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中山間地域等直接支払制度の課題は、限界集落には交付金が入りづらくなっていること。
 
小田切委員:端的に申し上げれば、当然この種の活性化基金は、とりわけその基礎体力が落ちたいわゆる限界化した集落に機能することが求められているわけでございますが、結果的に見れば、むしろ限界化した集落に直接支払制度が入りづらくなっているのが実態であります。
 (61ベージの下図)をごらんいただきたいと思います。限界集落の諸相というふうに名づけてありますが、横軸が集落単位での壮年人口の絶対数であります。これは、申し遅れておりましたが、山口県の中山間地域に限定しております統計分析でありますが、私どもの分析によりますと、集落の基礎体力というのは、集落内に残っている壮年人口、30歳から64歳をとっておりますが、その残存状況によってほぼ規定されていることがさまざまな分析によって確認されております。
 これは、集落内にリーダーとなるような人々が何人ぐらいいるのか、これは男女問わずでございますが、そのことによって集落の基礎体力が維持されていることは十分に予想されていることでございますが、幾つかの指標をとっております。点線が高齢化率であります。この壮年人口の絶対数が小さくなればなるほど高齢化率が高い。特に0〜4人、1人もいないところから4人、この数は、右メモリでございますので、高齢化率が7割という驚くべき数字に至っているということが理解できます。さらに、太い実線でございますが、これは左メモリで寄り合いの回数を示しております。集落の寄り合いが何回ぐらい年間行われているのかを見ているものでございますが、壮年人口が20〜30人以上いれば、どういう集落でも5回以上の寄り合いが行われるわけですが、0〜4人の集落では、それが4回を切っているという実態でございます。
 そして、ここで申し上げたいのは、最後の細い実線でございまして、集落協定の締結率を見ているものでございますが、この締結率も、細い実線を見ていただければわかりますように、0〜4人集落では2割水準まで落ちている、そういう実態でございます。集落協定の締結率は、集落の壮年人口の基準で見た規模が大きければ大きいほど、やはり導入の割合が高いようでありまして、それが、このような実態まで至るとかなり低い。つまりいわゆる限界集落にこの制度の導入がままならない実態が発生しているということが確認できるわけでございます。
 
水野委員:将来的に考えれば、この担い手というのでしょうか、恐らくこのまま、今の地域住民なりそういった集落協定の枠組みの中ですべてを担っていくというのは、かなり難しいのではないか。典型的な農山村地域である過疎地域の人口というのはこれからやはりどんどん減少していきます。私が調べた中でも、平成12年度に1,171市町村で710万人ぐらいなのですけれども、人口推計をやってみますと、平成22年では630万人、つまりマイナス80万人。平成32年では530万人、これは今と比べてマイナス180万人。この趨勢だけは恐らく、よほどの大きなことでもない限りは続くのではないかと思います。
 今、高齢単身とか夫婦世帯の比率というのは、過疎地域で26%、全国で今14%か13%ですから、もはや過疎地域では3世帯が高齢者1世帯を支えていくという、そういう状況になっています。いずれにしても新しい担い手なりそういったものを、いろいろな仕組みの中から参画させてこない限りは、将来の集落経営、国土保全についても大きな危倶を拭いきれないというのが現状ではないかと思います。
 
吉中委員:今のなりわいとしての森林産業という意味では、エネルギー革命後、昭和30年をピークにして都市への人口流出が始まったということで、どうしても田舎が疲弊してしまって集落機能さえ危ぶまれるところも幾らかありまして、これは国のレベルでのいろいろな対応が必要だろうというふうに思っております。
 
 
小田切委員:交付金対象外になっているところと対象となっている傾斜地との間で調整するために、市町村行政で何か特別な措置を行っている例としては、岐阜県の東白川村だろうというふうに思うのですが、実はここは村段階で基金をつくってしまいまして、交付金をその基金の中にすべて入れています。つまり本来は集落、あるいは個人に入るお金を村の基金に、言ってみれば第2農政予算ぐらいのつもりで積み立てています。それで、その中の7割を村が運営しております第三セクターに、これは農地管理まで行っている第三セクターですが、そこにお金を流している。そして、残りの3割については、これは大変興味深いのですが、非対象農用地も含めて10a当たり2,000円、すべて支払いをするという仕組みにしております。つまりこの交付金のこういうふうな使い方、極端に村単位で使うというのはやや異例ではございますが、そういう使い方もできるようになっております。
 
