日本財団 図書館


VI 議事要旨
○中山間地域等直接支払制度について
 
中山間地域等直接支払制度の実態は、「人・土地・村の3つの空洞化」である。
 
小田切委員:人の空洞化は、1960年代から70年代の高度経済成長期に発生した大変端的な事態だというふうに思います。最も典型的には、農家の後継ぎの他出ということで発生したのだろうというふうに思います。ただし、それが土地の空洞化に至るまでには若干の時間がありました。つまり跡継ぎが他出しても、残された父や母が農地、あるいは林地を保全してきた、そのような実態がございました。そして、今に至ると、そのことが村の空洞化にまで至ってしまう。つまり土地の空洞化に抗して、集落営農等々の危機対応的組織農業というふうに言っておりますが、それを対抗軸として築き上げようとしても、村の空洞化のもとになかなかそういう前進面が出てこないという事態でございます。
 この点を実は最も端的に統計分析をしたものが、資料1(81ページ)というグラフをごらんいただきたいと思います。このデータは山口県の中山間地域でございますが、三つの直線を示しております。農家人口、つまり人。経営耕地、土地。そして集落数ということですが、これをごらんいただければわかりますように、農家人口については1960年代から既に激しい減少が生じてきております。しかし、経営耕地面積が顕著な減少を始めるのがむしろ70年代から、それ以降はほぼ一直線ということでございます。そして、さらに集落数そのものが大きな変化を示すのが90年代から、こういう形で人の空洞化、土地の空洞化、そして村の空洞化がタイムラグを経て現在に至っているということが確認できるわけでございます。
 
中山間地域等直接支払制度の特徴は、集落重点主義、農家非選別主義、地方裁量主義等がある。
 
小田切委員:直接支払制度、それがどういう特徴を持っているのかということでございます。6点ないしは7点ばかり例示しております。
 第1が集落重点主義。この直接支払制度は集落協定に対して交付金を支払う、そういう仕組みになっております。あるいは、その交付金の使い道につきましては、その過半を集落によって決める。過半というのは、あくまでも農水省当局のガイドラインでございますが、そういう運用上の決まりがあるわけでございます。そういう意味で集落重点主義ということが言えるかと思います。
 2番目は農家非選別主義。その交付対象を、例えば農家が零細であるとか、あるいは高齢農家であるとか、そういうことによって選別しないということになっております。現に農業生産に従事しているすべての農家に対して支払いが行われる。そういう意味で非選別主義という言葉が的確かというふうに思います。
 3番目は地方裁量主義でございます。この制度は、都道府県レベルでいえば知事の特認制度、つまり地域振興8法、これ以外の地域でも知事が特認すれば、その交付を行うことができることになっております。もちろん制約はございますが、そういう意味で地方裁量主義。あるいは、先ほど申し上げた集落協定それ自体の認定も市町村長が行うような形になっております。そういう意味においても地方裁量主義が言えるのだろうというふうに思います。
 以上が制度の大枠についての特徴でございます。それぞれこの制度のはしりとなりました1975年から始まっている当時のEC、現在のEU、それとの比較において、あるいは20世紀型農政との比較において、21世紀日本型制度というふうに呼ぶことができるものだろうというふうに思います。
 より細かい特徴を3点ないし4点ほど掲げております。
 使途の非制約主義でございます。この交付金につきましては、もちろん交付金ということもございますが、使途については制約がないということになっております。
 5番目でございますが、予算の単年度主義の脱却。集落協定レベルでプールすることによって、例えばこの交付金を、極端に言えば5年間プールして、そして巨額なものにすることによってより大きなもの、例えば圃場整備の補助財に使うこともできる、あるいは集落の集会場などの施設の建設費に充てることもできる、そういう意味で従来さまざまな形で言われておりました予算の単年度主義、それからの脱却の試みであるということが言えるかというふうに思います。
 6番目は村づくり活動との一体性。本研究会とのかかわり合いがあるところだと思いますので、やや詳しく見てみたいと思いますが、59ページに図がございます。この直接支払制度のいわゆるフ口ーチャートといいましょうか、ポンチ絵といいましょうか、それを私なりにまとめたものでございます。この制度の最終目標は、一番右に出ておりますように中山間地域の農業・農村の多面的機能を確保する、そういうことがこの制度の目的、最終目標として掲げられているわけでございます。しかし、それに至るまでの経路はやや複雑であります。
 今回は集落協定にかかわるところのみ、つまり上半分のみ説明させていただきますと、集落協定を掲げた地域は、共同取り組み活動の活性化、つまり集落レベルでのさまざまな共同活動、それを活性化することが求められます。つまり集団的対応ということになります。それとは別に、もちろん個別の農業生産を活性化する。この交付金の半分を手に入れることによって、条件不利性を補正して農業生産を活性化する。活性化するというよりも継続するというふうに御理解いただければと思いますが、そういうことが求められております。この二つのことが両者必須で求められると同時に、次の段階に至りますと、攻めの活動として多面的機能を増進すること。それから、守りの活動として従来の農業生産活動を継続すること。この二つのことがやはり必須条件として求められております。
 今、御説明しました共同取り組み活動の活性化、このことと多面的機能の維持増進、このことはいずれも従来行われている村づくり活動と表裏の関係にあるわけでございます。そういう意味で、この直接支払制度が農業生産の継続という、その1点に限らず、村づくり活動と大変強いリンクをしているということ、そのことを理解するべきだろうというふうに思います。
 最後に第7番目の地方主導型農政ですが、この制度が立ち上がったときにできた最終報告では、「今回導入されようとしている直接支払制度は、地方で草の根的に実施されてきた政策をいわばボトムアップ的に全国レベルで展開しようとするものである」と、そういう記述が見られます。確かにさまざまな地域で地方単独事業として取り組まれていた制度が、中山間地域等直接支払制度としてアグリゲートされ、そして、現在に至っているというふうに理解することもできるわけでございます。こういう特徴が指摘できるかというふうに思います。
 
