白石 隆(議長) どうもありがとうございました。では、金先生お願いいたします。
金 宇祥 私は韓国の視点について、添谷さんのおっしゃった点について申し上げたいと思います。すなわち、日本のミドル・パワーとしての役割ということに関して、我々の視点を申し上げたいと思います。私の理解が正しければ、日本は大国でありながらミドル・パワーの役割を担うということになるわけですから、他の方がおっしゃったように、日本をミドル・パワーの代わりにユニーク・パワーと呼ぶほうがいいのかもしれません。ただ、ここで私が申し上げたいのは、また、添谷先生がおっしゃりたいと思っておられる主張は、私の理解では3つあると思います。
第1に、日本としては米国とは同盟関係を維持したいということ。これが第1点。また、韓国としては全面的にこの考え方を支持したいと思います。韓国は、たとえ朝鮮半島が統一した後でも、日米同盟というものは支持するわけであります。朝鮮半島が統一された後も、やはり地域の安定にとって日米同盟は重要だし、米国との同盟関係というのは必要である。そして、潜在的な隣国からの脅威にさらされないようにしたいと思っているわけです、どこの国からの脅威であれ。
第2に、添谷先生がおっしゃっているのは、日本がノーマルなステイト、普通の国になりたいということだと思います。すなわち日本はミドル・ステイト、ミドル・パワーになることによって普通の国になりたいということをおっしゃっているのだと思います。もう少し具体的に申し上げますと、憲法第9条を改正しなくてはいけないということかもしれません。韓国はこういったアイデアを受け入れます。日本がノーマル・ステイトになるということは、自然のことだと思うのです。遅かれ早かれ必要でありましょう。そういった考えを好むというわけではありませんが、自然な流れとしてそれは受け入れなくてはいけないと思っております。
第3に、日本は重要な役割をただ単にパワーポリティックの分野ではなくて、人間安全保障の分野とか経済安全保障であるとか、環境安全保障とか、そういった分野で大きな役割を担うことができると思いますので、やはり韓国はこういった考え方に関しても全面的に支持することができます。韓国人というのは非常にリーズナブルであり、感情的ですが賢い国民だと思っております。ということで、私どもはささやかなことにも注意を払っております。センシティブな歴史教科書の問題などにも注意を払うわけです。ある意味では、中国により近しい気持ちを抱いているかもしれませんが、しかし、正しい情報を我々はいただきさえすれば、十分納得のいく説明があれば、我々の考え方というのは変わると思うんです。したがって、ここで必要なのは、日本がさらに努力をして、自らの立場をPRしていただくということなんです。日本側において、より日本寄りのセンチメントが隣国から出てくるように、韓国、中国などが日本寄りの立場をとるように努力をしていただきたいと思います。
白石 隆(議長) 添谷さんが30秒だけ発言したいそうです。
添谷芳秀 金先生と実は昨晩一緒に飲んでいて、きょうのリハーサルをやったんですが、そのときに私が言って、今日言わなかったことを今言ってしまいましたので、ちょっと責任をとる意味も込めて触れておきたいと思います。私のミドル・パワー外交論は憲法改正論を含んでおりまして、ここで議論する日本のミドル・パワー・アジェンダというものを追求し、日本が国際的なアイデンティティをしっかり確立をするということを完成するためには憲法は最終的に改正しなければならないと思っております。先ほど、坂本先生も同じようなご趣旨のことをご指摘くださったと思います。
それはどういうことかと申しますと、やはり憲法を変える議論というのは、変えた後の日本の国家像、外交像のイメージとセットでやらなければほとんど意味のない議論だと私は思っております。そこに日本のさまざまな議論が出てきていいのだろうと思います。そこにはやはり完全な改憲、アメリカや中国と肩を張るというようなインプリケーションを持つ議論をする人がいてもいいと思いますし、また、そうではないいろいろなバリエーションがあるのだろうと思うんです。このレポートとは全く関係のないことでございますが、金さんが今ちょっとばらしてしまいましたので、そのことをつけ加えさせていただきたいと思います。ただ、韓国の人の反応は、憲法を変えたいからこういう議論をやっているんだなと、おそらく99%そういう反応だろうと思います。ただし、私の議論はもちろん日本外交の特定の進路というものの構想があって、そのためには憲法の改正というのは手段だというのが私の議論ですので、それは韓国の人とまた大いに議論をしていきたいと思っております。
