2001年度
サポート資源開発プロジェクト活動の記録
「市民活動支援に係る地域のサポート資源提供システムの運用と情報公開拠点の整備」事業報告書
1 はじめに
2年間のプロジェクトから得られたもの
特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンター代表理事・常務理事 加藤 哲夫
2000年5月に始まった「サポート資源提供システム」の開発は、2年の歳月と、開発参加企業・団体41社、その他の資源提供企業4社、合計45社とその企業からの参加者総数50人の労力を費やし、研究会開催15回、ワーキンググループ会議開催68回、セミナー・シンポジウム等開催10回を重ねた議論と多数の情報発信を通じて、地域における継続的なNPOへの資源提供システムの開発と試験運用実施の成功という大きな成果をあげることができた。この成果は、いうまでもなく私ども[せんだい・みやぎNPOセンター]単独の成果ではない。参加企業・団体41社の関係者の皆さんによる主体的な協力と、そして日本財団ボランティア支援部による2年間に渡るシステム開発と広報に関わる諸費用の助成なしには、この大きな成果はなかったと言える。ここに厚く感謝申し上げたい。
さて、わが国のNPOセクターの成長は、ここ数年めざましいものがある。特定非営利活動促進法の施行以来、法人格を取得した団体は7000を超えた。それに比例して、法人格の有無を問わず、ますます市民による自発的公共的な活動と、その担い手としての市民組織、NPOへの社会的注目が高まっている。また、行政とNPOとの協働・パートナーシップがそこかしこで謳われるようになった。一方、企業セクターを見ると、長期にわたる不況下での大型倒産の頻発や失業、不祥事の多発など、ある種の自信喪失状態に陥っている。その中から、人生の複線化、退職後の地域復帰・U夕ーンなどへの興味からNPOに関心を持つ企業人が増加している。また、NPOとの連携を図りながら地域のニーズを捉えなおして新しい問題解決ビジネスを生み出そうとする先駆的な企業の動きも広がっている。このような動きは今後数年以上にわたって継続的に増加していくものと予測される。
しかしながら、社会的注目を受けているNPO側の状況をふりかえると、NPOバブルの側面も散見され、マネジメント力の欠如や未熟による運営上の混乱も一部に見られることは否めない。また、協働という名の行政によるアウトソーシングによって委託事業が増え、ミッションを見失った下請け化の危険性も増大している。また、法人化が進むことにより、市民活動の組織化が進み、ここ数年、マネジメント支援ニーズ、資金支援ニーズは大幅に増大しており、団体の活動の中枢を担う人材不足もあって、経営力の不足は続いている。
私ども[せんだい・みやぎNPOセンター]は、昨年度東北六県のNPO法人を対象とした調査を行った。そこで明らかになった団体の支援ニーズの傾向は、以下の通りである。(『経済産業省(東北経済産業局)におけるNPO等への支援・連携等の推進に関する調査[報告書]』発行:経済産業省東北経済産業局、調査協力:せんだい・みやぎNPOセンター)
(1) |
全体的に「団体の運営を担うスタッフ」および「資金調達」のニーズが高い。 |
(2) |
「団体の運営を担うスタッフ」のニーズは、特に総収入100万円〜500万円の層で高い。 |
(3) |
団体の総収入が大きくなるほど「資金調達」のニーズが相対的に小さくなる。 |
(4) |
総収入5000万円以上の層では、税制優遇や融資制度など、資金調達を支える社会システムヘのニーズが発生する。 |
(5) |
総収入500万円以上で、団体のマネジメントについてのニーズが増加する。 |
(6) |
その他のニーズとして「スタッフの研修・技能向上」「事業の充実」などがある。 |
これらのことから、団体の総収入規模によって、必要とする支援が異なり、どの層を対象とするかによって、支援の方向性が異なることが明らかになった。同時に、社会的成果が出せる組織にNPOが成長していくためには、「団体の運営を担うスタッフ」の獲得・教育と組織の成長段階に対応した「資金(資源)調達」がリンクしている必要があると予測される。
