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■代表者に訊く
岩川 松鶴さん
●蔵王いこいの里代表
●団体の特徴
 東京都の公立中学校に約25年勤務し、そこで生活指導面、登校拒否の問題に尽力していました。考えるところあって退職後に蔵王にて山荘を経営、並行して「蔵王 いこいの里」を開設しました。すでに250人以上の子どもがここを訪れ、自分の道を見つけて巣立っていきました。
 蔵王の恵まれた自然の中で、子どもらしさ・人間らしさを取り戻すために、体力・生活力・精神力作りを中心とした共同生活を行っています。動植物との触れ合い・作業・労働・仲間との交流を通して自主性を伸ばし、自立していく力を育てる「大自然教育」を実践しています。
 小学生から高校生、または30歳代の若者で、登校拒否・いじめられっ子・虚弱児・山村生活体験希望者・社会不適応(薬物依存・働き続けられない)・対人恐怖症・軽度非行など自分に挑戦し自己改善したいと考える者から閉じこもりの子どもまで様々な人間群像が大自然の中で共同生活を行い、自立への力を養っています。
●卒設の基準
 個々に応じて目安は異なりますが、いこいの里での共同生活・作業が8割方でき、自分で生活を維持できる生活力が身に付いているとスタッフに判断されたときが目安となります。
●年代別目標
 年代は特に関係なく、自立への着実なステップをしていくことが重要だと思います。ここでは小学生が作業で大人をリードすることもしばしばあります。自立に対しての年齢設定はなく、個々の能力に応じ自立へ一歩ずつ進んでいくことが大切です。
 
積雪量はかなりのもので、雪かき・雪下ろしは大変な運動。どの子も「大変」と声を揃えるが、体力もついていく。
 
毎年5月からは所有する農場(通称ヒバリーヒルズ)の畑作りが始まる。収穫時期には親子で一緒に汗を流す。
 
山から採ったり農場から収穫した食物の一部は在籍生の手で漬物に。自家製の漬物は大変評判が良い。
 
スキー場が目と鼻の先にあり、スキーの時間になると、在籍生はスキー板を担いで寮を飛び出して行く。
 
夏は農作業の他、山菜採りや天体観測、山小屋の建設など、大自然の中でしか学べない体験学習が目白押し。
 
動物飼育も人間形成には重要な影響を与えると考え、鶏・ウサギ小屋を在籍生の手で作り、世話も毎日行う。
 
●施設における自立の定義
 自立とは自分で考えて生活をしていく力を持つことだと考えています。そのためには自分で物事を判断・決定し、それに対して責任が取れるということです。
●在籍生の就職状況とその支援体制
 就職は自分の力で生きていくために必ず通る道ですが、いこいの里から巣立つ在籍生には設備関係の仕事に就く人間が多いです。多くは親元に戻って就職をしようと考えるようですが、親元に戻ってしまうと甘えが出てしまい、うまく自立につながらない場合も少なくありません。番大切なことは本人がやりたいことを見つけ、そこで一生懸命に努力することでしょう。確かに今の日本では職業を選択することが難しくなっていますが、在籍生にとにかく就職先を押し付けたり、嫌々ながら就職をさせたとしても継続することは稀で、自立への効果は高くないですね。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
 アルバイトに関しては本人が希望すれば許可します。ただし在籍生の状態を良く見て大丈夫そうであるとスタッフが判断することが前提となります。自立へ向け、社会に出て自活していくためのステップとしてアルバイトは必要だと考えています。いこいの里での作業から社会参加への流れをスムーズに移行できるように工夫しています。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
 作業は多岐に渡っています。季節ごとの農作業や山での山菜採り(きのこ、木の実など)、援農(サクランボ園)などを行っています。これらは「体験学習」として位置づけられ、教科書だけでは学ぶことのできない自然の法則やその偉大さを理解するという、今の子どもたちに欠けている部分を実体験を通して学習してもらいます。基本的にこれらはすべて無償です。しかし、ある程度戦力となるレベルに達した子には有償という形に切り替えます。
●教科学習の必要性とサポート体制
 教科学習は重要ですが、それよりもまず生活習慣の改善と掃除や洗濯といった基本的な生活力を身に付けることが大事です。自立のための学習としては、昔で言う「読み・書き・そろばん」で、新聞が読めることや、文章を書くことができるなどの基本的なことができれば十分であると考えています。それ以上の勉強がしたければ進学すればいいことですから。
 教科学習とは少し離れますが、いこいの里では毎日在籍生に日記を書かせています。日記では口に出せないことが書ける、彼らの考えていることが理解できる、コミュニケーション手段の一つとなる、文章力が身に付くなどのメリットがあるからです。彼らの書いた日記には必ずそれに対してのコメントを添えるようにしています。
●在籍生の心理的サポート体制
 在籍生へのサポートは当然24時間体制です。以前はカウンセラーを呼んでカウンセリングの時間を設けてみたのですが、カウンセラーも在籍生もかまえてしまい、うまくいきませんでした。それよりも共同作業・共同生活を通して触れ合っていくことが一番のカウンセリングになるような気がします。
●在籍生の保護者へのサポート体制
 自分の子どもを任せているのですから、当然保護者も心配や不安が多いと思います。ですから、年に4回保護者会を開催しています。原則的には両親共に出席にしてもらいます。さらに「蔵王だより」を毎月発行することで在籍生の現状を報告しています。もちろん保護者からの電話にも24時間体制で対応しています。







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