2. コメントA:金 宇祥(韓国・延世大学教授)
金 宇祥 本日お招きを受けたことを大変うれしく思っております。この国際ワークショップは「アジアとの対話、アジアの中の日本とその役割」ということで、非常に重要な21世紀的な課題であります。添谷先生のアイデア、すなわちミドル・パワー外交、あるいは日本がミドル・パワー的な役割を果たすべきだというのは興味深く、フレッシュで、挑発的ですらありました。私の理解では、彼の議論の基礎には、1つの前提があります。それは米国と日本が同盟関係を長い間維持するであろうという前提であります。朝鮮半島が統一を果たした後も続くであろうという前提に立っていると思います。私は添谷先生の理論は100%支持いたします。ただ、日本がこのミドル・パワー的な役割を果たすためには、日本は2つの大きな問題に対処しなければならないと思います。パーセプション、あるいは誤解の問題、これが一つです。2つ目は国内の世論をつくる努力をするということであります。
第1点、ミドル・パワーということについてですけれども、添谷先生のミドル・パワー外交という議論、この基本は2つあると思います。一つはミドル・パワーというのは一方的には行動しない。外交政策というのは単独で、一方的にやるということはしないものだ、これが第1点。もう一点は、戦略的なゲームには参加をしない。ミドル・パワーはそういうことだと思います。この戦略ゲームというのは米中が主にやるのだと。ミドル・パワーというのはパワーポリティックスにはかかわらないのだという前提があると思います。
しかし、ここでの問題は日本の隣国がそれをどう見るかという問題です。日本の行動や日本の意図をどう見るかという問題です。言いかえますと、日本が本当に何をしたいかは別として、ミドル・パワーとして外交をやりたいんだと思っているかどうかは別として、隣国が日本の意図や行動をそういう形で捉えなかったならば、結局はあまり役に立たないことになってしまうのではないかということになってしまいます。ですから、日本は説得をしなければいけない。あるいは、示さなければならない。日本は本当にミドル・パワーの役割を果たしたんだということを示さなければならないのです。それをするためには、まず、日本国内のこういった議論についてのコンセンサスがなければなりません。私は、初めてこのご意見を聞いたわけです。日本がミドル・パワーになると。東アジアでそれを聞いたのはきょうが初めてなものですから、ほとんどの日本人のこの会議にお出になった方々も、ひょっとしたら、私と同じようにこういった種類の議論を今日初めてお聞きになったかもしれません。ですから、国内世論を作り上げることが本当に重要なことだと思います。説得する力をもって隣国に当たらなければならないということであります。
国際関係理論を見てみますと、何人かの学者が大国を定義しております。小国、中国というのはどういうことか。例えば、サミュエル・ハンティントンに言わせますと、現在の国際システムというのは一極システムであり、アメリカが覇権的な役割を果たしている。日本とかドイツ、フランス、そういった国々は地域的な大国といった役割を果たしていると言っております。例えば韓国は、地域的にセカンダリーな国であると言われております。ハンティントンの理論によりますと、日本は大国なわけです。ケネス・オルガスキーの理論というのがあります。彼の説明によりますと、国際システムのピラミッドのトップにいる覇権国と言われる国があります。次の支配的な国、覇権国の下には幾つかの大国があって、彼らは既存の国際制度に満足しているか満足していないかどちらかである。その覇権国がいるという図式に賛成している国もあれば賛成していない国もある。日本というのはそれに満足している大国であると言われております。そして、覇権国とはいい関係を持っているというわけです。ジョージ・モデルスキーの大国の定義によりますと、大国というのは海洋力の10%以上をコントロールしている国だと言われております。日本は当然ながら10%以上のシーパワーをコントロールしていると思います。モデルスキーの定義によりますと、日本はやっぱり大国だということになります。デイビッド・シーマンは日本を大国としております。1905年以降、ちょうど日露戦争でロシアに勝ったときから大国としております。ですから、学者の定義を見てみますと、大体おしなべて日本というのは大国だと見なされております。ところが、添谷先生は非常におもしろい、そして挑発的な議論をなさいまして、日本は大国というステータスを持っているかもしれないけれども、ミドル・パワーの役割を国際システムの中で果たさなければならないのだ。具体的に言うとアジアの中でそれを果たさなければならないとおっしゃいました。とてもおもしろい議論だと思いました。
ただ、隣国から見ますと、そういう議論を受け入れるためには、そして日本のミドル・パワーの役割と歩調を合わせていくためには、日本は相当な努力をなさって説得をしなければならないと思います。隣国の説得をしなければいけない。意図的にそうやっているんだということを説得しなければいけないと思います。中国人と韓国人は全面的には賛成しないでしょう。日本がミドル・パワーになるのだと言っても、100%は支持しないでしょう。ほとんどの韓国人と中国人は賛成しないでしょう。例えば日本の総理が靖国神社に参拝をなさるというケースがあったり、日本の高官がいろいろな発言をして、日本の過去の歴史についての言及をなさったりすることが時々ありまして、中国人や韓国人を挑発するわけです。もちろん私は理解しているところはありまして、民主的な国、多元的な社会というのはいろいろな意見があるのだということは私も承知しております。違った声があればあるほど、その社会はヘルシーなのだと私も思います。しかし、政府高官とか総理がどういう行動を起こすかというのは、通常はそれは隣国に対して非常に強いメッセージを発出するわけです。ほとんどの韓国人とか中国人はやはりそれを誤解すると思います。日本の本当の意図は何なんだろうと誤解すると思います。日本がミドル・パワーの役割を果たすということに、中国人や韓国人が同意したとしても、ああいう行動があるとやはり誤解をしてしまうのではないかと思います。日本が普通の国になるのだということは、日本が軍事的に強い国になるということではないと思います。超大国になるということではないと思います。ほとんどと言ったら間違いだと思いますけれども、多くの韓国人や中国人は日本が普通の国になるということは、日本が軍事的に強い国になるのだと思っているのです。超大国になるのだと思っているのです。ですから、彼らは疑惑の念を持っているのです。日本がこの種のミドル・パワー外交ということを使って、それを一つの手段にして、もって憲法の9条が禁止していることを結局は達成してしまうのではないかということを恐れているのです。もちろん、ほとんどの人が誤解するだろうということで、私個人は添谷先生のおっしゃることには大賛成です。でも、問題は私がどう思うかではないわけです。私は専門家ですから、安全保障の専門家がどう思うかということではなくて、普通の人がどう思うか。普通の人がそれぞれの国の世論を形成するわけですから、やはり最も大事なことは、隣国の世論を説得するということであります。日本はどうやったら隣国を説得するかということを考えなければいけない。これが非常に重要な問題だと思います。
それから2つ目の問題というのは、国内世論を形成しなければいけないということです。添谷先生の議論に賛成して、日本というのはミドル・パワーでやるんだということを、21世紀はそうなんだということを国内世論として形成していかなければなりません。
白石 隆(議長) どうもありがとうございました。それではパニタン・ワッタナヤゴーンさん、お願いします。
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