中山間地域等直接支払制度についての現場での声について
 
○島根県六日市町
吉中委員:平成14年現在で40協定。傾斜地はかなり多いということですけれども、15年度予算で2,846万6,000円、2,800万です。一番小さいところで20万円、大きいところが280万円ということで、かなりばらつきがあるわけですけれども、代表者は、40代が40集落で1人で、50代が数人、あとはやはり70代なのですけれども、その70代が元気だというところが特徴かなというふうに思っております。多面的な活動とはいいながらも、実は一般的な草刈り作業等々が主で、水路・農道等の維持管理、周辺林地の草刈り、いわゆる多面的活動ということが主なのですけれども、集落によっては転作の大豆を生産するところだとか、いかにおいしい米をみんなでつくるかといったようなところを努力されているところもあるようです。
 町では、13年度に地区の連合組織ということで、直接払いの連絡協議会を設立いたしまして、その中で頻繁に連絡会議だとか、管内で行われる研修会にも代表参加をするような取り組みを行って、年に1回は講演会を開催しているといったような動きがあります。具体的な例とすれば、田んぼを使った泥んこサッカー大会だとかバレーボール、焼肉といったイベント交流をする。若いリーダーがいるところはそういったこともやっておりますし、あとは、1級河川の水源ということで、これにまつわる伝説の藤棚をつくったり、公園の整備をしてシバザクラの公園、それが波及して畦畔のシバザクラがあちこちでふえてきたといったようなところがあります。
 鳥獣被害はどこでも悩んでおりますけれども、イノシシのフェンスの設置であるとか、ヤギの放牧試験を1年やってみたら意外に評価が高かったので、また今2年目で継続しているとか、ハヤ、コイ、フナ及びエビを養殖して放流するといったビオトープ的な意味合いで田んぼを守っているところもありますし、休耕田の復活による大豆、ソバの作付け、あとは、食を中心にした、保存食といいますか、地域の伝統食を見直そうというような動きで、とち餅だとか弁当を中心に集落を挙げたイベントに取り組んでいるところも出てきました。先日は、転作大豆を使ったトウフだとかオカラクッキーを、町内の小学校でそのリーダーが講演会というか講習会をやって、子供たちと体験したというようなことが出てきまして、いろいろな意味で積極性だとか元気が出たというか、他集落との交流、みんなで考えるようになったということです。
 一番多く目立って言えることは、集落がやはりきれいになったということです。本当に草がなくなったというか、よく刈ってあります。そういう意味で、耕作放棄地だとか荒廃地を防いでいるということと、先ほど小田切先生も言われましたけれども、共同作業だとか話し合いの場を持つことによってコミュニティの醸成というか、世代間の交流が結構集落間でもできるようになったということです。
 私の町でもそういうことですから、全国的にはかなり、取り組みの先進的なところではより成果があっただろうということと、町の立場でいえば、まず、事務費で職員のパソコンをリースで使ったりとか、集落へ出かける回数がふえてきたということと、逆に役場がにぎやかになったといいますか、相談窓口に相談に来られる方がかなりふえています。そういう意味で役場の役割が見直されるというようなことがあったということと、役場から見れば集落が、やはり交流することによって見えてきたというか、そういうきっかけがあるということで、これからの集落づくりにかなり役に立っているのではないかということだと思います。
 具体的なところで、特に小田切先生と森委員長さんは地理的にもすぐおわかりになると思うのですけれども、六日市の2つ隣の日原町というところの堤田集落が先進事例ということでいろいろ脚光を浴びているのですけれども、あれと益田の赤雁等々はやはりリーダーがいいということで、いろいろな取り組みをしているのですけれども、そこの役場職員の本音を聞いてみたのです。やはりこれも、小田切先生が提唱されております高齢化が進んで保全が図れないところであるとか、協定を進めるリーダーがいないといったようなところも、実際は結構あるということで、無理をしてこの制度を100%に近づけるために取り組んだ集落も実はあるということで、全然動きがないところがあって、持続できないというところが出てきた。いわゆるまとまりがないというところ。あとは税金の問題がいろいろ大変だということもあるのですけれども、積み立てて、ヘルパー制度の創設につなげたいだとか、一旦、個人配分をして、これをまた集落の中で、営農研究組織の中でまた出資金として戻してもらって、幾らか税金として本人に負担してもらったといったようなことだとか、役場の職員としては、そこの町村では事務量が多すぎて、きめの細かい指導ができなかったといったようなところがあったようです。
 逆に、今私の住んでいる集落ですけれども、これは直接払いの対象になっていない地域ですけれども、言いかえれば補助金がなくても結構何とかなるところもありますというところもありました。ただし、5年後はわからない、10年後は不安ですということなのですけれども、私の集落では、公民館から500mというところで、川を挟んだ結構広い連担地で、13戸44人ですが、高齢化率が44%です。支払いの恩恵はありませんけれども、それなりに集落活動を維持しているということで、独居老人も90歳近い人がお2人おられるということで、それでも桜並木の植栽だとか、今、直接払いでやっているようなことはほとんど自前でやっております。
