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●「企業の21世紀の生き残り策とNPO」
経営デザイン研究所 代表 川村 志厚
(東北巡回フォーラムin福島(2002年3月8日)より)
 
1. これからの社会は、需要者の論理で組み立てられる
 企業がNPOとの関係を考える時に念頭に置かないといけないのは、「現在、社会に起きている変化の本質は何か?」ということです。私は、これまで供給者の論理で組み立てられていた経済・社会・政治のすべてが、需要者の論理で組み立て直される」ということだと捉えています。現在、進められている構造改革も、そのような目で見ないと本質が見えてきません。
 80年代前半にアメリカ、90年代前半になるとヨーロッパが需要者側に重点を置いた経済構造に変わりました。現在の日本は、その転換過程にあると捉えることが、「なぜ、今、NPOなのか」ということの理解の前提になると思います。
 これまで企業は商品やサービスをつくるときに、企業側の視点で考えてつくり、販売してきました。一応、マーケティングはしますが、個々の利用者のニーズを把握して商品をつくるようにはなっていません。特に日本のメーカーは、テスト・フィールドをほとんど持っていません。ここがアメリカの企業との大きな差となっています。
 これからの時代に「需要者から見たらどうか?」という視点が必要なのは、何も企業に限りません。行政も一緒です。これまでの地方自治体は、国が決めた政策の代行、卸屋さんをしてきたことが多く、特に、都道府県は存在自体が問われるようになっています。現在のような社会構造の転換が進んでくると、供給者の論理で動く組織は不要になってきます。そのような状況の中で、最も需要者の論理を体現できるのが、NPOと呼ばれる組織なのです。そのように理解していないと、企業も新しい時代の生き残り策の取り組みに失敗します。
 
2. これからの優良企業に求められる、企業理念と3つの価値
 これからの優良企業について考えるときに、欧米のエクセレント・カンパニーと呼ばれる優良企業が参考になるでしょう。これらの企業は、すべて明確な経営理念と3つの価値を持っています。3つの価値とは
(1)利益をあげる「事業価値」
(2)社会に有益な新しい価値を提供する「社会価値」
(3)関係者の人間らしい生活の向上をもたらす「人間価値」
です。この3つの価値を同時に産み出せない企業は、今後の優良企業とは言えません。この3つの価値を産み出すために求められるのが、企業として利益をあげ、企業活動を存続させていくための仕掛けと仕組みである「事業構造」、企業の社会的な責任を果たそうとする「経営倫理」、常日頃の企業活動の中に、リスクヘの対応を予め組み込んでおく「危機管理」です。
 これらの理解を前提に本題の「企業とNPOのコラボレーション」についてお話します。
 
3. 小さな政府をめざすと、セクター間の協働が増えてくる
 これまでの社会サービス領域では、なんでもかんでも政府がやる「大きい政府」がめざされ、「PO(営利組織/代表格が企業)」の領域にも「NPO(非営利組織)」の領域にも、どんどん制約を大きくしていました。そのため「GO(政府組織)」が大きな比重を占め、「PO」と「NPO」は個別に展開し、協働関係が存在しませんでした。
 しかし、「小さな政府」が世界的に主流の現在では、「GO」の領域が縮み出し、逆に「PO」と「NPO」の領域が広がって重なり始めています。そして3者が重なり出すと、「GO」「PO」「NPO」の各セクターの特性を活かし合いながら協働することが求められ、現在は、この状態にあると言えるでしょう。
 
4. 協働の継続に必要な、4つの革新
 このようなセクター間の協働を継続させるためには、日々、4つのことについての革新が求められます。
協働の成果
・・・価値構想・目標設定・価値創造・成果評価
協働の過程
・・・規則・役割・組織・継続的学習
協働する人
・・・自発・自立・自律・対等
成果・過程・人のネットワーク
・・・目的共有・戦略整合・意志疎通・情報公開
 