また、総収入500万円以上で、団体のマネジメントのニーズが増加するということは、その前の100万円から300万円程度の層において、マネジメント力を獲得した団体が収入を増加させている結果である可能性もある。表面に現れたニーズにそのまま対応するのではなく、その一歩手前のニーズを掘り起こし、情報やノウハウを提供していく必要があると私たちは考えてきた。
また私たちは、設立当初の1998年2月より、NPOと企業の連携のための部会を設置し、定期的な交流サロン「コーポレイト・シチズンシップ・フォーラム(CCFサロン)」も開催してきた。その活動の中で、企業とNPOの連携に関する調査を行うプロジェクトが生まれ、2000年3月には報告書を発行した。そこでは、多数の企業がNPOとの連携に関心を示しているが、情報不足や信用不安など、さまざまな阻害要因もある状況が浮き彫りになっていた。
図1 せんだい・みやぎNPOセンターのプログラム構成
同時に私たちは、その前年の1999年11月より、年に一度の理事合宿を行うようになった。そこでは、目の前のニーズにどう対応するのかではなく、中長期的な見通しを立て、センターの事業をどのように展開していったらいいかを泊り込みで議論をしたのである。その中で、私たちは、数年のうちに、1万余のNPO法人が誕生し、資金ニーズやマネジメント支援ニーズが高まることを予測した。そして、数年をかけて民間で、地域の企業・団体の皆さんに働きかけて、地域資源の開発を行い、支援のシステムを構築することを構想した。それが1999年11月に日本財団に申請書を提出した「サポート資源提供システムの開発プロジェクト」である。
私どもは、以上のように、NPOを取り巻く社会情勢の急速な変化とNPO自身の支援ニーズを、3年前の助成金申請時に予測し、その総合的な解決のために、今回のサポート資源提供システムの開発を計画し、この2年間、センターの戦略(重点開発)プログラムの中心に位置付けて総力をあげて実行してきた。今後、2002年度からは自主財源による中核プログラムとしてシステムを展開していく予定である。(図1参照)
このサポート資源提供システムの開発は、直接的にはNPOの活動に必要とされる資源(物品、パソコン、資金、人材)を、企業および社会一般から調達することによって、NPOの活動基盤強化を図ることを目的としている。さらに、深層のねらいを以下のように設定していた。
(1) |
システム開発のプロセスにおいて、多数の企業との連携・協働により、互いの信頼関係の構築と相互学習を行い、企業・企業人を中心とした開発で、NPOサポートシステムの構築をめざす。 |
(2) |
企業・企業人主体のサポートシステムの構築によって、社会全体からのNPOへの関心を引き出し、信用保証を行って、将来のスルー型コミュニティ基金(財団)をめざす糸口をつくりだす。 |
(3) |
資源を提供されたNPO側の情報公開を義務付け、それを効果的な情報発信支援システムとして設計する。NPO側に公開性・透明性を確保することで、マネジメント能力の向上に寄与し、信用保証を図ることができるシステムをめざす。 |
(4) |
このシステムが恒常的に運用されれば、社会からNPOへの資源の循環が大幅に増大することが可能になる。同時に、地域課題の解決にNPOと企業が協働で取り組むとか、新しいサービスを協働で開発・実行するとか、さまざまな形でのNPOと企業の協働が生み出されることで、結果として地域経済と地域社会の活性化につながることをめざす。 |
このような取り組みを成功させるためには、今までなぜこのような企業とNPOの関係が広がらなかったか、その阻害要因の分析が必要である。私たちはその原因を大きく3つに分析した。
(1) |
大部分の企業および企業人にとって、NPOとは何か、それはどのような価値をこの社会に創造しうるのか、ということについてまったく想像できないこと。NPOの創造する価値は従来の市場価値や行政による公共価値とパラダイムが異なること。(価値・機能の理解問題) |
(2) |
“未知との遭遇”ではないが、大部分の企業および企業人にとって、現実のNPOによる公共的活動はほとんど理解も認知もされておらず、従って、いざ社会貢献やボランティアに参加しようとしても、どのNPOを選んだらよいかまったくわからないこと。(情報不足・信用保証問題) |
(3) |
いざ寄付や物品の提供などの関わりをしようとすると、企業側には、情報収集・告知・選考・輸送など、あらゆる面でかなりのコストがかかることがわかり、そのコストを負担することができない企業が多いこと。(コスト問題) |
