4. コメントC:パニタン・ワッタナヤゴーン(タイ・チュラロンコン大学教授)
パニタン・ワッタナヤゴーン ありがとうございます。中国の台頭について6つほど申し上げたいと思います。
第1点ですが、これは私に言わせますと、当然中国の台頭というのは大きな現象です。国際政治的にも21世紀、あるいは次世紀に大きな影響が出てくると思います。これはもう明確だと思います。これがいいのか、あるいは悪いのか、これはまた別の大きな論議です。楽観論者、悲観論者が、同じように中国の台頭について討論しておりますが、楽観論者は、中国は地域、あるいは世界の経済における相互依存の一方であるとするもので、もう一方で、悲観論者は地政学的な状況、それからまた中国のアジアにおける、あるいは世界における競争力を見た観点からの議論があると思います。将来はこの真ん中にあるのではないかと思います。
一つはっきりしているのは、最初の1点につきましては、中国の台頭によってアジアの将来の不確実性が下がったということです。戦略的な確実性が下がってきているわけです。ですから、これからどうなるかよく分からないという点で、これが第1点です。もちろんヘンリー・キッシンジャーのような人たちは非常によく言っていますが、アジアというのは戦略的な競争力を有するようになるのではないか、中国は戦略的な競争者になり、アジアで台頭すると言っておりますが、これもまた議論を呼ぶでありましょう。
それから第2点は、これは当たり前のことかもしれませんけれども、中国には非常に大きな軍があるということです。理由如何にかかわらず、これは事実です。また、非常に戦略的な近代化を今遂げているということです。能力を今増している。空軍力、あるいは海軍力を増強しています。ゆっくりしている、それからまた限度はあるでしょう。これもまた事実でしょう。しかし、やはり成長しております。近代的な軍が中国では着実に伸びております。経済的な力とともに伸びているわけです。そこから中国が積極的な行動に出るか、それは分かりませんが、ただ、これは仕方がない。核兵器を持っている大国です。非常に高度な近代化を図っている。これが第2点です。
第3点は、これは間もなく中国の戦略的な関心事項がアジアと合わさるだろう、特に東アジアと軌を一にするだろうということです。これはシーレーンのことです。東南アジアには世界の半分の船が通っております。これは日本、あるいはアメリカがシーレーンを東南アジアにおいて、できるだけ安全を確保するということが重要です。中国も2015年まで輸入は増えるでしょう。中国はシーレーンの安全性については非常に大きな関心を寄せております。利害もあります。ですから、日本、アメリカ、そして中国の戦略関心事項が東南アジアがある意味でこれから同じ方向に動くでしょう。これが第3点です。
それから第4点は、この地域の安定とは、日米同盟関係に依存するということです。中国は40年間そういう状況で来ており、今後もそういう状況が続きます。中国は、日米戦略関係の変化を恐れており、これが中国の戦略的な思考に大きな影響を与えます。もし、日本がもっとアメリカから独立をする、あるいはまた日本がアメリカにもっと依存をする、NATOタイプのシナリオにいく、そういったシナリオの変化によって、中国が脅威を増すわけです。ですから、この地域の安定の将来は日米の戦略的同盟のバランスがあまり大きく変わらないということに依存するだろうと思います。もちろん、中国は日本を、一方で日本は中国を封じ込めようとしているのか、あるいはまた独立した力と見ようとしているのかと、そういうパーセプションの変化というのが、この地域の安定性については非常に問題だろうと思います。これが私の第4点です。
第5点、これは楽観的な見方でありますが、ライバルよりも戦略的な日中あるいは東南アジアの関係ということです。特に、日・米・中の関係です。中国がインド、あるいはアメリカではなくて日本がシーレーンをコントロールするか、そういう見方を将来するかどうか。つまり、中国の方が、アメリカが戦略的な、特に、シーレーンの防衛ということについては役割を果たしているということは受け入れられたと思います。中国としては、ある程度容認する。中国、アメリカがもっと関与すると。重要なアジア、あるいは東南アジアのアクターとして台頭してきても問題ないと。特に、シーレーンの安全ということでは容認すると思います。戦略的な、例えばマーケットメカニズムということにつきましては、中国はぜひ私としては建設的なパートナーになってもらいたいと思います。これが私の主張の第5点です。
それから最後の点ですが、アセアンの長期的な将来そのものがミドル・パワーではなく、ミドル・フォースとして役割を果たすのではないか。長期的なアメリカと日本の問に立って、あるいは中国との間に立って役割を果たすのではないかと思います。これは後ほどまた最後のセッションで詳しく述べたいと思います。アセアンがどうするかということ。今はアセアンは、国として、あるいは組織として内部的な危機を抱えております。ただ、問題は中国がこういう役割を受け入れられるかどうか。アセアンができるのか。中国はこういったものを中国の封じ込めと見るのか。アセアンは決意を持って厳しい決定を行うのかどうか、それは短期的には分かりません。しかし、中・長期においてはこういう課題、あるいは圧力、戦略環境が変わるということで、アセアンはそういう方向に動くと思います。しかし、これは大分先の話でありますので、政治学者は皆さんご存じのように、あまりはっきり将来を予言できませんから、私の申し上げるのは、とにかくアセアンはもうちょっと中庸な役割を果たす、もし、アセアンがもっと結束が強化できればそういうことになると思います。それが私の申し上げたい点です。ぜひ皆さんのほうからもご意見を頂戴したいと思います。ありがとうございました。
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