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4. コメントC:張 蘊嶺(中国社会科学院アジア太平洋研究所所長)
張 蘊嶺 私のほうからは東アジアの地域主義について申し上げたいと思います。また、日中がどういった取り組みができるかということをお話しいたします。
 第1に東アジアの地域主義の台頭ということに関して、まず明確に理解しなくてはいけないと思います。さまざまな学者間の議論の中で、学者も現実に取り残されており、政治家などからも取り残されているきらいがあります。例えば10+3の会合が既に東アジアで存在し、何年か続いておりますし、また昨年の提案を見ますと、さらに10+3から東アジアサミットまでもっていこうという提案もあります。既に8種類の閣僚の会議が開催され、さまざまな分野をカバーしております。また、金融面での協力体制も議論されておりまして、チェンマイ・イニシアチブ、すなわちバイの金融コミットメントからマルチのアレンジメントへどうやって移行していこうかという経済的な議論は持たれているわけであります。
 今回初めて各閣僚は安全保障面での協力を始めていこうという議論もしておりますし、またさらに東アジアFTAの可能性というものも議論されつつあるわけです。ということで、こういった公式の提案が幾つか打ち出されております。
 東アジア協力のプロセスは金融危機などに火をつけられて、即時必要だということで出てきたわけですが、今や経済的な利害を超えて、さらに協力を拡大していこうという機運が見られます。また、各国のリーダーはより高いレベルの協力を進めたいと考えているわけです。低いレベルでの政治的なディスカッションから、さらにこれを上に上げて、政治的な協調、連携、また政治的なコミットメントで、しかも域内の安定性に将来寄与するような問題に関して議論していこうという動きが見られます。
 もちろん、東アジア協力については幾つか問題があります。一体どれぐらいまで進むことができるのか。具体的には長期的にどういったことを達成できるのか。また、東アジアはこういった安全保障上の制度なりアレンジメントを必要としているのかどうかという議論で、まだその議論は継続中であります。ただ、こういった制度作りに関しても議論が始まっております。FTAとか、もしくは金融レジームとか、その他の協力体制などから生まれているわけです。
 ただ、地域協力と地域主義というものには違いがあると思います。すなわち、地域主義というのは一つの制度、システムとして発足したものですが、過去においてこの地域、東アジアではそういったものができておりません。ですから、今回は重要なスタートを切っていると言えましょう。
 次に、米国の役割は何かということです。米国の役割はご存じのように、地域経済においても、また、安全保障においても重要な役割を担っておりますが、東アジアは先ほど申し上げたように、米国なしの独自の地域的枠組みも必要だと思います。この点に関しては10+3のプロセスで既に現実のものとなっておりますが、しかし、だからといって個別の国々が米国とのバイのアレンジメントを結んではいけないというわけではありません。ただ、それぞれ異なった制度であるわけでして、より大きな地域、また限定的な地域における関係、及びバイの関係と、幾つかに分かれているわけです。
 さて、東アジア、もしくは東アジアのリーダーが一緒になると、米国は懐疑的になり、一体おまえたちは何を議論しているんだと、意図するところは何かというふうな目を向けるわけです。したがって、私どもはオープンなシステムを構築しなくてはいけないと思います。すなわち、こういった地域の対話は米国も巻き込んで協議していくということです。だからといって必ずしも米国がメンバーになる必要はないと思うのです。ということで、ある意味においては、小泉総理が東南アジアを訪問なさった際に、より広範なFTAということを呼びかけ、その後帰られましたが、日本の今の考え方はどこなのかよくわかりません。どういった役割を日本は担いたいのか定かではありません。どういった地域のコンセプトを持っているのか、どういったところに利害関係を有しているのかということははっきりしておりません。
 次に中国と日本との関係でありますが、実質的な日中協力なしには実質的なアジアのシステムというものは構築できないと思います。ということで、アジアとして、政治的なシステムを考える、制度を考えるということなんですが、これはどういった意味なのか。どういった政治的なシステムを考えておられるのか伺いたいと思います。制度的なアレンジメントなのか、もしくはその他のものなのか。こういった点に関してさらなる議論が必要だと思います。地域的なアレンジメントをつくる上で、二カ国はお互いを競争相手と見るべきではありません。政治的に日中は、やはり地域的な制度作りを一つの手段として、両国をより緊密化するものだと考えなくてはいけません。そして、地域の理解を共有しなくてはいけないと思っております。これこそが唯一の道だと思います。昼食時にいろいろお話をいたしました。小泉総理のいろいろな動きなどに関しても議論したわけですが、今や地域の10+3の会合があるわけです。日・中・韓は2回会合をします。1回が10+3、もう一つが日・中・韓3カ国の会合です。共通の課題を議論し、どうやって円滑な関係を構築するか。そしてバイ、もしくは地域の問題をどうしていくかということを話し合わなくてはいけないわけですから、こういった制度は重要でありますし、こういった中で日中が手を携えていくことが必要だと思いますし、また、東アジア全体を一体化させることが必要だと思います。
 次に日中関係なんですけれども、中国は地域においてどういった意図を持っているかということで、いろいろな質問が私に投げかけられております。なぜ中国は中国・アセアンFTAからまずスタートしたのかという疑問です。なぜ日本を排除しようとしているのかということを聞かれるのですが、私の答えは簡単です。というのは、よりこっちのほうが容易だからということです。すなわち、前進するためには、北東アジア・アプローチ、もしくは東アジア・アプローチに比べて、アセアンとまず始めたほうが容易だということです。中国としては東アジア全体の制度作りをしたい。これは基本的な私共の利害にかなったものだからです。ただ、中国とアセアンのアレンジメントは単に経済的な問題に留まっていないんです。3つの文書が既に署名されました。これは昨年末のことですが、その中で網羅されているのは経済協力、農業も含めたFTAなのです。さらに政治協力なども、この南シナ海における行動宣言というものに盛り込まれているわけです。ですから、同じようなものを今後作っていかなくてはいけないと思います。
 さて、東アジア地域の枠組みを考える上で、別に日本が日米同盟を断ち切る必要はないと思うんです。ですから、東アジアかアメリカかどっちを取るのかと日本は選択する必要はないんです。私も同感ですが、日本は今後中国を東アジアに関与させていくと、統合させていくというふうに報告書は提言しております。ただ、日本自らも東アジアに統合化していかなくてはいけないと思います。というのは、中国はこういったプロセスを始めているからです。
 他の質問として、特に報告書の提言の最後のページですが、北朝鮮の行動規範に関して言及された中で、日本はこういった行動規範に積極的に関与すべきだと書かれておりますが、一体どうやって、何故という疑問が残ります。
 2つ目の点として、おそらく私どもは安全保障上の協力を東アジアで必要とすることになりましょう。しばらく前ですが、私は、東アジア・ビジョン・グループ(EAVG)の一員でございまして、早期に防衛大臣の会合を、ディスカッションのために東アジアの国々で主催しようと働きかけました。いろいろ問題があるからです。リーダーたちは既に同意してくれ、まず非伝統的なこの安全保障の分野からスタートしようということで、徐々にカバーする範囲を広げていこうという話にしております。これは日本にとっても、また中国にとってもプラスだと思います。もし日中が同じような利害関係を共有し、共に主要な問題に関して議論できれば、東アジアは大きく希望を持てると思います。







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