5. 月給100,000円の福祉作業所をつくる(協働の事例 その1)
 さまざまな障害を持った人たちが、作業でつくったモノを販売する福祉作業所は全国各地にあります。しかし、この作業所で働く障害を持った人たちの収入を一人当たりでならすと、全国平均で月に7,000円。つまり、統計上では月給で7,000円しか稼げていないということです。これは、なぜか? 非常に小規模な作業所が単独で頑張っているからです。自分のお子さんの将来を不安に思う親御さんたちが、なけなしの金を集めて設立するから、小規模にならざるを得ないんです。特に知的障害のお子さんを持っている方は、自分が亡くなった後のことを、みなさん非常に不安に思っていらっしゃいます。
 「これでは、おかしい」ということで、私たちが考えたのが、50人の知的障害者に月100,000円の給料を渡すことができる作業所です。いろいろと調べた結果、実現には最低15億円必要と分かりました。
 宮城県、それから仙台市と相談しましたが不可能との話だったので、仙台市の担当者と厚生労働省の本省に乗り込みました。そうしたら「これこそ、私たちが必要としていたプランだ!」と大歓迎です。
 仙台市では、本省のお墨付きも得たので、仙台市の各区に1つずつ、合計5箇所設置することに決定しました。運営団体も、本来5年の見習期間が必要な社会福祉法人格を1年後にとれる、設置場所も市の未利用地を無償で貸与してもらうなど、何から何まで異例づくしです。私たちは法律などあらゆることを調べ尽くした上で、プランを提案し、これを通してしまったわけです。
 次は、自分たちで負担する15億円の5%、7,500万円の資金集めです。これは、25万円を300人から集めることにしました。25万円という額は、企業では出せない額でも個人なら出せる人がいるんです。メンバーの頑張りもあって、現在、着々と目標額に近づいています。
 この施設では、生花、それも“バラ”と“ガーベラ”に限定して栽培することに決めたのですが、これは大きなコストダウンが可能だということと、半工場生産方式の栽培で知的障害者であっても就労に問題ないということからです。栽培した生花は、市場ではなく、社会福祉法人の後援組織に流通させる予定で、そのために1口500円〜12万円の年会費を頂戴する支援者10,000人の獲得をめざします。年会費500円の方たちには年に1回、バラとガーベラを詰めて送ります。運送はヤマト運輸と話がついていますし、企業で月に10,000円を支援してくださるところには、毎週、生花をお届けするようなことも予定しています。
 
6. 若者の理系離れを防ぐ、自律型ロボット製作キット(協働の事例、その2)
 2つめは教育分野の話です。
 今、日本の若者たちの理数系の学力が落ちています。学生で数学が得意と言う人はほとんどいないと言っていいでしょう。このような現状を改革する目的で、MIMINet(みやぎモデル・イニシアティブ・ネットワーク)の参加者・企業等が取り組みを始めました。
 このときは、物理系のものづくりの知恵がいっぱい詰めこまれた、自律型ロボットの製作キットをつくりました。見た目はミニ四駆風ですが、赤外線センサーやマイコンチップ搭載で、自分で判断しながら動きます。これを子どもたち向けの講座で、ハンダづけから教えましたら大喜び。と言っても、一番喜んだのはお父さんたちでしたが(笑)。平成8年頃の話です。このことが新聞で紹介されたら、全国の大学工学部の先生から授業の教材として使いたいと、ドッと注文が殺到しました。夜なべして製造したものを実費でお分けしました。今では海外からも注文が来ますので、生産ラインを確保して製造しています。
 アメリカのスミソニアン博物館からも要請を受けて納品し、全米の小学校教材としての導入を検討する話もあったようです。このときは、メンバーが直接持参し、他に要請を受けたMITとスタンフォード大学にも納品してきました。
 
7. 決して水と油ではない、企業とNPO
 今、お話したようなことが、企業とNPOのパートナーシップで、現実にやれています。MIMINetを始め、かなりの数の協働プロジェクトを手がけましたが、ひとつも失敗はありません。私たちは、他のNPOが、企業とNPOは水と油だ、行政はとんでもない、と手をこまねいていたときに、最初から企業をパートナーとして積極的に組み込んできました。そういった取り組みによって、失敗がひとつもない、すべての参加者に喜んでもらえる事業を成立してこれたのだと思います。
 
3 関係者からのメッセージ
●「サポート資源提供システム」に参加して
イートス株式会社 代表取締役 増子良一
 
 私が「サポート資源提供システム」に参加しましたのは、当初からですので、早いもので二年になります。NPO活動を本格的に行ったのは、この時が最初でしたのでとまどいの連続でした。特にNPOの皆様方の圧倒的なパワーと情熱にたじたじでした。それに私はパソコンの提供システムに参加していたのですが、一つの問題が解決したと思うと次が出てくるという感じで、遅々として進まず、本当に一年でまとめられるのかどうか不安でした。
 ところが、皆様方の知恵、情熱で次々と問題が解決できてきまして、きちんと一年でスキームが出来上がりました。ゴールを決めてやる事の大切さ、やる気の大切さを痛感致しました。
 二年目に入り、実際の運用となった訳ですが、ここでも問題がありましたが、十月からNPOの方々ヘパソコンをお届する事ができた時は感動しました。
 これもひとえに、提供システムを通じての皆様方との出会い、色々な問題(OS・PCの整備、運送、サポート、提供先の確保等)解決のために行動した事等があっての事だと思っています。その中の一人としてこの輪の中にいた事に感謝いたしております。
 今後の課題であった継続的に提供する事も(社)宮城県情報サービス産業協会が参加してくれた事により解決しそうです。これからもうまく運用できる事を望んでいますし、うまくできると確信しています。
 提供を受けたNPOの皆様方の喜びの声、うまく活用されている姿を見ますと、本当に参加して良かったと思います。この気持ちを他の人にも伝え、輪を広げていきたいと思います。
 これからも少しでも世の中の為になれればと思い活動していきたいと思っていますので、これからもご指導宜しくお願い致します。
 
