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第6部 第IIIセッション
「アジアの中の日本」
伊藤憲一(議長) それでは、最後のセッションとなりますが、第IIIセッションの開会をいたしたいと思います。第IIIセッションは、私、日本国際フォーラム理事長の伊藤憲一が担当させていただきます。
 この「アジアとの対話:アジアの中の日本とその役割―政治システムとしてのアジア―」という対話のテーマの選択につきましては、私も関与したのですが、その結果どういうレポートが出てくるのかということにつきましては、実は、きのうは日曜日で、今日の会議に備えまして、初めて私も一読した次第でございまして、そのとき、「ミドル・パワー」というなかなかプロボカティブな概念が提示されているのを知り、これは相当いろいろな意味で議論を呼ぶだろうなと思ったわけでございます。
 先ほど昼食のとき、白石さんが「こんなに反発を呼ぶとは思わなかった」とおっしゃっておられましたが、もし「反発」を呼んだとすれば、それは「ミドル・パワー」という言葉を使ったことが「会議運営のストラテジー」としては成功したということではないかと思っております。実際にはミドル・パワーという言葉によって何を意味するかということが問題であり、そのことがいろいろな議論を呼んだわけでございますが、実は日本をミドル・パワーと規定するかどうかということとは裏返しに、台頭する中国をどう規定するかという問題があるんじゃないか、あったんじゃないかという思いを、私は午前、午後のセッションI、IIを聞いていて思った次第でございます。
 実は、私共にとりましてこのプロジェクトは3年間のプロジェクトでございます。本日、日本財団から森田常務理事がお越しでございますが、森田さんとも相談して、3年かけてやるにふさわしいテーマということを模索したわけですが、その結果、今日のようなテーマを掲げているわけでございます。この背後にはやはりグローバリズムと並んでリージョナリズムというものが、地域主義というか、地域化というか、この2つの言葉を研究チームは使い分けているようでございますが、両方を含んだ広い意味の現象が世界的に広がっている中で、ちょっと東アジアは遅れているなという感じがあったのです。それがここへ来て、特に1997、98年のアジア経済危機を経験した後、東アジアの各地、各国の人たちの間に東アジアもやはりばらばらなのではなくて、まずは経済的、そして将来的には政治的にも統合の可能性を模索すべきではないか、こういう思いが広がってきていたのを受けて、統合へのプロセスの中で“Japan in Asia:What Should We Do?”というふうに問題を提起したつもりであったわけでございます。
 ちなみに、この統合へのプロセスというのは、もう私は東アジア全体のコンセンサスになってきているのではないか、逆戻りできない段階に入ってきているのではないかと思っています。実は、先週、私ども、別の国際会議ですが、「日本とアセアンの対話」という国際会議を開催いたしましたが、この会議に本日ご出席の方もかなりの方がそちらの会議にもご出席なられたと思うのですが、その方々、ご記憶だと思いますが、アセアンのある国から出席されたある人が、会場に向かって、「この中に東アジアのインテグレーションに反対の人はいますか」と、こういう質問を投げかけたわけですが、1人として「反対異議あり」と言って手を挙げた人がいなかったということがございました。したがいまして、そういう背景の中で「アジアの中の日本」、あるいは「アジアの中の中国」、そしてもちろん「アジアの中の韓国」も、「アジアの中のアセアン」もその有り様が問われているのだと思います。
 ミドル・パワーについては、その言葉が何を意味するのかについて十分議論する前に、言葉の表面的な印象から、どうも日本は戦略的な判断や負担を避けて、あるいは逃げて、日本にとって居心地のよい場所を探しているのではないかという受けとめ方をされたのではないかという、そういうやり取りを見たと思います。アセアンの方にしてみれば、統合を進めていく上では、やはり中国が非常に大きな存在でありますので、これをバランスする存在というものは当然必要というか、求められるわけですが、日本にある程度そういう役割を果たしてもらいたい、また、域内の大国として統合を進めていくためのエンジンの役割を果たしてもらいたい、こういう思いからすると、どうも日本がみずからミドル・パワーと言うことに不安感を持たれた可能性もある、と思って聞いておりました。
 他方、中国の立場からすれば、日本がミドル・パワーの前提として日米同盟という基軸を据えているのは、日本がアメリカに追随し、アメリカと一体化してアメリカの対中政策を補強するつもりなのではないかという危惧の念を持たれても仕方がない。
 しかし、もとより日本側の研究会がミドル・パワーという言葉を使ったのは、そういう意味ではなかったわけでありますが、説明すればするほど、そういうことを言っているんじゃないかと思われる、不思議な魅力のある言葉がミドル・パワーという言葉の一つの側面であったのではないか、等などと思いながら、午前、午後の議論を私は私なりに聞いていたわけでございます。それだけにこの第IIIセッションで少しきちんと議論の方向性を締めていただく必要があるかなと思っております。それに最適任の方がもちろん研究会リーダーの白石さんです。その白石さんが第IIIセッションの基調報告をしていただけるということでございますので、私があえて逆の立場から第Iセッション、第IIセッションをまとめてみましたことにつきまして、白石さんから私の懸念とか不安というものを明解に払拭するプレゼンテーションがいただけるのではないか、と思っている次第でございます。
 そういうことで、白石さんから基調報告いただきたいと思いますが、その後の自由討論のときに、この会場には日本及びアジアの方以外にも、アメリカやヨーロッパ等の方もかなりご出席いただいておりますが、そして、このワークショップは「アジアとの対話」とは銘打ってはおりますが、しかし、先ほど高原さんから日中は狭い3畳間か4畳間の部屋で向き合って話をするんじゃなくて、大広間で、みんなのいる前で正々堂々の議論をした方がいいというお話もありましたように、せっかくご出席でございますので、非アジアからの出席者の方にもぜひこの討論に参加していただきたいと思っておりますので、一言申し添えます。それでは、白石さん、20分ほど基調報告をお願いいたします。







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