水野委員:今回のこの直接支払制度というのは、一つ大きな特徴としては、面積当たりに交付金を出すというところがあげられると思います。というのは、いろいろな取り組みの知恵にもありますように、より広い範囲を対象にこの協定を締結することによって、農業生産活動のそういった互助的な支援能力とか、いわゆる耕作とか農地保全の継続が難しくなってきた場合に、その引き受けや他の構成員によってカバーできるという、国土保全とのポテンシャルを生み出したのではないかということがあるかと思います。
 それと、いろいろな各地の取り組みを拝見させていただきますと、制度の担い手という意味では、いわゆる今まであった土地改良区、あるいは農協というような、既存団体の方も、逆にそういう枠組みで農地保全に参画する機会が拡大し、組織が事務的な手続を代行して協定を結んでいるというケースも見られるのです。
 一方では、いわゆる営農委員会、連絡協議会など、協定管理組合みたいに全く新しい、今までなかった管理組織を、この協定締結をきっかけにして立ち上げて、場合によっては常勤の職員を置いているような事例もあるようです。いわゆる既存の組織に頼らないで農地管理を行っていくというのでしょうか。担い手という点から見てもそういう二つの見方ができる傾向があるのではないかと思います。
 
中山間地域等直接支払制度の評価及び成果は、農業生産の継続、多面的機能の増進及び村づくりとの一体性である。
 
小田切委員資料2(81ページ)の表になります。2001年度実績とは、つまり制度発足2年目で、今年度が3年目になりますが、昨年度実績の取りまとめによれば、協定面積は63万2,000ha、予算面積は90万ha、それから比べると7割の進捗率。あるいは、市町村が対象としているというふうに自己申告している基本方針の面積、それと比べれば80%の進捗率になっております。
 このことはさまざまな形で言われているところでございますが、私自身、関心があるのは、この面積率のところではございません。むしろ協定締結数、具体的に申し上げれば、集落協定が約3万1,000構築されております。つまり日本の中山間地域の中で約3万の集落において話し合いが行われて、そして、その農地について保全が協議されている。そのことは非常に高く評価されるべきだろうというふうに思います。ただ、この3万という集落数でございますが、あくまでもこの制度の上の集落数でございまして、目本国内には13万5,000の集落がございますが、その集落と必ずしもリンクしておりません。と申しますのは、集落内を幾つかの団地に分けて集落というふうに呼んでいる地域もあれば、例えば西日本のように幾つかの集落を囲って、複数集落で集落協定を築き上げているところもあります。そういう意味で集落と1対1で対応しているところではございませんが、いずれにしても約3万の話し合いの集まりがある、そのことは高く評価していいのだろうというふうに思います。
 さらに、資料2(81ページ)をごらんいただきたいと思いますが、下から2番目のラインでございますが、集落協定参加者数として61万3,000という数字を掲げております。これも、この膨大な数字は、つまり日本国内の中で61万3,000戸でございますから、実人数としてはより多いのだろうと思います。もちろん形式的にはんこを押しただけの参加者数もあろうかというふうに思いますが、しかし、いずれにしてもこれだけの数の方々が集落の農地保全、そして、最終的には集落の活性化ということにかかわった議論を遂げているということ、そのことは評価していいのだろうというふうに思います。
 そして、この制度の評価を3点ほどあげております。
 一つは、農業生産の継続というところでの評価でございます。資料3(82ページ)をご覧ください。本制度による農振農用地への再編入の大きさは大変大きなものと評価することができます。2年間の数字でございますが、2000年度と2001年度、その2年間で7,276haの農振農用地の再編入が認められております。これは、各年の農振農用地の再編入が6,400、8,900、5,600、そういう数字と比較すれば、この制度単独で約1年分の農振農用地の編入が実現している。かつて農水省は、あるいはかつての国土庁は、この農地保全のためにかなり膨大な予算をかけていたわけでございますが、国費ベースで330億、事業費ベースで700億円という、そういった事業費のもとでこれだけ大きな実績を遂げられたということは、決して農水省の肩を持つわけではございませんが、しばしば言われるところの安上がり農政といいましょうか、そういうものを実現していることは間違いないだろうというふうに思います。
 2番目、多面的機能の増進でございます。さまざまな形で多面的機能の維持・増進の意識的な取り組みが行われている。
 3番目、先ほど指摘した村づくり活動との一体性でございますが、資料3(82ページ)の一番右の欄で確認していただきたいと思います。これは、集落協定の中に任意項目として集落マスタープランをつくることというものがございます。これはあくまでも任意項目で、必須項目ではございませんが、その取り組みが各地域ブ口ック別にどの程度行われているのか、集落協定を分母として、その数字を掲げております。全国で35.1%、つまり約1万の集落で集落マスタープランをこの集落協定とともに築き上げている、そういう実態があります。
 特に高いのは北陸でありまして、この数字は新潟県が引っ張っているものであります。新潟県では、この集落協定をつくると同時に、集落活性化プランをつくることを県の独自の施策として義務づけております。単に集落協定を、これは国で既にそのひな形ができているものですが、それに書き込むのみではなく、自分たちの集落をどういうふうに活性化するのか、そのス口ーガン、具体的な手法、そして具体的な手順、そういうものをつくることを求めておりまして、全集落がそれに書き込みを行っております。そういう独自農政の展開もございまして、集落活性化プランとのリンケージが特に目立つわけでございます。これは必ずしも新潟だけではなく、例えば愛媛県などでもそのような数値が出てきております。いずれにしても集落の基本的な話し合いとリンケージが見られる。一言で言えば、この直接支払制度は集落活性化基金として機能して、何よりも、話し合いを始める、そして集落のビジョンを築き上げる、そういうものの入口になっていることが確認できるわけでございます。
 
