日本財団 図書館


座談会
このレポートの読み方
その“子”に合った道を模索するために
●プラットフォーム事業協力団体
工藤定次
NPO法人青少年自立援助センター(YSC)理事
和田重宏
NPO法人子どもと生活文化協会(CLCA)会長
寄宿生活塾 はじめ塾代表
●プラットフォーム事業調査員
小川 誠
寄宿生活塾 五色塾代表
山田三千代
HRリーダー
●プラットフォーム事務局
工藤啓
NPO法人青少年自立援助センター(YSC)
 
司会・・・沢辺均(ポット出版)・永冨奈津江(ライター)
構成・・・永冨奈津江
 
2002.12.17
小田原●NPO法人子どもと生活文化協会(CLCA)にて
 
 ひきこもり・不登校を支援する団体についてのガイドはたくさんある。
 しかし、そのほとんどは支援団体が自己申告した情報を掲載しているのみ。
 第三者による調査報告は、今回が初めての試みになるのではないだろうか。
 この調査の枠組みを作った、15年以上の実績を持つ援助団体の代表者と、実際に調査を行った調査員に、この調査が持つ意味、調査の実態を聞き、どういった部分をポイントに本書を読めばいいのかを語ってもらった。
 
全国79カ所の宿泊型施設のうち40カ所を調査
(司会)永冨・・・まずは、プラットフォーム事業はどんな経緯からはじまったのか、どなたか簡単に説明してください。
工藤定次(以下・工藤)・・・不登校やひきこもりをめぐる状況の中で、「どういう場所が自分の子に合っているか」ということがわかる“正確”な情報がないという現実があります。そこで、「まずは、援助団体に関する“正確”な情報を提供しようではないか」という思いがきっかけになりました。
 ただ、援助団体といっても、その中にはフリースペース、フリースクール、相談所、居場所など、さまざまな形があるけれど、それらをすべて調査すると規模が大きくなって実現が難しくなってしまうので、24時間体制の宿泊型施設から調査してみよう・・・これが簡単な経緯です。
(司会)沢辺・・・さまざまな援助の形がある中で、あえて宿泊型施設の調査をしようと考えられたのはなぜですか?
工藤・・・「宿泊型施設こそが有効だ」なんて言うつもりは全然ないですよ。フリースクールやフリースペースの手法が合う人ももちろんいる。ただ、それらすべてを範囲に入れると、あまりにも大規模な調査になってしまうので、まずは宿泊型から、ということです。
永冨・・・“正確”な情報と言ったとき、それは“客観的な”情報ということでもあるんですね。
工藤・・・そうです。今も情報はあるにはある。でも、それは、代表者の主張をそのまま受け入れ、まるでパンフレットを作るように掲載しているものなんです。しかし、それは、“正確”で“客観的な”情報ではないんじゃないか、と考えました。
永冨・・・和田さんも、プラットフォーム事業協力団体【注1】の一員ですが、今の工藤さんのお話に付け加える点があれば、教えてください。
和田・・・そうですねぇ。不登校やひきこもりをめぐる状況というのは、非常に混沌としているんですよ。さまざまな援助施設がありますけれど、そこには“基準”というものがいっさいないんです。多分、障害者や高齢者の施設などにはそれなりの設置基準があるんでしょうが、不登校やひきこもりの場合、そういう基準がなじまないでしょ?それぞれの代表者の“志”であらゆることを設定しているから、援助施設自体もその活動も本当にさまざまなんですよね。
 また、その中でも、ある時期は華々しくやっていたから名前はあるんだけど実態がないとか、在籍生はいるけれどスタッフはいないとか、そういうのがごちゃごちゃに整理されないまま、情報として一人歩きしているのが実態なんです。
 今回の調査では、宿泊型に絞ってはいますが、「できるだけ客観的に調査をしてみよう」という試みははじめてだと思います。僕もこういう世界に長く身を置いていますが、自分が自己申告制で書くということはあっても、調査員を受け入れるというのははじめてでしたから。これはとっても意味があることではないかなと思いますね。
沢辺・・・全国で何ヵ所が対象となったんですか?
工藤啓・・・インターネットや口コミ、ガイドブックで調べたところ、全国で79団体の宿泊型施設をリストアップすることができました。それらすべてに、「調査させてください」という依頼をしました。その中で調査を受け入れてくれたのが40団体です。
 
