だけPRするんだと、韓国ももっとPRする必要があるのではないかという話ですが、そうです。日韓が共にPR努力を行なうことが必要だと思います。地域の協力を作り上げていく上で、日本と韓国だけではなくて、例えば中国とかアジアの国も共に努力しなくてはいけないのと同じことだと思います。こういったお互いの友好的な関係を築き上げるためには、積極的に努力しなくてはいけないと思います。
ただ、前にも申し上げましたように、韓国は少なくともオプションが存在するが、日本にはオプションがない。中国が本当に今後急速に台頭してくれば、そして地域の覇権国になれば、日本には他のオプションがないんだということを申し上げたいのです。韓国は他のオプションがありますが、日本はないんです。確かに韓国も取り組まなくてはいけないが、日本はもっと努力をしなくてはいけないと思うんです。比較すればそういうことになると思います。
3つ目のご質問ですが、ちょっと明確に分からなかったのですが、韓国における米国のプレゼンスは、なぜ再統一を果たした後も必要なのかということについて、米韓の同盟関係に関して申し上げますと、2つ理由があります。第1に、これは潜在的な北朝鮮からの脅威に対する抑止力になるという点です。また、地域の安定性の保障になるということが挙げられます。もし、北朝鮮の脅威が表出すれば、アメリカの一部、もしくは皆さんの一部は、米国との同盟関係はもう必要ないんじゃないかと考えられるかもしれませんが、しかし、2つ目の理由、すなわち地域の安定性ということを考えますと、米国の韓国におけるプレゼンスは重要であるわけです。また、前のセッションでも申し上げましたように、韓国は過去の歴史的体験などから、非常に懐疑的になっております。朝鮮半島は主要国、大国によって朝鮮半島は占領された経緯もあるわけです。それも隣国によってです。ということで、常に懐疑的な目をいろいろな国に向けております。
ということで、私どもの考えるところでは、最善のオプションはそういった潜在的な脅威を阻止してほしい。隣国からの、大国からのそういった脅威を阻止したい。そのための保障を求めているわけです。そういうことで米韓の強力なきずなを継続したいと考えているわけです。そのため、朝鮮半島における再統一後の米国のプレゼンスは重要だということです。
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