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2. コメントA:金 宇祥(韓国・延世大学教授)
金 宇祥 議長、ありがとうございます。
 この国際ワークショップのトピックは、「アジアの中の日本とその役割」です。その中で日本のコア研究会の方々の考えられた一つの提言が、日本がミドル・パワー外交を行うということで、私はこのアイデアは支持いたします。その主な理由は、日本がこのミドル・パワー外交の役割を果たすという、基礎の前提となるものとして、日本は強力な軍事同盟をアメリカと長らく、維持しているという点にあるからです。今後の安全保障体制、地域における平和、安定を維持するための体制は、やはり日米の同盟や米韓の同盟に基づくべきものだと思います。したがって、この3極関係はやはり一つの基本的な骨格になろうかと思います。
 ただ、通常の人たち、例えば韓国の一般の人達で、あまりこの地域の安全保障関係について知らない人は、ちょっと考え方が異なるかもしれません。日本の方々でも、どうも中国や日本に対する韓国のパーセプションが変わるのではないかと考えていらっしゃる。韓国はどちらかというと中国寄りになりつつある。そして、もし朝鮮半島統一ということになると、韓国はアメリカとか日本ではなく、中国と同盟を組むことになるのではないかと考えていらっしゃいます。私が聞いたのは、日本人の方の中で、韓国のそういう姿勢が変わる可能性があるという点です。
 私が最近行なった韓国人の安全保障の問題に対する見方についての調査の結果を見てみましょう。2001年9月、2001年12月に同じテーマでソウル地域の7大学の大学生に対し、学期が始まる前と学期が終わった時、同じクラスに調査票を配布しました。国際関係入門というコースを履修する学生を対象としましたが、このコースを取ったほとんどの学生はこういうコースを取った経験のない人たちです。したがって、こういう地域における安全保障関係については知らない人たちです。同じような調査を2002年にも行いました。1回は9月、やはり学期の始まりで、もう1回は、学期の終わりに行ないました。2002年12月にも行いました。私は4つ質問を用意しました。それらは全部朝鮮半島における安全保障に関するものでありますけれども、そのうち2つ非常に関心があると思われますのが次のようなものです。
 質問の1つは、どの国との友好関係が韓国の国益に最も利するか。中国、アメリカ、日本というような形で幾つか選択肢を与えたのですけれども、2001年の学期の最初の場合、51%が中国と答えました。中国が韓国の国益からして最も親しくすべき国だと言いました。これが学期の終わりに35%になりました。したがって、このコースを取った後でいろいろと情報を得て、またいろいろと地域の安全保障環境について考えた後で、大分意見は変わったわけです。アメリカにつきましては32%の学生がアメリカというふうに学期の最初に言ったんですけれども、これが学期の終わりに50%に増えています。日本については最初は5%でした。終わりでも同じ5%で、変わりませんでした。
 1年後、2002年9月に行なった調査では、中国については学期の始まりでは35%でしたが、学期の終わりには22%に減りました。これは2001年と同じパターンでした。アメリカは最初は24%でしたけれども、最後には53%と、相当増えています。中国、アメリカの場合は同じパターンでした。日本については、最初は10%でしたが、学期の終わりに8%になりました。ここでも同じパターンです。日本についてはあまり変わりません。しかし、2001年と2002年を比較しますと、日本のパーセンテージが5%から10%へと2倍になりました。
 それから、もう一つの質問は、「どの国が韓国にとって一番の友好国だと感じられるか」という質問です。2001年の場合、最初は中国が31%、最後には30%でした。ですから、あまり変わっていません。この質問については変化が見られません。アメリカは28%で、学期末が30%です。ですから、ここでもこの質問についてはあまり変わりませんでした。学生はいろいろと勉強し、安全保障関係について考えた後でもあまり変わりませんでした。しかし、初めの質問である国益の観点から親しくすべき国はどこかという考えはかなり変わったわけです。日本は7%で、最後になりますと5%ですから、ここでもやはり日本の数字はあまり変わっていません。
