5. 自由討論:出席者全員
伊藤憲一(議長) 張さん、どうもありがとうございました。
白石さんの基調報告に対して韓国、アセアン、中国を代表する3人の方のコメントをいただきました。
最後に張さんからの質問の中にもあったと思うのですが、私なりにパラフレーズしますと、東アジアにおける統合は地域化ということで下から自然発生的に積み重ねていくことであるということだと思うのですが、それにしてもある段階からやはり制度化というか、地域主義化というか、そういう段階に入っていくんじゃないか。そのあたりのことを含めて、3人の方に対する白石さんからのコメントをいただいて、その後、フロアーの皆さんと自由討論に移りたいと思います。
白石 隆 私は決して地域主義的なイニシアチブ、それによる地域の制度化というのが進んでいないだとか、あるいは重要でないだとか言うつもりはもちろんございません。何度か申し上げましたけれども、もう既に1997年、98年以来、日本政府としても、あるいは中国政府としても、あるいは韓国政府としても、それからアセアンの国々でも、さまざまな形でマーケットの失敗ということの教訓として、地域的なシステムというのをつくろうという動きはあるだけれども、それがどういう試みなのかということを考えたとき、これが直ちにヨーロッパにおける地域統合のようなものになるのではない。むしろ、もっと遥かにモデストなものとして考えた方がいいだろうというのがポイントです。
そこでもう一つ確認の意味で申し上げますが、実は非常に重要なことは、これが実は日本の自画像の見直しということにかかわるのですけれども、今日のお話はどうもミドル・パワーという言葉遣いにもよりまして、日本の自画像の見直しのほうがどこかに消えてしまったようなところがあるんですけれども、一番、少なくとも我々として申し上げたかったことは、日本の自画像そのものを見直すことが重要ではないだろうかということです。
それはいろいろな意味があります。例えばそれは日本の外交における、安全保障における日本の役割もそうですけれども、地域主義、地域形成との関係で申しますと、東アジア共同体の形成というのは、現に今、我々の知っている、あるいは住んでいる日本というのをこのままにしておいて、東アジア共同体ができるなどということはあり得ない。仮に、我々が本当に東アジア共同体というものを作ろうとするならば、その時には日本の社会そのものをかなりいろいろな意味で変えていかなければいけない。変えるためには、それじゃあ日本は、我々として日本の国をどういう形で作っていくのかということについてのコンセンサスを、ともかく作らないことには、今のように日本はこのままにしておいて、それで日本とアセアンの中で何かやろうということはもうできないだろうというのが、実は私が申し上げたかったことでございます。
ですから、繰り返しになりますけれども、決して地域主義は重要じゃないんだという意味ではございません。地域主義というのは大事です。今おそらく一番、少なくとも日本人に問われていることは、地域主義ということを利用して、逆に日本の社会をどう変えていくかという議論じゃないだろうかと思います。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
それでは、フロアーの皆様と一緒に議論の幅を広げたいと思います。どうぞご発言いただける方、名札をお立てください。それでは、山澤さんにお願いしたいと思いますが、この機会に、ついでですのでご紹介させていただきますと、このプロジェクトは、明年度は同じ「アジアとの対話:アジアの中の日本とその役割」というテーマを「経済システムとしてのアジア」に切り替えて実施する予定でおりますが、そちらの方のリーダーを山澤さんにお願いすることになっておりますので、申し伝えます。
山澤逸平(日本貿易振興会アジア経済研究所所長) アジア経済研究所の所長の山澤でございます。
きょうは朝から伺っておりまして、大変勉強させていただきました。白石先生が提案されたミドル・パワーということについて3点コメントをさせていただきたいと思います。
私は、第Iセッションで白石先生が座長をなさって、ミドル・パワーの概念を説明されたときに、まず考えましたのは、こういう状況で進めば、日本にとって居心地がいいだろう、ということです。日本はこれだけの経済力を持っているんだからこうして欲しいと、期待されるわけです。ミドル・パワーということに引き下がれば、居心地がいいでしょう。
私たちの一番大きな制約は、皆さんご存じのとおり、国内からの制約であります。対外的にもなかなか活動できないところがあるそれをあまり要求されないで済むのではないか。たかがミドル・パワーの一つなんだからという形で。これを私は、消極的なミドル・パワー論とでも言わせていただきましょう。
ところが、最初のセッションでの白石先生のご説明は全くそうではなくて、特に最後のところでまた強調されましたけれども、積極的に日本を変えていかなければいけない。経済、社会、文化的にも、東アジアとのインテグレーションを進めてくということが必要なんだ。これを積極的なミドル・パワー論とでも言わせていただきましょう。私は、白石先生はそうおっしゃるけれども、このまますっと積極的にはなかなかならない。何もしないでいると、消極的なミドル・パワー論に実態としてなるだろうと恐れます。