以上のような要因によって、多くの善意は、地方公共団体や社会福祉協議会、共同募金会、日赤など大手または政府の後ろ盾のある特定のところに偏る傾向が生み出されている。そのことがまた、寄付者(ドナー)の意思の反映を困難にし、多様な人々による多様な資金源の欠如を招き、多くの人々の寄付意欲を失わせる大きな原因となっている。逆に私たちは、旧来の寄付者像から一歩踏み出した新しい寄付者像の創造をめざし、小さなパイの喰い合いをするのではなく、新しい寄付者群を創出したいと展望している。
私たちは、これらの問題を根本的かつ総合的に解決するための方法として、「サポート資源提供システム+NPO情報ライブラリー」というシステムの構築をめざした。
(1)価値・機能の理解の問題
2年間を通した研究会、セミナー、ワーキング、交流会などあらゆる機会を捉えて、NPOが持つ価値創造機能やパラダイム転換を参加企業・団体の関係者が学習することを可能にした。また、シンポジウムやセミナーなどで実際に資源提供したNPOの関係者と出会うことで、実感を伴ったNPO理解が促進された。
(2)情報不足・信用保証問題
これについてはNPOの情報に精通した中間支援組織であるせんだい・みやぎNPOセンターとの連携によって情報収集を補い、NPOによる自発的な情報公開拠点としての「NPO情報ライブラリー」を当センター内に設置して、最低限の信用を担保するシステムとした。同時に、企業側情報や支援情報の整備も行い、NPOと企業の交流・連携の窓口としての機能も果たすこともめざした。
(3)コスト問題
実際に試験運用することによって、このコスト問題の重要性に改めて気づかされた。提供する側にあまりにも大きな負担がかかる場合、せっかくの意欲や善意が消滅しかねない。特に地元の中小企業にとって、これは死活問題である。サポート資源提供システムではこの問題を、多数の企業・団体の協働と事務局のせんだい・みやぎNPOセンターへのアウトソーシングという考え方で、コストの分散を図り、小さな貢献の積み重ねによって大きな成果をもたらせることを立証した。
以上のようなねらいに基づいた課題の設定と解決手法の選択を行うことで、2年に渡ったサポート資源提供システムの開発と試験運用は、大きな成果をあげることができたと自己評価している。ここでは、2001年度の事業リストを掲載する(表1参照)。
本事業のねらいに基づく自己評価は、本報告書資料編の「2. 各事業項目についての成果報告および自己評価」に詳述してあるので割愛し、ここではより全体的な視点からの評価と今後の課題について検討を試みる。
表1 サポート資源開発プロジェクト 2001年度事業リスト
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実施事業 |
備考(2002年4月末現在) |
1 |
サポート資源開発プロジェクト 研究会 |
5回開催。参加企業41社。 |
2 |
サポート資源開発プロジェクト ワーキング |
4つのワーキンググループ。総計31回。 |
2−1 |
物品・場所ワーキング |
物品輸送システムの開発。 |
2−2 |
パソコン・情報ワーキング |
中古PC提供システムの開発。 |
2−3 |
資金ワーキング |
資金提供システムの開発。 |
2−4 |
人材・ノウハウワーキング |
人材交流・連携促進策の検討。 |
3 |
資金・資源提供者の開拓のためのセミナー |
1回開催。参加者約50名。 |
4 |
ボランティア・市民活動団体へのシステム説明と登録推進のためのセミナー |
2回開催。参加者のべ約100名。 |
5 |
サポート資源提供システムの試験運用成果 |
当初目標を上回る成果を得た。 |
5−1 |
物品提供 |
延べ40団体へ約1,100点の提供。 |
5−2 |
中古パソコン提供 |
延べ31団体へ79台の提供。 |
5−3 |
資金提供 |
延べ19団体へ230万円の提供。 |
6 |
ボランティア・市民活動団体のための情報公開拠点(NPO情報ライブラリー)整備 |
42団体の登録。 |
7 |
システム試験運用の成果発表シンポジウム |
1回開催。企業とNPOの交流の促進。 |
8 |
東北各地への資源開発のための巡回フォーラム(東北巡回フォーラム) |
5ヶ所で開催。 |
9 |