吉中委員:国の制度という意味での直接支払いは、いろいろ制度的には未成熟でして、まだまだ問題がありまして、集落によったら、お金が入ったために、半分は個人ですけれども、昔から長いこと続いてきた集落の人間関係にひびが入るようなところも出てきたという事例もあり、恐らく余りいい話ばかりではないと思います。とにかくうまく使ったところは集落がきれいになりました。草刈りだとかきちんとするところが出てきます。それと、やはり共同作業ということで、皆さん飲み会であるとかそういった頻繁にみんなで集落で集まることが多くなって、いい意味で連帯感が醸成できたのかなと、そういう意味では効果があったと思います。
 ビオトープの里みたいなところもあちこちできていまして、私は将来的には奥部の田んぼに魚をふやして、いわゆる釣り公園みたいなことでもすぐできるのではないかというふうに思っているところですけれども、そういったことが今できるようになったということと、やはりリーダーさえよければ奥部の集落でも、たとえ疲れていても何とかなるなというふうに思っているところです。
 
水野委員:制度の運用ですけれども、いわゆる面積の大きな協定というのは、交付金も大規模になり、1,000万円、2,000万円程度になり、その一部、あるいは全額を、ため池の修繕とか、それから水路の維持修繕費、草刈り費等に使ったり、あるいは、中には基金を造成して突発的な災害に対処しようとか、今まで各戸が独自でやっていた鳥獣害の対策施設費を、集落全体でそれを資金にして整備しようとか、地域の創意工夫によって運用されているというのがよく読み取れるかと思います。
 あとは、当初言われていた対象となる農地と、非対象のいわゆる非農家の方を多く含んでいる集落、あるいは非対象となる農地が混在する集落、つまり山すそとかそういうところでの集落でも、当初は集落内で不公平感とか不和、そういうものが生じるのではないかというおそれがあったようですが、小田切先生が集めたこのデータから見ていくと、集落のいわゆる農業者全員がそういう協定に参加したり、あるいは非農家も含めた集落全体で農用地の管理とか景観作物の植えつけとか、さらには体験農園をつくったり、ビオトープをつくったり、いわゆる非農家も含めて、地域ぐるみの取り組みをしているところも少なからずあります。
 こうして見てみますと、今回の直接支払制度の意義と効果というのは、今までお話にありましたように、従来の個々の農家とか集落というものを超えた範囲で資源管理の合意形成といいますか、そのような土壌をつくったということが一つあるのではないか。それから2点目は、具体的な国土資源とか保全管理のための共同作業への取り組みと実施という点で全国的なスタートの契機となったということがあるかと思います。そして、3点目は、先ほども紹介しましたように、特に多面的機能の増進活動において、本当に新たな、今までになかったような集落活性化事業といいますか、そういったものの事業の芽生えを生んできたということが非常に大きな成果だったのではないかと思います。
 また、いろいろな取り組みに共通して言えることは、集落内の住民が従来のいわゆる個々の営農だけではなくて、集落、あるいは集落を連合した、そういった枠組みの中で活動計画といったものを真剣に話し合って議論して、いわゆる集落経営の担い手としての意欲をわかせてきたというところが、私は一番大きかったのではないかなと思います。
 その結果として、いろいろな地域の実情に応じた、今までのような取り組みとか、あるいは新しい活動、そういったものの芽生えが起きたというようにも見られるわけです。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION