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3. コメントB:パニタン・ワッタナヤゴーン(タイ・チュラロンコン大学教授)
パニタン・ワッタナヤゴーン どうもありがとうございます。まず、日本国際フォーラムがこのような機会をくださったことにお礼申し上げたいと思います。ご招待いただいてうれしく思っておりますし、皆様とともに極めて重要なトピックを、すなわち本地域における本世紀における安全保障についてお話しできることをうれしく思っております。こちらに参ることができて非常に光栄に思っておりますが、時間の関係から簡単に次の5点を申し上げたいと思います。そして、皆様のコメントをいただきたいと思います。
 まず1点目として、今話している内容は極めて重要なトピックであり、日本のみならずアジア全体にとって重要だと思っております。私の見るところは、この問題は極めて大きな意味合いを持っているということです。アジアにおける日本の役割はどうあるべきか、日本はアジアの政治システムにおいて将来的にどういった対応をしなければいけないのかという点です。もちろん、これは日本にとっても重要でありましょうが、こういった問題は地域全体の安全保障上も重要だと思います。とはいうものの、この問題は私の見るところでは日本だけが決めることができる問題ではないと思っております。すなわち、日本のみで決定することは難しいでありましょう。もちろん日本が決定することは重要でありますが、しかし、非常に深く根ざした歴史的、伝統的ないろいろな日本の本地域における役割であるとか、そういったものも考えながら決定していくことになりましょうが、これは時間がかかることでありましょう。ただ、日本だけの問題ではないということなんです。私どももやはりどういった希望を持っているか、日本が何をすべきかという希望を申し上げることはできますが、最終的に決定権を持っているのは日本だということは指摘したいと思います。
 2点目に、時間的にはどれぐらいが許されているのか、どれぐらいの時間の中で日本は決めていかなくてはいけないのか、これはアジアにとっても重要であります。これは極めて重要な問題です。やはり時間というものが極めて重要でありますし、時間もなかなかなくなってきているというのが私の考えです。アジアはご存じのように、過去数年間見ますと、ますます不安定な状況になっております。一部にはアジアは危険な地域になってきていると指摘する人もいます。例えば、ここ数年、潜在的に不安定化している状況を見てみましょう。朝鮮半島の問題、印パキの対立の問題、また、インドネシアにおける不安定性、また、潜在的な中国と台湾のコンフリクト、これが米国をも関与させているということです。また、大量破壊兵器の問題、その他高度な通常兵器などの問題もありますし、また、自由貿易、グローバル化の問題もあるわけです。継続的にこういったものが97年、98年の通貨危機などにも影響を及ぼしているわけですから、しかもその余波というものが残っているわけです。経済的、社会的のみならず、昔からある地政学的な問題にも影響を及ぼしていると私は考えております。したがって、こういった中で日本及びアジアの多くの国々は、何とかしてこういった課題に答えを出していかなくてはいけないと思っております。添谷先生のおっしゃっている点には全面的に賛成であり、日本がミドル・パワーになるということはよいのですが、しかし、日本がやはり戦略的に地政学的に役割を担わなくてはいけないということはあると思うんです。やはり今申し上げている問題というのは、戦略的、地政学的な考慮が必要な課題であると思っているからです。将来的に日本はさらに積極的な役割を果たす、あるいはグローバルな国際的な安全保障において貢献しなくてはいけない。もう選択の余地がないほどそういったものが要求されると思います。他の国々が日本の位置付けに関して居心地よさを覚えるかどうか、やはりこれも今後数年考えていかなくてはいけない点で、これが2点目です。
 さて、3点目に移りますが、先ほどのミドル・パワー外交という金先生もご指摘なさった点、非常に挑発的な考え方だと思います。ある程度日本が進む上での枠組みというものが必要でありましょうし、添谷先生が雄弁に物語られたように、やはり日本にとって今後基本的なスタンスをとるための前提条件というものをつくり、グローバルな地域の安全保障に貢献していかなくてはいけないと思います。それはやはり日本の国内的な制約、また、国内的な考え方から発生するものだと思います。日本が自ら新たな枠組みというものを作り出し、国内の世論に働きかけなくてはいけないと思っております。しかし、日本の地位、また役割というのは、もう既にミドル・パワーとして存在している部分もあると思うんです。例えば、日本のPKOのいろいろな地域における展開を見るとそうでありましょうし、また、最近は海上自衛隊の艦艇をインド洋に派遣したという問題もあるわけであります。さらに、昔ながらの点でありますが、日本の国防予算、防衛予算、特にシーパワーなどの観点からはどう捉えるか。また、地域的な問題に対してどう対応しているか。こういったものを見ますと、日本はアジアにとって、特に東南アジアにとってミドル・パワーどころか、十分な役割を果たしておられるということです。すなわち、海上自衛隊においても、アジアの他の国々をはるかにしのぐ形で機能しているということで、ミドル・パワーを超えたものがあると思います。外交的には確かにミドル・パワー外交というのは適切なものだと思いますが、しかし他の分野で考えますと、日本の役割というのはあまりにも複雑であり、ただ単に日本の役割を一言、二言のコンセプトで表現するのは十分でないと思います。もちろん、これは日本が考えることで、日本が決めることだと思います。
 4つ目の点として、日本の現在の役割をさらに強化していくということです。これはアジア全体にとって有益だと思っております。日本は非常に多くのプラスのイメージを持っております。また、日米の同盟関係が成功をおさめるということ、これも日本の有している最善のイメージだと思います。私ども地域の安定性というのは、今後も継続的に日米関係、同盟関係が明確に打ち出されることだと思っております。また、他の役割も日本は果たすことができましょう。例えば、中国を積極的に、友好的に関与させるというのも一つでありましょうし、韓国との関係というものもプラスのイメージです。また、ARFのようなマルチラテラルなフォーラムで日本が積極的な役割を果たすというのもプラスでありましょう。日本は経済の分野においても重要な役割を果たしております。アセアン+3の枠組みにおいても日本はプラスの役割を担っております。こういったものをどうやってさらに改善できるか。それを超えてさらに積極的な役割をどうやって担うことができるかも重要な点だと思います。こういった役割を変化させていくということは、今後いろいろな意味合い、影響が出てくるでありましょう。これが4つ目の点です。
 さて5点目ですが、ミドル・パワーというのは極めて重要な日本の役割の変化を意味します。東南アジアの国々は日本のそういった役割の変化を条件つきで受け入れることができると思います。すなわち、もし日本がさらに他のアジアの国々と統合化を果たせばということです。経済的のみならず、社会的、文化的に統合してほしいわけです。ミドルパワーになるためには、みずからが成功裏に他の地域と統合しなくてはいけないわけです。米国が東アジアと文化的にも安全保障においても、いろいろな面でも、交流面でも統合しようとしております。仕事の面においても、その他、旅行するという意味でも、米国は重要な形でアジアに積極的に関与しているわけですから、やはり日本もミドル・パワーとなるためには、アジアの他の地域とうまく統合していかなくてはいけない。これを真剣に考えなくてはいけないと思います。そうしませんと、日本は単独で政治的にも安全保障においても、その他の分野においても進んでいくことになってしまいまして、そうしますと東アジア、東南アジアの国々において懸念の種となると思います。以上で私の発言を終了したいと思います。以上の5点です。
白石 隆(議長) それでは、張先生、お願いします。







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