2. コメントA:張 蘊嶺(中国社会科学院アジア太平洋研究所所長)
張 蘊嶺 議長、ありがとうございます。前のセッションで申し上げましたように、日本を描くということは非常に難しいわけです。また、そういった意味で中国を描くということもとても難しいことだと思います。幾つか申し上げてみましょう。台頭する中国とどうつき合うかということにつきまして幾つか申し上げます。
まず、中国は自らをどうイメージしているんでしょうか。第1点、中国は台頭しているこれはその通りです。しかし、中国は途上国ですので、長い時間をかけませんと本当の意味での先進国にはなれません。中国が欲しているもの、それは平和な環境、安定的な移行、そして継続的な経済成長、それを少なくとも半世紀は続けたいと思っているわけです。しかし、継続的な経済成長を半世紀続けるというのは難しいことです。中国は最初の20年間をかけて戦略的なチャンスを捉えて、そして開発しようと思っているわけです。それが私はキーワードだと思います。第16回党大会の書類にもそれが出ていると思います。21世紀の最初の20年は中国にとって戦略的な時期であり、チャンスの時期であると定義付けられています。このような判断、あるいは戦略的な定義を行うということが非常に大きな影響力を持っております。中国の将来の政策に影響しております。これは国の中でもそうですし、国の外でもそうだと思います。
第2点、中国は既存の国際システムに統合することによってメリットを受けることができます。そのためには協力的な行動をとらなければいけません。グローバルな場でも、地域的な場でも協力的な行動を大国に対してとっていかなければいけないし、隣国に対してもそうした行動をとらなければいけません。そして、歴史の遺産は慎重に扱っていかなければならないと思っていますし、安定的な平和的な環境を創るためには距離を持つということが重要なわけです。ですから、協力的な態度ということを申しました。大きな問題に関しては協力的な態度を見せなければいけない。
第3点、中国の一番大きな問題は中国自身の問題であります。一番大きな課題は、どうやって安定的な経済、政治、そして社会的な意向をマネージするか、管理するかということです。いろいろな問題が多岐にわたって存在していますが、これは高原先生の方からも言及がありました。しかし、中国の指導者も国民も将来に対する自信を深めております。この自信を持つというのはとても大事なことだと思います。自信があるということによって、世界に対して敵対的な世界ではなくて、友好的な世界だと考えることができます。そして、忍耐強く自らの問題を解決しようと思う気になるでしょう。特に台湾の問題、あるいは国境問題、そしてそういったものに対して忍耐強く当たれるようになると思います。非常に一般論的な発言でございましたが、中国はそういった形で自らの問題を認識しております。これは大体いいことではないでしょうか。
ちょうど今、言われましたように、地域格差、所得格差、そういったものがあります。政治改革が必要であるということもありましたし、経済成長の持続可能性とか、そういった問題も縷縷ありました。ご指摘がありましたけれども、学者も、それから指導者も政治家もそういった問題の認識はきちんと持っていると思います。しかし、あまりにも問題が複雑でありますので、そういった問題を慎重に、用心深く扱っていかなければならないのです。地域格差も所得の格差も正確に理解をする必要があります。中国というのは地域によって構成されておりまして、どこを見るかによって全然違います。地域ごとに分けてみますと、また全然違う絵が描けるわけであります。ですから、所得格差も全く違った絵が描けるということもあるのです。第16回党大会の時にも明確になったのですけれども、中所得階層を増やすということであります。すなわち、上と下の極端に金持ちと極端に貧しい人をできるだけ少なくするという意味で、絶対的な貧困層を少なくするということですけれども、この人達というのは、大体非常に奥地に住んでいるわけであります。
