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Q:「子どもの邪魔をしない」ということを具体的な例をあげて教えてください。
 
ミムジー:とってもゲームの好きな息子さんがいますね。ほとんどの大人はゲームをすごく意味のないくだらない物だと思っています。それは大きな間違いで、ゲームをやることにより非常に多くのことを学ぶことができます。でも、「ずっとゲームをやり続けていれば、いつかこの子はゲームに飽きて他のことをする」ということを信頼するのは親にとって難しいことだと思います。
 
Q:ミムジーはそれを信頼するにあたってどのようにしたのですか。それは確かだと自信がなければ信頼できないと思いますが。
 
ミムジー:簡単なことではなく、とても難しいです。しかしこういうことを信じてほしい。子どもは生まれながらにしてちゃんと大人になって自立してやっていける可能性を具えていて、それができるのです。特にこれからの21世紀、子ども達にとってそれをはたしてゆくのは難しいことだと思います。しかしその可能性は生まれた時からきちんと子どもに備わっていることを信じてほしいです。
 
Q:それは障害を持っている子どもにも当てはまるのでしょうか?
 
ミムジー:私はそういった障害のある子達の教育のプロではないのでわかりません。でも、こういった教育はそういう子どもには適さないと思います。障害といっても色々あり、中には適するタイプもあると思いますが・・・。
 
Q:その境目がわかりません。親でもどこまでが障害で、どこまでがそうでないかがわからないと、信頼するといっても・・・。その子にどんな障害があるのか、20歳すぎてわかることもあります。ちょっとその辺りが・・・直感に頼るしかないのですが・・・。
 
ミムジー:そうですね。人類にはすごくバラエティーに富んだ多種多様な存在があると思います。非常に体が不自由でハンディーのある子がいれば、もう一方ではそうでない子もいるわけです。こういった中で子どもが自分で歩いていけないとか自分でコップを取れない・飲めないことは見てわかることなので、よく見ていけばわかるでしょう。
 
Q:肉体的なものは見てわかりますが、精神的なものは見てもわかりません。判断できるかできないかなどです。例えばゲームをやっていても何か障害があってゲームをやらざるをえないのか、それとも何かサポートがあればそうやってそっちの方へ伸びていけるのかって、親がどう見極めればいいのか・・・
 
ミムジー:そういう子にはそういった保護が必要ですし、自立に向けた支援は十分必要だと思います。
 
Q:健常者に対する教育と障害者に対するそういった教育と言われましたね。障害者に対してだろうが、健全者に対してだろうが、人間が人間として生きて行く基本になっていくものを学んでいくことが教育ならば、ミムジーの言われる教育とはなんなのでしょうか。
 
ミムジー:私自身は障害者教育について全く知らないし、障害児との関わりも全くないので、統合し言えることはなく、わからないです。とても小さな子でも、自分がハイハイして立ち上がって歩くまでというような自然な流れの中にある学びを大人が妨害することは一切できません。なぜなら、それはべつに誰かがやらせているのではなく、生まれながらにもった意向・意思というようなものが人間のメカニズムの中に組み込まれていて自然にやり始めるものだから、妨害することができないのです。“しゃべることはとても難しい”ということに皆さんあまり気がついていないかもしれないが、非常に難しいことです。とりあえず、人類はそういった難しい作業をずっとやってきています。難しい作業をやりながら自分自身のことを実現して生きるのは私達人類に非常に過激で困難なことだったと思います。人間関係とは人類において非常に基礎的なものです。色々な考えを交し合うことは大変大切なことです。人間関係を結びコミュニケーションをとるために言葉を学ぼうとしているのです。その後、書いたり、コンピューターを使ったり、様々な形でコミュニケーションのやり方を再発見し学び直しているすべてがそういうことに繋がっているのですよね。
 
Q:その一つとして、夏休みを利用してスタッフの研修会をしているのですか。
 
ミムジー:そうです。
 
Q:どんなふうに研修しているのですか。
 
ミムジー:施設自体が小さいので難しいのですが、色んな討論をするグループをセッティングします。大小様々なグループを作り、そこで色々な討論をしていきます。残念ですが通訳はないです。「まっくろくろすけ」でも新しいスタッフを迎える前にSVSの本(日本語に訳されているのが出ていますね)を十分に読んでもらうことが大切だと思います。
 
Q:保護者にもですか?
 
