■代表者に訊く
川又 直さん
●NPO法人 北陸青少年自立援助センター Peaceful Houseはぐれ雲代表
●団体の特徴
地域に育てられる大家族。はぐれ雲は小学校から成人に至るまでの男女が共同生活する地域に密着した空間です。入寮の動機は様々です。親から離れた生活をしてみたい、不登校・ひきこもりなどから脱出したい、豊かな自然の中で規則正しい生活を送りながら自分のことを考えたりしたい、など個人個人違いますね。要するに生活環境を変えることで、新しい人間関係の発見や自然との触れ合いなどを通して、目的のある生活をする。あるいは自立に向けてのきっかけを見出そうとするわけです。
この場所は富山市に隣接した豊かな自然に囲まれた集落です。この自然を生かして、農作業だけではなく、スキー、海水浴、森林浴、また町の体育館を利用してのスポーツ活動も行います。近くには温泉があり心地よい汗を流した後によく利用します。
さらに都会とは異なって地域共同体の機能が生き生きと働いていて、様々な年齢の個性を持った方々との交流が盛んに行われています。
はぐれ雲で共同生活を送っている寮生は一人ひとりの状態や希望によって多様性に満ちた生活を送ることになります。地域の学校に通学する子、農作業に参加する子、アルバイトに出る子達です。
様々な理由から入寮してきた寮生達は、ここでの生活体験を通して自分の目標を見つけ出し、そして自立へ向けて巣立っていきます。
広大な農場をいくつか所有。3月から9月までは農作業をし、毎年3トンの米を収穫。関連会社を通じ全国に販売。 |
OB・OGの住居として使用する別宅。現在2名が利用。近隣に先輩が暮らしていることは寮生にとって心強い。 |
農繁期は多忙で人手が余れば地域の方々と援農という形で助け合っている。地域との関わりは常に密だ。 |
スタッフの休憩施設。スタッフヘの配慮は、結果的に寮生にも良い影響を与える。 |
●卒設の基準
寮を出て何をするか、本人、スタッフ、保護者と話し合い、ある程度やっていける自信が沸いたとき。
●年代別目標
[10代]深く考えず目の前のことに一生懸命に取り組む。[20代]少し考えながら目の前のことに一生懸命に取り組む。[30代]大人の自覚を持ちつつ目の前のことに一生懸命に取り組む。
●施設における自立の定義
自立とは自分でお金を稼いで生活して行くことだと考えています。食べていく(お金を稼ぐ)ために必要とされることは、最低限の協調性、社会性、学力等であり、「人の役に立っている」という自覚が、寮生が自立して生きていくためには不可欠なことだと思います。
●在籍生の就職状況とその支援体制
就職は人間が自立していくためにしなくてはならないものであると思っています。アルバイトが就職、社会へ出るための入り口です。外(アルバイト)へ出て初めて、社会で生きていくこと、お金を稼ぐために何が必要かを子供たちは感じるようです。
相談を受けるときには仕事をなるべく選ばないように言います。仕事の基本はどんな職種でも同じであり、選ばずに得た仕事は本格的に就職した後にも「いざとなればあの仕事をすれば生きていける」という余裕と自信を本人に与えます。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
アルバイトは社会への一歩、自立への一歩として、その必要性を強く感じています。はぐれ雲では寮生がある程度の生活リズムをつかむ、他人との折り合いがつけられる、他人の目を乗り越えられる、自分に自信が持てる、と判断したときにアルバイトの許可を出しています。目の前の目標に向かって生活することは大切なことだと思います。寮生の通うアルバイト先としては工務店・ガソリンスタンド・工場・飲食店・パン製造・豆腐屋・老人ホームなどバラエティーに富んでいます。アルバイトで稼いだお金の遣い方も様々で、生活費に当てたり、免許取得のために貯金したり、車や洋服に費やす子もいます。使い方は個人の管理に任せていますが、たまに自分で遣ってしまうのを恐れて私に預ける子もいます。ただ傾向として、親の金は湯水のごとく、自分で汗水たらして稼いだお金は使わないということがありますね。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
ボランティアとして週に1日老人ホームや障害者施設等で交流を持っています。地域に密着し地域に育てられるという意味で、この活動の意味は小さくないと考えています。作業は主に農作業となりますが、基本的には無償で行っています。しかし、ある程度のレベル(戦力)の作業ができるようになれば有償作業に切り替えます。また農繁期の忙しい時期は有償作業として子供達が活動するようになっています。その他にも薪割り、家の修繕整備作業など様々な作業を行っています。生活につながる作業すべてが自立の力を養うためのトレーニングです。作業そのものは有償が良いと考えています。それはボランティアと違い「してあげている」のではなく、自分のためにやっていると考えるようになるからです。賃金そのものが重要というよりは、自分のために何かに主体的に取り組むことが自立に向けて非常に重要な役割を果たすからです。
●教科学習の必要性とサポート体制
教科学習として社会で自立して生きていくために最低限必要とされるレベルとは、「新聞が読める」「簡単な英会話ができる」「中学一年生程度の数学ができる」ことと考えています。はぐれ雲では個人に合わせた学習プランを設定し、寮生に毎日1時間程度の勉強会を開いています。不登校だった子も抵抗なく学習会に参加しています。学校の授業がつまらないなどの理由で不登校になる子も多いのですが、学校以外の場所であれば自然と学習に取り組むようになる子も多いです。もちろん、ここで勉強したいことを見つけ、大学進学を目指し予備校に通っている子もいます。
●在籍生の心理的サポート体制
カウンセリングの時間を特に設けてはいません。24時間、職員が寮生に対応しているからです。様々な悩みや相談が子供達からありますが、できる限り短い言葉で何かを伝えます。その短い言葉に含まれるメッセージや意味を子供達に考えてもらいたいからです。職員にもできる限り短い言葉で何かを伝えることを心がけるように言っています。
●外部医療機関との連携
医療体制は外部との提携を密にしています。近くに精神科の主治医がいまして、24時間体制で何かあった場合には助けをいただいています。
●在籍生の保護者へのサポート体制
自分の子供を手元から外部の人間に任せるということは、親としては当然不安になると思います。そのため、2ヶ月に1度程度1泊の父母研修会を近くの旅館で開いています。研修会では寮生との接触は基本的になく、あくまでも大人だけで行います。この研修会にはすべての寮生の両親に参加していただいています。もちろん研修前後に寮生との面会もあり、一緒に食事をしたり買い物にもでかけています。そして、保護者の方々の相談も24時間体制で行っています。
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