2番目ですが、私は積極的なミドル・パワー論の方向へ、日本はある程度動いてきてはいると思います。経済政策としてかなり東アジアの地域主義化という中でも、ある程度のイニシアチブをとってきていると思います。先ほど張先生が言われたように、長期的にはアセアン+3、ないしは、台湾も香港も入れて、そして北朝鮮もモンゴルも極東ロシアも入れたような大きな東アジアの共同体というものが長期的には望ましい。おそらくこれにはあまり反対はない。しかし、短期的にはいろいろ難しい問題があって、そう簡単に進めるというわけにはいかないから、先ほど張先生が言われたように、やさしい相手から話を進めていく。
そのときに大事なことは、あまりやさしい相手を勝手に選んでいますと、どっちの方向へ行っていいか分からなくなる。そこで、やはりちゃんと最終的にはこちらの方向に動くんだということ、また、アセアンと中国だけが先へ行ってしまって、他が置いていかれると、これは貿易転換効果という弊害が生じますから、日本もアセアンもそれに遅れないように追いかけていかなくてはいけない。そういう意味でうまく誘導していくということが必要であろうと思います。
そのときに、経済力だけではなくて、日本は他の面でも、文化的にも、環境保護の面でも、そして人口の老齢化の面でも、日本は他のアジアの国が持っていない経験を持っていますし、その方向に進めております。文化面といいますと、ファッション関連の方々から聞きますと、日本の経済は大変人気が悪いけれども、若者のファッションという面では日本の六本木や原宿がいろいろアジア各国の雑誌に出ていて、影響力を持っている日本はそういう面で提供するものが多いだろうと思います。
もう一つ言わせてください。最後にミドル・パワー論のコンセプトというものをぜひ生かしていただきたいと思うのは、東アジアの中では、先ほどタイや韓国の先生方が言われたように、日本がミドル・パワーでもビッグ・パワーでもどっちでもいいと言われて、ある程度の理解ができていると思いますが、東アジアの外はそうはなかなかまいりません。アメリカであり、ヨーロッパであり、オセアニアは往々にしてそれを誤解し、警戒感を持ちます。それだけのことを日本が過去にしてきたということもあるわけです。そのために、ぜひこのミドル・パワーをうまくリファインしていただいて、誤解が生じないように使うことをお願いしたい。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
タイの在日大使のピロム大使がご出席でございますので、お願いいたします。
カシット・ピロム(在日タイ王国大使) ピロムでございます。タイの大使でございます。
手短に申し上げたいと思いますが、将来のミドル・パワーとしての日本の呼び名についてはちょっと問題を感じております。リアリティーから離れていると思います。日本は第2の経済大国ですし、G8のメンバーですし、さまざまな国に大きな投資を行っておられますし、ODA協力国としても世界第2位であるわけであります。軍事力でも米国に次ぐ大国であり、核も、もしその希望があれば短期間で核保有国になり得る力を持っているわけですし、また、海上自衛隊の艦隊がインド洋に行っておりますし、PKOもやっておられます。さらにそれに加えてファッションの分野においても、山澤先生が仰ったようにリーダーです。その他いろいろな分野もそうであるわけですから、そういったことから日本がただ単にミドル・パワーという隠れみのの下に隠れてしまうことはできないと思いますし、米国との同盟関係の間に隠れてしまうべきではなくて、米国も日本がもっと責任を担うようにということを言っているわけですし、また、私どもも経済開発のみならず、思考及び政治の分野においても日本にリーダーシップの役割を求めているわけですから、日本がミドル・パワーと自分たちを呼んで、いろいろな責任から逃れることはできないと思います。
また、中国が台頭しているというリアリティー、韓国の存在ということもありますが、そういった中から、ただ単に日本は日本列島の中で静かにミドル・パワーとして満足裏に自分たちだけで山の中で暮らしているわけにはいかないということです。
伊藤憲一(議長)ミドル・パワー論に対する最も批判的なご発言が在日フィリピン大使のシアゾン大使からもございましたが、どうやらこれがアセアンのコンセンサスのようだという気がいたします。
それでは、本日は在日モンゴル大使のバットジャルガル大使にもご出席いただいておりますので、一言お願いいたします。
ザンバ・バットジャルガル(在日モンゴル国大使) 伊藤理事長、ありがとうございます。
私、コメントというよりも質問があります。私のコメントというのは、どちらかというと今、山澤さんがおっしゃったことに関係するのです。今の討論を聞いておりまして分かりましたが、ミドル・パワーとか地域化とか、そういう言葉が使われておりますが、そういう言葉については私は別に疑問は感じませんが、やはり行動が重要だろうと思います。今非常に単純なやり方でグローバル化が進んでいるわけですから、大国は本当に超大国になってしまう。また一方で地域化が起こりつつあるですからミドル・パワーが大きな役割を果たすことができると思うんです。