白石 隆(議長) パニタンさん、どうぞ。
パニタン・ワッタナヤゴーン ありがとうございます。これまで数時間いろいろとご意見を伺うことができまして、皆様方のご発言に本当に感謝をいたします。
一番大きな障壁、すなわち日本が自らの役割を域内で高めていく一番大きな障壁というのは日本自身なんです。その根拠として2つ理由があります。一つは前にも言いましたように、根深い歴史的な、伝統的なやり方、慣行があるからです。でも、これはいずれ変わると思います。そして、新世代が前面に出てくれば変わってくると思いますので、私はこのこと自体はあまり心配をしておりません。
2つ目の障壁は、私が心配しているわけではありませんけれども、アジアの国にとって一般的に懸念の的となることであります。それは何かといいますと、日本というのは基本的な国なのです。すなわち、日本は日本であり続けるということなのです。日本が変わるためには、日本がもっと地域的な国、あるいはグローバルな国にならなければなりません。そのためには、いろいろなことが変わらなければなりません。だから、私は日本がアジアと統合しなければいけないということを言ったのです。
白石先生が数年前にアジアの中の日本というコンセプトをおっしゃいました。非常に雄弁におっしゃったのですけれども、日本が経済的にだけではなくて、政治的にも安全保障面でも他の面でもアジアに統合するというようなお話を数年前になさったことがあります。でも、これは言うは易く行うは難しでありまして、問題がたくさんあるということは皆さんもよくわかっているでしょう。でも、私から見ますと、このプロセスは始まったような気がするんです。地域に統合することを日本は始めていると思います。そして、経済的なつながりも随分変わってきました。自由貿易地域とかアセアン+3とかいろいろなことが行われております。日本はもっと投資家というだけではなくて、市場を提供するというだけではなくて、日本自身がアジアのいろいろな製品を吸収する国としてプロセスを始めていると思います。アジアと日本が緊密になるためには、もっと多くのことがなされなければならないと思いますが、将来的にはもっとアジア人が日本に来て、仕事をしたり勉強したりしてほしいと思います。そして、日本のことを理解する人が増えたらいいと思います。日本を知ってほしいと思います。そうでなければ、もっと日本人にもアジアを理解してほしいと思います。これは時間がかかるだろうと思います。
私はアジア人がもっと日本の大学に来て、日本の大学を卒業してほしいと思います。そういうふうにしていけば、日本のアジアとの統合が進み、ミドル・パワーであれ、大国であれ、そんなことはどうでもいいというふうになるでしょう。結局は、それを早くやらなければいけない。時間が問題なのです。緊急にやらなければいけないのです。中国は台頭しておりますし、中国の問題は午後に出てきますけれども、不安定な地域的な複雑な環境が出てくるかもしれません。そういう状況になりますと、全然時間的な余裕はないわけでありまして、緊急に日本は変わらなければならないということを言わなければならないのであります。でも、日本は強い国です。経済的な役割はあるわけでして、それを社会的な、政治的な、文化的なところにまでぜひ広げてほしいと思います。これはそう簡単にできることではありません。もっと多くの問題が出るでしょう。日本の国内にこそ大きな問題が生まれると思いますけれども、日本にとってチョイスはありますか。何もしないよりはいいではないですか。これまでは何もしなかったわけですから。それが私のコメントです。
白石 隆(議長) ありがとうございます。それでは、張先生、お願いします。
張 蘊嶺 第1に、極めて重要な点として、地理的な区分というものをはっきり区別する必要があると思います。いろいろな会合において、アジア、東アジア、アジア太平洋地域というような話をしておりますが、しかし、やはりこの地域をどれぐらい特定化するかということによって議論は違ってくるわけです。アジア太平洋地域ということを言いますと、やはり太平洋の関係ということなんです。東アジア、中国と米国の関係ということになるわけでして、もう既にある程度のアレンジメントというものが形成されております。アジアということだけを言いますと、これは対話ということになります。アジアはあまりにも多様化し、大きいために対話ということになるわけで、タイとかその他、いろいろな国々が始めているわけですが、東アジアという話になりますと、これはまた変わってまいります。新たな地域づくり、台頭しつつある地域主義ということになるわけで、これは第IIIセッションのトピックになるかと思います。ですから、やはりこのアジアとか東アジアとか、こういった地理的な区分は明確に峻別しなくてはいけないと思っております。
