5. 自由討論:出席者全員
添谷芳秀(議長) 大変ありがとうございました。
まず張先生から今現在の中国がどのような発想で、どのような地域秩序をイメージして対外政策に取り組んでいるのかということをご説明いただいたと思います。張先生は最近の中国の目覚ましい対外的な働きかけ、具体的にはアセアンとのフリー・トレード・エリアの働きかけが中心ですが、そのプロセスの中心にいた方でありまして、まさに今の中国の考え方、プライオリティーというものをそのままお話しいただいたものと思います。
それから、金先生は朝鮮半島統一後の一つの理論的な可能性として、統一朝鮮が中国とバンドワゴンをする、長いものには巻かれろという戦略をとらざるを得ないということも一つのシナリオとしてご指摘いただいた。つまり、朝鮮半島の立場から、中国、あるいは中国に関連する国際情勢の展開の中での自分たちの生き方というものをそれだけ真剣に考えているということであったと思います。
また、パニタン先生も非常に東南アジアらしいと言うと語弊があるのかもしれませんが、中国との地理的な長い境界線を持ち、歴史的に中国の影から逃れて物事を考えられないという現実の中から、東南アジア流のバランスのとれた、なおかつ東南アジアの視点からの現実的なポイントというものを非常に的確にお示しいただいたと思うわけです。
したがって、これがこの議論の基本的なテーマになってくると思いますが、それでは果たして日本の対中政策、対中戦略というのはどの辺に軸足を置くのか、あるいはどのような地域的な広がりでのコンセプトの中に我々の対中政策というものを位置付け、なお意義付けていくのかということが問われるわけです。その辺を少し頭の片隅に置きながら、これから活発なご議論を頂戴できればと思います。まず長谷川さん、よろしくお願いいたします。
長谷川和年 どうもありがとうございます。
今、添谷先生から問題提起があって、日本の今後の対中政策をどうしたらいいかということだったのですが、その前に一つ、私の意見を申し上げたいと思います。
かつて、1967年に文化大革命があったのですが、今日の中国はそれとは全く違う。中国の対外政策は国際協調が一つの重要な原則になっているのではないかと思うのです。私の知っている具体例を挙げますと、かつてユーゴの紛争、コソボのころ、アメリカの空軍機がユーゴスラビアのベオグラードの中国大使館を誤爆した事件がありました。あのとき、中国・北京では大変な反米デモがあったわけです。当時、ちょうど私の知っているある東南アジアの友人が北京に行って、中国の関係者と話をして、帰りに東京に来て私と会いましたら、中国の関係者の説明を聞いて安心したと言うのです。中国は北京市民の自発的なデモを抑えるのはまずい。しかし、あのデモをガス抜きにして、この問題はアメリカと話し合って、平和的に解決する方針であると、そういうことを言っていたとのことでした。私も安心して、このことを日本の外務省に伝えました。その何年か後に、南シナ海の海南島で米国の偵察機の不時着事件があったんですが、これもいろいろ感情の問題があるでしようけれども、中国は米国と話し合って平和的に解決したわけです。
こういった具体的な案件を見ても、中国の基本的な対外政策は国際協調ということではないかと思うんです。人事を見てみますと、皆様ご存じのように、かつて外務次官、外務大臣をやった銭其  さんが副首相です。あるいは、そのころ私は外務省のアジア局長だったのですが、東京の大使館で公使をやった唐家旋さんが帰国して、中国のアジア局長、外務次官をつとめ、今は外務大臣をやっているんです。こういった国際環境をよく知っている、心得ている人が中国の外交の衝にあるということはやっぱり中国が国際協調ということを重視しているのではないかと思うのです。
私は、結論から申しますと、やっぱり東アジアの国は中国といろいろなレベルで対話をどんどん進めていく。マルチでは午前に私が申しましたAPECだとかARFだとかアセアンPMCとかいろいろあります。こういった場を通じて対話を進めて、相互理解を深くしていくことが肝要と思います。それから二国間でいろいろ話し合う。実は、日本は中国と閣僚委員会というのを開くことになっているんです。残念ながらこのところずっと開いていないんです。こういったことはやっぱり良くないので、こういった場を設けて、中国といろいろ話し合っていくことが重要じゃないかと思います。
結論から申しますと、アジア局長を経験した私としては、中国に対しては構える必要はない。淡々とビジネス・アズ・ユージュアルでもってやっていくことが重要じゃないかと思うわけでございます。ありがとうございます。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。では、次、秋山さん、お願いいたします。
秋山昌廣(シップ・アンド・オーシャン財団会長) 高原先生と、できましたら張さんに後ほど意見をいただければと思います。
非常に乱暴な言い方をしますと、中国の経済とか国力のいわゆるライジング・チャイナという現象、それは今後も続くと私も思いますが、同時にライジング・チャイナの勢いと同じように、あるいは経済の規模が今はキャッチングアップというところがあるでしょうからどんどん大きくなってくると思いますけれども、ある一定の水準になるといろいろな問題が国内で起こってくる。先ほど高原先生も言われました。そういう問題がエコノミーのライジング・チャイナで吸収できない状況が起こる可能性があると私は思うんです。そのとき・その原因、最大の理由は何なんだろうか。何が最大の問題なのかということと、それをどうやったら克服できるのかということについて高原先生と張さんの意見を聞かせていただければ大変ありがたいです。そこでの一つの問題で、一党独裁政治という政治体制がそのときプラスなのか、マイナスなのか、両方見方はあると思うんです。あるいはその時変わっているかもしれませんが、政治体制についてのご意見を伺えればと思います。
もう一つ、意見と質問をしたいんですが、金さんに対してなんですけれども、日本は確かにアメリカと同盟国です。そして、日本は中国ともいろいろな関係が強いです。米中関係の将来のために日本の役割は大きいということを言われました。私もそういう視点での役割の大きさも認めます。しかし、もともとは日本自体の問題として日中関係を私は今後展開していかなくてはいけないと思っております。金さんの論に従えば、韓国は地政学的には中国と非常に近い。あるいは、リ・ユニファイド韓国もそういうことになります。同時に韓国は日本とも近いし、いろいろな歴史的、民族的、いろいろな関係がある日中関係についての韓国の役割ということについて、何か金さん、お考えがあれば聞かせていただきたいと思います。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。次、高瀬さん、お願いいたします。
高瀬 保 最初に中国がWTOのメンバーになったということを歓迎させていただきたいと思います。張先生が言われましたように、私は同じように中国というのは既存の国際体制からメリットを享受できる国だと思います。WTOを含めてであります。ご存じのようにWTOのメンバーになるということは、市場経済を実施しなければいけないのです。そして、政治的なシステムには関知していません。民主的であるとか、民主的でないというような政治的なシステムは要件となっていません。これは共産主義国にとっては都合がいいことであります。
政治体制改革は経済体制改革の後についてくればいいというやり方をとっています。ですから、WTOの基本的な姿勢としては、経済条件が第一であるということで、これは正しいことだと私は思います。
また、中国には国内問題が多々あるということを認識しておりますけれども、こういった問題は平和裏に解決できると思います。中国は外の国にも依存しているのだということを認識すれば、当然そういう考えに至ります。皆さんご存じのようにイラクとか北朝鮮、こういった国々が問題となっています。しかし、こういう問題は遠からず解決されるでありましょう。彼らの体制は長続きはしません。彼らは独善的な独裁体制、専制体制をとっているからであります。ですから、中国というのはどんな問題があるにせよ、必ずや解決策を平和裏に見つけてくださるだろうと私は確信しております。国際社会の一員として必ず平和裏に解決なさるだろうと思います。この事実はみんなにとっていいことであります。なぜならば、いろいろな問題解決の手段はあるわけです。しかし、一国は他国に依存しているものということを認識さえすれば、結局は平和的な手段を探求せざるを得ないのです。以上です。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。岡本さん、お願いいたします。
岡本幸治(近畿福祉大学教授) 初めて関西から参加させていただきました。高原さんのお話、私は基本において、短い時間でよくまとまった問題提起だと思うのですが、あえて2つ、細かな点に異論を申し上げたい。
