日本財団 図書館


第5章 整備構想実現化方策の検討
 前章でおこなった、施設整備計画にもとづく収支計画の試算結果では、第1案から第3案まで、いずれの構想案において支出が収入を上回る結果となっており、施設整備の初期投下資金の回収はおろか、施設の管理運営費すら収益性のある事業の料金収入により償えない可能性が生じている。
 このため、整備構想を実現化していくため、またより具体的な施設の管理・運営や事業主体のあり方等の検討に資するため、さらに整備構想実現にむけて、次のような「支出の削減方策」と「利用者の増大方策」を検討する。
 
5−1 支出の削減方策
5−1−1 人員配置の再検討
 試算結果をみると、下表に示すとおり各案とも支出に占める人件費に割合が非常に高くなっている。
 資料館に関しては、保管資料や展示資料の扱いがはっきりしないため、本試算の中では含めておらず、人件費が突出する形となるためはっきりしたことはいえない。
 しかし、マリーナ施設においては、人件費が全支出の3割前後の結果となっている。また休憩施設においても3割を越える結果となっている。
 これらマリーナ施設と休憩施設(とくに会議室・研修室の管理)などにおいては、人員の弾力的な配置により、可能な限りプロパー職員を低減化していく計画とする必要がある。
 また、パート職員についても、オンピーク、オフピークなどの時期に応じた弾力的な雇用を具体的な管理・運営方法の策定時には検討する必要があると考えられる。
 なお、人員配置の再検討結果として、下表のように想定する。
 
表 各案の施設ごとの支出に占める人件費率
  第1案 第2案 第3案
マリーナ施設 27.3% 27.3% 26.9%
休憩施設 30.1% 30.1% 29.7%
 
表 各施設における再想定配置人員
 
5−1−2 整備費・建築費の低減化による施設関連コストの削減
 本構想では、使用可能な既存施設・設備に関しては、積極的に活用をはかっていくことを前提条件に検討をすすめている。
 しかし、とくに集客施設であるレストランや会議室・研修室の整備・建築費などは、全く新たに整備が必要な点、集客施設である点などを考慮に入れ、一般的な集客施設の平均的な坪単価をもちいて整備コストを算定している。このため、これら施設の建築費は施設全体の中でも比較的高いものとなっている。
 これは、とくに各施設における建物などの減価償却費の支出に占める割合を高める結果となっている。また、同時に建築物の価値などから算定する保険料や毎年の保守・維持工事費を若干ながら上げる結果となっている。
 このため、具体的な建物の建築計画を策定する際には、建築費低減に向けた方策を検討する必要があると考えられる。
 なお、休憩施設(海洋レジャー研修センター)および資料館の建設費を現行計画の2/3とする。
 
5−2 利用者の増大方策
5−2−1 マリーナ施設における利用者の増大方策
(1)マリンレジャー普及促進活動と連携した新たな収益の柱の確保
 PB等の保管による収入の増大は、保管可能隻数の問題などから限界がある。また、係留施設(ビジターバース)利用の増大による収入の拡大にも、各案ごとに整備できるビジターバースに限界があること、さらに、近隣マリーナのビジターバース料金とのかね合いなどから料金の設定を想定以上に高くできないことなどにより難しいと考えられる。
 このため、マリーナ施設ではは、既存施設によるサービスの提供によるものとは異なる事業活動により収入の拡大をはかっていく必要があると考えられる。
 それら事業活動としては、次のものが考えられる。
 海に関連する各種事業を積極的に打ち出し、集客をはかるとともに、PB等の保管・係留サービスの提供とは異なる収益の柱を創造していくことが重要だと考えられる。
(2)クルージングネットワーク形成による立寄利用者の拡大方策
 伊勢湾から三河湾、遠州灘にかけて数多く点在するマリーナと連携しクルージングネットワークを形成し、ビジターバース利用者の拡大をはかる。
 
(1) PB等を活用した様々なマリンレジャーの体験機会の提供
(2) クルージングネットワーク形成によるビジターバース利用増大 など
 
 (1)および(2)の利用方策拡大により、これら関連事業収入を保管係留収入と同額程度となると想定する。
 
5−2−2 休憩施設(海洋レジャー研修センター)
(1)レストラン施設の利用増大のための方策イメージ
 本施設において、レストラン施設は、施設全体のイメージを向上させていくための機能をもつとともに、日銭が稼げる現金収入の大きな柱となり得るものである。とくに地域住民の利用機会増大をはかっていくことがレストラン施設の利用拡大につながり、同時に施設全体の収入の向上にもつながるものであると考えられる。
 また、会議室や研修室などは、それほど大きな収入にはなり得ないと考えられることからも施設全体の健全な運営のために、レストラン施設の収入をいかに伸ばしていくかが重要なものとなるといえる。さらにレストラン施設の利用拡大は、施設全体の利用者や来訪者の拡大につながるものであると考えられ、施設全体の運営成否に大きくかかわる問題であると思われる。
 このような観点から、次のような取り組みを推進していくことが望まれる。
 