ですから、単にアイデアとして模索するべきものでもないと思うんです。山澤さんは日本のアセアン+3と、アジアにおける協力という提言をなさいました。その提案から分かりますが、一体、アジアにおけるメジャー・プレーヤーはどこなのかということです。ご存じのように、アジアには他にもいろいろな国があります。ミドル・パワー、あるいは小国とも考えられるような国、例えば我が国はノー・パワー国、パワーがない国と言われるでしょう。
こういう小国が国際政策によって関与されないということになりますと、アジアの政治体制におきまして、ローカリズム、あるいはまたナショナリズムに走るしか道がなくなってしまいます。そうなりますと、あまりアジアの安定において積極的に役割を果たせません。ですから、私の質問はこういう小さな国々はどういうようにもうちょっと積極的な役割を、地域化とか、あるいはアジアの政治体制において果たせるかということです。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。後ほど白石さんからレスポンドしていただけるかと思います。
それでは、有馬さん、お願いいたします。
有馬龍夫(早稲田大学教授) 今、ヨーロッパではジスカールデスタン元大統領を議長とする所謂賢人グループのもとで、欧州の憲法の起草がなされつつありますけれども、我々よく存じておりますのは、もちろん連邦主義の性格がいかにあるべきかということでありますが、もう一つの問題が、将来EUが分かち合うべき価値を新憲法にどのように規定するのかということであって、これは正義、人間の尊厳、自由、平等等々であります。それまでは分かるのですが、最近では神の観念をその中に盛るかどうか。これらの分かち合うべき価値の源泉としての神の観念ということが論じられているということで、そこまで行きますと、私にはちょっと分からなくなってしまう。それはそれといたしまして、今後、アジアの統合を考えていく場合に、いわゆる価値というものがどのように論じられていくのか、あるいは論じられるべきではないのかといったようなことについて先生がどのように思っておられるか。
90年代の中葉にサミュエル・ハンティントンが『文明の衝突』を書いて、特にシンガポールで大変これが激しく論じられたといったようなことを思い出すのですけれども、この辺について、先生はどういうふうに思っておられるのかなということです。
私は、近代の価値というのは、基本的に脱宗教化というか、脱教会の過程の中でできたものだと思いますが、他方、神を改めて論ずるというのもすごいものだなと思いながらの質問でございます。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
もう少し質問が何人分かまとまったところでお願いすることにして、もう少しコメントやご質問をいただいていきたいと思います。
澤さん、どうぞ。
澤 英武(元駐ノルウェー大使) ありがとうございます。
金教授に3つ質問をしたいと思います。大変おもしろい世論調査といいますか、学生の意識調査の資料をいただきありがとうございました。この中で、中国に対し、国益上、中国を大事に思うという数字が51%から35%に下がったと言われております。私が問題にしたのは、国際関係論で1年間やってそういう結果になったと。つまり、何も知らない韓国人は51%が中国に対する傾斜というものを持っているのではないかということでございます。
質問したいことは、朝鮮戦争で朝鮮半島が蹂躙された。そのことについて韓国、あるいは北朝鮮は当然でしょうけれども、中国に対する何ら批判的感情はないのでしょうか。江沢民主席が韓国へ来ました。金泳三との会談がありました。そのときに日本の歴史認識を改めると共同で言っておりますけれども、金泳三は中共軍の韓半島蹂躙について一言も抗議ができなかったのでしょうか。そういう点から見ますと、統一朝鮮が中国に傾斜するという私の疑念は消えないのでありますけれども、これについてどのようにお考えでしょうか。
第2点は、同じ調査でありますけれども、日本に対する評価が極めて低い。そのことについて、もっと日本はPRをすべしということを言われました。台湾の例を挙げますと、李登輝前総統は台湾の繁栄は、日本統治時代のインフラ整備のおかげであると堂々と言われました。日本の閣僚が韓半島の統治時代にいいこともしたと言っただけで、韓国は朝野を挙げて猛反発して、閣僚が首になってしまいました。いいことをしたと言うこともいけないのでしょうか。それから、金完  (キム・ワンソプ)という人が書いた『親日家のための弁明』という本の中で、日本統治が韓国の近代化の土台をつくったと、むしろ肯定的に評価したら、これを青少年有害図書にしてしまったんです。
つまり、対日感情の悪さというのは、そのような政治の姿勢、あるいは教育、マスコミ、そういうところの罪がないのでしょうか。金教授は日本のPRを要求しましたけれども、韓国で何をしたらいいのか、韓国が自らを省みることがないのでしょうか。
3番目です。統一朝鮮は、米軍の駐留を認めると言われましたけれども、それは何のためでしょうか。以上です。
伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。
それではもう1人ご発言いただいて、その後、白石さん、金さんからレスポンドしていただきたいと思います。
イギリス大使館のリーバさん、どうぞ。
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