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添谷芳秀(議長) それでは張先生、お願いします。
張 蘊嶺 中国はこれからもやはり議論のテーマになるのだと思います。対外的にも、それから国内でも議論が続くのだろうと思います。と言いますのも、非常に大きな国であるということ、そしてまた、未曾有の移行期にあるということだからです。しかし、経済的に申しまして、天児先生が、2010年以降中国でもいろいろな問題が起きると大変になるとおっしゃいましたが、しかし、今までの経験からしますと、中国の現在のような高成長期というのは1992年以降のものなんです。ですからまだ10年しか経っていません。例えば日本の景気を見てみますと、1960年代、70年代、もう20年以上続きました。ですから、中国の規模をとって考えてみますと、非常に構造的な差が国、あるいはまた地域の間でありますから、いろいろ動きの余地もあるわけです。こういう構造的な格差によって資本、投資、技術が国の中で移動できるですから、この高成長というのは、一般的には日本よりも韓国よりも長く続き得るものなんです。
 ですから、今、ここで我々が話をしているのは2つです。一つは一般的な傾向です。これは我々自身の研究によれば、少なくとも30年ぐらいは続く。あるいはもうちょっと長く続け得るものです。こういう上昇傾向、経済的な発展というのはそれぐらい続き得るというものです。深いレベルの社会的な移行、例えば都市化、都会化というのも非常に重要な役割を果たし得るでしょう。ですからこそ、中国は対外的な依存はそう大きくはないわけです。それからもう一つ、日本の経験とともにアセアンについて考えてみたいと思います。けれども、高成長期について考えますと、戦争がその間なかった。中国については今、中国の内外を問わず、問題がどこにあるか分からない。それから、もう一つ忘れてはいけないことは、地域的な協力、協調というものがあるということです。地域協力が例えば金融部門、あるいはその他においてどんどん強くなってきております。昔はそういうシステムがなかった、それからまた対話もなかった、組織、警戒制度もなかったわけです。ですから、我々はもう一度、一般的に楽観的になれると思います。しかし、そうかといって、やはり変動がないということではありません。これは当然のことです。
 しかし2つ目に、中国の政治的な意向について申し上げたいと思いますが、これは難しい問題です。と言いますのも、我々には欧米の民主主義という、一つの基準しかありません。実は、制度的に違ってしかるべきではないか。したがって、ここで強調したいことは、この問題の性格が1党であるか2党であるかということではありません。通常は1党が運営しているわけです。選挙があって、その後1党が運営するのが通常だからです。中国の場合は、本当の問題は開放政策、開放政治体制を構築できるかどうか、国内の人を動員する、意見を動員する、あるいは法制度を構築する、そういったことです。これを20年、30年かけてやっていくということ、これが理想的です。制度を変革するというよりも。ですから、長期的には何らかの民主主義が出てくるでしょう。おそらく何らかの変化があると思います。政策に深く関わっている人間として、そういうのが私は理想ではないか、こういう開放的な一党制というのがいいのではないかと思います。ですから、これは私は独裁というふうには呼びたくありません。1党制と呼びたいと思います。共産党としても党の運営体制というのを研究しております。いろいろと代表団をヨーロッパとか他の国に派遣して、そして党の制度を研究して、いろいろな経験を組み合わせて使いたいと思います。ですから、新しい実験と言っていいでしょう。しかし、少なくとも、近々、これを多党制に変えるということはおそらくないと思います。やりたいとしても、時期尚早ではないかと思います。
 それから3番目はナショナリズム、国家主義でありますけれども、中国は抗日感情で国をまとめようとしている、そして問題に対応しているというのは言い過ぎではないでしょうか。日本はそんなに大きな要因ではありません。中国の政治考慮において日本はあまり大きな考慮要因ではありません。しかし、これは私は自信だと言えると思うのですけれども、この自信は今後、将来良くなっていくんだという国民の期待に裏付けられております。これが結局合わさってナショナリズムとなる。若い人たちは確かにこういう改革の時期に生きて、いろいろな利益を享受しております。そして、ナショナリスティックになってきています。しかし、忘れてはいけないのは、中国は閉鎖社会ではありません。若い世代の人たちも開いた心を持っています。中国の利益をよく知っています。反対するのは不公正な扱いです。中国が不公平に扱われることです。ですから、ちょっと違ったナショナリズムではないかと思います。中国では一つのナショナリズムということではありません。いろいろな組み合わさった利益とか、あるいは関心事項というのがあるわけです。
 それから最後に、中国の通貨の上昇です。人民元の上昇、切り上げ、早かれ遅かれそういう圧力は出てくるだろうと。ですから、体制は整いつつあります。しかし、中国の輸出は実際のところ2002年で、56%ですから、どんどんシェアが増えています。単に中国だけの輸出ではないわけです。これで若干地域の問題は解決されます。単にチャイナ・ファクターというだけではありません。それから、ゴールドマンサックスの調査によりますと、PPP、国内の通貨の価値はまだ過小評価されています。しかし、輸出製品ということになりますと、これは現在PPPの段階にあります。これは非常に慎重な調査によるものです。我々の方の調査の結果も大体同じです。ですから、すぐに中国に圧力がかかって、中国の通貨、人民元を切り上げろということにはならないと思います。そうなりますと、単に中国だけではなく、切り上がった場合、地域全体に問題が出てくると思います。これで輸入が増えるわけではないわけです。といいますのも、これは先ほど申しましたが、競争力のある部門に直接投資が来るわけです。ですから、非常に安定的な輸入体制といえます。しかし、徐々に今後は中国の国内の力でもっと輸入が増えると思いますけれども、これから10年間につきましてはそういうことは起こらないでしょう。だが、わかりません。こういった圧力が強くはなると思いますけれども、しかし我々も慎重に考慮する必要があります。切り上げ、コストの上昇というのは中国地域に対して複雑な影響を与えます。
 以上です。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。先ほど、ちょうど中間地点というようなことを言いましたが、いつの間にか時間も押してまいりました。ここでまたさらに議論をすると、その先、コーヒーブレークがどうなるのかわかりませんので、一応、ここで議論の整理をさせていただきたいと思います。
 おそらく1つだけはっきりしているのは、現在の中国の対外戦略、これは国内的な問題も密接に絡んでいるわけですが、経済を中心にした地域との中国なりのエンゲージメント政策であるということは間違いないだろうと思います。例えば、第16回党大会のときの高原さんからの紹介もありました人事などを見ても、そこに少なくとも中期的なフォーカスは当てているそれが地域の情勢、それから地域の中国を見る認識というものを急速に変えつつあるというのが昨今の情勢であり、おそらくこれから10年ぐらいは少なくともその状況が続くということが予測されるということだろうと思います。
 ただ、ここでの問題は、当面の中国の政策の影の部分とでもいいますか、例えば経済政策が何らかの形で挫折をするシナリオというのは、必ずしも10年先ではなくて、それ以下のタイムスパンでもあり得る話ですし、軍事的な側面を見ている人は、当然ながら中国の経済力がつくことによって、軍事費に向けられるパイは増えるわけで、そのような、現在はなりを潜めている側面が将来、状況の展開によってはどうなるのかということを心配する人もいて、これも当然の心配であるわけです。
 したがいまして、当面の中国の戦略的力点ということは、今日張先生がおっしゃったようなことで、ほぼポイントは整理できるのだろうと思うわけですが、問題はそれを別のコンテクストの中でどういうふうに解釈をしていくかということになろうかと思います。そこでの議論のポイントはこれも多数あるわけで、ここでまた議論しますと整理がつきませんので、1つだけ、張先生の報告で、米中関係の議論で、現在のアメリカと中国の関心、利益、プライオリティーというものは違うんだというご発言があったかと思います。これは今の米中関係を極めて的確にとらえているパースペクティブであろうというように、私も個人的に思うわけです。つまり、アメリカのプライオリティーは、申し上げるまでもなく、当面はテロ、それから、それとの関連における大量破壊兵器の拡散というところでかなり焦点が絞られているわけです。しかし、中国の戦略的プライオリティーがそこにないことは申し上げるまでもない。ですから、全く別の利益、別のプライオリティーをもって、それぞれに中期的、長期的な道筋を見据えているというのが米中であって、そのためには米中はお互いに協力をした方がいいという判断なのだろうと思います。それが9・11テロ以降の米中協力のおそらく実像だろうと思うんです。
 それが続くことによって、米中関係が質的な変化を遂げる可能性も、これは可能性としてはあると思います。ただ、既にもう質的変化が起きたという議論をするのもちょっと早過ぎるということなのだろうと思います。ややまとめのためのまとめのような言い方になってしまいますが、その将来の行方というのは、短期的、中期的なプロセスに我々がどう関与するのかによって、実態はどうにでも変わり得るということなのだろうと思いますので、そういう意味でも今日のセッションでさまざまにご議論いただいた問題、実直な議論を、まさに高原先生がおっしゃったように、より広いアジア、世界というコンテクストの中で我々が問い続け、対話を続けるということが極めて重要になるのだろうと思う次第です。高原先生、最後に何かございますか。よろしいですか。
 それでは、大体3時になりましたので第IIセッションはここで終了させていただきます。この第IIセッションの参加者に拍手で感謝を申し上げたいと思います。(拍手)







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