生活塾 自在館
セイカツジュク ジザイカン
代表者名●児玉 隆治[コダマ リュウジ]
所在地●〒018−2303 秋田県山本郡山本町森岳字石倉沢1−2
電話番号●0185−72−4133 FAX番号●0185−72−4134
精神的な問題を抱える若者に希望の持てる共同生活の場
●報告―小川 誠[寄宿生活塾 五色塾代表]
自在館は同じ敷地にある心療クリニックと同時に、昨年(2001年)10月に開設されたばかりなので、建物や設備はみな真新しい。
施設の全体的な印象は、ここの施設の目的に照らして最大の効果が発揮されるように綿密な計算と十分な検討が加えられているように思われた。例えば、両者の機能が上手く分割され、また補完されている。自在館の構造も生活の仕方を十分考慮に入れて機能的に、かつ心地よく感じられるように設計されている。例えば床や天井や階段などにムク材が使用されているので、館内はどちらも木の持つ柔らかさと温かさに心が安らぎ、明るい清潔感に溢れている。建設地にしても、森岳という土地は院長である児玉隆治元東京学芸大学教授の出身地だということもあるが、それ以上に自然の豊かさに着目して決定したそうだ。
開設してまだ9ヶ月と日は浅いが、寮生は地元の秋田県内からのみならず、遠く首都圏や近畿からもやってきている。
自在館の外観・・・左側には「スープの冷めない距離」に併設された心療クリニック。両者にはスタッフや寮生が頻繁に行き来する。周囲は松や杉に囲まれ夜は静寂そのものだ。 |
自在館を背後から見た外観・・・左が女子棟、右が男子棟。まだ出来立てで裏庭はこれから整備されるようだ。 |
敷地の入り口から見た自在館・・・この木々が大きく育った頃、自在館はより大きな緑に囲まれるはずだ。 |
自在館は広く不登校やひきこもり、家庭生活に問題のある者などに開かれているが、心療クリニックと併設されているため、寮生はうつ病や神経症など精神的な問題に悩む若者が圧倒的に多い。クリニックで的確な診断をして、必要ならば投薬により、まずは精神的な安定を図り共同生活を可能とする。そして、自然体験や農作業や工芸教室などを体験できる状態に持っていく。そうした体験を重ねるうちに生活のリズムを取り戻し、自分の頭の中にある思考パターンを新しく作り替え、自分の意識が作り上げた壁を打ち破って、新しい自分を作っていく。そうして病状や症状の改善とともに投薬も減らし、可能なら無くして、最終的には薬からの自立も目指す。そのために社会人には症状が軽くなったら、就業体験やアルバイトなども積極的に勧めている。ただし病気や症状を治癒するという発想ではなく、そのような状態がもたらす社会的な帰結としての「生きづらさ」を徐々に「生きやすさ」に変えていくという考え方だ。だから一度社会に戻って「生きづらく」なったらまた自在館に戻ってきて、その問題の改善に取り組めばいい訳だ。このような考え方なら精神的に行き詰まることはないだろう。以上のような手法や考え方を聞いていて、専門性に裏打ちされた「確かさと安心感」を感じた。
自在館の院長や館長、そしてスタッフの人達は寮生と上下の関係ではなく、同じ人間同士という関係で接しているため寮生が寄せる信頼感は厚い。これはとても大切なことで見落としてはならない点だ。「いじめや失敗などが原因で引きこもった“社会的ひきこもり”なら根性論でもやっていけるが、精神的な問題に起因する“精神的ひきこもり”は根性論では通用しない」という水野館長の言葉には説得力があった。ここには一人ひとりの状況に応じて精神的自立と社会的自立への道筋が、よく考えられている。地域との交流は当然のことながらまだ始まったばかりだが、かなり順調にスタートしているように見受けられた。それが広がり、また強まっていけば、就業体験の場も選択肢も増えていくことだろう。まとめて言うと、この施設は医療的専門性、共同生活、自然体験や工芸、就業体験、人間的信頼関係という五つの柱によって支えられている。それによって、寮生は安心して自立への道を歩むことが可能となっているように感じた。精神疾患や心の悩みで苦しんでいる若者にとって、希望の持てる、貴重な共同生活の場が一つできたという思いを強く抱いた。
長信田の森心療クリニックの外観・・・昨年10月に開設されたばかり。ふんだんに使われている木材が心地よい。2階はデイ・ケア用の大きなホールがあり工芸体験をしたり、通所生と寮生が交流したりしており、そこで一緒に昼食も食べている。 |
裏の森にある池・・・自在館の道をほんの1,2分森へ入っていくと大きな池が。名物のジュンサイが栽培されていた。 |
自在館の食堂・・・30人ぐらいは座れる食堂。新築ということもあり木が放つ光と相まって館内は清潔感溢れる。 |
最後に一つだけ期待を込めて要望を述べたい。一般的な傾向として、精神疾患系の病院では、薬漬けの問題が指摘されている。当該施設にあっては、ぜひともこの新しい試みによって、寮生の薬からの自立も積極的に支援していただきたい。[調査日―2002.06]
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