第1は、ペーパーの中で、目覚ましい経済成長の結果、中国国内ではナショナリズムの高まりが見られ云々とありますが、私は、経済成長で自信がついたことがナショナリズム高揚の唯一の原因だとは思わないんです。中国国内で、江沢民体制下において抗日愛国主義を教育及びマスコミを通じて盛んにかき立てておるという事実があります。これは経済成長と間接的な関連があると思うのですが、共産党の統制が以前のように強力ではない。社会が多元化しておる。それを統合するための道具として、外にいわば敵を設けて、その絶好の標的として日本を使っておるこれが靖国、及び歴史教科書問題で繰り返し日本に対して、内政干渉と言っていい干渉をやる理由とも密接につながっておると思います。日本政府、及びここには外務省のOBもいらっしゃるようでありますが、外務省主流はこういった問題に対してひたすら波風を立てない、平穏無事にという態度でやってきたように思われますけれども、昨年後半以来、特に拉致問題以来、中国・韓国問題とは関係がないのですけれども、日本の世論は変わり始めておる。どう変わり始めておるか。近隣アジアに対して日本政府及び外務省のやってきた基本姿勢に対する不満が高まってきていると思います。つまり、この問題をどうするんだということをはっきり日本が姿勢を固めませんと、今までのように逃げを打って、謝罪を繰り返しているというところでは、中国並びに、これは韓国も含めてもいいと思いますが、目先の関係はよくなりそうに思うけれども、将来に実は関係悪化の大きな種を残すということになりかねない。これに対してどう対処すればよいとお考えか。
それと最後に、NGO、1,000ぐらいあるんだそうですね。初めて知りましたけれども。日中友好協会はじめ、関西にも日中友好と冠したいろいろな団体がありますけれども、この実態を見ますと、必ずしも日中の真の交流にはプラスになっていない。ごく最近も京都府のある経済団体がありました。中国に投資を進めよう、経済的交流をもっと進めよう。そこは結構なんですが、最初にした世話人の挨拶は、中国の過去に対して謝罪をまずやらなければいけないんだと。そういうことから経済問題を論ずるこれは友好団体と言っておりますけれども、実際には中国の立場を一方的に日本に注入するための団体でしかない。NGOの数が多い、これが市民交流に貢献しているからといって、相手にすり寄るばかりで本当の相互理解のない集団ばかりでは、私はあなたの言われたようにはあまり楽観的にはなれません。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。続いて麻川さん。
麻川黙雷 張さんのお話は、2点について興味を持ちました。1つは絶対的貧困層が奥地にいるということ。2つ目は、やがては国内の“力”中心ヘシフトしていくだろう、という、この2点を興味深く受けとめました。
そこで、中国に対する私の意見ですが、世界的天才詩人であるゲーテは、バランスシート(複式簿記)の原理は、人智の産んだユーグリッドにならぶ絶対的完全原理であるとよみました。尊厳をそなえているバランスシートは、民主主義の原風景だと思います。その職能は、責任の所在を明らかにし、作偽不正を予防し、産業を指導し、出資者の持ち分を決定し、有限を生きる人間にとって経営上の核心である期間損益を決定し、政府に財政活動の便益を供し、経営者を含め能率判定の手段を提供しております。そのためには、ディスクロージャーが不可欠です。そこで日本の対中政策としては、地縁、血縁による隠蔽(いんぺい)を排除して、市場経済・市場原理を支援するそして民主主義を中国において前進させていくべきだと思います。以上です。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。天児さん、お願いいたします。
天児 慧(早稲田大学アジア太平洋研究所教授) どうもありがとうございます。中国をめぐる問題でしばしばライジング・チャイナということとチャイナ・スレットという、この2つの問題が重ね合わされて議論されていると思います。私はこの2つは実は違う問題であると考えます。これは高原さんのご指摘の中にもそういう意味合いが含まれていたと思いますが、日本としてというか、あるいは外からどういうふうに今のライジング・チャイナ、チャイナ・スレットを見るのかという点について、私なりの考えを紹介いたしますと、やはりこれをストラテジックに見るとするならば、2008年、2010年あたりというのは非常に大きなポイントだろうと思います。ご承知のように2008年は北京オリンピック、2010年は上海万博が開催される、つまり、今の中国の勢いはこのオリンピックと万博が大きな要因となって、これは間違いなくいろいろな手だてをしても今のペースの成長を続けていくと考えます。
