パニタン・ワッタナヤゴーン 高原先生は非常にうまくアセアンの影響を評価されたと思います。非常に深い洞察力に富んだ評価であったと思います。皆さんも基調報告を読まれたかと思いますけれども、アセアンは非常に今、幾つかのタイプの国に分かれております。影響力の大きい国もあれば、あまり影響力のない国もあります。経済的な格差、アセアン加盟国の格差がさまざまなわけです。ですから、全体的な結論としてアセアン全体について言うことはどうでしょうか。
ただ、そうは申しましても、国によって、例えばシンガポールの場合、これはあまり影響は受けていないと思います。ただ、タイ、それからフィリピンもそうでしょうけれども、あるいはまたインドネシア、こういったところは非常に懸念を持っております。ですからこそ、何らかの合意がアセアンと中国の間で必要です。自由貿易地域とか、あるいはその他の取り決めが必要であるということなんです。
現在のところは、私も楽観論です。我々アセアンは単に日本だけではなく、中国も必要だと。それから、韓国も必要だと。こういったところで経済回復を図るのが必要だと考えております。また、協定もできるだけ早く実施する必要があるこれは当然、アセアンの内的状況によります。アセアンは皆さんご存じのように、非常に今、重要な移行期にあります。人によれば、インドネシアはもうこのまま長く続かないと、ひょっとすると独立の動きもあると。これは分かりません。どうでしょうか。今のご質問に対しての答えになったでしょうか。
染谷芳秀(議長) アセアンは一方において中国の動きをどう思っているか。それから、日本のイニシアチブはどう思っているか。それを比較してどう思うかについては如何でしようか。
パニタン・ワッタナヤゴーン それ以上のことが必要です。もっと多くのことが必要です。アセアンは何とかバランスをつけるようにするだろうと思います。それはアセアンの問題です。国によっては日本のことを必要としている国、中国をあまり必要としていない国、あるいは逆に中国を多く必要としていて、日本のことをあまり必要としていない国というのもあると思いますけれども、そのため不確実な状況が続くだろうと思います。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。それでは高原さん、お願いします。
高原明生 まず長谷川大使から日本の対中政策の基本姿勢といいますか、そういうお話を頂戴しまして、私も同感するところが多かったです。
ある、これも別の外交官の方ですけれども、日本というのは中国に対してこういうふうに言ってきた。日本と中国というのは2畳とか3畳の狭い部屋で向き合って対話するのではなくて、大広間に出て、自分たちの関係を世界の中で相対化して、そしてつき合っていくべきではないかと、そういうことをおっしゃって、それは具体的に言いますと、地域の中の日中関係、あるいは世界の中の日中関係という、そういう視点でやっていきましょうということを、実は日本はずっと言い続けてきたわけです。
そういう観点から、特に六四事件以降、あるいは冷戦後と言ってもいいと思いますけれども、海部総理のころから頓にそういう姿勢をはっきりと打ち出して、六四後の経済制裁も最も早く解き、G7の中で最初に北京を訪れた首脳が海部総理であり、そしてGATT、WTOへの中国の加盟を日本は積極的に推進しました。クリントン政権になってエンゲージメント・ポリシーという言い方が普及しましたけれども、実は中国に対するエンゲージメント・ポリシーを日本は早くからとっていた。そういうことだったと思うのです。
ただ、そのことがいつの間にか忘れられて、最近は中国が地域の中の日中関係ということを盛んに言っているのに対して、日本はちょっと及び腰になっているかのような印象を与えているという、そういう状況が実は存在しているのではないかと思います。ですから、こうした地域協力の推進ということについて、もっと日本人は自信を持って、俺達が言ってきたことじゃないかと、自分の政策をもう一度振り返ってみることが大切ではないかという感じを私は最近持っています。
それから、秋山先生から中国で今後起きてくる最大の問題は何かという質問がありました。一定の経済水準に達すると出てくるさまざまな問題もありますし、それから、今は景気がマクロ的にはいいものですから、去年成長率が8%あったわけですけれども、そうした経済成長率の高さによっていろいろな問題が隠れている分はいいんですが、これが例えば経済成長率が4%とか3%に落ちたときに、先ほどの天児先生のご質問とも関係しますが、そのときに一体どういうことが起きるのか。これは大変重要な、深刻な問題であるわけです。8%成長率がありながら、失業率が非常に高いわけです。これも正確な数字はよくわからないのですけれども、実態としては10%ぐらいはあるのではないかと言われているわけです。それがもし経済成長率が下がった場合、社会の安定が保たれるのかどうなのかということが大変重要なポイントになると思います。そのときに、ナショナリズムが非常に不健康な形で噴出しないかというのも、実は非常に心配されることであるわけです。
