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2 講演録
●「サポート資源提供システムがめざす企業とNPOの新しい関係」
東北大学大学院経済学研究科 教授 大滝 精一
(公開シンポジウム(2001年10月27日)より)
 
1. 企業とNPOの連携
 NPOと企業との連携は、近年急激に拡大しているとともに多様化してきている。
 企業の社会貢献活動についての考え方や方針は、大きく変化している。それはバブル崩壊後、経済が非常に厳しい状態にあることも背景にあるが、そればかりでなく、お金やエネルギーや人員をかけて社会貢献活動をするならば、より効果的に、効率的にやっていくにはどういうことが必要なのかといった、戦略性が問われるようになったこともある。
 「NPOと企業の連携の目的は何なのか」「NPOと企業の連携をより効率的にするにはどうすればいいのか」といったことが社内で問われ、NPOとの連携について株主から認証を得る必要も出てきた。このような背景から特定の分野についてより深い知識や経験、ノウハウを持ったNPOと連携しながら社会貢献を実施遂行していこうという流れが、強まってきている。
 しかし一方、社会貢献の面だけでNPOと連携するのは狭い見方であろう。企業の本業の部分、例えばマーケティングの中でNPOと連携することは、社会的ニーズを取り入れた事業開拓になり、ビジネスチャンスになる。その中で得た成果等をNPOに分配すれば、NPOにとってもプラスになる。新規事業の開発の中には、高齢化の問題や環境・リサイクルの問題、医療・福祉の問題など、身の回りの生活そのものをどのように支援するかといったことがある。このようなさまざまな社会的ニーズを事業化していくことが、企業にとって非常に大きなビジネスチャンスになっている。
 しかし、こういった社会的ニーズや社会的問題が生まれてくる現場を知らないビジネスパーソンだけで新規事業を開発し、展開していくのは困難である。そこで、さまざまな現場に立会い、情報を持っているNPOと一緒に事業開拓をやって行くことは重要なことになる。本業の外での社会貢献を超えて、本業の中でNPOと連携しながら、社会的な問題やニーズを発見し、そこで一種のイノベーションを引き起こしていこうということに多くの企業が目を向け始めている。
 
2. サポート資源提供システムの意義・役割
 サポート資源提供システムの意義や役割は6点に要約できる。
 1点目は、NPOと企業の連携にはいろいろなタイプがあるが、このシステムは、企業から見ると、社会貢献活動型の連携に基礎を置いていることである。このことにより、企業にとってシステムヘの参加が容易になっている。2点目は、NPOと企業との連携のインフラを整備し、NPOと企業をマッチングしていることである。社会貢献をすると言っても、企業の側から見ると、どこにどんなNPOがあって、そこのNPOが何をしようとしているのか、実は、よくわからないといったことがある。そこでNPOと企業の連携を進めていくためにお互いの顔が見えるマーケット作りをする役割がある。
 さらに3点目として、NPO側の情報公開と情報開示の場をせんだい・みやぎNPOセンターに設置し、NPOのアカウンタビリティを果たすことがある。こうすることによって、企業側にNPOの姿がよく見え、具体的に、どこに何を支援したらいいのかということも透明になる。4点目は、やれるところ、目に見えるところから支援をすることにより、長続きする連携を目指していることである。サポート資源といっても、「物品・場所」「情報・パソコン」「資金」「人材・ノウハウ」といった多様な資源が含まれており、一度に進めることはなかなか難しい。当面のところは、「情報・パソコン」から進めることになっているが、多種多様な資源をNPOと企業の間でやり取りをしたり、リサイクルすることを考え、実践していく。
 5点目は、仙台、宮城におけるシステムとして、大企業の少ない地方都市のモデルとして重要な意義を持っていることがある。三大都市圏では、本社機能を持った大きな会社が存在し、NPOに対するさまざまな資源が出てくる。資金面から見ても、例えば東京で活動しているNPOに対して、大きな支援がでてくるのは、珍しいことではない。しかし仙台には、大きな会社はあっても、その会社のほとんどは支社や営業所のレベルなので、多くの場合、直接社会貢献をするのは難しい。また、地元の企業の多くは、中小企業なので、1社単独だと多くの資源をNPOに提供することはむずかしい。そこで、このシステムでは、企業当たりの支援の額や量は少なくても、それを束ねて大きくすることによって、企業にとっても、NPOにとっても、大きなメリットが生まれるという考え方をしている。その束ね方をどうやったらいいかということが、このシステムを考える上で、非常に大事なポイントであり、さまざまな工夫をその中で考え、実行している。このシステムが順調に成功すれば、他の地方都市でもこのシステムを汎用的に使っていけるのではないと考えている。そういう意味で、地方都市での実験であり、先進的なモデルづくりということの、いわば、先端を切っているという自負を持っている。
 最後6点目として、このシステムを上手く発展させていくことによって、大きな意味での地域振興や地域活性化の拠点をつくっていくことができるのではないかということである。NPOや企業、行政の単独の力では、地域振興や地域を良くすることは、もはや無理である。それぞれの地域の中でNPOと企業と行政が、いろいろな形でアライアンスを組んだり、協働することによって、知恵、情報、さまざまな資源をつくり出していったらよいかということが大きなテーマである。
 サポート資源提供システムは、直接には社会的貢献型の連携を狙っているが、そういった連携を通して、マーケティング型や事業開拓型の連携が生まれ、地域振興や地域活性化につながっていくと思われる。
 