沢辺・・・ここで、念を押しておきたいんですが、それらは調査する側が勝手に選んだわけではなく、事務局で把握できた宿泊型施設のすべてに、お願いしたんですね?
工藤啓・・・そうです。
和田・・・依頼を拒否した団体の中には、我々4団体が協力したために、「あいつが関わっているんじゃ協力したくない」と思われた方もいらしたんじゃないですか。こういう宿泊型施設の代表者というのは、非常に個性の強い方が多いですから、それは否めないと思います。
沢辺・・・さらに念を押しますが、協力した4団体はいつも何かを協力し合っている―言葉は悪いですが―“つるんでいる”団体なんですか?
工藤・・・ちょっといきさつを説明しますと、もともと、このプラットフォーム事業はYSCが日本財団【注2】に助成を申請したものなんです。それで、実際に調査できるとわかった段階で、YSCが他の3団体に声をかけて「一緒に知恵を出して欲しい」とお願いしたわけなんです。なぜこれらの団体に声をかけたとかいうと、YSCも含めてこの4団体は、CLCAの母体となるはじめ塾(P119)の歴史を含めればすべて15年以上継続している宿泊型施設だからです。
和田・・・この4つの団体はそれぞれが違う個性で活動していて、そうしたバラバラの個性を持つ団体が最大公約数を出し合って、調査の枠組みを作ったわけです。
工藤・・・この4つの団体で何かを一緒にやったのは、はじめてですよ。他の団体も含めて共催でシンポジウムをやったことはありますけど。
沢辺・・・最初にリストアップされた79の団体のうち、先ほど和田さんがおっしゃっていた「名前はあるんだけど実態がない」開店休業状態のところはありましたか?
工藤啓・・・現在は連営されていないところが4、5件ありました。インターネットには掲載しているのだけど、「もう受け入れていません」とか、「知り合いの子どもしか受け入れていません」といったケースですね。
永冨・・・調査を行った人たちについて教えてください。
工藤啓。・・・こちらで10名をピックアップしました。実際に参加してくれたのは9名で、その内訳は援助施設に関わっている方が5名、YSCのHRリーダー講座【注3】を修了された方が4名です。調査の性質上、不登校やひきこもりの人たちと関わることのできる能力を持った人を、と考えたからです。
永冨・・・調査方法について教えてください。調査対象になった施設に対して、共通の質問を投げかけたんですよね?
工藤啓・・・統一した基準がなければ比較検討できないので、基本的にまったく同じ質問をしています。
工藤・・・質問項目に関しては、プラットフォーム事業協力4団体で話し合って決めたものです。
永冨・・・調査期間も同じなんですか?
工藤啓・・・基本的に1泊2日です。食事も、その施設が在籍生と一緒に食べることになっていれば、一緒に同じものをいただきました。
 
一つひとつが個性的だから「調査自体が面白かった」
永冨・・・本日は、実際に調査に行かれた調査員の方々にもおいでいただいていますので、自己紹介をお願いしましょう。
小川・・・小川です。今は五色塾という寄宿生活塾の代表としての活動が基本ですが、今回はCLCA【注4】の一員として調査をさせていただきました。
永冨・・・和田さんが代表をつとめられているはじめ塾のスタッフだったのですか?
 
小川誠さん
 
小川・・・いいえ、そういうではありません。外国生活が長かったんですけど戻ってきたときに、和川先生とご縁がありまして、5年前に五色塾をはじめることになりました。
永冨・・・和田さんとおつきあいがあったということで、はじめ塾のことはよくご存じだったと思うんですが、これまではじめ塾以外の宿泊型施設を見られたことはありましたか?
小川・・・いや、ありませんでした。
永冨・・・ご自身で宿泊型施設をやられていても、他の団体のことはあまり知らないものなのですか?
小川・・・それはいろいろだと思いますね。他の施設を見て研究してからはじめるという慎重な方もいるでしょうし、私みたいに和田先生と会った3日後に「やろう」と決めた人間もいるし(笑)。
 