その間、もう一つ大事な点は、中国はこれは張先生も言われたように、コーポラティブな、そういう協調的な姿勢というものを非常に大事にしていく。敵対的な関係をとることができないという、そういう非常に強い拘束性があると思います。そういう意味でいえば、2008年、2010年あたりまでは中国はこの勢いで走り続けるだろう。しかし、それから先を考えたときには、かなり重要な問題といいますか、困難な問題というものが中国に既に内包しているこれが表面化してくる段階になるのではないかと思います。おそらく2007年に第17回の党大会があり、第18回の党大会が2012年ということになりますが、そうしますと2012年あたりに先ほど仰られた党の体制の問題も問われてくるだろうと私は思いますし、国内的にいえば、例えば中国は老齢化社会にも入りますし、環境問題も深刻になりますし、エネルギー等々の問題、こういうことも出てくるわけです。
それから、国際的な圧力からいきますと、一つは金融の自由化、WTOの加盟以降、これは確か2007年あたりが一つの自由化のポイントだと思いますが、この自由化を通して相当の金融の国際圧力というものも来るでしょうし、それからおそらく先進国−日本、アメリカ、あるいはヨーロッパ、こういった地域におけるデフレ状況がこのまま続いていった場合に、これは中国の経済成長にも徐々に影響を与えてくることになると思います。
そういう意味で、私は2010年以降の中国に対して今までと同じように、いわばライジング・チャイナ、あるいは非常にオプティミスティカルな中国像から中国との関係を考えるということは厳しくなってくるのではないかと見ております。ありがとうございました。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。坂本さん、お願いします。
坂本正弘 今朝、白石先生がアジアでは開発主義は終わったというお話をしたんですけれども、私は開発主義というのは日本から発して、NIES、アセアンを抜けて、今、中国で花開いているのではないかと思っております。その関連というか、中国のそういうライジング・チャイナをいかに活用するかというお話でございますけれども、最近の国際経済の常識では中国が非常に輸出を拡大しているそして、片一方で輸入を拡大して、したがってそれはアセアンや日本もメリットを受けるだろうという議論ですけれども、中国とアジアの国の産業構造というか、そういうものを比較しますと、一番中国と競争的なのはアセアンです。きょう、タイの方が言いましたけれども、日本には脅威論は多いけれども、実は日本はまだ補完的である。やがてそのうち違ってくるかもしれません。
したがって、こういう状態でいくと、中国の賃金というのは上がりませんから、やはりアセアンが壊滅的な打撃を受けるだろうという議論がかなりあります。これを緩和するには、中国の元を切り上げるというのが一つの有力な手段になると思いますけれども、この点、中国から来られた張さんはどうお考えになるのかということと、それからタイから来たパニタンさんは、こういう中国とアセアン、タイはまだそうでもないかもしれません。インドネシアとかそういう国は非常に大きなコンペティションにあって、かなり大きな打撃を被るんじゃないかという説がありますけど、こういうのはどうお考えになりますか。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。ほかに今、札がございませんので、ちょうど時間も半分ほどですので、一度パネラーの方にそれぞれお答え、ご議論を頂戴したいと思います。順不同で均等に質問がありましたので、機械的に左側のパニタンさんのほうからお願いできればと思います。
今の坂本先生の質問に加えて、関連すると思いますので、私の方から1つ付け加えさせていただきたいのですが、アセアンから見た場合に、中国のフリー・トレード・エリアのイニシアチブと、それから昨年度の小泉首相のシンガポールでの政策スピーチとをどのような感覚で両方を比較してご覧になっているのかということも加えていただけるとありがたいと思います。
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