●「サポート資源提供システムの利用について」
特定非営利活動法人宮城県断酒会 理事長 鈴木 武
 
 宮城県断酒会は、サポート資源提供システムにより中古・再生パソコン24台の提供を受け、(1)一般市民パソコン教室用(プラザ事務室)3台 (2)事務管理用6台 (3)作業所用15台に分けて活用しています。
 パソコン教室の受講者の声をご紹介しましょう。
Aさん:アルコール依存症になり、連続飲酒の繰り返しで人間関係が破綻し、世間から置いてきぼりを食う状態になった。断酒会のパソコン教室を通じて人と接する機会と技術の習得が出来、6年ぶりに社会復帰のチャンスを得た。
Bさん:運送会社の運転手でしたが、酒でのトラブルで会社を辞め、アルコール専門病院に2回入院した。今まで触ったことも無いパソコンが習得でき、他人を指導するようになった。
Cさん:タクシー運転手で、4年前に購入したパソコンが使えず「ただの箱」になっていた。廃棄寸前で、断酒会の「パソコン教室」へ入門させていただき、名刺も年賀状もつくれるようになった。私の人生はマザコン、新婚、パソコンの一生である。「パソコン教室」万歳。
 これらの成果を踏まえ断酒会は、(1)酒害防止の啓発・相談事業、(2)回復(更生)事業等、積極的にNPOとして活動に取り組めるようになった。本年4月からは、仙台市補助事業として、施設「どんぐり」を開設し酒害者の自立・社会復帰支援事業にも取り組み始めた。このように宮城県情報サービス産業協会(MISA)とサポート資源提供システムの支援が、NPOの活動を支えているという事を紹介し、心から感謝申し上げます。
 
4 おわりに
サポート資源提供システム 今後の展開
特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンター代表理事・常務理事 加藤 哲夫
 
1. 2002年度の事業展開について
 2002年度のサポート資源提供システムの事業展開と組織体制については、2002年5月より、運営委員会準備会を3回開催し参加企業・団体の皆さんと議論を交わしてきた。その結果を反映させて、6月20日のせんだい・みやぎNPOセンター理事会において、「せんだい・みやぎNPOセンター特別プログラム『サポート資源提供システム』運用規程」と「サポート資源提供システム運営委員会規程」を決定した。これにより今後は、サポート資源提供システムを当センターの特別プログラムと位置付け、規程に基づいて事業を行うことになる。
 このような手続きを踏んだのは、このシステムが当センターのプログラムであると同時に、多数のシステム開発に参加した企業・団体の関与するシステムでもあり、その両者の関わりおよび資源提供を受けるNPOの関わり、つまり権限と義務の明示や運用上の約束を明文化する必要があったからである。これにより、参加企業・団体と当センターの役割分担も明確になり、本プログラムに継続的に協賛金を提供して、システムの運用を支える「システム協賛企業・団体」と本システムと連携する資源提供システムを有する「システム提携企業・団体」とが、運営委員会を構成して、当センターと協議しながら事業を進めることになった。
 あわせてこの理事会では、サポート資源提供システムの2002年度事業計画と予算を承認した。そして、この7月16日には「サポート資源提供システム本格運用記念シンポジウム」を開催し、いよいよシステムの本格運用を開始する。
 ここでは、特別事業としての事業計画書と予算を掲載する。予算は当センターの特別事業会計として、協賛企業・団体による協賛金と当センターの負担金によって賄う予定である。また、会計と運用の権限を協議事項として運営委員会に持ってもらうことで、参加企業・団体による主体的な取り組みが期待できるものとした。予算書を見ると、このようなプログラムを継続的に展開していくための経費が少なからずかかることが理解できるだろう。単発の資源仲介なら、その場しのぎの対応でも間に合うが、持続可能で発展的なシステムを構築し運用していくためには、かなりのコストを負担しなければならない。さらに、継続的な資源の提供にも、資源開発という継続的な取り組みが必要であり、当センターは、このようなシステムの構築をめざして2年間、開発と試験運用を行ってきた。その過程で、出会った参加企業・団体の皆さんから、「助成金がなくなった後、いくらぐらいの経費がかかるのか?」「来年度は何台のパソコンを用意すればいいのか?」と質問していただけたことは、「一緒にこのシステムを維持、発展させていこうよ」というメッセージとして、私たちには大変うれしいことであった。







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