そうした問題が表面化する、あるいは制御不能にならないためにどうすればいいのかということですけれども、やっぱり基本的には所得の再配分機能を国家が強化しないとだめだと思うのです。税金なんて計画経済の時代にはなかったわけですから、税金を取り始めてまだ何年という、そういう状況です。徴税能力の強化、これがもちろん大切で、中国もそのことはよく分かっていて、今やっているんですけれども、いかんせん中国は広いですから、あの大きな国、あの懐の深い社会の末端までいって、きちんと税金を集めるというのは実は大変なことでありますし、また、それを上手に配ることができるのか。その辺の基本的な国家能力といいますか、そこのところを強化しなければならない。日本のような国であれば、そうした国家の行為というのは法律によって規定されるわけですけれども、中国はまだまだ残念ながら法治国家ではありませんので、そうした法に代替する規律維持機能を果たすのは、これはやっぱり党なのです。共産党が今、市場化の規律、秩序を保っている。共産党の側から見れば、これは非常にいい、新しい役割を見つけたわけです。市場化によって自分たちの権力が相対化されていくという問題があるだけれども、よく考えてみると、この市場化というのは、もちろん秩序ある市場化でなければならないわけで、その秩序を保てるのは自分達しかいないんだと。そのときに梃になるのは人事であるわけなんです。人事権という梃をにぎった共産党がおそらくは大きな役割を果たさざるを得ないだろうと思います。しかし、他方、じゃあ法治化しなくていいのかというと、全然そういうことじゃなくて、その権力を制約するということは大切なことですから、汚職腐敗の問題も非常に深刻でございますので、胡錦濤新政権は法治の強化ということに大変力を入れていく姿勢を既に示しています。そういう状況だと思います。
それから、岡本先生からナショナリズムの問題がありまして、ちょっと私の書き方が単純過ぎたかもしれないんですけれども、ご指摘のように、ナショナリズムの問題は非常に複雑だと思います。つまり、経済成長の結果、自信が出て、民族主義が高まったという側面は事実としてあると思いますけれども、ナショナリズムが非常にある意味で不健康な形で出るときというのは、どちらかというと景気が悪くなっていくときです。今の日本の状況を見ましてもそういうことを感じますし、さっき申しましたように、これから中国の経済がだめになっていったらどうなるんだろうという心配が確かにそこにはあるわけです。
中国の歴史教育についても私は不満なところがあって、いろいろなところで書いたり言ったりしているのです。問題があることは間違いないのです。どういうことかと申しますと、中国のこうした問題についての考え方としましては、対日関係の一つの重要な原則としまして、歴史を鏡として未来に向かっていくという、そういうフレーズで言われていることがあります。そのこと自身は非常に結構だと私は思います。ただ問題は、歴史を鏡とすると言ったときに、どうしても戦前、戦中の日中関係史を鏡としてというふうにとられがちでありますし、実際に教育の内容を見ましても、日本との歴史というとその部分しかないかのような教え方を実際しているわけです。それでは困るだろうと。つまり、60年前、70年前の日本人と今の日本人は全然違うわけですから。あるいは、60年前、70年前の日本と今の日本は全然違うわけですから、私がいつも中国の方に申し上げているのは、歴史を鏡とすると言ったときの歴史というのは、潮流として見るべきではないか。潮流として見た歴史、それが非常に重要ではないか。
逆に考えてみますと、日本の歴史教育も問題がないのかというと、そんなことはない。これは逆に、やっぱり近代の日中関係史をあまりにも教えなさ過ぎるということがどうしてもあると思います。中国でいろいろな坑日記念館だの九一八記念館だのというのがありますけれども、あれは昔からあったわけじゃなくて、日本の政治家が何か不規則発言をするたびにああいうものができていくのです。そうした複雑な事情がやはりナショナリズムの問題を巡ってはあるのだと感じています。
ですから、例えば、靖国の問題が今ありますけれども、小泉首相にお願いしたいことは、発表された彼の言葉によると、間違った国策だったというふうにあの戦争のことを言っているわけですけれども、その間違った国策によって命を失った、犠牲になった人々の魂を慰めるための参拝であるならば、なぜその間違った国策を採用した責任者をも拝むのか、この点にどうしても矛盾があるわけです。そこのところは、本当のところどう思っているのかということをよく説明しないと、アジアの人々は納得できないと思います。それが靖国については私が最近考えていることです。