●「企業とNPOのコラボレーション」
東北大学大学院経済学研究科 教授 大滝 精一
(東北巡回フォーラムin岩手(2002年2月8日)より)
 
1. なぜ連携が始まったのか?
 最近、企業とNPOとがいろいろな形で、手を組んだり連携したりということが盛んになっており、そのやり方も多様になってきている。企業がNPOと連携する理由はさまざまあるが、大きな理由の一つは、企業の社会貢献活動と関係がある。その中で企業そのものの体質を改善していく、あるいは、企業にオープンな風が入ってくる窓口としてNPOを考えていこうといったことが、大企業でも、地域の中小企業でも進み始めている。しかし最近ではそれだけではなく、もう少し企業活動や事業活動などの直接的な狙いを含めて、NPOとの連携を考える企業が増えているのではないかと思う。
 世の中の変化、例えば少子高齢化の問題で、少子化する・高齢化するとは一体どういうことかということは、一般企業のサラリーマンでは理解しにくい。だから企業では、実感や背景を事業に結び付けていく力をなかなか持ち得ないといった非常に切実な問題がある。社会全体が大きな変化の中にあるが、企業のスタッフだけでは、今の世の中の変化についていけなくなってきている。地域や社会の中で起こっている変化を見ながら、その変化にあった商品づくりをやっていこうとしても、何を開発したらいいのか、何を自分達が手がけていったらいいのかといった方向すらもよく見えなくなってきている。そこで地域の中から起こっているニーズというものを会社だけで見つけようとするのではなく、現場に密着して活動しているNPOの人達と協力し、情報を得て、事業を進めてゆく。そうすることによって、社会ニーズ、地域ニーズを探索し、自分達の商品のあり方やサービス、事業のあり方というものを見直していかなくてならないことが出てきているのではないか。
 地域の企業は、地域の中で起こってくる問題や悩みや困り事を解決していく手段として、商品を開発したり、サービスを行なったり、場合によっては事業を新しく手がけていくことが必要になってきている。こういう事業をソリューションビジネスと呼んでいる。顧客や地域に密着しながら、ソリューションを提供してゆき、商品やサービスや事業を作り出していくことが、今の企業にとっては非常に重要なものになっている。その糸口をつかんでいくきっかけとして、NPOが提供しているサービスの対象、あるいはノウハウといったものを含めて、そこと企業が連携していこうといったことが起こっている。このことは単に社会のニーズをNPOと協働して探り出して行くだけではなく、具体的な商品作りやサービス開発というところにも入ってくることが考えられる。企業側とお客様側とが、キャッチボールをしながら、長い時間をかけてじっくりと商品をつくりこんでいくというのが、今の商品のつくり方になってきており、お客様との信頼関係を築くことが重要なポイントになっている。
 そういうコラボレーション型、協働型商品づくり、サービス開発を具体的にやっていこうとすると、商品を直接購入する人の間でやりとりをするよりも、そこにNPOの人たちが加わって一緒にやって行く方が、よりメリットが大きくなる。さらに最近では、NPOの人達あるいは、NPOのサービスを受けている人達も、企業の顧客と考えて、サービスを提供することもあり、NPOは、企業にとって、非常に大切なお客様になってきている。例えば、NTTグループでインターネット検索サービスを手がけるNTT−Xは、約3万人の会員数を持つリサイクル運動市民の会とインターネット使った商品売買や情報提供について契約した。リサイクル運動市民の会では、年間750回のフリーマーケットを開催し、年間150億円の売買総額がある。NTT−Xでは、「ネットでフリーマーケット」としてサービスを開始し、市民の会の活動を支援しながら、非常に多くの顧客をつくっていくことにつながった。
 