 ただ、つらいのは、ポンプの維持だとか、そういったメンテナンスのお金が全然ないということで、それを集落の中でいろいろ知恵を出しているということなのですけれども、どこでもそうですけれども、集落の中には土建屋がいたり、大工がいたり、元JRマンがいたりということで、いろいろなプ口がいるということで、共同作業などをする場合には、本当に経費が節減できていろいろな活動ができるということですけれども、県のモデル事業で里山整備事業というのをやっておりまして、電気牧柵とか除伐、間伐、これは県の雇用対策ですけれども、緊急雇用調整金を使ったものでやっておりますけれども、そういった財源がないところでいろいろな制度を利用するという取り組みをやっております。そういう意味では、お金があるにこしたことはないのですけれども、直接支払い、これに対してみんなで行動するということでいいのですけれども、6年後がどういうふうになるのかということが少し心配です。
 国の農業政策のあり方としては、法人化だとか認定農業者だとか、いろいろな担い手を育成するということで、今の直接支払いについては荒廃地を防ぐ役目もしっかりあったのですが、さまざまな融合策が農業にはあるのですが、考えてみたら中山間地域の過疎地域の商店街に対するそういったものがないということで、同じことなのですけれども、そういう優遇策のない商店街が当然モータリゼーションの普及で消費が町内から町外へ、あるいは県外へ、私の町でいうとほとんど広島、益田市というところへ流れていきまして、大型家電から衣類、日用雑貨まで車で全部大量に買い込めば、町内で買う必要がないといったようなところがやはりありまして、加えて中心部の居住人口が減少していたりということで、いわゆる空洞化が、農家と同じですけれども深刻な問題だということです。
 そういう意味では、直接支払いというのはすべての農家、場合によっては非農家でも農村の担い手として公金が利用できるということで、公平だというふうに思っているのですけれども、やはり直接支払制度というのは集落単位の合意形成が基本ということで、零細も対象ですけれども、直接支払いの恩恵を受けていない集落、これも、課題とすれば高齢化は同じということですので、そういう意味で今の傾斜度の問題が、1%、2%と微妙に違うところで、対象になるかならないかで、同じような集落活動をしていてもお金が入るところと入らないところがあるということで、結構シビアにとらえたら難しいところが出てきているのかなというふうにも思っているところです。
 認定農業者等々でいろいろ、私の町にも認定農業者が14人、集落営農の組織が10ありまして、農業公社もあったり、いろいろ絡めてやっているのですけれども、30年間続いた生産調整が抜本的に大幅に転換されるということで、16年度以降の取り組みが、これは直接払いも含めて少し考えなければならない時期に来ているということだと思いまして、これも生産調整でいえば、過去も含めて今後も不満があって、それもあきらめがあって、怒りを超えた不安というものが実際のところあるわけでして、そういう中で直接支払い制度はどういうふうにやっていけばいいのかなということが大変大きな課題だろうということで、私の町については、今ちょうど予算編成の時期でして、農業関係でいえば、ほかの事業は別にしても、利用集積だとか今の転作大豆での町単独の持ち出し部分だけでも2,000万をはるかに超えているのです。これが、転作制度が変わったときに、多分持ち出し部分は切り捨てざるを得ないと思うのですけれども、個々にある補助金を整理して効果的に使うことが、今、町の立場で云えば考えられてくるのだろうというふうに思っているのですけれども、結局、大型化へ流れが進んでいる中で、今までの日本の農業を守ってきたのは、30aから50aぐらいのいわゆる零細農家が担ってきたと思うのです。そういったところがある意味では切り捨てになるようなところもありますので、その辺をどういうふうにすればいいのか。10aの田んぼであっても、土地つきの家があるというのが田舎の特権というか、UターンとかIターンを促進する意味でも非常に大きな武器になっていると思いますので、やはり土地がない農家だったら、ある意味では余り魅力のないということになると思いますので、その辺で、少なくとも農地が守れるようなことはやはり必要だろう。零細農家を守る支援策というのが安心感であって、それがふるさとづくりではないかなというふうに思います。
 最後に一言、これは私が思ったことですけれども、国土保全の視点からいえば、直接支払制度というのはかなり成果があったように思います。しかし、土地は守れるのです。土地は守れるけれど、人は守れないということではないかなと。そういう意味で、過疎がやはり5年後、10年後どうなるのかということが一番大きな課題だろうと思います。
 例えば私の町でいえば、広島あたりに出かけている人が多いのですけれども、今、団塊の世代の方が結構、50代半ばで帰ってこられる方も見られはするのですけれども、例えば広島在住で年に2〜3回、草を刈りに帰って、それでもう家族はいないといったようなことが現実に出てくるのではないか。だから、農地も草もある程度刈られて、景観上はきれいな集落が残っているけれども、その集落に人がいないといったようなことが出てくるのではないかなということを少し心配しております。
 