工藤・・・口を挟んじゃうけど、オレのところ(YSC)に研修に来る人なんかあまりいないよ。こういった施設をはじめようとする人で、いろいろなところを見て研究するという人はほとんどいないんじゃないのかな?
和田・・・はじめ塾も、以前までは頻繁に見学に来ていましたけど、最近はあまりないですね。はじめ塾の場合は70年もの歴史を持っていますから、その昔は宿泊型施設をはじめようとする人たちのほとんどと縁があったものですが。
 最近は、実践の種類が単純じゃなくなってきましたからね、範囲が広がってきた。それに、昔はフリースクールですら全然市民権を得てなかったですから。
永冨・・・小川さんは何カ所の施設を調査されたんですか?
小川・・・はじめ塾も入れると12カ所ですね。私ははじめ塾のことをよく知っていますから、報告書は書いていません。一緒に行った方に書いていただいたんです。
永冨・・・いろいろな施設に行かれて、どんなご感想をもたれましたか?
小川・・・いやぁ、面白かったですよ。先ほどから話が出ていますが、一つひとつが本当に個性的でしたね。それぞれが本当に違っている、と感じました。
 それに、今回、いろいろなところを見させていただいて、“人と人とのつながり”の中で、自分は実践者として何をすべきかということが本当によくわかりましたね。そこで、五色塾では今年(02年)の9月から、農業を中心とした自立支援をはじめました。いろいろなところを見て、自立支援の重要性が身に染みてわかったからです。多分、この調査に参加しなければ、わからないままだったと思います。
山田・・・山田です。私は普通の主婦です。YSCが主催したHRリーダー講座を修了しました。
永冨・・・HRリーダー講座を受講しようとしたきっかけは何だったんですか?
山田・・・私の娘は現在30歳なんですけど、12歳ぐらいから青息吐息で学校に行っていたタイプでした。その後短大も卒業しましたが、その間ずっと娘の“きつさ”を横で見ていたということがあります。それ以来、不登校問題などに関心を持ち続けてきたんです。
 それに、子どもたちが大きくなって主人と2人きりになったときに、自宅を不登校の子どものたまり場みたいなことに使えないかな?と考え続けていました。
 それで、地元である奈良県の「登校拒否を克服する会」に出るようになり、今はそこの世話人もさせてもらっています。この会の方針は「待ちましょう」というもので、登校刺激【注5】や親からの働きかけは「よくない」という考え方でした。たしかに「ゆっくり待つ」ことで立ち直った子どもたちはたくさんいますし、私自身もその考え方の中で多くのことを学ばせてもらいました。
 しかし、その方法が合わなくて長びき、20歳を越えてしまっている若者たちもいることに気づき、彼らのことがとても気になりはじめていた時、工藤さんの『お一い、ひきこもり』(ポット出版、1997年)に出会い、それがきっかけでHRリーダー講座を受講してみようと思いました。
永冨・・・山田さんは何カ所の調査をされたんですか?
山田・・・8カ所です。奈良に住んでいるので、四国や九州など、西の方を中心に回りました。
 いろいろな人に出会えて、楽しく、よい経験をさせていただきました。小川さんもおっしゃっていましたが、特に代表の方は個性的な方が多かったように思います。
永冨・・・では、最後に工藤啓さん、お願いします。
工藤啓・・・僕は事務局を担当しました。報告のとりまとめやホームページ作りが主な仕事です。僕自身は6カ所を調査しました。また、すべての情報を整理していたので、「本当にいろんなところがあるもんだな」って実感しましたね。
 
山田三千代さん
 
永冨・・・調査員からの報告書は逐次ホームページ上【注6】に公開されていましたが、あれはNHKの主催する「ひきこもりサポートキャンペーン事務局」【注7】からもリンクされていますね。
工藤啓・・・番組の直後にはかなりのアクセスがありました。今は、1日平均100ぐらいです。
永冨・・・工藤啓さんは工藤定次さんの息子さんで、小さいころからまさに宿泊型施設のまっただ中で育ってきたわけですよね?その視点から感想などがありましたら、教えてください。
工藤啓・・・最初は「こんなでいいのかな?」と首をかしげるような施設がないわけじゃなかったんですけど、何カ所かを調査するうちに、そういうやり方を求めている子どももいるんだなと思うようになりました。
 余談ですが・・・。僕が育った環境と同じように、代表者の子どもさんが在籍生と一緒に生活しているケースがやっぱりありました。彼らには妙に親近感があって・・・。人見知りしなかったり、年齢を気にしなかったり、そういう部分が自分と似ているなと思いましたね。
 

【注1】・・・開所閉所の激しい業界で15年以上のキャリアを持つ団体の協力が必要と考え、NPO法人こどもと生活文化協会、蔵王いこいの里、NPO法人北陸青少年自立援助センターに協力を依頼した。(工藤啓)
NPO法人こどもと生活文化協会の母体となるはじめ塾は1933年設立(現塾長になってからも29年の歴史がある)。以下、蔵王いこいの里83年、NPO法人北陸青少年自立援助センター87年、NPO法人青少年自立援助センターは76年。(永冨)
【注2】・・・2001(平成13)年10月〜02(平成14)年3月を前半期、02(平成14)年4月から03(平成15)年3月を後半期として各2,400,000円、合計4,800,000円の助成を、日本財団より受けた。(工藤啓)
【注3】・・・Human Relation Leader 講座の略。行政指導による家庭訪問、支援施設建設、その他の事業が具体化した場合に、それらの運営が円滑になされるよう、不登校・ひきこもりの青少年の心を十分理解できるスタッフの養成を目的とした講座。教室内での講座だけに止まらず、複数施設での研修や家庭訪問実習も行われた。単年事業として2001(平成13)年4月に日本財団より助成申請を受ける。(工藤啓)
【注4】・・・NPO法人子どもと生活文化協会(略称CLCA)。http://www.clca.or.jp/。1992年に設立。どんな活動でも準備から実行、記録までを大人と子どもが共同で行う。寄宿教育を研究し、その推進・普及につとめる。(和田)
【注5】登校を促すために声をかけるなどして、本人に刺激を与えること。このことは必要以上に本人にプレッシャーを与えるため、行ってはならないとする説もある。(永冨)
【注7】・・・http://www.nhk.or.jp/hikikomori/index.html
各種援助団体の連絡先や、ひきこもり当事者の体験記、精神科医によるコラムなど、ひきこもりをめぐるさまざまな情報を集めたホームページ。(永冨)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION