日本財団 図書館


■代表者に訊く
水野 淳一郎さん
●生活塾 自在館
 
※代表ではなくケースワーカーの水野さんにお話をうかがいました。
 
●団体の特徴
 不登校やひきこもりなどの青少年の問題は医療で何とかなる部分、教育で何とかなる部分、あるいは福祉で何とかなる部分があるが、自在館ではそれらを生活の中で統合して、混じり合うような形で取り組んでいこうという試みをやっています。
 一般に治療というと、すぐ症状を治すということを考えてしまいますが、実際には症状が無くなっても生きづらいことがありますし、逆に症状が残っていても生きやすくなることもあります。ここでは「生きづらさ」を軽減して「生きやすい」状態にしていくことに重点を置いています。例えば、文部科学省では不登校の子が学校へ行くようになったらそれで問題は解決したと思っています。しかし、実際には学校には戻らないと決めて、「自分は手に職をつけたほうがいい」と就業した子がいたら、それも回復の形だと考えます。生活の中で本人にとって一番「生きやすい」生き方を見出すことがここで目指していることです。
 
食堂隅のコンピューターとテレビ・・・インターネットは使用時間制限あり。寮生はここか談話室に集うことが多い。
 
2階の廊下と洗面所・・・1階同様、ムク材と白で統一されている。広くすっきりとした作りだ。
 
男子棟のベランダからの景色・・・この色を見ていたら、コンクリートの壁には感じないものが見えるはずだ。
 
談話室(喫煙コーナー)・・・寮生は社会人も多く、夕食後は数人がスタッフと一緒にここで楽しく歓談をしていた。
 
二人部屋の片側・・・何もかも新しい。写真では見えないが、左側に押し入れと洋服ダンスがある。エアコンも完備。
 
 なぜ秋田の田舎かと言いますと、それは院長(代表の児玉さん)の出身地だということなんですが、院長としてはそれ以上に、ここの自然の豊かさに着目したそうです。自然の効用は、ほっとするということもありますし、誰に対しても公平ですから作為がないということもあります。例えば、皆で育てた作物が突然の台風で台無しになってしまうようなことがあります。ショッキングなことですが、むしろそれをみんなで乗り越える体験が大切なのです。そのように、自然の中でどんどん失敗し、挫折してほしいと思います。そして悩んでほしいと思います。「悩みを悩みとして悩める力」をつけることが精神的成長につながるのです。
 一般的に不登校・引きこもりの問題を精神論(根性論)で論じる傾向がありますが、不登校やひきこもりの青少年には欝病などの病気が絡んでいる場合も多いのです。この場合は人と会ったり、話したりすること自体が苦痛なのですから、根性論で迫っていっても何の解決にもなりません。そういうときは投薬をして、精神的に安定をはかってから集団の中にいれてあげる配慮が必要です。
 ここでの活動としては、自然体験活動、スポーツ、心理療法を行っています。スポーツで日の光を浴びることも大切ですし、体を使って疲れれば自然な眠りを誘います。それから、ここに来る子は過去の体験から自己評価が低くなっている子が多いですから、そのような自分を壊して新しい自分を創っていくように指導しています。そのために、時々ミーティングの時間を設け、みんながお互いの悩みや考えていることを話せる場所を作っています。共同生活を通じた様々な体験があるので、ミーティングの時間に自分のことを語れるようになっています。そうして「現実の尺度」を外すことができるようになると、心は自由になり、ここが「居場所」になるようです。
 次のステップとして、現実社会との接点を見つけるようにしています。中・高校生に対しては進学や復学のための補習授業もやっています。そして少しずつでも保健室登校を試してみたりしています。社会人の場合であれば本人の希望に応じて就業体験ができるように支援しています。この点、地域の方々が大変協力的であるので助かっています。それが続けられるようになれば、アルバイトを始めるとか、ボランティアにチャレンジしてみるとかして最終的には就労ができるように手助けしてあげたいと思っています。
●卒設の基準
 寮生はある面でここへ来る目的を設定しています。例えばバイトができること、学校に復学することなどです。それが具体化したときがここを出て行くときとなっています。別の面で言えば、安定して人と関われるとか、生活のリズムが取れるとか、精神面での目標が達成できたときなどですね。ただし、行き詰ったらまた戻ってきてもよく、その意味で卒設という言葉は当てはまらないかもしれません。
●年代別目標
[10代]ここには高校で不登校になった子が多いので、高卒の資格がほしい、あるいは復学を果たしたいとみんな思っています。それを取得することが目標になり得ます。その場合にはその目的実現を最大限サポートします。もちろん進学のサポートもしています。
[20・30代]20代と30代には社会的不適応で来る子が多いです。就職、就業が一つの目的となります。あるいは、アルバイト、ボランティアができることを目標にしている子もいます。その他にも安定した生活を送れるようになるために来たりと様々です。そのような目的を本人がある程度達成したと感じたとき、ほとんどの場合、自分からここを出ることを申し出ます。
●施設における自立の定義
 「卒業基準」の話と関係するが、一つの視点としてここでは「生きづらさ」を軽減して「生きやすく」なることを重視しています。それは本人自身にしか分からないことであり、そこの点をクリアしたと感じたら、進んで社会に出て欲しいと考えています。そして、社会で自分を試してみて、また何か困難を感じたらここへ戻ってきて構わないのですから。そこで再度一緒にその問題に取り組んで、メドがついたらもう一度社会へ出て行きます。そのような繰り返しがあっていいし、そうして少しずつ自立できるのではないかと思います。
●在籍生の就職状況とその支援体制
 実際に就業した人が2名、高校に進学した子が3名、復学した子が3名です。しかし、進学者3名は休学しそうな現状です。復学した子はここと学校を行ったり来たりしながらがんばっています。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
 本人が望めば基本的には認めています。ただ、20代以上の人は就業への焦りが強いのでむしろ慌てないで目標に向けてステップを踏むことを勧めます。まずは就業体験を行い、それが勤まったら次はアルバイトをしてみるという風にアドバイスをすることが多いです。就業体験には地域の方々が協力的で非常に助かっています。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
 自在館のプログラムはすべて学習体験であるため無償です。外での就業体験も基本的には無償で行っています。
●教科学習の必要性とサポート体制
 資格試験は個人で自学自習をすることになっています。スタッフ3名が教員免許を持っていて、教科学習は中学校、高校の指導が可能です。実際に希望者に対しては補習授業も行っています。
●在籍生の心理的サポート体制
 個別のカウンセリングが随時あり、その際に医療的な対応を専門家の立場から行います。館長は精神保健福祉士でもあり、その点では専門的なカウンセリングができると考えています。それから、ここで精神的に自立し、寮生やデイケアに訪れる子ども、若い人達の世話ないし話し相手をしたいという人も最近出てきました。自らが鬱病などを体験した人が今度はそれに悩む人の良き理解者になる、理解はできなくても共感して理解しようと努めてくれる方々がそばにいるのといないのとでは大きな違いがあります。そういう医者でもなく患者でもない中間的な存在も大切なサポートとなりますので、今後も増やして行きたいと考えています。
外部医療機関との連携
 既存のフリースクール等と比べると、ここでは医療的な対応をしていると思います。これができる点が一番大きな違いではないでしょうか。例えば、鬱病や分裂症、神経症などの精神的なものが原因で外へ出られない場合、カウンセリングだけでは外に出られるようにはなりません。その場合には投薬で不安を軽減させることで外に出やすくできます。その点で、いわゆる“社会的ひきこもり”とははっきり区別しなければなりません。薬ですべて解決できるわけではないですが、薬で症状を改善し、そこに自然体験などを加えることで今までの思考形式そのものを新しく作っていくことが大切だと思います。子供たちの中には「〜しなければならない」という思考形態を持っている子が多いです。そこでの失敗、挫折体験が無力感、無気力、あるいは対人緊張を強める原因となっている場合があります。その「〜しなければならない」という壁を破るために様々な体験をすることが大切だと考えています。
●在籍生の保護者へのサポート体制
 クリニックの方で、家族教室を毎週土曜日午後3時から5時に実施しています。デイケアの家族、自在館の家族にも任意で来てもらっています(保険対応)。自在館の生徒の親に対しては電話での対応もしています。寮には二人部屋があり、家族宿泊も可能です。







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