では、日本がより積極的な役割を担う上での障壁となっているのは何でしょうか。東アジアにおいての日本の役割の積極化を阻んでいるのは何かといいますと、日本はやはり米国を取るか、東アジアを取るかというふうな選択肢の間で揺れているのだと思います。要するに、米国か東アジアかいずれかというとらえ方をしていると思うのですが、しかし、中国を含めて、別に米国との同盟関係に対持するものではないわけです。したがって、ミドル・パワー外交であれ何であれ、あまり私は気にしておりません。やはり重要なことはどういった地域において、どういった利害等があるか、これを特定化するということなんです。優先順位、また利害関係は日本にとって何かということなんです。今後、米国と継続的に同盟関係を維持する中で、太平洋において安定的な関係を維持しているわけですが、しかし同時に、東アジアには幾つかの問題が出てきているということで、新しい動きというものが見えてくるわけです。
私自身はパニタン先生のお考えには完全に同意しておりません。すなわち、地域の関係に関するパニタン先生の要約に関してはフルに同意しておりません。いろいろな政治学者、エコノミストなど、さまざまな意見がありまして、私は主としてエコノミストとして仕事をしておりますが、エコノミストの我々は楽観主義者です。さまざまな地域における統合、新たな展開、明るい将来の見通しなどが出てきておりまして、こういった土台を基に地域内の関係というものが変化しております。しかし、パニタンさんは、どちらかといいますと、アジアが、もしくは東アジアがもっと危険な場所になってきつつあるというふうなことをおっしゃっているようですが、私はそれには同意いたしません。10+3の会合であるとか、その他、さまざまな現在、将来の制度的な枠組みを考えますと、違った視点が見えてくると思うんです。ということで、日本はそれぞれ地域において優先順位が違うと思いますし、利害もそれぞれの地域において違うと思いますから、そこを特定化することは必要であり、そういった中で東アジアの制度的なアレンジメントを形成する必要がありますでしょうし、また、中国に対しては別の対応の仕方、政策というものが考えられると思います。中国は台頭しつつある国であり、ある種の日中を含むような関係を構築しようとしているわけですから、やはりこのミドル・パワー外交という考え方をとって、他のミドル・パワーと一緒になって、中国は反対側にいるというような、そういった捉え方をすれば決してうまくいかないと思います。ハイレベルな地域的な制度的な枠組みは作っていけないと思います。やはり日中が手を携えて主要な役割を担わなくてはいけないと思います。本当の意味で協力し、共通の地域の利害関係というものを模索していかなくてはいけないと思います。中国は距離がある他の国だというふうにはとらえてはならないと思います。
白石 隆(議長) もう5分過ぎておりますので終わらなければいけないのですけれども、少し、先ほどのコメントの中に、このワークショップの趣旨について誤解があるように思いましたので、1つだけ申し上げておきます。確かにワークショップのタイトルは「アジアとの対話」になっておりますけれども、趣旨は最初から東アジアです。そこでの意味は、近年、特にアジア経済危機の後、東アジア共同体というものが提言され、小泉総理がシンガポールに行かれて、日本・アセアン経済連携を単にそれだけではなくて、将来における東アジア共同体構想の一部として提言されました。そういう中で、じゃあ、東アジアにおける日本の地位と役割をどう考えようか、というのがこのワークショップの趣旨でございます。ですから、アジアとの対話という、言ってみれば看板を盾に話が違うじゃないかと言われると、これは違いますので、これだけは確認しておきたいと思います。
では、もう時間が過ぎておりますので、1時間休憩です。1時にもう一度始めたいと思います。どうもありがとうございました。
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