ミムジー:読んでもらえるといいのですが、それは保護者によります。諺で「馬を川までは連れて行けるが、水を飲ませることはできない」というのがあります。
 
Q:SVSに合わないスタッフがいたらどうしますか?
 
ミムジー:スタッフ同士で非常に多くの会議だとか、討論などをします。基本的にSVSではスタッフは子ども達に選ばれるので、SVSの理念が嫌な人が選ばれると他のスタッフがなかなかやりにくいですね。でもその中でもいろんなスタッフの態度というものがあります。
 
Q:他のスタッフには「困った人だなぁ」と思われるスタッフでも子ども達に選ばれた人だったらその一年は付き合っていろいろ話し合いをしながらやっていくのですね。
 
ミムジー:普通生活していても同じですが、人というのはそんなに基本的な人間性とかは変えません。ちょっとした行動は変えられるかもしれませんが、やはり、態度とかも個人的にそれぞれ違うので、ずっとそういう感じです。子どもは成長とともにどんどん変わりますが、大人はある程度で停止しますよね。
 
Q:今までの話は、今の生活があってその中で子どもにどう教育をつけていくかということを前提にされていますね。自分自身にもできなかったのだけれど、本来犬や猫とか動物を見ていたら、本来の子どもに対する教育とは、自分がいかに食べ物をとって生きていくかという教育をするべきだと思います。それなのに、現在人間は自分達の集めてきた知識を子どもにすすめていく教育を行なっているでしょう。ですが、本来の子どもがどうやって食べ物を手に入れて食べていくかという教育はしなくてもいいのでしょうか?
 
ミムジー:SVSで、人が自然に学んでいることは非常に現実的で、生きることにつながっていると思います。生きることを学べていないようなものには、人間、自然な姿としてはあまり継続的にやらないように思います。子どもが何を学んでいて何をつかんでいて何を・・・というのはとても見えにくいものですね、その時には。例をあげてみると、私の一番下の息子は地質学者ですが、私が知っている息子は非常に怠け者でぐうたらです。学校にいる時は非常に活発でいろんな遊びをしていました。彼がどうしてそんなに外で過ごすのかわかりませんでした。だけど学校を卒業して成人して自立していく頃にそれが見えてきました。彼が今やっていることは、外で自然の中で科学的なことを研究する仕事です。結局、ずっと外にいなければなりません。そういうことに繋がっているということです。彼の仕事は他の怠け者の人にも自信をつけさせる結果を残しているみたいです。
 
Q:どのくらい怠け者なのですか?
 
ミムジー:私くらい怠け者でした。生まれながらにして活発でスポーツが好きというタイプでは全くなかったです。兄弟皆違いますが、上の二人は私に全然似ていません。私自身運動が好きではなく活発ではありません。
 
Q:ということは今の生活をどのように守るかを教育の柱にしているということですか?現代文明社会の生活にのっとって、その子自身のしたいことの方向付をする教育をされているということですね。
 
ミムジー:そうです。今の文明社会において現実的な教育を行っていると思います。学校自体が社会の縮図のような構成をなしているのでそういうことだと思います。
 
Q:卒業など学校に関することはどうやって決まっていったのですか?
 
ミムジー:全ての規則や学校に関することは、選挙によって民主的に決められます。生徒とスタッフ一票があります。すべてそういうものも、ミーティングによって話し合われていて、学校の代表者というような存在の生徒も選挙によって選ばれます。そういった会議で、子ども達と話し合う時には、それぞれの子ども達は、自分の最高の考えをフルにめぐらせながら、非常に頭をさえさせ、働かせながらミーティングに加わっていろいろ考えています。そこに小さい子がいるからといって知的でハイレベルな言葉による討論をさけたり、言葉を崩すということは一切しません。結局それを通すことによって提案されたことの結果とか、議題にあがったことの結果が出るのですが、その過程をとうして、小さな子供達は自分自身のベストな状態を会議の中で発揮しながら、自分より大きな子や大人をモデルにしながら少しずつ歩み寄っていっており、それが彼ら自身にとってもいい教育となっていると思います。学校内で切実な問題があがってきた場合はミーティングだけではなくいろんな場所で、皆そのことについて自分の考えを述べたり話したりしています。
 では卒業のことについて少し話します。卒業のし方は、当時は生徒とスタッフと親によって決められました。今の形にいたるまで何度か形を変えています。いろいろと試してみましたが、みんなが共通して納得できなかったのです。今のやり方では、生徒が卒業したい時に、自分自身が卒業生になるための候補者となるのです。で論文を書きます。その内容は、いかに今後、社会にでて責任のある行動をとれる人間であるかということを証明する論文を書くのです。そしてその論文に対する質問を、生徒やスタッフなどからあびます。その候補者は、卒業に向けて順調に進んでいきますが、いつもそうであるとは限りません。それから投票があります。いく人かの子は親がそろそろ卒業してほしいから、という理由で卒業の候補者になりますが、だいたいそういう子はあまりうまくいきません。そういう場合生徒自身は仕方がないという顔をするのですが、親の方が非常に怒ってしまいます。SVSの卒業証明というものは多くの会社、そして大学にも非常に認められていますから。
 