 これが2002年、つまり最初の調査から1年後になりますと、学期の始めでは中国は18%、最後は15%でした。アメリカのほうは最初が10%、そして最後が17%でした。驚くべきことに日本は学期の始めが14%、最後は14%でした。ですから、ここで日本につきまして2001年と比較してパーセンテージがほぼ2倍です。そうすると、この間に一体何が起こったのか。2001年から2002年について、皆さん何かお考えになりますか。ワールドカップでしょうか。とにかく、日韓の間の交流が増えたのでしょうか。それは大分あったと思います。それからまた、こういう結果を見ますと、どうも国民に対する教育がかなり関係するようです。通常の学生でほとんど安全保障関係について勉強することができなかった人たちがそういう知識を習った、適切な正しい情報を得たと。そうすると、それについて考えるチャンスが出てきたということです。そうすると、現実を把握して、考え方、意見を変えたわけです。
 私がここで申し上げたいことは、もし日本が本当に韓国、あるいは朝鮮半島統一について中国寄りになるのではないかということを心配をしているということであれば、今こそ日本がPRをすべき時ではないか。韓国にも近隣諸国に対して親日的な雰囲気を醸成すべき時ではないか。これが重要だと思います。
 ちょっと時間を使い過ぎましたけれども、そういったことに関係して、幾つか私のほうから日本がどういう役割を21世紀に果たすべきかということについて申し上げたいと思います。一つの可能性として、日本が何らかの全国レベルの国益についての委員会をつくってはどうか。それによって日本がコンセンサスを醸成する。日本の目標は何であるか。焦点は何であるべきか。日本はミドル・パワー外交を追求すべきなのかどうか。例えばアメリカを見てみますと、アメリカ人はそういう国内委員会があるわけです。そして、そこでアメリカの国益について、21世紀について考えたりしているわけです。日本がそういうふうな国内委員会というものは作れないものでしょうか。
 それから2点目でありますけれども、これは近隣諸国に対して日本は脅威的な大国にはならないということを説得する努力についてです。どうして日本がミドル・パワーの役割を果たしたいのか。それは単に日本はこういったものを使って憲法改正したいためのか。そうじゃありません。それが日本の意図ではないとすれば、他の国をやはり説得すべきです。日本をPRすべきです。これも私は極めて重要だと思います。
 それから第3点といたしまして、中国の台頭という問題について、やはりここでも日本が正しく中国の現実を把握することが重要です。そして、他の近隣諸国がやはり中国の現実を把握すべきだと、理解すべきだと思います。ここでもやはり日本は楽観的な像を描くべきではないか。悲観的な像ではなくて。日本はこういう安全保障上のジレンマの問題をエスカレートさせるべきではないと思います。韓国、中国もそうです。この3カ国はアセアン諸国とともに、こういったプロセスに参加して、潜在的な紛争のスパイラルをカットすべきだと思います。
 それから次に、日本はイニシアチブをとって、人道的、あるいはまた包括的な安全保障の道を歩むべきです。今まで非常によくやってきたと思います。経済的な支援とか、あるいはまた経済安全保障問題、あるいは環境安全保障問題、こういった分野で日本は重要でありまして、日本は今後もイニシアチブを取り続けるべきだと思います。
 それから最後に、今後、韓国が、あるいは朝鮮半島が統一された後、韓国にはオプションがあるような感じがします。例えば、安全保障体制の保障ができない安全保障環境になると、韓国は中国の脅威に便乗しなければいけない。ただ、そういったシナリオが現実になっても困ります。ですから、ぜひ日本が十分に韓国の立場をサポートしていただきたい。短期的には北朝鮮の核問題、これは現在の問題ですけれども、それから長期的には統一のプロセスをサポートするということです。もし、朝鮮半島の統一のプロセスがスタートしますと、ぜひ日本はこのプロセスをサポートしてほしい、そうすれば韓国の人たちは日本の助力をありがたく思うでしょう。以上です。
伊藤憲一(議長) 韓国民の対中、対米、対日感情といいますか、数字を示していただきました。案外、こういう実態というのは日本では知られていないのじゃないかと思いますが、重要な認識の前提ではないかと思ってお聞きいたしました。
 それでは、パニタンさん、お願いいたします。







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