2. 社会貢献から社会的投資へ
 企業とNPOが一対一で関係をつくるというよりも、企業とNPOの間で事業の開発をするといったことや、地域の中で新しい事業を起こしていくための基盤やインフラとしてNPOを使っていこうという考え方も、最近では非常に多くあらわれているのではないだろうか。例えば、まちづくり会社で行なわれているTMOという組織がある。形式的には株式会社としているところが多いが、TMOそのものが、とてもNPO的色彩の強いものであり、NPOべースの目でさまざまな事業を起こし、その事業をやっていくことによって、まちづくりや地域そのものを活性化している。このようなあり方をプラットホームという。地域の活性化やまちづくりを具体的に推進していくためのプラットホームとしてNPOを活用する考え方は、いろいろなところから出てきている。
 NPOが直接企業と組むことによって得るメリットは、NPOが活動するための活動資金の一部がくることであるが、NPOが求めている資源は、お金だけではない。NPOの活動を継続していくには、情報やさまざまな設備や事務所、物品をどのようにして調達してきたらいいかといった問題もあり、個々のNPOにとっては大変重要な問題である。また、経営のノウハウや事業の企画を立てるノウハウ、リーダーシップを発揮できる人材をいかに獲得したらいいかという問題もある。限られたNPOの人材の中から企画力やリーダーシップを持った人がどんどん出てくるといったことは、なかなか難しいだろう。企業で実務経験を積んだ人達の力は大きく、NPOが企業との間でさまざまな人材の交流をするのは、非常に大事な要素になってきている。一般的には企業からのボランティアであるとか、社会貢献として行なわれてきたが、NPOセンターのような中間支援機関が入ることによって、インターンシップなどもっとスムーズな形で行なわれるようになるのではないだろうか。必要な人材が必要な人数だけ供給できるような仕組みを地域の中で提供でき、人が持っている能力をNPOと企業の間でやりとりするといったことがあれば、もっといろいろなことができるだろう。
 今までは企業とNPOとが連携する場合、企業側からというと本業そのものというよりは、本業の周辺のところでNPOと連携していくといったようなスタンスだったと思う。しかし、最近ではこの状況は変わってきている。以前のように企業に豊富な資金があって、その余剰を社会貢献活動としてNPOに回していくという考え方ではなく、限られた資金や資源の中で、いかに効果的に社会貢献をしていくかが企業の中で求められており、これを「戦略的社会貢献」と呼んでいる人達もいる。なぜ「戦略的」という言葉を使っているかというと、社会貢献に使うことができるような資源は、現在の経済状況の中では非常に制約されてきており、広く薄くバラ撒くのではなく、できるだけ効果的に成果を実現できるようなNPOやNGOと組んで社会貢献をやった方がいいということになってきた。また、社会貢献の支出は、経費とされていたが、大阪ボランティア協会の早瀬氏は、「企業にとって、必要な投資である。」と言っており、「社会的な投資」としての社会貢献の支出という考え方に変わってきている。
 
3. 新しい連携の手法
 連携の一つのパターンとして、ごく最近日本で始まったのは、NPOと共同でマーケティングをやりながら、企業が連携していこうというものである。コーズリレィティッドマーケティングというものだが、企業が商品やサービスをお客様に知らせたり、提供を促進しようとしたりする時に、プロモーションの一環としてNPOやNGOの人達にも協力してもらい、お客様に対する信用力をつけるのである。ただし、売上高の一定の割合分は協力してくれたNPOやNGOの人達に還元する。アメリカやヨーロッパの一部では、お互いにとってプラスになる共同マーケティングは、一般的であり、非常に盛んである。さらにマーケティングの分野だけではなく、商品やサービス開発そのものや、事業開発そのものの中で、企業とNPOとが連携するといったことが起きている。仙台では、ハリウコミュニケーションズと、ITを使って高齢者の自主活動を行っている仙台シニアネットクラブとが連携し、特に高齢者向けのパソコンテキストを共同で企画・開発し、それを事業化し、商品化した例がある。
 一対一で企業とNPOとが何かをやっていくというだけではなく、プラットホーム型のNPOをつくって、そのNPOを母体としながら、企業とNPOが新しいものを地域の中に作り出していくといった連携もある。MIMINetは、社会を良くすることと、地域の中に多くの事業をつくって経済を活性化するといった、コミュニティとエコノミーの融合を目指している。MIMINetでは、体の不自由な人達の施設にボランティアとして出向いて行き、パソコンを教えている。そうした活動の中で、握力が弱い人が、一般的なマウスを使うのは困難なことに気がつき、自分達の企業で持っているノウハウを生かして、障害者の人にも使いやすいマウスを開発できないかということになった。そして実際に使ってもらい、評価がよければ商品化しようという話もでてきている。地域を良くするための活動をすることからスタートし、商品化やサービス化できるものは、企業や企業のネットワークを使いながら自分達で開発を進めてゆき、具体的なプロジェクトを起こしていこうというのが、MIMINetの取り組みである。産業と企業が集まれば、地域は良くなるかといったら決してそうではない。暮らしやすく、産業や企業も繁栄しているという、同時追求をやっていく地域こそが、21世紀に生き残れる地域だと考えている。
 
4. 協働の課題
 最後に、地域の中で企業とNPOが連携をする時の現在の課題や問題について、いくつか指摘したい。社会貢献活動という領域を除くと企業とNPOとの間の連携が始まったのはごく最近のことである。これまで企業とNPOとは水と油の関係だとまで言われていた。その理由は簡単で、企業は営利の活動をし、NPOは非営利の活動をするものだと言われていたからである。しかし、企業とNPOとの結びつきは、営利や非営利といったことで割り切れるものでもなく、企業の側にとっても、NPO側にとっても、地域の中に住んでいる人にとっても、連携や協調は、多大なメリットをもたらす。ここで問題になるのは、そのための条件が未整備であることだ。企業の人達はNPOといろいろな形で手を組みたいと考えており、またNPOも企業から資金面だけでなく、いろいろなサポートを得ることを必要としているが、お互いの姿や顔がよく見えないので、何をどのように連携していったらいいのかということが、お互いにわからない。NPOと企業の間のマーケットをどうやってつくっていったらいいかということを考え、NPOを支援するNPOのような組織や、お互いの意向がみえる提携や連携のインフラをつくっていくことが必要である。
 もう一つの課題は、地域の中にあるNPOやボランティアの組織の信頼や信用をどのように担保するかといったことである。この場合、NPOの側が情報を公開することや、自分達の活動を広く地域や企業に知らしめるといったことを恒常的にやる必要がある。
 3つ目の課題は、多様な資源をお互いにどうやって提供していったらいいのかということである。企業がNPOに対して何かをサポートするといっても、非常に大きなお金や多くの人員をかけて支援を行なうといったことはできない。少ない支援を束ね、大きなまとまりをつくることが重要になってくる。少ない資源を地域の中でうまく一つの塊とすることができないと、本当に地域を良くするための企業とNPOとの連携には結びついていかないかもしれない。
 多くの地域のNPOと多くの地域の企業とを、NPOセンターような支援組織が入ってマッチングさせていこうという考え方から、NPOにとって必要なサポート資源を企業との連携の中で提供していく「サポート資源提供システム(SSS)」という形になった。せんだい・みやぎNPOセンターが行なう、サポート資源提供システムでは、NPOの情報を広く社会に情報公開をしていくためのライブラリーを設置し、インターネットも使ってその団体の情報を社会に発信していく。一対一で企業とNPOとが直接やるのではなく、間にNPOセンターのような支援組織が入り、互いのニーズとシーズをマッチングさせながらやっていくことで、地域の中にさまざまな資源を循環させて、地域の活動をさらに活発化させようというものである。
 企業とNPOとが連携し、いっきに事業をやるといったことは難しいことである。やはりお互いにお互いを知り合って、信頼関係をつくり、粘り強く一歩一歩段階を踏んでいかないと、本当の意味で頼りになる企業とNPOとの間の連携は、なかなかできないだろう。そういう意味でいうと、地道な活動を一歩一歩積み上げていく、そして最終的には、企業とNPOとの間の関係の中で、いろいろな商品やサービス、事業を地域の中でつくっていく発想に向けて、さまざまな取り組みをしていくことが、これからの企業とNPOとの間の連携が目指すべき方向ではないだろうか。







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