Q:10代後半になって、卒業しようとかと思う子はSVSで過ごしているということ、学校のコミュニティーとうまくやっていけるということの意味は、自分が大人になった時に本当のもっと広い社会で上手くやっていけるということの練習というか、プロセスだったということを認識しているのでしょうか?
 
ミムジー:そうですね。そういう意識をもっています。良くわかっていると思いますが、多少の心配はあるみたいです。やっていることは違いますし、普通の学校の子供達は宿題とか、教科書やテストに追われて時間がないと言っているけれど、自分は自分のやりたいことや読みたい本を読むのに時間がないみたいな感じで・・・そういう違いがあって結局どういう結果になるんだろうと思って、お互いのギャップみたいなものを感じながら心配や不安はあるようです。
 
Q:すべての子がミーティングに参加するのですか?
 
ミムジー:そういうことはないです。皆参加しなければならないということはないですから。基本的に三分の一くらいは参加しますし、非常に大変な問題とかが起こったら7割くらいの子が参加したりしますが、べつに皆がみんな参加するということはないです。
 自分に関係してくる議題があがったら出ようと思いますが、多くの子が全然興味を示していない。自分の好きなことをずっとやっている子どもでも、自分に興味のあることだと時々来るということもあります。
 
Q:三分の二の子は、自分の興味のあることとか、学校で過ごすのに何か不都合があってこれを言わなくちゃというときだけ来て、残り三分の一の子は、学校の運営に熱心な子なのですか?
 
ミムジー:学校建設のことや学校経営のことで興味のある子もいれば、全然興味のない子もいるし、いろいろです。そういった組織を構成したりする子や非常に賢い仕事に適しているという子もいれば、そうでない子もいます。
 
Q:年齢があがっても名人名様の個性があるということですか?
 
ミムジー:年齢には関係ないです。7歳ぐらいの子供でも何ヶ月も、学校の会議に興味を示して追求していっている子もいます。
 
Q:もしその学校のミーティングに興味があまりないまま卒業したら、社会に出た時に自分の地域のことに積極的にかかわろうとする姿勢はその子にはないわけですか?
 
ミムジー:よくわかりませんがそういうこともあるでしょう。あなたの学校では皆ミーティングに興味を示していると思いますか?
 
Q:女の子はよほど何かその日盛り上っていることがなかったら出ます。男の子はあまり出ない。小さい子は自分に用があった時だけ来ることが多いです。
 
ミムジー:男女の差はあまり関係ないと思います。その子自身の問題なので・・・。
 
Q:大きい議題がある時は必ず来る子もいます。でも、来ていたのにぼおとしていたのか、結果を理解していない子もいて、なんでそこにいたのか不思議に思うことがあります。
 
ミムジー:自分の意思でなく、なんとなく来てしまったということもあるかも知れません。そういうことは、どんな所でもあるでしょう。
 
Q:卒業する時、社会へ出て責任ある行動をとれるかということを、どんなふうにまわりの人から試されるのですか?
 
ミムジー:卒業したい生徒が論文を書き、読みます。そしてスタッフと生徒達の委員会が、設定された論文を評価します。誰もがその評価を読むことができます。そしてその論文に対する質問をあびせ、そのあと投票です。
 
Q:どんな論文が出て、どんな質問をあびせるのかも、具体的に知りたいです。
 
ミムジー:基本的に個人の研究に関するものです。個人が学校の生活の中でどういった冒険(ジャーニー)をしてきたのか、今後、人生の流れに従って、どういった冒険をしていくのか、そして夢、そして現実的にどういうことをやっていこうと考えているのか、というようなことです。そしてそれに対する質問をうけ、どれだけ現実的であるか、その人が本当にそれに対し自分をささげることができるのかどうか、ということです。







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