3. コメントB:パニタン・ワッタナヤゴーン(タイ・チュラロンコン大学教授)
パニタン・ワッタナヤゴーン 伊藤先生、ありがとうございます。これは私にとりましても非常に重要なテーマです。また、ほとんどのアジアにとって大事なテーマだと思います。アジアの中の日本として、日本は何ができるのか。
今朝も申し上げましたように、この問題というのは概ね日本が決定すればいいことであります。具体的な分野におきましては、外交の分野、経済の分野、政治の分野、あるいは安全保障の分野、そういったところで日本がどういう決定をするのかということは我々にとっても非常に大きな影響を与えることであり、大切な決定になるだろうと思います。また、前にも申し上げましたけれども、日本がこれまで果たしている役割の幾つか、特に経済、それから一定の安全保障の分野での役割というのは、枠組みとして今日設定されているミドル・パワーよりは遥かに凌駕するようなものがあると思います。とにかく決定は日本次第であります。日本が決定することであります。
これだけ重要なことを決定するということに関しまして、やはり日本はアジアをよく理解していただかなければなりません。特に公の部分、パブリックな部分についてです。一体何が関わっているのか、日本が役割を増やすということはどういうことなのか、何が大事なのかということを国民が分かるということが大事であります。1人の参加者の方が仰ったように、アジアというのは世界の中で最も複雑な地域でありまして、あらゆる意味での多様性があるところであり、能力も経済も環境も全く違っております。アジアを一般化するということを言いますと、これは人々を誤解させます。
それを一応申し上げた上で、類似点もあるわけです。そして、共通の特徴というものもアジアにはあります。例えば、アジアというのは国の政府が強いということで際立っていると思います。それからまた、共産政権が残っているのもアジアであります。そして、権威主義的な体制が力を持っているというのもアジアだと思います。しかし、アジアの国々において民主主義も台頭しております。本当に複雑な現象だと思います。
それからまた、複雑な点だと思いますけれども、多くの戦略的な安全保障の問題、課題というのが古い地理的なセッティング、古い地政学的な紛争、そういったものに立脚しているというのもアジアだと思います。午前中も言いましたが、多くの意味において、アジアというのは、力を求める闘争が行われているところであります。日本はそういった中で全面的にその現状を把握していなければなりません。例えば、朝鮮半島の紛争、対立、それから印パ問題、在来兵器、大量破壊兵器、そういったようなものの拡散ということもあります。そういった地政学的な考慮はぜひ日本が公の形で、また日本の国民が完全に把握した上で決定していただかなければなりません。
私はちょっとびっくりしたのですけれども、白石先生から、非常に洞察に富んだ分析をしていただきました。どういう力、地域化が働いているのかというお話でした。アメリカ化、日本化、そして中国化、この3つの力が働いているということです。ヨーロッパの場合にはEC、NATO、WEU、EUという制度的なものが生まれていますけれども、これだけあるのに、アジアではそういった制度的なものが全く生まれておりません。地域的なアレンジメントが欠落しております。特に、地域的な制度づくりということを考えますと、こういったいろいろなことに対処する、経済的、社会的なチャレンジに対応するような制度ができておりません。これこそが我々の問題であります。日本が今やそれに対して何かをしなければいけないということを決定するプロセスにあるというのはうれしいことだと思います。
私の出身地の東南アジアは、5億の人口を持っております。そして、インドネシアという世界で4番目に大きな国を含んでおります。戦略的には冷戦の時にはあまり大事ではありませんでした。中国が台頭するまでは。中国が台頭してきたということで、東南アジアが戦略的な重要性、シーレーンについてのコミュニケーション、そういったことから重要性が増してきました。我々が好むと好まざるとにかかわらず、アメリカと日本、それから中国のバランス・オブ・パワーということからも戦略的な重要性が増してきたのであります。
アセアンというのは政治経済協力の枠組みで地域的な紛争を避ける目的で、1960年代に生まれたものです。ほとんどの場合、それはモデルとして使われました。国家がとにかくいろいろな紛争は忘れて、そして重要な問題領域で協力していこうということで1997年まで続いたのです。でも、それはもはやそのままではいけないところにやってきました。日本もその変化を理解しています。日本はその中でアセアンに手を貸そうと、役割を果たそうとしているのです。