○宮崎県
齊藤委員:先ほど小田切先生の方から全国の状況、それから、吉中委員の方から市町村の状況ということがございました。そこで、県単位ではどうかということで、12年度における中山間地域直接支払制度の宮崎県の取り組み状況を若干触れさせていただきます。
 先ほど先生からも宮崎などは制度の導入率が低いというお話がございましたが、宮崎県内44市町村ある中で実施しているのが26市町村ということで、約6割になっております。集落協定が407協定、個別協定が1協定という状況です。
 その集落協定書の内容ですが、共同取組活動における交付金の使用方法といった面から見ますと、集落活動報酬を出捐するという形のものが98%、それから水路・農道等の維持管理に使用しているといったものが8割を超すというような状況になっております。
 また、農用地に関する事項の取組内容で見ますと、適正な農業生産活動というものがすべての協定において実施されることとなっております。それから、賃借権の設定ですとか農作業の委託といったものが7〜8割。それから、法面等の点検といったようなものが同じく75%程度と多くなっております。
 さらにその次に多いものが、鳥獣害の防止対策というものでありまして、近ごろよく目立ち出したのが猿害です。この被害が非常に大きくなってきています。人間が減ると猿がふえるのかどうかわからないのですが、里まで下りてくるというところがありまして、これに非常に困っており、これらへの対策に使っているという面もございます。
 次に、多面的機能を増進する活動への取り組みの内容につきましては、周辺林地の下草刈りというのが7割弱ということで一番多く、次いで景観作物の植えつけですとか、堆きゅう肥の施肥といったような状況でございます。
 それから、生産性・収益の向上の取り組み内容においては、農作業の受委託推進が64%ということで最も多く、次いで農作業の共同化が3割弱、それから機械施設の共同購入、また共同利用といったものが3割弱というような状況でございます。







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