システム運用ワーキング |
2002年4月までに2回開催。 |
10 |
パンフレット・実績報告書の作成と配布・広報実績 |
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11 |
全国的な資源開発のための研究会のネットワークづくり |
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12 |
プロジェクト中間評価 |
2001年12月に実施。以降の事業進行に活用。 |
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(1)民間によるNPO支援の先行モデルとして
NPOへの資金提供は圧倒的に行政主導型が多い中で、本システムは民間とくに企業セクターによるNPO支援の新しい枠組みを提示している。また、資金に特化せず、物品、中古パソコンを加えることで、多様なNPOの支援ニーズに的確に応えている。実はNPOの資金ニーズの内、かなりの部分は、社会からの物品や場所の提供があれば賄えるものである。それはまた、社会の側も、現金による資金提供より、はるかに低いハードルになり、多様な協力者を創出することを可能にするものである。今後はもちろん、物から資金へ、そして人材の交流へという展開が課題である。また、本システムの運用経験の蓄積は、行政依存型のNPO支援に一石を投じ、行政主導型の資金提供に対する運用改善の提言にも結びつけることができる。(図2参照)
図2 官民のNPO支援センターの機能分担
(2)社会貢献から社会的投資へ
地方、特に東北地方は企業セクターとNPOセクターの協力が希薄な地域である。その中で企業セクターとNPOセクターの協働によりつくりあげたサポート資源提供システムの成功は、地域に大きなインパクトを与えつつある。特に、旧来型の社会貢献から、企業の側の利益もまた地域の発展と共にあるという社会的投資の概念による企業へのアプローチは、地元中小企業の参加を促す大きな原動力となった。そこから、参加企業の社会的評価の高まりやビジネスの成功実績が積み重ねられれば、より一層の参加と資源の提供が期待される。本システムの直接の成果ではないが、開発参加企業のひとつである酒造メーカー、株式会社一ノ蔵は、昨年秋にNPO法人環境保全米ネットワークの生産者が育てた無農薬米を使用した純米酒を製造販売し、新しい販路を開拓することができた。さらにこの酒には、一瓶あたり一定額の寄付金が上乗せされており、その結果、NPO法人にも寄付金が提供されることとなった。このようなケースがいろいろな形で見られるようになれば、地域の企業の関心も一層高まることと思われる。
(3)全国的なノウハウの提供と経験の共有へ
本システムは開発当初より、その経験とノウハウを全国のNPO支援に取り組む人々とわかちあう方針をとり、報告書、巡回フォーラム、メーリングリストの運用、随時の視察ヒアリングや相談対応などで実行してきた。そのためには、各プロセスにおける到達点と課題の整理、経験の理論化を行い、次の活動方針や事業計画に活かすサイクルを確実に実行することを念頭に取り組んできた。
(4)企業とNPOの協働推進センターとしての中間支援組織
本システムの開発と運用の経験において、もっとも重要な視点は、会議やワーキングの協働だけではなく、当センターが継続的な企業とNPOとの協働の推進・支援を行うセンターとしての役割を果たしていることにある。つまり協働推進センターとしてのせんだい・みやぎNPOセンターである。これは公平・平等を旨とする公的なNPO支援施設では展開が困難な事業であり、当センターの民間性を活かして、今後も拡充していきたい。特に、本事業で出会った多くの企業人は、皆さん何らかの社会的な問題意識をもち、行動したい欲求を秘めているすばらしい人々であった。そのような人々がまだまだこの社会に多数存在していることを確信できたことが、本事業の最大の成果ではないだろうか。
以上のような全体評価をした上で、今後もNPOのエンパワーメント、NPOセクタービルディングと企業との協働推進のために、サポート資源提供システムを、当センターの戦略(重点開発)プログラムから中核プログラムに成長させて展開していく所存である。
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