アセアンが今、懸念しているのは、インドネシアの不安定であります。インドネシアの再建です。それからまた、アセアンの中でもいろいろな分裂があります。我々は統一しなければなりません。そして、アセアンの効果を高めていかなければならないのであります。もちろん、個別のアセアンの国々もそれぞれ移行期にありますので、いろいろなことをグローバル化の中で考えなければなりません。日本が建設的な役割を果たすためには、全面的にしっかりとそのことを理解しなければなりません。そういった変化が起こっているのだ、我々がそういった変化に直面しているということを理解していただかなければなりません。経済官僚がそれを知らないと言っているわけではありませんけれども、国民がそれを理解しなければいけないということを言っているのです。
もちろん、日本が何をすべきだということは言えませんけれども、して欲しいという願望は言えると思います。私が望ましいと思っている日本の役割は、短期的には現在うまくいっているアレンジメントを傷つけないことです。アメリカとも中国とも韓国ともアセアンとも、また国連とも経済問題に集中するということで、今うまくいっているんですから。そして、役割を政治的な安全保障問題に拡大することで、今やっていることを傷つけないでください。クリアな部分もあれば、あいまいなところもあるということ、クリアでアンビギュアスなところ、そういったようなものはまさに過去において日本もうまくやってきたわけでありますので、今うまくいっているアレンジメントを傷つけないでください。
それから、短・中期的には協力を強化する。そして制度作りをするこれがアジアで大切なことであります。二国間の協力協定を、例えば自由貿易でありますとか、それ以外のバイの協定を強化するということは役に立ちます。それによって地域が安定化します。それから、マルチなアプローチを強化するということは日本が随分アセアン地域フォーラムでもやっていますし、過去の、アセアン+3でもやっています。それもホームワークとして、日本が短・中期的にこれからもっとやってほしいと思います。
次に、中・長期的に、日本にはより包括的なエンゲージメントをしていただきたい。これは白石先生が言われましたように、もっと統合プロセスをやっていくということです。金先生も同様のことをおっしゃいました。そして、人間の包括的な安全保障にフォーカスするというスタンスを日本はとるべきだと思います。そして、日本がリージョナルな国、グローバルな日本という国ではなくて地域的な国になるということであります。日本の役割を変えたいということであるならば、もっと地域にエンゲージし、地域に取り組むということは大事なことです。
長期的にはどうでしょうか。私の希望ですけれども、長期的には日本はこういつた活動の結果を見るべきであります。プロセスだけではなく結果を見てほしい。難しい決定もあるでしょう。重要な、例えば兵器管理とか軍縮とか、それから紛争予防とか、そういったようなとても難しい分野ですけれども、結果に基づいて難しい決断をしていかなければならないと思います。
一つ申し上げたいのですが、中国はこの間ずっと台頭してきているわけです。地域にエンゲージするということもやっていますし、地域的な国にも、グローバルな国にもなってきています。それから、中国はローカルなニーズにセンシティブでもあり、力強く、決定的な形でほかの問題に当たったりしています。中国というのは今台頭していますが、短期的でアジアの中で非常に重要なプレーヤーになっています。ですから、日本もぜひ中国に追随して同じようなことをやっていただきたいと思います。
私はヨーロッパのまねをする、中国のまねをするということを言っているわけではありません。やはり日本は日本型の成功というものを導かれると思います。究極的には地域的な安全保障のアレンジメント、そして安定性があるということは日本のアジアにおける建設的な役割にも必ずプラスの影響をもたらすと思います。以上です。ありがとうございました。
伊藤憲一(議長) 日本に対するいろいろの具体的な示唆をいただいたと思います。
それでは、最後になりましたけれども張さん、お願いいたします。
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