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解剖学実習セミナーを終えて
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 川南公代
 まず、最初に今回解剖学実習セミナーという貴重な機会を与えてくださったことに、感謝いたします。
 私にとって今回のセミナーは、人体の構造を知るという段階に留まらず、人の生き方や死の迎え方、亡くなった後の存在感や価値観、死の受容などいろんなことを考える機会を頂いたと感じています。特に、ご本人のご遺志や献体されるご家族のご理解、そしてご遺志を大切にする気持ちなど、はかりしれない尊いものを感じながら、実習をさせて頂きました。
 特に、実習前後の黙祷を重ねるたびに、感謝の気持ちが増していく自分を感じていました。
 献体のシステムがあるからといって、誰もが理解し賛同するとは考えにくい中、献体の理解への普及は日々大変なご努力があると感じました。そのご努力のうえに、今回私たちは貴重な体験が出来ているということを、セミナーが進むほど強く感じていきました。
 坂井先生のご講義の中で、「人格をもった個人のご遺体」というお話がありました。実習が始まった頃より実習が進むにつれ、ご本人様の暮らしやご家族のことを考える場面が多くなってきたように思います。人の一生は死という段階で終わるのではなく、その後も生きている者にメッセージを伝えることが出来るということを実感させて頂きました。
 私が初めて人の死に直面したのは、小学4年生の時の父親の死でした。子どもながらに、遺骨となった父親の死をどう受けとめたらいいのかわからなかった経験があります。その後も、身近な者の死に接していますが、死という段階で全てが止まってしまうように思えていました。
 しかし、今回セミナーに参加し、たくさんご遺体からメッセージを頂いたことにより、死が全ての終わりではなく、その後も個人、そして故人は生き続けると思うようになりました。
 また、坂井先生の講義に人体解剖の歴史のお話がありました。長い歴史の中での、ご遺体からのメッセージの積み重ね、そしてご家族のご理解が今日の医療につながっていることを実感しました。
 さらに、今回のセミナーを通して体を客観的に捉えることが出来ました。人体ひとつひとつの部分がそれぞれの役割を持ちながらつながっていく中で、人は存在すると実感しました。当たり前の事ですが、その当たり前の事をセミナーが進むにつれ感じました。ひとつひとつの細かい役割が発揮され、人は存在すると思った時、人のすばらしさや偉大さを感じました。
 坂井先生のご講義の中で、「理屈だけでなく体験により納得できる」というお話がありました。本当にひとつひとつの目の前の事実が、理屈ではないということを教えて頂いたと思っています。そして、その事実の中の普遍性の存在が、医学の発展につながり、医師だけでなく医療関係者の教育の発展にも大きく貢献していることを実感いたしました。
 今後は、たくさん頂いたメッセージをどう活かしていくかです。
 現在、私は保健師として産業保健に携わっています。この場を通して、今回学んだことを私の中に留めるのではなく、健康相談の場面で伝えていきたいと思っています。実際、セミナー終了後の健康相談場面で、身体面のご相談を受けている時、私の頭の中にご遺体から教えて頂いたことが鮮明に蘇ってきました。これは、相談を受けている私にとって、とても心強いことだと感じました。今後も、ご遺体から教えて頂いたことを、相談者の相談に活かしていきたいと思っています。そして、解剖の意義やそこに存在する人間の尊厳の深さなども、伝えていきたいと思っています。
 最後になりましたが、白梅会の会員の方々のご健勝と故人のご冥福をお祈りいたしますとともに感謝申し上げます。そして、ご指導頂きました坂井先生、はじめ解剖学研究室の先生方、さくらキャンパスの先生方にお礼申し上げます。本当に有り難うございました。
 
解剖見学を終えて
獨協医科大学附属看護専門学校 草刈智江
 看護学校に行ったら、人体の解剖があると知ってはいたが、いざとなると自分と同じ人が解剖されているということで恐かった。
 しかし、医学の進歩のために、と自分のご遺体を捧げてくれた方のことを考えると、しっかりと学習して、知識を身につけて生かしていこう、という考えに変わった。そう心に決めて実習に臨んだが、最初に脳や頚部を見た時は色々想像してしまって自分の心拍数が上昇していることに気がついた。そんな中、先生が一所懸命に説明して下さり、この機会を利用させて頂こうと思い、ご遺体に触れた。自分が思っていたよりも脳は重かった。肝臓も驚くほどフワフワしており、自分の体の中にこんな臓器があることを知った。神経の位置や、脂肪の多さの違いや体毛の意味など、全ての臓器や細胞に、意味や役割があり、それが休むことなく動いていて、私達に生活させてくれていることを知った。そんな精密で狂いの無いのが私達の体である、ということを考えるとすごすぎる、というくらい感動した。私達は自分を大切にして生きてゆかなければならない。今回の実習は、これから勉強することについてもとても参考になるし、人間の有り難さを教えてくれた。有難うございました。
 
解剖学実習を終えて
札幌医科大学保健医療学部理学療法学科 須貝恵理
 私は、今夏、解剖実習セミナーに参加させていただいた本学の学生です。今年で5年目になる解剖実習セミナーですが、その中で昨年、今年と2回参加させていただく機会を得ました。
 解剖実習は、私たちが机上で勉強する解剖学をさらに3D化して、学ぶことができる貴重な時間です。教科書という紙面の上では平面でしかなく、例えば「このような動きの時には、この筋はこのようにはたらく」と書かれていても、学生同士で触診して表面上の動きを確認しても、実際に皮膚のしたを見ているわけではないので、想像の域を脱しない部分もあります。また、人体構造は実に繊細で機能的で、その構造を平面で理解するにも限界が生じます。まだ学生とはいえ、臨床実習などで実際に患者さまに触れて治療する以上、人間の構造(脳・筋・骨格系・神経系など)を理解していなくては、決してよい治療は行われないように思えます。
 「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、解剖実習はその言葉の通りのものです。頭の中で、「なぜ?」「どうして?」と疑問に思っていた答えのヒントをたくさん与えてくれる機会だと思います。私自身、今回の実習でも学ぶことは非常に多く、また新しい発見や疑問も増えました。
 このような勉強ができるのも、実際、解剖実習のために自らをささげてくださる方々がいらっしゃるためで、感謝にたえません。
 来年からは、免許をもち、更なる責任の上で実際に働くことになります。
 今まで、解剖実習や臨床実習で得たものを自分の知識として吸収し、治療として患者さんに還元していくのが、お礼の形になるのではないかと考え、今後も努力を重ねていこうと思います。







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