中国をどう理解するかという話ですが、第16回党大会の報告書に、中国についてのいろいろな特徴が描かれております。安定を持つ、そして不安定性を持っている移行期にあるわけで、そのどちらの見方をいたしましても、大体移行には20年ぐらいかかるのではないかと思われます。そして、中国が経済的に離陸するということは、他国にとって問題にもなるでしょうけれども、決して他の国にとって悪夢になるということではないと思います。このようなテイクオフの最初の時期におきましては、経済のオープンモデルをとることによって、中国はもっと投資を誘致することになるかもしれません。しかしながら、徐々に、非常に重要な地域経済にとってのエンジンに中国自身がなっていくことでありましょう。中国のモデルが徐々に国内型のモデルにシフトしていくと思います。国内消費中心、国内の力中心というふうにシフトしていくと思います。「4匹の龍」とか、あるいは「NIESモデル」とか「日本モデル」とは違ったようなものになるでしょう。中国は成功を享受しておりますけれども、一人勝ちではないと思います。中国の経済成長は他者に依存するところが大であります。しかも、「日本モデル」とは違います。また、「韓国モデル」とも違います。
それから、中国の脅威論ですが、中国が他のプレーヤーからのインプットによって世界の工場になっているということは、ネットワーク経済になっているということを意味しております。東アジアは水平分業、あるいは雁行形態から新しいネットワークモデルヘと変質をしております。それとともに、いろいろな国々がネットワークの中で一緒になることが可能です。ですから、こういった新しいことが今展開中なのだと思います。日本だけが重要な役割を果たす、資本や技術を移転するというだけではなくて、韓国とか他の経済も関わってくる、将来的には中国もそういったプレーヤーになるということだと思います。
この報告書の中の「中国化」という言葉は、私はあまり好きじゃないんですが、これについてコメントしなければなりません。もし、市場のネットワークの中にそれが存在するというのであるならば、メジャープレーヤーはマルチナショナルでありまして、個々の華人ということではないと思います。ですから、私は中国のビジネス、地域ネットワークを政治的な構造として捉えるのは間違いだと思います。中国が台頭するというのは大きなことであり、多くの国にとってチャレンジになるでしょうけれども、アセアンの問題、日本の問題を見ると、これは中国がテイクオフしたから問題が起こっているのではありません。それぞれの問題ゆえに、今問題を抱えているわけであります。前にも言いましたように、それは好機にもなるのです。韓国の経済は中国に投資をすることによって成功裏に経済をリストラし、成功しました。日本は遅れてやって来ましたけれども、やはり同じことを今しかけていると思います。
ちょっと前、そんなに昔ではないんですけれども、フィリピンに呼ばれて行ったことがあります。そこでアロヨ大統領に報告書を出しました。中国とアセアンの関係についてレポートを出せということで、随分数字を出しました。フィリピンのビジネスマンともお話をいたしましたところ、随分悲観的でしたが、数字を見てくだされば、フィリピンの対中輸出は増えているのです。50%以上も過去2年間で増えているのです。そして、これまで以上に黒字を享受しているのです。そして、一次産品から工業製品へと産品も変わってきているのです。アセアンだって同じことが言えると思います。日本への輸出は減りましたけれども、対中輸出は随分増えました。去年、25%以上増えております。その前の年には輸出の伸びが30%ぐらいになっているんです。ですから、ある種の図式の変換があるということが言えると思います。
次は米中関係ですが、これにつきましても理解を是正しなければならないと思います。これはセッションIでも言ったことですが、私の意見では中国はアメリカのライバルではありません。しかし、違ったプライオリティーを持っているのです。懸念も違います。また利害関心も違うのです。ですから、米中関係というのはそういったことで整合性がとれれば、またまとまってくると思うのです。既存の国際システムの中に投降することによって、中国はメリットを享受することができます。既存の国際システムというのは、アメリカが支配的なわけでありまして、我々は決してシステムにチャレンジしようと思っているわけではありません。
米中のコンフリクトがあり得るということは、あるとしてもそれは台湾問題だけです。中国の台湾に関してソフトなアプローチをとるということで、アメリカを制約することができるでしょう。強硬な、一方的な介入主義的な行動に出ないように自制をするということにも繋がると私は思います。新しい緊張が高まるということではありません。以上です。ありがとうございました。
添谷芳秀(議長) ありがとうございました。それでは、金先生、お願いします。
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