それからNGOですけれども、これもまたおっしゃるとおりで、何でもいいというわけではないです。NGOイコール善とか、NGOイコール素晴らしいとか、そんなことを言うつもりは私は全くありません。ただ、非常におもしろいエピソードがあって、ある日本の右翼団体が、中国の日ごろの言動は大変けしからんといって、たしか数年前、中国に招かれて、中国の研究者と交流したことがあります。この結果が非常によかったようです。どちらもお互いに対する理解を深めて、大変建設的な話し合いができたと聞いております。
ですから、何にせよ、いろいろなレベルで、裸のつき合いをするというと抽象的できれいごとのようですけれども、結局のところは、決定的な、素晴らしい、逆転さよなら満塁ホームランみたいな解決策はないのです。長谷川大使がおっしゃったように、本当に淡々と、それぞれがそれぞれの持ち場で地道に交流をして、お互いの実像を知っていくという以外に道はないのではないかと私は最近感じている次第です。
染谷芳秀(議長) ありがとうございました。おそらく張先生、すぐにでも何かおっしゃりたいと思うのですが、ちょっとワンクッション置いて、韓国にミドルパワー・ディプロマシーについての説明を行っていただきたいと思います。秋山さんの質問で、日中の間での韓国の役割ということがありましたけれども、それに限らず、おっしゃりたいことをどうぞ。
金 宇祥 簡単に申し上げたいと思います。秋山先生は日中関係における韓国の役割という、非常に困難な点に関してご質問されたわけですが、韓国も懐疑的な目を向けているんです。例えば、19世紀、20世紀初頭というところを見ますと、韓国はいろいろな勢力圏に対して朝鮮半島において戦ってきたわけですし、領土を一時失うことがあったということで、懐疑的な日を向けていることは向けているんですが、しかし、やはり韓国は楽観的な見方というものをこの地域において打ち出さなくてはいけないと考えております。
問題は安全保障上のジレンマで、日本が、もしくは米国が中国を潜在的な脅威と見なすたびに、米国、日本がそれぞれ軍事力を増したり、もしくは潜在的な脅威に対して対抗しようとすると、中国の立場というものは不安定化するわけです。日中もしくは米中の潜在的な対立ということをにらんで、中国自身が不安な状態になり、そしていろいろな意図を持つということになりかねないわけです。そうしますと、今度は日米の不安定性というものにもつながるわけで、これはまさに悪いスパイラル的な競争状態が3カ国で台頭するということになるわけです。やはり韓国もそういったことに関しては隣国に対して懐疑的な目を向けているわけですが、しかしながら朝鮮の場合、この場合統一された朝鮮半島なんですが、我々はやはり楽観的な姿というものを描いていく上で一番いい立場にいるんじゃないでしょうか。中国に対しては楽観的な見方をするということが良いのではないかと考えております。
盧武絃次期大統領は、韓国自らの役割に関して意見を述べていまして、韓国は経済的に東アジアで中心的な役割を担うことができるということを言っております。私の提案も若干似かよっております。少し違うんですが、私が言いたいのは、韓国は中心的な外交上のパートナー、もしくは文化上のパートナーの役割を担うことができるということなんです。すなわち、経済だけに軸足を置くのではなくて、外交、文化の面でも中心的な役割をこの地域において担うことができると考えております。交渉のテーブルにおいて、日本のために、中国のために、将来的にいろいろ役割を担うことができる。また、スポーツ活動とか、その他国際的な交流の分野においても、我々は役割を発揮できると考えております。こういった形を通して、韓国はみずからの役割を発揮し、日本、中国の今後、もしコンフリクトがあるとすれば、そういったものに対応していきたいと思います。
国際理論として一つ存在するのが、もし、ある国が衰退しつつある覇権国に何とか追いつこうと、チャレンジャーとして追いついている場合にどうなのかということなんです。非常に不満を抱えている台頭する中国というのが追いつこうとしている存在であり、また衰退しているヘゲモン、覇権国が米国だと捉えますと、こういった中で戦争が最も起きやすいというような理論もあります。ですから、こういった中で統一朝鮮半島としては、中国がその不満度を下げるように、減らすように働きかけるということであり、覇権国・米国などに対抗しないようにすることです。
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