(1) 「レストラン」としての魅力づくり
(土地の素材を活かした名物料理の開発など)
(2) 本物指向の料理の提供
(「季」のモノ、「地」のモノの提供、多様なメニューの提供)
(3) 酒類販売などによる客単価の引き上げ
(4) 団体利用客等の確保
(旅行エージェントを対象とした伊勢観光飲食・休憩スポットとしてのPRの展開などによる団体利用客の誘客促進)など
 
 利用拡大方策の実施により利用者の数が現行の1.5倍となると想定する。
(2)会議室・研修室
 
(1) マリンレジャーと料理を魅力にした民間企業のインセンティブ・コンベンションの誘致
(保険会社や各種団体の慰労会の誘致など)
(2) マリーナや「海の学習機会の場」、和船資料館などと連携した修学旅行等の体験学習講座利用の促進
(3) 各種ヨットクラブや大学のヨット部などの合宿利用促進
(4) 地域の文化系・芸術系サークルの合宿利用促進
(演劇、オーケストラ、合唱などの合宿利用)
(5) 周辺の民宿や旅館と連携した宿泊客利用の促進
 
5−3 整備・運営方式の検討
5−3−1 整備・運営方式の基本的な考え方
 本施設の整備・運営方式の基本的な考え方として次のとおり想定される。
本施設は、放置艇対策の一環として、また、宇治山田港湾の放置艇対策の拠点施設としての機能の発揮が求められるものである。
同時に、地域活動拠点、地域振興拠点、伊勢への海からのゲートウェイ機能、さらには木造和船造船技術伝承機能など複数の機能を発揮することが求められる複合型の施設として性格づけられる。
このため、PB等の舟艇保管はじめとして特定利用者へのサービスの提供を発揮する施設と同時に地域活動拠点の提供の場などの準公共サービス的な機能を発揮する施設でもある。
さらに、舟艇の保管機能そのものの放置艇対策の一環として位置づけられるものであり、純粋に特定者へのサービスの提供に留まるものではなく、公共政策的意味合いの強い施設であると考えられる。
民間ベースの事業だからとの観点から、事業者のみにまかせるのではなく、広く簡易係留施設のユーザーなどの受益者や公的機関などの地域の協力により、整備・運営にあたる必要がある。
このように、宇治山田港湾整備促進協議会が提唱した、宇治山田港におけるプレジャーボート利用システムの中核たる大湊のマリーナ施設の運営には、地域の協力が不可欠なことから、同港が単なるボート置き場と化する事態を避けるためには、大湊地区の実際の整備・運営計画の検討に際しては、協議会を中心として、充分に調整がなされることが必要である。
 
5−3−2 整備・運営方法
 上述の検討をふまえ、具体的な整備・運営方法として次のとおり想定する。
(1)施設整備に関して
(1)整地等の土地造成
 本施設において放置艇対策という政策的な機能発揮が求められる点、また、大湊地区の和船造船技術の伝承という地域振興的な機能の発揮が求められる点などをふまえ、整地等の土地造成に関しては、公的機関主体による整備をすすめる。
(2)PB等係留・保管施設およびクラブハウス
 これら施設の整備については、マリーナを運営する民間事業者の負担によるものとする。
(3)休憩施設(海洋レジャー研修センター)
 マリーナの運営時における新たな収益の柱となる事業展開の際に活用が期待されること、また、レストランなどの収益事業が内包されることなどから、原則、マリーナを運営する民間事業者による整備が考えられる。ただし、整備にあたっては、本施設には地域活動拠点としての機能が十分に発揮される必要があることから、整備後に建物の一部公的機関が賃貸するということも考えられる。
(4)造船資料館
 当該施設は、マリーナ運営のノウハウとはおおよそかぶらないものである。また、整備構想の第3案では敷地面積の問題などから、資料館の整備は見送る計画を検討している。
 そこで、本資料館の整備に関しては、公的機関によるものが望ましいと考えられる。
(2)施設運営に関して
 整備後の施設運営に関しては、マリーナ施設および休憩施設(海洋レジャー研修センター)の運営は、マリーナ事業者によるものとする。
 資料館の運営に関しては、マリーナ運営とは異なるノウハウが必要となると考えられることからマリーナ事業者とは違う、事業主体により運営をおこなうものとする。
(3)その他周辺環境整備等に関して
 マリーナやボートパークなどを整備しても、それらが整備されている海が汚れていると、利用者の拡大は見込めない。
 また、宇治山田港全体で景観に配慮し港の雰囲気を高めていく必要がある。このため、行政(三重県、伊勢市)や地域活動団体(NPO等)などが協力しあいながら海の清掃・浄化活動に取り組んでいき、マリンレジャーポイントしての資源のポテンシャルを底辺から高めていく必要がある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION